私は工業高校の機械科だから一応、機械製図・機械加工・原動機とか機械材料などの基本は習った。もちろん大学の工学部じゃないから技術的にレベルの高いことは知らないし、学問的なこと、つまり機械の歴史などは習っていない。
微分方程式の出てくるようなレベルの高いことには歯が立たないが、数式を使わない技術史については読めばわかるからそんなことに興味を持ち、引退した今は技術史に関する本を読んだり博物館に行ったり、講演を聞いたりしている。
そのおかげで、ためになったことも多いし、すぐに活用することがなくても、知らなかったことを知ることが楽しい。本日はそんな中の標準数について思いめぐらしたことを語る。
標準数という言葉をご存じだろうか? いや、ご存じなくても心配ありません。
私が1960年代初め子供の頃は、ラジオ制作が子供の趣味の最高峰だった。
もちろんアマチュア無線とかUコン飛行機なんてのもあったが、あれは最高峰どころかお金持ち御用達であり、子供はもちろん一般庶民も無縁であった。
ラジオ制作といっても鉱石ラジオがスタートだった。鉱石ラジオとは検波回路にゲルマニウムダイオードを使ったもので、選局はμチューンといって、バリコン(バリアブルコンデンサー)でなく、コイルに鉄心を出し入れしてインダクタンスを変化させて同調を取る。出力はとても小さくてイヤホーンで聞く。アンテナは長めのリード線をつないだ。
最初は端子とリードをよじってつないでいたが、半田付けができるようになると、半田付けをするようになった。なにしろお金がないから、半田も数センチ単位で買った。当時はんだを駄菓子屋で売っていた。
当時は”やに入りはんだ”でなくフラックスを筆で塗った。子供の頃はフラックスの役割なんて全然知らなかった。
ほとんどの地域では民放は遠く電波が弱いから、NHKしか聞けなかった。当時は関東地方でないとFMは聞けなかった。
中学生になると、3球スーパーを組むようになる。3球スーパーをつくるには、お年玉や小遣いを1年分くらい貯めないと部品が買えなかった。
当時はどこの電気屋でも、そういう電気部品を売っていた。おっと今ではストア店と呼ばれた電気屋も量販店に淘汰されて消滅した。今でも田舎に行くと、東芝ストアとかナショナルなんて錆びた看板が残っていてギョッとすることがある。
1970年代になって、なにかで電気部品を買おうと店に行ったら、その頃はもう部品など売っていなかった。私より10歳違う子供はラジオ工作などしないのだろう。
今、この文章を書きながらアマゾンで鉱石ラジオキットと検索したら、鉱石ラジオのキットより、災害時用のAM/FMラジオのほうが安くて笑った。
注:鉛規制になってからラジオ小僧たちは、鉛フリーはんだを使っているのだろうか? それともスパっと止めたのか? それが気になる。
私の子供の頃は、拾ってきた缶詰の空き缶に鉛を入れて焚火で溶かし、砂の上に棒きれで作った溝に流して芸術品?を作って遊んだ。
今なら親が飛んできて鉛中毒になると黄色い声で叫ぶのだろうか?
あの程度では鉛中毒にはならなかったようだ。
話を戻す。
3球スーパーとは真空管を3本使うスーパーヘテロダインのラジオという意味だ。当時は回路図の要素と部品が一対一になっているからわかりやすい。ラジオを作るのも、回路図通りに部品をつないでいけば出来上がった。
抵抗やコンデンサーを、1個1個、板にねじ止めした中継端子に半田付けでつないでいく。原始的であるが、この抵抗はどんな働きをする、このコンデンサーは何のためかということを体で実感できた。
初めて音が出たときは感動のあまり大声で叫んだものだ。
注:中継端子と書いてから調べたが、今はラグ端子というようだ。いずれにしても今どき子供の工作にしか使わない。昔はメーカー製のラジオだって金属シャーシーに中継端子をカシメて配線していたものだ。
形は右図のようなもので、ベーク板に取付用のL型の金具と部品つけようの端子をいくつかカシメたもの。
おっと、なかなか話がたどり着かない。
回路図で指定されているコンデンサーの容量は、220pF、80pF、0.0047μF、22μFなどという中途半端な数字だ。抵抗も同じく、470Ω、220kΩ、1.5kΩとこれまた中途半端である。
当時はこんな中途半端な数字のコンデンサーや抵抗が、お店にあるのだろうかと心配しながら行ったものだ。ところが行ってみればお店には中途半端な数字の部品しかない。10Ωという抵抗はあるが、20Ωも30Ωもない。その代わり22Ωとか33Ωがある。
変なのと思ったが、雑誌に書いてあった部品が手に入ったので満足した。
工業高校に行って機械製図で標準数というのを習った。私は機械科だから、ねじなどの機械要素とか材料を例にとって教えられた。
機械を設計したり製造したりするとき、その部品や材料をいちいち設計していては非効率だし高いものにつく。それで国の制度として予め部品や材料の規格を定めておいて、部品材料メーカーはそれに合わせて生産し、機械や家庭用品を製造する会社はそれを使って加工・製造するのだという。
なるほど、それは納得した。
そんなのは当たり前だと言ってはいけない。産業革命頃は機械を作るときは、それに使われるねじも
同時に設計して作らなければならなかった。もっと時代が下って自動車が作られ始めた20世紀初めは、ヘッドライトなどの電球も設計した。
どんなものをつくるにしても、小ねじもピンも設計しなければならない状況と標準品が店頭で買える現在を比較すれば、我々はとても恵まれていると実感する。
そのとき例えばねじを例にとると、径が1ミリのねじ、2ミリのねじ、3ミリのねじ……、更に長さが5ミリ、6ミリ、7ミリと部品を揃えていては種類が多くなりすぎるし、それほど細かく品ぞろえする必要はないと思う。となるとある程度間隔をあけて品ぞろえすれば良いのは分かる。
じゃあねじの太さや長さの間隔をどのように決めればよいのだろうか?
作ると決めたものが、すなわち標準品である。そして標準品の間隔を決めるのが標準数である、そんなことを授業で習った。
そういう発想は昔からあったわけではない。日本刀の刃先(ハバキより先までの長さ)の長さによって、刃先長が3尺以上は大太刀、同2尺以上が太刀、同2尺未満を脇差という。しかし太刀であっても2尺2寸もあり、2尺5寸もあり、いろいろです。
蛇足だが、その一方「鍔」(つば)の穴の大きさはみな同じらしい。刀身の大きさはみな違うのでハバキ(刀身と鍔の間の金具)でそこは調整するらしい。
太刀の長さがいろいろあっても、特に困らなかったようだ。受注品なら発注者の好みに合わせて作るだろう。既製品なら買い手が気に入ったものを買い、それを使いこなせば良かったのだ。もちろん緊急時には手近な得物を使って立ち回りするのだろう。そのときは愛用品と長さが違うので間合いが変わるが、そんなことあまりなく気にしなかったのだろう。
だが時代が下ると同一の製品や部品を大量に使うようになる。このとき、類似の部品で種類が多いと生産するにも調達するにも在庫するにも大変困る。
19世紀末フランスの軍人で気球の研究者であるシャルル・ルナールは、気球に使われているロープがあまりにも多くの種類があるので、使うロープの太さを決めた。これがルナール数と呼ばれ最初の標準数といわれる。
ルナール数は一つの種類だけでなく、荒い数列と細かい数列があるのは現在の考え方と同じというか、既にこのとき標準数の考え方は完成していた。
R5 | R10 | R20 | R40 |
1.00 | 1.00 | R10が更に2種に分かれる | R20が更に2種に分かれる |
1.25 | 同上 | 同上 | |
1.60 | 1.60 | …… | …… |
2.00 | …… | …… | |
2.50 | 2.50 | ||
3.15 | |||
4.00 | 4.00 | ||
5.00 | |||
6.30 | 6.30 | ||
8.00 | |||
10.00 | 10.00 |
R5とは10までを5段階に等比で分けたという意味で、5回かけると10になる。上図でR5の比率は1.6で、1.6×1.6×1.6×1.6×1.6=10となる。
実際は1.5848…であるが、実用を考慮して数字を丸めて1.6にしている。
他の数字も同じく2.51…⇒2.50、3.98…⇒4.00、6.30…⇒6.30としている。
R10は1〜10までを10段階に、R20は1〜10までを20段階に分けたという意味です。
原則としてまずR5の列から選び、それで都合が悪ければR10から選ぶという順になる。もちろんその判断基準にはいかなる場合にR10以外を使っても良いと定めておく必要がある。そうしなければ種類が増えてしまい標準化にならない。
ルナールが考えた数列がその後広まり、現在はISO規格となっています。
ヨカッタヨカッタではおしまいです。
話は続きます。
ともかく今現在、標準数の考えは広く多方面に使われている。
■機械要素での使用例
機械要素とは多くの機械で使われている基本的な部品を言います。小ねじ、ボルト、ナット、ワッシャーなどです。機械要素の多くは標準数に基づいていますが、実用上の観点から数字を丸めたり、一部等差数列のものもある。
六角ボルトを例にとると(JISB1180:2014による)
太さは3、4、5、6,8、10、12、16、20、24、30、36、42mm……となっている。完璧な等比数列ではないが、おおむね1.2の倍数で増えている。
一方長さは20、25、30、35、40、45、30、55、60、65mm……となっている。こちらは見てわかるように等比ではなく等差数列である。これは実用上そのほうが便利なのだろう。
長さ10ミリのボルトで短いとき、その上が12ミリでは中途半端だろうし、長さ20ミリを超えるとR10では間隔が広すぎるように思います。
■紙での使用例
紙のサイズはご存じのようにA版とB版があり、A版は面積1m^2で縦横比√2を基準として半分に裁断するにつれてA1、A2…となり、B版は面積1.5m^2が基準で以下同文。
これって我々が使う上でもとても便利です。
図面をたたむときはA4の大きさにたたむのですが、単純に二つ折り四つ折りではありません。図面の折り方もJISで決まっています
昔のこと、営業の人たちがで営業の資料をかっこよく折り曲げているのを見ていたら、技術畑出身の偉い人が「そりゃいかん」と折り方を指導した。図面を折りたたむのが身についていると、それ以外の方法を許せないのでしょう。お客様に見せるにはちょっと違うように思います。
注:あとでトルコ折りというと思い出した。
ご覧あれ、
ともかくA4サイズといえばノートもパソコンも同じ大きさ。もっともノートパソコンはA4ピタリでなくても、近い寸法ならA4を名乗っています。A3のバッグならA4の本が二つ並んで入る。
■電気部品での使用例
電気部品の場合は更に面白いことがあります。
前述したように私が子供のころ作ったラジオでは使用するコンデンサーや抵抗の数字は、1、2.2、4.7、10と飛んでいます。これは1〜10を3等分したE3系列と呼びます。R5より更に粗い階段ですね。
ここで面白いことがあります。
E3の部品の許容差は±40%、E6系列では±20%になります。許容差が4割もあってたまるか💢というのは抑えてください。
さて数字と許容差を並べると、
E3系列:40%
1.0±40%(0.6~1.4)
2.2±40%(1.32~3.08)
4.7±40%(2.82~6.58)
E6系列:20%
1.0±20%(0.8~1.2)
1.5±20%(1.2~1.8)
2.2±20%(1.76~2.64)
3.3±20%(2.64~3.96)
4.7±20%(3.76~5.64)
6.8±20%(5.44~8.16)
なんと作ったものを測定して層別すれば不良品ゼロ! 頭がいい人が考えたのでしょう。
もちろん同じ発想はR系列でも可能ですが、現実はそういうことはありません。
残念ながら作ったねじの太さを測って層別すれば……なんて方法は実用できません。電気部品の場合は多少数値がくるっても使えちゃうってことなんでしょうねえ〜。
電気回路の種々の指標はdBで表現しますが、これって対数の20倍です。つまり許容範囲の多くはプラスマイナス10%くらいはOKなんです。機械組み立てで公差が部品寸法のプラスマイナス10%なら間違いなく組みあがりません。
ところで機械関係がR系列で電気関係がE系列という二本立てなのはなぜでしょう? 標準数の解説本ではどの本でも二種類あると書いてますが、その理由の説明はありません。これを調べるのもライフワークになりそう……
ご存じの方教えてください。
しかし標準数の適用はそんなもんじゃありません。
■家庭電気製品での使用例
■その1 パソコンディスプレイの寸法)
市販のディスプレイ(アスペクト16:10のみ)について調査
ノートパソコンやそれ以外のアスペクトを除く
日の丸家電は標準数を採用しなかったから悪いと語っている人がいる
これは液晶テレビの画面の大きさを標準数に合わせて作れば効率的で、それをしなかったから日本は敗れたという説である。
本当だろうかと疑うのが私の生き方である。
市販のディスプレイサイズ、ノートパソコンのモニターサイズ(アスペクト16:10のみ)について調査してみた。
これだけ見れば、サムソンが等比数列でラインアップを組んでいるとは言えない。あるいは2005年当時と今は違うのかもしれない。とすると時代によって標準数が良かったりダメだったりするのか? それじゃ標準数の採用の適否を論じる以前だ。どうも信用ならない説だ。
サムソンが日本家電メーカーに勝ったのは規模と安値だったんじゃないのかな?
標準数の採用によって……というのはちょっと信用できない。
パソコンモニターだけでは分からないだろう。じゃあ他の製品はどうなのか?
冷蔵庫と洗濯機でも比較してみた。
■その2 冷蔵庫比較
サムソンは日本では商売していないので、アメリカで販売している冷蔵庫をとりあげた。だから大きなサイズがメインだが標準数になっていないのは一目瞭然だ。
日本メーカーの国内販売品は売れ筋らしい350〜550リットルは密集しているが、他はばらついている。だが各社ともあきらかに標準数に基づく分布ではない。
■その3 全自動洗濯機比較
サムソンは冷蔵庫と同じくアメリカで販売しているものをとりあげた。
これは各社とも1リットルおきに製品を設定している。サムソンは大きいサイズひとつが他より間隔が広いが、これだけで標準数を採用しているとは言えないだろう。
ただ国内メーカーが1リットル刻みであるが、それほど細分化する必要があるのかどうか疑問だ。
洗濯機の容量の間隔は顧客要求と機種を増やすことによる費用増加で決まるわけで、標準数に合わせるべきでもない。標準数はコスト削減のツールであり、コスト削減の必要条件でもないし、売上拡大の十分条件でもない。
液晶サイズもOEMであれば発注先がそのサイズを持っているなら費用がかかるわけではない。冷蔵庫や洗濯機では金型やジグ費用など、あまり影響がないかもしれない。
まあ宣伝広告費用や店舗展示などでコストに関係はあるだろうけど。
結論から言えば、サムソンが標準数を利用したラインアップしているとは言えない。また標準数を採用することのメリットがいかほどあるのかも吟味しないと、単純に標準数を採用することのメリットや、標準数を採用しなかったことに敗因を決めつけることはできないだろう。
だが見方が面白い。他の製品ではどうだろう。
■その4 プリンター比較
プリンターの場合、基本となる指標が思いつかないので、市販価格でみた。定価はないので市販価格は流動的だ。
おっと今回はサムソンは関係ない。日本市場で販売しているメーカーが標準数を気にしているかをみた。
他社との比較以前に、それぞれの会社の値付けがおかしいのではないか。一つの会社で実売価格が近いものがあればカニバリズム(共食い)が起きてしまうだろう。
もちろんメーカーが市販価格をコントロールできないが、その会社が目指す値付けになるように仕様を決めるべきではないのか?
もっともプリンターは本体を売って儲けるより、インクなどの消耗品ビジネスらしい。その場合は、製品のランクとコストなどどうでも良く、いかに数多く売るかだけになるのだろうか?
ともかく等比数列でもなく等差数列でもなく、値付けのルールというか販売政策が見えない。
■缶ビール
表示 | 135ml | 160ml | 200ml | 250ml | 280ml | 350ml | 500ml | |
容量 | 149ml | 177ml | 216ml | 266ml | 272ml | 302ml | 372ml | 523ml |
比率 | − | 1.12 | 1.25 | 1.25 | 1.12 | 1.25 | 1.43 |
表示上の比率が1.1〜1.4までバラついているのはどういうことなのか?
標準数とは無縁のようだ。まあ、売るほうも買うほうも、こんなものだと思って納得しているのだろう。私自身は350mlと500mlの2種類しか買わないから標準数を考える以前だ。
なお1l缶もあるが、あれはJIS規格外らしい。また2l以上は缶ビールでなく小型樽というそうだ。
■車の排気量
トヨタとホンダのウェブサイトを見たが、排気量を知るにはどんどんと深みに入っていかないとわからない。しかし燃費や走行性能はウェブサイトの上層のわかりやすいところに記載されている。昔からターボはあるし今はハイブリッドとか電気自動車も増えて、排気量という尺度でなく出力という観点でのアッピールが多い。
ユーザーから見れば排気量の大きさなどどうでもよくて、燃費と走行性能のほうが重要だろう。
そもそも従来は排気量が税金の区切り上限にあったが、今は排気量よりも馬力とか燃費を重要視するということだ。
また車のサイズは標準とか価格よりも、税金の関係が大きいようだ。
種々法規制が変わり、今では横幅が広くて3ナンバーがついても、ステイタスが上がるわけでもなく税金も上がらない。
昔、隣の車が小さく見えま〜す
人より大きなものや高いものを持っているのを自慢すること自体、貧乏人の価値観なのだ。モノも金も持っていなくても、教養があって穏やかな暮らしができれば豊かなのだ。
私はモノも金もなく、あくせくしているけれど……
本日の老人の願い
知る・学ぶということは楽しいことだ。こんな趣味は金もかからないし、体力がなくなってからも楽しめる。ボケ防止にもなるだろう(希望です)。
ライフワークとは言えないが、生涯の趣味とは言えるだろう。
ひょっとしてとlife hobbyなんて言葉があるのかとU.S.A Googleでみたら、ちゃんとあった。いやいや、日本語でもライフホビーという言葉は既に市民権が確立されていた!
注1 |
JIAZ8311:1998「製図−製図用紙のサイズ及び図面の様式」の附属書に定めてある。 |
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注2 |
日の丸家電敗北の理由「部品の種類1.5倍」を防ぐモジュラーデザインシステムの作り方 https://www.sbbit.jp/article/cont1/32962 2005年当時販売されている液晶テレビの画面サイズは各社ばらばらであった。日本メーカーは等差数列だったが、サムソンはR10の数列に合わせて製造していた。これが「最少の品揃えで最大の顧客を獲得する製品展開」(品揃え効率の最大化)である。これによってサムソンは競争優位に立ったという説である。 | 注3 |
1966年日産がサニーを1000ccで出したあとに、トヨタがカローラを1100ccで売り出した。そのときのコマーシャルである。 当時はマイカーとはステイタスシンボルそのものであり、隣の家の車より少しでも大きいほうが偉い気分になったのだ。私の伯父は中古のクラウンに乗っていた。まさに腐ってもクラウンだ。 |
おばQさま 標準数のお話有難うございます。 もうすっかり忘れていた事ですが,懐かしく思い出しつつ,様々な分野の数字をまとめて頂き,大変勉強になりました。 さて,いつも通り本筋と無関係な部分ツッコミです。 >日の丸家電は標準数を採用しなかったから悪いと語っている人がいる(注2)。 >それをしなかったから日本は敗れたという説である。 これは昔の会社で,かかわったから,その観点からのお話です。 一言で言えば,液晶パネルは巨大半導体ですから,大規模投資が必須。その為の金が,日本企業は続かなかったのと,国の「戦略技術」としての方針と支援が無かったからです。 その典型がSHARPの亀山工場の液晶パネル生産 リーマンショック後,2010年に大型液晶パネル工場として,世界に先駆けた工場が稼働。時を同じくしてブラウン管から液晶テレビへの転換の時代。SHARPは液晶テレビの競合に対してパネルの供給をせず,自社TVを優先。 この為国内のTVメーカーは,海外(韓国,台湾)へ液晶パネルを発注。 韓国,台湾では政府がIT立国を目指して,液晶パネル工場の大規模投資を支援。ここに日本のTVメーカーから注文だけでなく,技術的な支援もあって大躍進。 ビジネスで見ればSHARPは,液晶パネルメーカとして進むべきだったのが,顧客を怒らせて海外へ需要が流れ,結局 パネルメーカーとしての大きな流れを逃してしまい,海外メーカーを,日本のTVメーカが育て技術流出。 その後,SHARPは巻き返しを図るが,競合は国家が支援し,日本では一企業としての投資だから次世代以降の大規模投資で遅れ,そのまま液晶もTVも市場を失う。 今更ながらですが,日本政府が液晶パネルを「戦略技術」として,韓国や台湾のように技術保護と投資の支援をしていれば,先行していたからここまで負けなかった。 日本企業も,仲間割れが,国家としての落ち込みにまで帰結するとは想像も出来なかったのでしょうね。 岸田内閣では,「戦略技術の保護や支援」が言われていますが,本来は2010年にやっていればと残念。 今からでも遅いけれど,何もやらないよりはましかもしれません。 |
外資社員様 いつもご指導ありがとうございます。 おっしゃることにはまことに同意です。ところで私はリンクした記事については大いに不満なのです。外資社員様にとっては関係ないことでしょうけど、私の言い分を聞いてください。 まずお断りしておきますが、私は半導体や液晶のビジネスに関わったことはなく、そのビジネス特有の事情は存じません。ですから単純に文字と数字を読んだことから考えております。 それから私は「製品系列はコスト、需要の折り合いで決まる。標準化・標準数の採用は、コスト低減のツールである」と考えております。標準化・標準数の採用が直接的に競争的に優位につながるはずがありません。 以上の前提でサムソンが標準数を重要視し、国内メーカーが無視していたかどうか考えます。 まず当たり前ですがR10系列を採用することは、画面サイズをR10の数列のインチ数にすることではありません。自社製品のラインアップの寸法の比率にR10を採用することです。 それは音階(ドレミ)がR40系列だといっても、Cの音が10Hzでなく32.7Hzであることから分かるように、各音階の周波数がR40ではなく、比がR40のわけです。 同じくテレビの寸法が標準数にないことは標準数を採用していないことではありません。仮に二社がR10を採用しても、シリーズが13、16、20、25……ということもあり、15、19、23、29……ということもあるわけです。もちろん欠ける(商品化しない)寸法もあるでしょう。 ではまずサムソンと国内メーカー各社の製品ラインナップのディスプレイの大きさの比とりました。これを標準数の各系列に合わせてみると次のような分布になりました。
この表をみると、サムソンより国内メーカーはR20の数列が多く、それだけメッシュ細かに作っていることがわかります。 ところで日本市場ですが2005年当時は、57%が25〜45インチ以下、25インチ以下が41%、46インチ以上が1%だった。 あのデータが示すのは、日本メーカーは20〜60インチの製品をきめ細かく作り、サムソンは20〜100インチまでの範囲を荒いメッシュでまんべんなく製造していることを示すにすぎません。日本メーカーが標準数を無視していることを示すものではありません。 時と共に日本国内で販売されるテレビはだんだんと大きくなっていますが、2019年時点まだ20〜60インチが90%を、そして58%を30〜49インチが占めている現実があります。 となると件の記事にあった図で取り上げられた国内メーカーの45モデルの内25モデル(56%)がこの範囲にあるということ、そのゾーンでは画面サイズを細かくR5でなくR10やR20で作り埋めつくすことは、まさにドミナント戦略でありマーケティングとして全くおかしくありません。要するに、日本メーカーは日本国内市場において最善の戦略をとっていたわけです。 記事では文中「おそらく競合他社の画面サイズを見ながら「1インチでも大きく」という考えで決めたのでしょう」とありますが、これって大外し、大間違いと思います。1インチ大きいほうが売れるなら作るべきでしょう。そのとき標準数と異なるものは作らない!売らない!と決意するのもおかしな話です。 記事からとネットからではアメリカその他の国外の市場における状況がわかりませんが、もし国外において需要が異なるなら、それ対応の戦略を考えることは当然であり、もし大画面が主流の外国市場において日本メーカーが大画面を提供しなかったならば、それは標準数と無関係な単なる戦略ミスです。 また仮に日本メーカーの設定した寸法が大板からとるときの歩留まり(不良という意味でなく材料を取る際にでる端材ロスの意味)を悪くするのであるなら、それは標準数とは関係ないことです。 ではなぜ日本の家電メーカーがサムソンに負けたのかとなれば、選択と集中そして大資本の攻勢に個々のメーカーの規模では対抗できなかったのではないですか。外資社員様がおっしゃる通りと思います。 それを標準数どうこう語るのは筋違いでしょう。 標準化を論じているはずなのに論点がずれて残念です。ググったらこの著者は2017年に亡くなっていました。ご本人と議論できなくてフラストレーションがたまります。 |