文書の標準化1

21.11.25

引退してからフィットネスクラブに通い筋トレや水泳をして、暇があれば近隣をウォーキングしていた。
しかし9月初めにギックリ腰と肉離れと相次いで故障が起きて、ここ2か月はスポーツもトレーニングも、いやストレッチさえも足腰の関節と筋肉が悲鳴を上げる。だが食欲は衰えず、この2か月半で3キロも増量してしまった。しばらくご無沙汰していた方と会ったら、開口一番「太ったね」であった。

老人矢印老人矢印老人
8月平均11月平均来年のお正月
62.2kg65.2kg68kg?

そんなわけで髀肉之嘆ひにくのたんをかこつ、いや贅肉之嘆ぜいにくのたんであろうか。
とまあ出歩くこともままならず、在宅で頼まれたキー入力をするくらい。とはいえ、それが結構なお仕事である。幸い年末の届の類も終わりが見えてきた。
贅肉之嘆をかこつなら、標準化で一文したためようかと。言いたいことは無尽蔵だから。


文書の標準化とは
文書の標準化とはなんだろう?
Googleで「文書の標準化」をキーワードに検索すると、アッという間に12,700,000件もヒットした。日本語を使う人が1億2千万人だから、人口の1割もの「文書の標準化」を記したコンテンツがネットに存在している。
とはいえそれらのコンテンツでいう文書の標準化とは、多種多様である。

Google検索はキーワードに含まれる単語を含むものを抽出するのだろうが、真に狙うものを探すにはもう少し進歩が必要だ。それとも検索ワードが悪いのか?
ともかく「文書の標準化」と聞けば、「文書を標準化するための理論構築とか具体的手順」に決まっていると思った私は、多数派でないことは間違いない。


人により組織によって「文書の標準化」の定義は多様であることはわかった。
ここでは「文書の標準化」を次のようなものに限定(定義)して話を進める。


文書の標準化の目的
「標準化」とはなにか?
「ちょっとお兄さん、困りますよ、そんなことをおっしゃるようでは」
標準化という言葉はすっかり日本語となっています。しかしその意味は分野によって多様であり大きく異なります。ウィキペディアでも「標準化という用語は、文脈によって様々な意味を持つ」とある。例えば統計とか社会学では、製造業にいた私には理解できないような意味で使われている。

ここは製造業というか広く言えば産業ですから、日本産業規格つまりJIS規格の定義に基づくことにしましょう。

注:JISは従来「日本工業規格」であったが、2019年に「日本産業規格」に改称された。同時に工業標準化法は産業標準化法に、日本工業標準調査会は日本産業標準調査会に改称された。

JISZ8002:2004 標準化及び関連活動−一般的な用語(実はISO/IEC Guide 2:2004の翻訳規格である)
「標準化」の定義
実在の問題又は起こる可能性のある問題に関して、与えられた状況において最適な秩序を得ることを目的として、共通に、かつ、繰り返して使用するための記述事項を確立する活動。
注記1:この活動は、特に規格を作成し、発行し、実施する過程からなる。
注記2:標準化がもたらす重要な利益は、製品、プロセス及びサービスが意図した目的に適するように改善されること。
貿易上の障害が取り払われること、および技術協力が促進されることである。

まあ平たく言えば、いろいろなモノや方法があるとき、似たようなものは全く同じにするか、それができなければできることだけでも合わせることが標準化であり、そうすると作るにしても使うにしても手間が減り楽になるということです。

わかったぞ

何のために標準化するかといえば「標準化すれば改善になる」からだ。改善とは「安い速い旨い」にすること。

では文書を標準化すると、どんないいことがあるのか?
文書を標準化する効果はたくさんある。
文書作成の効率向上、作成者によるバラツキ防止、文書作成教育の容易化、誤読・誤解の防止、文字数削減、文書分量の削減、つまり安い速い旨いが図れるのです。


文書の標準化とは
では文書の標準化とはどんなことでしょうか?
というか文書とはどんなものから成り立っている考えてみよう。構造(項目や階層)、記載事項、書式、文体、使用語句などいろいろなことが思い浮かぶ。
更に細かくみれば、カタカナ語や外国語をどこまで許容するか、文字のフォント、フォントサイズ、図表の記載方法と番号の取り方、使用する数字の全角半角などまである。改行のルール、体言止めを許すか許さないか、一行の文字数、文字間隔、行間の高さ、印刷設定などなど、それらすべてが標準化の対象となる。

企業によっては事務所/製造部門と研究開発部門では、文書の様式や書き方を分けているところもある。事務所/製造部門では法律に準じた方法で文書を作成し、研究開発部門では論文のような形式にしている。利用する人がそのほうがなじみがあり分かりやすいのだろう。外部に出すときでも読み手が一般文書は事務系、技術文書は技術者であるから、そのほうがベターなのかもしれない。


主なものについて思いついたことを書いていく。

階層
法律では大きい方から順に、編、章、節、条、項、号となる。但し項や号は階層というより、条の内容を箇条書きしたものだ。
階層と項番の取り方は、最低限文書管理規則(または同等のもの)で決めておかなければならない。規則や指示書でない報告書や企画書であっても、ひとつの文書の中では統一しておかなければみっともない。

前記のように規則や規定類の構造と項番の付け方について参考になるものはいろいろあるが、多くの組織で手本にしているのは日本の法律である。

短い法律は多々あるが、その多くは古く現代では特殊なので、そういうものを除き法律の形式になっているのは「国旗及び国歌に関する法律」かと思う。これは編・章・節も項・号もなく、本則が第1条と第2条だけである。
法律とはこう書けばよいという見本だ。一説によると文章を書いたのは故小渕首相という。

これほど短くなくても、文字数の少ない法律は編と章と節がなく条と項・号だけだ。環境基本法や廃棄物処理法のように大きくなると章、節、条となり、民法・刑法になると編、章、節、条とフルセットになる。


技術系の書式の元となっているのは、JISZ8301:2019「規格票の様式及び作成方法」である。
これはそもそもJIS規格を作るときの構成や項番の取り方を定めたものであり、一般の技術文書とか規則作成の原則ではない。
とはいえ、多くの企業において、特に設計標準や購買仕様書などに様式や内容構成が使われている。だから仕様書で要求するにしても受けるにしても共通言語になっていて、そんなことから社内規則などは法律をお手本にした形式であっても、技術文書はJIS規格票作成のルールであるこの規格を参考にしているようだ。
これで定める構造は法律と大差ないが、項番の取り方は下表のように法律とは全く異なる。

主題及び規格の区分付番の例
部(Part)XXXX-1
箇条(Clause)1
細分箇条(Subclause)1.1
細分箇条1.1.1
段落(Paragraph)番号なし
附属書(Annex)A

ISO規格を翻訳してJIS規格化たときも、項番は同一にする。以前どのMS規格だか忘れたが、ISOMS規格のなにかで項番が1.1.1.1というのが表れて騒ぎになったことがある。私に言わせれば階層が深くてもルールに反するなんて気にすることもないと思う。
ただ階層が深すぎること、他の項目と階層が大きく違うことに疑問を持つ。その項目の専門家がいただけかもしれない。


項番の階層より重要なことだが、一つの文書の中で章や条項の階層でなく、文書の階層がどうあるべきかという議論がISO9001が日本で広まった1990年代半ばにあった。
多くの人は右に示すような図持ち出し、最上位のマニュアルから最下層の文書まで〇段階が良いとか悪いと語っている。はっきり言って皆アホである。

文書体系図 そもそも右図は必要な文書の概念図であり、その階層が文書の階層を表したわけではない。それさえも知らずに論じていたのだから、哀れとしか言いようがない。

あるバカは文書の階層は二つが良いと言い、あるアホは三つだと言い、あるアンポンタンは4階層が……。極めつけは、マニュアルひとつにまとめればいいというキチガイじみた主張もあった。
ISO認証の泥沼に20年いた者として、そういうアホを語るものは実務をしたことがないと断言する。

おあいにくだがそれらは全部間違いだ。
そんなこと一意に決まるわけがない。文書体系は企業の規模、組織の階層、製品構成などによって決まることなのだ。
私がバカ、アホ、アンポンタンと言ったことに不満な方はかかってらっしゃい。
私は自分の手で作成した品質マニュアル、環境マニュアルは100件近い。作った規定/会社規則は1500本はあるだろう。いかなる反論であろうと、権威者からお叱りであろうと、その体験から論破する自信がある。
いやいや反論するまでもない、そんなことは40年以上前からISO規格に書いてあった。

ISO9001:1987
4.2品質システム
供給者は、製品が規定要求事項に確実に適合するようにするための手段として文書化した品質システムを確立して維持する。

「確実に適合するために」文書化するなら、ときにより所によって文書化することが違うだろう。
これではアホは分からなかったとみえて2000年版では次のように変わった。

ISO9001:2000
4.2.1(文書化に関する要求事項)一般
参考2.品質マネジメントシステムの文書化の程度は、次の理由から組織によって異なることがある。
a)組織の規模及び活動の種類
b)プロセス及びそれらの相互関係の複雑さ
c)要員の力量

ISO14001においても同様である。

ISO14001:1996
4.4.6 a)その手順がないと環境方針並びに目的及び目標から逸脱するかもしれない状況に適用する文書化した手順を確立

規格の意図をしっかり把握した人によって作成された文書は、組織が異なれば同じであるはずがなく、構造化するにも階層化するにも同じ結果になるはずがない。
文書が20しかないとき階層が4つになるはずはなく、職制のピラミッドが4階層であれば作成される文書は200件くらいになるだろし、それを2階層に組み立てるのは困難だろう。
労働安全衛生法のたくさんの省令を思い出せと言えば、お分かりいただけるか?

注:ISO9001と14001の規格の他の版ではどうかとご心配なら調べてください。私は今書くのに過去のバージョンすべてを見た。
おっと、私はQMS/EMS以外は詳しくない。


改定対応
日本の法律は改正されるときの方法手順をしっかりと決めている。法律を改正するにはそのものを改正するのでなく、改正する法律を制定することにより後法優位の原則で今までの法律が変わるという理屈による。そして従来の条項が変わらないように、追加は「条の2」とか「削除」という表記をする。
この要領を覚えてないと改正法をいくら見ても何も分からない。しかし従来からのものへの影響を最小にするという意味ではよろしい。

他方、ISO規格やJIS規格では、改正するときの、そのような仕組みというか発想はないようだ。丸ごと改定してしまい、変化を知るには新旧対照を作るしかない。
ISO14001の2004年改定で4.3.4を削除したのは他の項番に影響はなかったが、4.5.2で順守評価が追加になり4.5.2是正/予防処置と4.5.3記録、4.5.4内部監査がそれぞれ4.5.3〜4.5.5とずれた。
まあISO規格では直接運用せず、仕様書的なもの(実際にそうだが)であり、実際の運用は組織ごとにそこの手順書によるから過去との整合性など気にしなくてもよいのだろう。

ということは、組織の手順書はISO規格の構成を真似てはいけないことになる。
ところがそうでないことは2004年改定のとき、環境マネジメントプログラムを環境実施計画と直した組織がいかほどあったか、2015年改定では(以下略)
そういことをしたのはISO規格を全く理解していないとしか言いようがない。もしあなたがしていたなら、己の組織に大きな損害を与えたと自覚しなければならない。まあ、そういうことを求めた、規格を理解していないISO審査員が多かったということが根本原因であるわけで、困ったもんだ。


それにさ、第1章第2条第1項第1号と読むのは非常にわかりやすい。「7.5.3文書化した情報の管理」がシチゴサンなら覚えやすいけど、「7.5.2(文書の)作成及び更新」なんてどう読むのよ? シチテンゴテンニなんて呼びにくいし、752年に鑑真が日本に来たとか日本史・世界史並みの暗記法しかない。
ISO規格のナンバリングより、法律の章条項号の方が日本人に合っている。

おっと、アメリカ憲法だって単語は違うけど日本国憲法の条項に近い。もっとも日本語訳で条と訳しているArticleは日本の法律なら内容的には章に相当するレベルで、節と訳しているsectionが条に相当すると思える。ボリューム的にはArticleが編、sectionが章に見合うくらいだ。
それは単に公式日本語訳が不適切なだけなのかもしれない。


笑い話のようだが、某社では上記規則は明朝体12ポイントで、下位規定は角ゴシック10.5ポイントなんてところもあった。上位の規則は荘厳で改定が少ないから大きな文字で明朝体が良く、下位規定は実務で常に参照するからそれなりにという発想なのでしょうか?

そういえば別の会社だったけど上位手順を「規程」、下位手順を「規定」と区分けしていた。だがこれは読みが同じだから規程は「きほど」規定は「きさだ」と呼び分けていた。読み方で区分けまでして同音の語を使うことはあるまい。
なお「規定」は動詞だから手順書の呼称としては間違いで、名詞である規程が正しいとする会社も実在する。

文書体系の例
組織日本国A社B社C社D社
最上位憲法方針会社規則
2位基本法規則工場規則規定手順書
3位法律規程規定
4位施行令細則細則細則
5位省規則

注1: 施行令と省規則は必ずしも上下関係にあるわけではない。法律の詳細を定めるとき他の省庁に係るものは、所管省庁だけでは決定できないから、閣議で他の大臣の承認を得るから施行令ということ。
だから省内でクローズするものは省令/施行規則として直接法律にぶら下がる。
注2: ISO認証のために作成する文書を「手順書」とする会社が多いが、手順書とは法律では会社が定める社内文書を意味する範疇語である。
手順書を作れとあるから会社規則があるにも関わらず、内容が同じ○○手順書というのを必死に作っていたISO事務局も知っている。勘違いはなはだしい。
同じく、法律で手順を定めることとあっても、既存の会社の規則/規定を引用することでよい。
注3: 通常、規定類の階層によって決裁者が変わることが多い。理屈から言って、そのルールが適用される範囲を統括している者が決裁しなければならない。当然、最上位のルールであれば社長/工場長となる。もしルールの適用範囲を統括している人が複数いるなら、全員の承認を得るのは当然である。
2位以下のルールの決裁者は文書管理部門の長が多い。実際には所管部門の長が承認して、文書管理部門の長は、書式や既存のルールと整合していることを確認して制定となる。

その他、つまらないことを決めている会社は多い。同じ第1条でも上位規定では「第1条」と記し、下位規定では「1.」と記すところもある。この差別化、複雑化、アンチ標準化は何のためだろう?
ちなみに国の法令では、法律も施行令も施行規則でもみな「第1条」と記している。

もっと例を挙げよう。条番が一桁の「第1条」の数字は全角、二桁の「第10条」は半角と定めているところもある。規定をながめたとき、条文の数字がそろっているとかっこいいからだろうか?

某社の例 条番の算用数字
見た目が悪い?見た目が良い?
すべて全角すべて半角半角と全角
第1条
第2条


第10条
第11条
第1条
第2条


第10条
第11条
第1条
第2条


第10条
第11条

条番の数字が全角でも半角でも一桁と二桁では「第○○条」の幅が違うからきれいに並ばない。それで条番が一桁のときは全角、条番が二桁になると半角を使うときれいに並ぶ。
とはいえ三桁になれば(笑)
こんなことに気を使うなら、その注意力を内容に使うべきだろう。


その他多くの点で法律の記述を手本にしているところが多い。
第1項は法律に合わせて、1を付けない会社もある。第2項から2、3とふっていく。第何条第1項を探しても1は見つからない。
ところが最近の法律は1をつけているものがある。すると第1項を記していない会社はこれから減っていくのだろうか?

おっと2と書いたが、私が先輩から習った1990年頃は、法律も項を示すのは、ナシ、A、B……だったはず。現在はAでなく、ナシ、2、3……のようだ。
号は漢数字で一から始まる。その下はイロハニとなる。その下は(1)(2)だったと思うが自信がない。

私は訪問した企業で、そこまで階層が深い文書は見たことがない。9割は号で間に合っていた。
なお条項の取り方は、それこそ社風なり歴史があって今があるわけで、その会社がそう決めたらそれで良いと思う。そんなことまで標準化すべきなんて思わない。

非常に取り留めのない話だが、ここからなにかを……例えば文書の標準化の基本とかアイデアなどを……得ていただければうれしい。


うそ800 本日の言葉

…………次回に続く

三橋貴明とマイさんを思い出したなら、あなたはアレを聞いてるでしょう?




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