ISOサーベイ2020

21.09.13

9月といえばなんでしょうか?
お彼岸のお墓参り、敬老の日、実りの秋、お月見、虫の声、いやあ〜日本に生まれて幸せです。
お彼岸 いやいや、台風も来るし地震にも季節変動があるという説もある。こちらのほうは好ましくありません。なにしろ世界の面積のたった0.25%しかない日本で、世界中の災害被害額の17%が起きている。これは日本に生まれて不幸せです。


ところで9月にはISOサーベイの公表があります。ISOサーベイを知らない? もしご存じないならISOに関わっているとは言えません。あなたはもぐりです!

ISOサーベイとは世界でISO規格がいかに使われているかの調査結果をまとめて公表したものですが……中身はISO第三者認証の数字だけしかありません。もっともそれだけでも手間は大変なんでしょう。なにしろ集計から公表までの時間がかかってます。

大規模な調査というと国勢調査があります。国勢調査の調査対象は4880万世帯で、調査項目は20項目、しかも一つの項目でも記載することは一つではない。
記載するほうも大変ですが、集めるほうも大変です。調査時に不在もあり提出しない人もいる。これで回収率が8割を超えているなんてのを聞くと、日本の統計は信じられると思いますね。
ちなみに中国の李克強が「中国の統計で信じられるのは鉄道貨物輸送量だけだ」と語ったそうですが、実際に鉄道輸送量が減っているのにGDPが増えていたりしますからね。最近では中国のコロナ感染者の数もおかしい。中国の統計は信じられません。

それに比べISOサーベイなんてサーベイといえるようなものじゃない。その規模や内容は国勢調査とは大違い。対象とする国は200もないし、調査項目だって各MS規格の認証数はいくつか?、サイト数はいくつか? しかない。
世界中の認定機関に声をかけて数字を出させれば一瞬じゃないですか。声をかけるのがISOとかIAFで、相手が認定機関ならすぐに返事が返ってくるでしょう。集めたデータをまとめるのにひと月かかるとは思えない。
それが9カ月かかるのは、ISOの職員はエクセルの使い方が分からないのでしょうか?


まあ情報は少ないですが、せっかくですから……というかそれ以外信用できるデータがないので、これを見るしかないというのがほんとのところです。

なおISOサーベイは過去より公表されていますが、2019年に出された「ISOサーベイ2018」以降はデータのとり方が以前と変わり、それ以前との連続性がなくなった。現在のデータはISOサーベイ2018から2020までの3年間だけ蓄積しかない。
とはいえ、それだけでは状況が見えないから私は過去からのデータのグラフを作りました。不連続部分には線を入れている。


ではまず世界の認証件数の推移を見よう。

世界の認証件数推移
注:全世界は左目盛り、日本は右目盛り

グラフは日本と全世界のISO9001とISO14001の認証件数の推移を示す。
2018年からISOはデータの取り方を変えたと述べた。確かに全世界のグラフは断絶しているが、なぜか日本の数字は連続している。データのとり方をどう変えたのかという説明はないので、そこの違いにどう変わったのかのヒントがあるかもしれない。それを考えるのは皆さんにお任せする。

2020年に日本ではJAB認定を返上した認証機関が複数あり、JAB認定は2割近く減少した。しかしそれよって日本の認証件数は影響されない。
日本の認証件数が過去より継続して減っているのは企業が認証を返上しているからだ。
なお日本の認証はJAB認定だけでなく、ノンジャブつまり日本以外の認定機関による認証も併せているので、このグラフはJABが公表している認証件数より3割ほど多くなっている。

2017年以前と2018年以降はつながりがないので、ここ3年間の数字を眺めてどんなことが分かるだろうか?
日本では過去から減少が続いているが、全世界で見るとISO9001もISO14001も、認証件数は増加傾向にある。

ちょっと待て、どんぶり勘定はいけない。層別が分析の第一歩だ。ISO認証の国別割合はどのようになっているのだろう?
国別とは言っても、200近い世界国々を調べることはない。いやいやパレートの法則なんていって上位8割を調べることもない。第一位である中国(中華人民共和国)とそれ以外を見れば一目瞭然だ。

ISO9001世界と中国の認証件数
ISO14001世界と中国の認証件数

上図のグラフでオレンジ部分が中国の認証件数で、グレー部分がそれ以外の国の認証である。
グラフを見ても概要は分かるだろうが、具体的数字を下表に示す。

MS規格地域2018年2019年2020年
ISO9001全世界878,664883,521916,842
中国295,703280,386324,621
中国以外582,961603,135592,221
ISO14001全世界307,059312,580348,473
中国136,715134,926168,129
中国以外170,344177,654180,344

全世界の認証件数のうち、QMSの35%、EMSでは48%を中国が占める。EMSは次回のISOサーベイでは半分を超えるのは間違いないし、QMSも更にシエアを伸ばすだろう。「ISOサーベイ」は「中国におけるISOサーベイ」とでも改名したほうが良さそうだ。

中国が増加しているのは分かった。ではそれ以外の国ではISO認証件数はどのような状況なのか? 中国以外は横ばいだが、個々に見れば増えている国・減っている国があるのだろうか?
ISO第三者認証は世界中で行われており認証件数が数件という国まで数えればほぼすべての国である。そこで主要国を取り上げてその推移をグラフにした。ここではOECD加盟国をメインに、認証件数の多い国とGDPの多い国上位16カ国を取り上げた。

主要国のISO9001認証数推移
主要国のISO14001認証数推移

グラフから分かるように、認証件数の多い少ないはあれど、認証件数が大きく増加したとか減少している国はない。増減があっても数パーセント以内に収まっている。
他方、中国の2020年の前年比はQMSが16%増加、EMSが25%増加でありこれは異常である。

注:"異常"とは"間違い"とか"あってはならない"意味ではない。「つねと異なる」ことで、"めったにない"とか"少数派"という意味だ。生産ラインで不良が多くなれば異常であり、少なくなるのも異常である。
なおabnomalは、病的、奇形、珍奇、変態という意味で、日本語の異常とは異なる。平常はordinary、異常はextraordinaryではなかろうか?

まず中国における第三者認証の大躍進に驚く。そしてそれが一定方向でなく、過去3年間だけでもその増減は大きく変動している。

認証件数前年比
規格地域2018⇒2019年2019年⇒2020年
ISO9001世界101%104%
中国95%116%
中国以外103%98%
日本97%97%
ISO14001世界102%111%
中国99%125%
中国以外104%102%
日本94%99%

以上から推定できることは、中国を除いてQMSとEMSにおいて、今後大きく伸びることはなさそうだ。そして中国における第三者認証の増減の原因を究明すること。ひょっとして他国で認証を伸ばすアイデアがあるかもしれない。


各MS規格の割合
なおここ10年、QMS/EMS以外のいくつものMS規格が作られ認証が行われている。それらは順調に伸びているのだろうか?
下図に各MS規格の認証件数を示す。

各MS規格の認証件数割合

まず第三者認証1位である最古参のQMSが90万件(57%)、2位はEMSで35万件(22%)であるのに対し、その他としてはISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)が2020年に大躍進して3位19万件(12%)を占めるに至った。
だがそれ以外のMS規格はいずれも鳴かず飛ばずである。

下表にQMS/EMS以外のMS規格の認証件数の推移を上げる。

各MS規格認証数推移

ISO45001は2020年400%増であるから、その比率で行けば次回「ISOサーベイ2021」ではEMSと並ぶはずだ。しかし継続してその比率で増加することは考えられないし、今後もこの傾向が続くとしても、EMSを追い越すとは思えない。

ISO45001以外の認証規格の認証件数は非常に少なく、ISO45001はQMS/EMSを除くMS規格認証件数全体の58%を占める。
他の認証規格は認証件数が少ないから少し増減があると大きく増加率が変化する。

他のMS規格の認証件数前年比
規格名称2019年2020年
ISO 45001労働安全衛生マネジメントシステム322%495%
ISO 37001贈収賄防止マネジメントシステム223%238%
ISO 22301事業継続マネジメントシステム112%130%
ISO 20000-1ITサービスマネジメントシステム113%130%
ISO/IEC 27001情報セキュリティマネジメントシステム114%122%
ISO 39001道路交通安全マネジメントシステム158%113%
ISO 13485医療機器品質マネジメントシステム118%111%
ISO 50001エネルギーマネジメントシステム101%108%
ISO 22000食品安全マネジメントシステム104%101%
ISO 28000サプライチェーンマネジメントシステム304%28%

注:%は前年比であり、増加率は上表の数字からマイナス100%する。
つまりISO28000は2019年は2018年の3倍に伸びたが、2020年はそこから3割に減り2018年より少なくなった(笑)

上表のように新しい規格がたくさん作られているが、規格策定者や認証制度の人たちは何を考えているのだろう? QMS/EMSに陰りがあるから新製品を売り出そうという程度なのだろうか?
新しいMS規格を作った時、最低何件くらい認証すれば損益分岐点になるものだろうか? 通りすがりの素人であるが全世界で5万件では元が取れないだろうと思う。

それよりも大事なことだが、それぞれのマネジメントシステム規格は世の中にいかほどの貢献をしているのだろう?
どう考えてもエネルギー管理マネジメントシステムを認証したって省エネになるはずがない。おっと「省エネになる」というなら、ISO9001認証企業で品質が上がり、ISO14001認証すれば環境事故も違反も大きく減少するはずだ。
我々はISOの世界に生きている。ぜひともエビデンスを出してくれ。


うそ800 本日の願い

日本のISO認証の直接費用は約300億、間接費用を含むと1000億だろう。世界中のISOMS規格認証件数159万件(ISOサーベイ2020による)にかかった費用は推定で年間2.5兆円になる(下記注)。これはとんでもない金額だ。

ISOサーベイ2021では認証件数の集計(統計でさえない)などやめて、世界中で認証にかかっている総費用とそれによる改善効果を調査すべきだ。
認証による品質改善、品質費用逓減、環境事故防止、違反防止、労働安全向上、情報漏洩低減、省エネ推進、交通事故低減……などの費用と改善効果を算出してほしい。
そのくらいしなければサーベイの名が泣くぞ😏
そして費用対効果が見合わないなら、ISOMS規格と第三者認証制度の廃止を考えよう。

もちろん改善効果が大きく、費用対効果があるなら、どんどんと新しいMS規格を作ってほしい。
頑張ってほしい まずISO認証推進マネジメントシステムを作れば、ISO認証はうなぎのぼりだ。
その次にはセクハラ防止マネジメントシステム、いじめ防止マネジメントシステム、虐待防止マネジメントシステム、ボケ防止マネジメントシステム、婚活マネジメントシステム、嫁姑マネジメントシステム、景気回復マネジメントシステム、コロナ対策マネジメントシステムなどなど、需要があることは間違いない。
それらの認証はすばらしい効果を出すだろう💖


注:日本の総審査費用(認証機関の売り上げに同じ)は約300億円である。
それに社内の人件費、ISO要求によって付加した書類・作業の費用、コンサル費用などを含めて、年間費用1000億円と見積もる。
世界の認証件数は日本の40倍である。単純計算では全世界の審査費用は4兆円になる。だが、ISO審査員の賃金は国民所得を基準にして定めることになっていた。
そこから各国の審査にかかる費用は一人当たり国民所得に比例する。日本の国民所得は4万ドル、世界平均は11000ドルだ。だがISO認証件数の多くは中進国以上が占めているからそれを考慮して、認証している国々の国民所得平均を25000ドルと仮定すると2.5兆円でどうだろう?





あぐー豚様からお便りを頂きました(2021.09.25)
お久しぶりです。
ISO45001大躍進について少し補足説明を。
もともと労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)にはOHSAS18001という規格があったのですが、ISO45001誕生に伴い、今年の3月に廃止になりました。
ここ3年のISO45001大躍進は、単にOHSASからの乗り換え需要で、それも今年の3月までですから、本当の勝負は来年からでしょう。
なお、45001以外にもJISQ45100(45001に整理整頓とかの4Sを追加した謎規格)とか中災防式OSHMS(安全・衛生だからSが先でOSHMS)とかCOSMOS(建災防)と、VHSとβの時代を彷彿とする規格乱立状態で、けっこう大変です。

あぐー豚様 書き込みに気が付かず申し訳ありませんでした。
なるほど、そういうことだったのですか!
となると大躍進は一度限りで、決戦は金曜日でなく来年ですか!
しかしISO45001の総件数がEMSに近づいているのはすごいですね。
しかしQMSとかEMSなど法律のないところが戦場ですが、安全衛生なんて法規制ズバリですよね。存在意義がピンときません。


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