まじめにやれ!

21.03.25

もうISO認証と縁が切れたかと思っていたら、企業のISO担当の方からメールをいただいた。ありがとうございます。
お手紙 メールをいただいたのはうれしいが、そのメールを読んでいささか怒り狂った。怒り狂ったといっても、その対象はメールを送ってくれた方ではなく、その内容についてだ。
もうご想像ついたかもしれないが、横暴というか天上天下唯我独尊という俺様審査員がいたということだ。
本日はそれを書く。

メールを送ってくれた方とは面識がなく、かつできごとの詳細は記してないので、もしかしたら状況を客観的に説明していないのかもしれない。それはお断りしておく。
ただ審査側が語ったことに受査側が異議を唱えたところ「私より詳しい者はいない」と言ったそうだ。

ほうその審査員が誰よりも詳しいとな?
すごい大言壮語だ。大言壮語とは実力以上のことを騙ること、実力に見合った発言なら許す。
私は現役時代、そういうふざけたことを語る何人もの審査員に会った。もちろん日本で、いや世界でも、その審査員が第一人者であるという可能性もある。少なくても可能性はゼロではない。でもそうでないほうがはるかに可能性が高い。

ISOMS規格について、それを作ったISOTC委員より詳しいと語った審査員がいた。一人ではない。私が相まみえた審査員で、そう語ったのが3人いた。私があいまみえた審査員は100人以上150人以下だから、その中で3人もISOTC委員以上の力量があるとは日本の審査員は相当レベルが高い。皮肉だけど……

そのほかにも会ったことがないけど、ウェブサイトにユニークな規格解釈を書いているISOコンサルがいた。ググったら今もウェブを主宰している。彼の解釈にどうも納得いかないのでISOTC委員に問い合わせた。
「かような解説をしているコンサルがいますが、これは正しい理解でしょうか?」
ISOTC委員から回答が来た。「そんなアホを語ってるのを信じちゃいけないよ」と、
おせっかいな私だから、そのコンサルにメールで間違いを教えてやった。すぐに返事が来た。「私のほうがISOTC委員より詳しい」
これは近寄っちゃいけない人だなと、以降は敬って遠ざかっております。

注:私は法律でも規格でも書かれた文言のみが意味を持つと考えている。だからISOTC委員の解釈が私以上の重みを持つとは考えていない。とはいえ、ISOTC委員の考えが私の見解を補強するなら歓迎する。

危険物倉庫 ISO審査で審査員が危険物倉庫を見て、「構造が違法だから直せ」と言われた。
担当が慌てて自転車にまたがり消防署に行って相談した。消防署が怒りましたよ。「官が検査して合格した設備を改造するとは何事だ! 改造したら違法で取り締まるぞ!」
帰ってきた担当が審査員に、消防署に問い合わせた結果、消防署が検査して合格であり、かような改造をしたら違法であるとの回答であったと。さすがに改造したらしょっ引くぞと言われたまでは言いません。
しかし審査員少しも慌てず、「それは消防署が間違っている。絶対に改造しろ」と、

規格要求にないことを持ち出して、それに不適合だという審査員は、数え切れません。
ティピカルなのはスコアリング法(点数法)でないとダメという審査員は多かった。
私は点数法以外で審査を受ける会社の場合、事前に点数法以外でよいという審査員にしてくれと認証機関に交渉した。

2000年頃は、通勤を環境側面に取り上げないと不適合だ、なぜならUKASが要求しているからと 語った認証機関と審査員が多かった。
私は愚直です。愚直とはバカ正直なこと。UKASにメールを出しました。まあインターネット時代ですから、隣席の同僚にメールを出すのも地球の裏側にメールを送るのも手間は一緒です。
すぐに返事が来ました。「なこと言ってねーよ(もちろん英語で)」
翌日、それを審査員閣下に奏上したしました。審査員少しも慌てず(以下略)

類似なものに、「JABが要求しているのです」というのもあった。すぐさまJABに……UKASと違い日本語で良いのでラクチンです。
お手上げだわ でもさ、UKASやJABが広報しているからそれに従っているなんて、見え透いた嘘をつくのはアホではないか? 我々がUKASやJABに問い合わせるとは考えないのか?
それとも「上様が申された」といえば、民百姓(企業)は疑うことなく平伏して信じるとでも思っているのか?
お断りしておくが、一般サラリーマンは己の仕事に熱意と責任をもっているから、疑問や不明点があれば必死に究明しようという習性があるのだよ。審査員にはないものかもしれない。

「それは弊認証機関の統一見解です」
当時はガイド66ですが、そこで認証機関が独自の要求事項を審査基準に加えるのは認めていましたが、事前に文書で受査企業に公開していなければならなかった。
すぐに審査員のそばでその認証機関に電話して聞いたら、統一見解なるものはないと回答がありました。
しかし審査員少しも慌てず「勘違いだったかもしれない。だがともかく不適合」とのたまわく。どうして「ともかく不適合」なのかは説明がなかった。(ここ重要)

注:企業でISO担当しているなら、IAF、認定機関、認証機関の規定類をすべてプリントアウトして携帯しましょう。私は製本して暇があれば読んでいました。
なあにたいしたことありません。法律に比べたらボリュームも少なく簡単です。

証拠と根拠を明示しない審査員もいた。
どのshallに対応するのかと聞くと、項番○○が該当するとの仰せ。項番○○にはshallが何個もあるのだが、最後までどのshallか教えてくれなかった。きっとその審査員はわからなかったに違いない。

21世紀になっても「有益な環境側面がー」と叫ぶ審査員がいた。ISOTC委員に聞くまでもなく黄色い救急車を呼んだ ほうが良かったのかもしれない。
本当は黄色い救急車のお話は都市伝説だそうです。

20年にわたり審査員と 真剣勝負 泥試合をしてきたおばQでありますから、いただいたメールを拝読して、そんな過去がフラッシュバックして頭に血が上ったのであります。我を忘れて、スマホで部屋中を叩きまわらなかったのを誉めてやりたい。


昔、「おれがルールブックだ」と語った野球の審判がいた。クロスプレイのセーフ判定に対して「走者と送球が同時だからアウトだ」と監督から抗議を受けて「同時はセーフだ」と答え、それがどこに決めてあるのかと問われて返した言葉だと伝えられる。(新聞記者の作文説もある)

セーフ この場合と俺様審査員とは、状況が大きく異なる。
まず野球のルールブックには「同時はセーフ」とは書いてなく、「走者が塁に触れる前に球を持った野手が塁に触れるとアウト」とあるだけだ。この記述は今も変わっていない(野球規則6.05)。
ならばその対偶は「セーフになるには走者が早い場合」となる。両者同時の場合を数直線で説明すると「数字がマイナスだったらアウト」とあれば、プラスなら当然セーフだが、ゼロもマイナスでないからセーフとなる、それだけのことだ。
要するに審判の回答は正しく、論点は該当項番を示さず「俺がルールブックだ」と答えたことだ。
では審判がセーフの理由を説明しないのが、悪いのか・悪くないのかを考える。

審判の任務も野球規則で定めているが、そこでは「試合の適正な運行に関するすべての権限と義務(野球規則9.04)」とあるが判定を説明する義務は記載されていない。それどころか審判の「べからず集」には「自分の判定を説明するな」と記載してある。
だから審判は、判定基準がどこに決めてあるのかと問われても回答する必要はない。どのような心証(下記注)・根拠で判定したかは問題ではない。判定が正しかったか間違えたか、それがすべてだ。勝負をしているのは選手だけでなく、審判も勝負しているのである。
勝負の相手は誰だって
自分自身なのか、自分以外のすべてなのか、ルールブックなのか、勝負の神様なのか、お好きなものを選んでください。

注:心証とは、裁判官が審理において、事実認定について心の中に得た確信または認識。


ではISO審査員の場合はどうなのでしょう?
「ISO17021-1:2015 適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項−第1部」によると

 9.4.5.3
不適合の所見は、特定の要求事項に対して記録しなければならない。また、不適合の根拠となった客観的証拠を詳細に特定する、不適合の明確な記述を含めなければならない。不適合については、証拠が正確で、その不適合が理解できるものであることを確実にするために、依頼者と協議しなければならない。ただし、審査員は不適合の原因又はその解決法を提案することは控えなければならない。

と定めてある。
つまり野球の審判と違い、審査員はまず不適合の根拠と証拠を特定しなければならない。
根拠を特定するとは「項番○○です」ではなく「このshallです」と明確にすることであり、証拠を特定するとは「第六工場の消火器」のようにあいまいでなく、「第六工場の柱番号○○そばの消火器」くらい具体的にしなければならない。
どれくらいの詳細さかは、その所見報告書を読んで記載された場所や書類に、たどり着くことができなければならない。トレーサビリティそのものである。
そしてその結論を…必要があれば協議して…受査企業に納得させることまでが仕事だ。
野球とISO審査では、ゲームのルールが違うのだから、そのルールを尊重しゲームを進めなければならない。

注:ゲームとは遊びではない。日本語のゲームはgameではなくplayだと言われる。
英英辞典によるとgameとは
a form of play or sport, especially a competitive one played according to rules and decided by skill, strength, or luck.
知的競技や運動競技の形態の一つで、ルールに従い競争し、技量、強さ、または運によって勝敗が決定されるもの。(おばQ訳)


そしてもうひとつ審判と審査員には重大な差異がある。
審判は、選手、観衆、そして全国の視聴者の注目の下に判定する。説明責任があろうとなかろうと、審判の判定は多くの人々に見られている。
しかも昨今はだれでもビデオ機器を持っているから、プレイをスロー再生、リバース再生、一時停止と何十回も再生され判定の是非が検証される。その場をしのげばOKなんてことはありえない。
そしてミスジャッジであれ、ナイスジャッジであれ、末永く語り継がれるだろう。

それに対してISO審査はどうだ?
録音禁止
録音禁止
撮影禁止
撮影禁止
認証機関が示す審査ガイドとか審査契約書には「録音や撮影禁止」と記載されてないが、審査の都度「写真撮影や録音はご遠慮願います」とアナウンスがある。もっとも某外資系認証機関のときは「どうぞ録画して後でご覧ください」と言われた。
そして所見報告書には細かいことは書かない。まあ、元々数ページの所見報告書だから、文字数が1000文字そこそこ。計算したら1文字あたり700円になる。ボッタくりじゃないの!

またコンサルの同席とか親会社・本社の立ち合いなどは、事前に連絡して同意を得ておく必要があった。しかし審査側のメンバーが同席することに受査企業の同意は必要と考えていなかった。
お断りします あるとき審査に認定審査員が参加すると一方的な通知がきた。
そんなことに同意できませんよ。認定審査員の経歴や背景を審査して問題ない場合なら、認定審査員が受査企業と守秘義務を結すべば立会を許可すると回答した。企業秘密もあるが、認定審査員の国籍や住所によっては外為法の輸出管理に関わる。そうなれば該否判定とか、場合によっては関係機関と話をしなければならないこともある。わかっているのかな?
すると認証機関からそんな大問題とは知らなくて驚いたという連絡があった。認証機関は無条件で認定審査員が参加できると思っていたのだ。オイオイ、自分の都合で認定審査員を同席するのはOKで、受査企業の都合でコンサルや本社の立ち合いは許可がいるのか?
その後、認証機関が責任を持つから認定審査員が守秘義務契約を結ぶのは勘弁してくれと言ってきたが、結局調整がつかず、最終的に認定審査は取りやめになった。
私がここに書いているのはすべて実話である。

注:なおその後、審査契約書に「認定機関等の立会」という項が追加になり、認定審査ある場合は事前に連絡し守秘契約もするので立会を受諾願いますという文言が追加になった。
世のISO担当者よ、私に感謝せよ、

要するに審査は密室とまではいかないが、非公開なのである。そこでは審査員が何を語ろうと、言いすぎても間違えたことを語っても一切記録に残らず後になって審査されることはない。速記録など存在しないのだから後でもめても知らぬ存ぜぬ、
私にメールを送ってくれた方は守秘義務を心配して、詳細を書かなかったのかもしれない。

注:もっとも契約書にある守秘義務は認証機関に対するものだけで、受査企業に対する縛りはないのが普通だ。
おっとこんなことを書くと2021年版「受審の手引き」では「顧客企業の守秘義務が」追加になるかもしれない(笑)

このように密室で行う審査において「俺がルールブックだ」とか「私より詳しい者はいない」なんてうそぶいているようでは落第、もちろんISO17021違反である。

審査員の方、考えてみてほしい。
審査の場で、企業の担当者が「ISO規格で私より詳しい者はいない」とか「私が言うのだから間違いない」と答えられたら心中穏やかではないだろう? そしてその言葉だけで信用するはずがない。

こんなところでいかがでしょうか 注:古くからISOに関わっていた人ならご存じのはずだが、三重県にあった今はなき某認証機関が、受査企業の口頭説明だけで審査に合格を出して、認定停止を受けたことがある。
認証機関が企業の口頭の説明だけでは信用しないといい、企業には口頭だけで信じろというのはつじつまが合わない。

審査員が「ISO規格で私より詳しい者はいない」と語るのはOKで、企業担当者が語るのは許さないと思うなら,あなたは公平な審査などできない。
そもそも審査/監査とは事実をみて規格適合か否かを判断するにすぎない。双方の立場に上下があるわけがない。

ちなみに 審査員が気をつけなければならないのは、一般企業で働く者がISO規格や認証制度に無知なわけではないことだ。
審査員に「あなたはISO規格をご存じないでしょうけど」と言われたことは何度もある。別に頭にきたわけではないが、そんなこと言わなきゃいいものをと思ったのは事実だ。
環境法の解説本を参照しながら審査している人に言われたくはない。

私の言うことに納得できないなら審査員をやめるべきだ。
同じく……最近は減ったとは思うが……企業を指導してやるという上から目線の審査員も辞めてほしい。ISO審査は教育ではない。審査員は教育のプロではなく、審査のプロで必要十分である。


私はIAFや認証機関のガイドに基づいて話しているが、そういう決まり事を認証機関も審査員も理解しているだろうか?
いや、これは疑問文ではない。反語である。
私はメールにある審査現場に立ち会っていたわけではないが、過去20年間の経験から、そんなことを言う審査員は存在すると確信する。
私が怒り狂ったのは、ISO9000sが制定されてから35年も経っているのに進歩がないこと、昨今ISO認証件数がどんどん減り認証ビジネスが末期なにも関わらずルールに則った審査をしていないこと、俺様審査員が存在することに怒ったのである。

これはISO認証の先行きが暗く客も減っているから、多少のことには目をつぶれと言っているのではない。審査はMS規格を基に厳格に判定するのが当然だ。しかし規格にない審査員固有の要求事項を追加するとか、規格に定めてある所見報告書を作れないのは、サービス業として一人前ではない。お金をいただけないのだ。

品質マネジメントシステムとか環境マネジメントシステムの審査をするといいながら、自身が提供するサービスのマネジメントがしっかりできなければ、認定を返上しなければいかんだろう。もちろん認定機関は認定停止とか取り消しをしなければならない。

……と怒りに任せてキーボードを叩いてきたが、6,000字も叩いたので少し頭も冷えてきたし血圧も下がってきた。よってここで終わる。


うそ800 本日の思い

第三者認証というものを理解せよ
規定類を全部頭に入れ、自家薬籠とせよ
そして基準に基づき誠心誠意込めて審査せよ
そうしなければ認証返上する企業がこれからもどんどん出るだろう。
2021年3月23日時点、ISO9001がピーク時の55%、ISO14001が64%まで減ってきている。そしてここ数年年率10%以上減っているから。4年で半分になる。
基本に忠実にまじめに審査をするしか道はない。私は期待している。



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