ISOの妄言

20.12.21

私はISO関連のメルマガをいくつもとっている。
最近来たそんな中の一つに、次のような文があった。

某メルマガより…… MS認証や審査員資格の取得だけが目的なら、MS本来の考え方、ものの見方や捉え方まで深く身に着ける必要はありません。しかし、これらをしっかり理解して身に着けた方なら、あらゆる組織のあらゆる活動でも活用できることに気づかれるのではないでしょうか。

こういう「ISOはすごいぞ!」っていう宗教のような考えを見ると、止めてくれよと言いたくなる。
もっとも私の同志には「ISOは宗教である」と揶揄する者もいるから、宗教のようなものではなく宗教そのものかもしれない。

ヤレヤレ

それにさ、ISOMS規格を理解すると、あらゆる組織のあらゆる活動でも活用できるというのか? ISO規格を読まないと知らないというのか? (対偶じゃないから論理的にはイコールではないけどね)
フザケンジャネー

是正処置とか形態管理(構成管理)なんてのは、ISOMS規格なんて存在しない昔から、軍事規格では当たり前だった。いやそもそもISO9001はそういった過去過去からのノウハウ・ノウホワイの中から、好きなものを拾い集めてでっちあげたんじゃないのか?
このメルマガを読んで私はそう思った。

ということでISO信者に騙されるなよという思いを伝えたく、この小文を書く。
では問題点を考えていこう。



おっと私はISOMS規格は、会社運営に役に立つと思いますよ。でもどんなことで経営に役立ち会社に貢献するのでしょうか?

経営という言葉はいろいろな意味があります。そして経営者がしていることばかりが経営ではありません。

経営とは何だろう

狭い意味では経営者がすることでしょう。
経営層がすることは、上図で@の事業戦略を立てること、人事制度とその運用、財務会計のみっつの要素と言われる。
ここにはISOMS規格が立ち入るすきはないようだ。

経営が広い意味でつかわれることもある。
Aは経営とは経営層だけでなく事業の営みすべてを考えた場合で、この経営にはISOMS規格の働き場はある。それは執務者とか作業者レベルの作業標準や作業手順であるし、それを管理・監督するCで示すものである。

でもBの上級の管理者レベルへの命令や管理には、ISOMS規格は力不足というかお門違いではないだろうか。階層が高い職階では、命令というよりも訓令で動いている(注2)特に社内分社化とか事業部となるとトップマネジメントが事細かく指示するのはおかしいし、それなら本当の分社化でもなく事業部(注3)でもない。

それともうひとつ、ISO規格に書いてあることは会社で働いている人なら常識として知っているレベルだ。だがそれを実務として行うにはとんでもなく深い知識と創意工夫が必要となる。
ISO規格に書いてあることは「自動車はガソリンで動きます」とか「春小麦は春に種をまき秋に収穫します」という程度なのだ。

文書管理を例に挙げよう。ISOMS規格の共通テキストでも9001でも14001でも良いが、そこで要求していることはほんのさわりだ。
本当に文書管理をする職に就いたなら、要求事項だけでなくその要求を満たすには、どうするのかを知らなければならないということは前述した。
しかし仕様を満たすだけでも足りない。ISOMS規格にあることだけではどうしようもない。
実際に文書管理の任につけば、文体から書体から、書式から、発行管理から仕組みをどうするか、どのように運用するのか、検討することは数限りない。それは紙ベースでも電子データでも同じだ。
そのためには法律の体系、書式、親子関係の決め方と表し方、論理的な記述方法、そういったことを学ぶ必要もある。それは極めて膨大な知識を要する困難な仕事である。

ISO規格を理解すればあらゆる組織のあらゆる活動でも活用できるなんてふざけたことを言っちぁいけねえよ


うそ800 本日の疑問
「MS規格本来の考えをしっかり理解して身に着けた方なら、あらゆる組織のあらゆる活動でも活用できる」と語る人は、それが真理と信じているのか?
それとも商売のためために事実と異なると認識していながら法螺を吹いているのか?
あるいは固有技術もなく改革していく意欲もなく、ISO規格にしがみついているのか?
まあ、いずれにしても救いはない。裁きの日は近い。
いや第三者認証が先細りということは、既に裁かれているのだ。



注1
アンリ・ファヨールは19世紀のフランスの鉱山会社経営者。鉱山技師として入社したが、28歳で左前になった会社の社長になり、資金調達、不採算事業の整理、高収益事業への集中などで再建をなす。
テイラーと共に、経営を科学にした双璧を成す。

注2
軍隊の用語からきている言葉で、誰かに仕事を命じる時の与え方はふつう三つといわれる。
  • 訓令とは、達成すべき目的を示し、あとはすべて任せること。
    「新製品キャンペーンの企画を頼む」
  • 命令とは、目的と実施方法を示し、指揮を任せること。
    「この計画書に基づき新製品の導入を推進してくれ」
  • 号令とは、実施すべきことを命じること。
    「今月はA店で新製品の拡販の応援をしてもらう」

注3
事業部(division)とは元々は軍事用語で、部隊編成のひとつである師団(division)の意味である。
師団とは自ら作戦を立案する司令部を持つ組織のこと。多くの国で師団は概ね1万人以上の規模となるが、いくら人数が多くても、作戦を立案せず、命令を受けて行動するのは師団ではない。
そもそもはナポレオン戦争当時、戦いの規模が大きくなり一人の指揮官が指揮してはうまくいかないことから、独立して作戦を立案し行動する組織が考えられた。
その考えがビジネスにも適用され規模の大きな会社では中央集権をやめて、自ら事業を運営していく組織に小分けした。日本ではそういう組織を事業部制、個々の組織が事業部と和訳された。
事業部とは担当する事業に関して、開発、設計、製造、営業を有する自己完結の組織である。いくら規模が大きくても、自ら企画・決定・実行する能力 or 権限のない組織は事業部ではない。単なる大きな部や課である。
最近はより独立性を高めた仕組みを、カンパニー制と称することもある。



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