家庭ごみの処理

22.03.28

私が千葉県に越してから10年は借家住まいだった。2年の賃貸契約が切れると、そのたびに引っ越した。なにせ義理があるわけでもなく、どうせ契約更新で諸費用かかるなら、新たな街に住んだほうが面白いと思った。
もちろんそのたびに引っ越し代はかかったが、なにせ家財道具は田舎から出てくるときにほとんど処分したから、多くはない。まして移動距離も10キロとかそんなものだ。

とはいえ何度も引っ越すと家内が荷造りの手間が大変だと値を上げ、田舎の家を売りマンションを買った。
そんなわけで湾岸地域の市川市、船橋市、習志野市、千葉市にそれぞれ2年程度だが住んだことがある。浦安市は私にとっては 少しばかり 非常に家賃が高い。
ということで今回は過去に住んだ都市における家庭ごみについて考える。


現状調査

各市とも家庭ごみの対応について計画を持っている。その概要は、

都市名主たる方向出典
市川市発生抑制、再使用の推進
処理体制
処理施設の整備
施設整備にかかわる計画
注1
船橋市2R(リデュース・リユース)を優先した社会を目指す
循環型社会を実現する
経済性を考慮した廃棄物処理のしくみを構築する
注2
習志野市ゴミ分別推進による再資源化拡大
排出ルートの徹底運用
ごみ処理施設の長寿命化
注3

どこでも見かけるようなテーマでパッとしないが、市レベルでできることはそんなところかもしれない。

家庭ごみの状況を知ろうと、それぞれの市役所のウェブサイトを漁った。
統計データの公開とその詳細さでは船橋市が一番良い。習志野市は令和元年までのデータしか公開されていない。市川市は家庭ごみの詳細データを公開していない。
はじめは3市の家庭ごみの内訳とか1人当たり発生量などを比較しようとしたが、3市を同じ基準では比較できる状況ではないので諦めた。

隣接した市でもこれほど情報公開もデータの精細も違うのに驚く。確かに船橋市は政令指定都市を除くと日本最大の都市である。しかし人口とか予算の問題とは思えない。ゴミに限らず市民に情報発信しようとする意志が違うのではないだろうか。
市長公用車を高級外車にしたり市長室にシャワーを作ったりして、やるべきことまで手が回らないのだろうか?


主要指標

とりあえず見つかった千葉県のウェブサイトの「令和元年度清掃事業の現況と実績(一般廃棄物処理事業の概況)について」を基にして考えを進める(注4)

まず3市の概況は次の通り

3市の概要(2021時点)
都市名面積(km2)人口(人)人口密度(人/km2)世帯数世帯人数平均年齢
市川市57.5490,0008521244,0002.045.4
船橋市85.6642,0007500290,0002.242.8
習志野市21.0174,000828678,0002.242.4

隣接する3市だが、上表から性格がだいぶ違うように見える。
世帯人数と平均年齢から、市川市は高齢化しており子が巣立った後で、船橋市と習志野市は子育て中と思える。
なお3歳の平均年齢の差は小さくない。2021年の日本の平均年齢は47.4歳であるが、44.4歳だったのは12年前の2009年だった。船橋市と習志野市が市川市に追いつくのはそうとう後になるだろう。追いつかないかもしれない。

市川市と習志野市は人口が超高密度である。船橋市も高密度ではあるが、梨や小松菜の産地でありふなっしーが生息しアンデルセン公園がある。船橋市は農業も漁業も盛んで3市の中では長閑に思える。
面積からみると、市川市と習志野市は家庭ごみの収集運搬は高効率と思える。そうなのか、見ていこう。

家庭ごみ発生量 単位:トン(令和元年/2019年)
都市名可燃ごみ不燃ごみ資源ごみその他粗大ごみ合計
市川市105,5883,49518,7341101,864129,791
船橋市160,1223,35210,343763,700177,593
習志野市42,4941,2265,04411283649,712

人口が大きく違うので、1人当たりの家庭ごみ発生量を計算する。

1人当たり家庭ごみ発生量 単位:kg/人年(令和元年/2019年)
都市名可燃ごみ不燃ごみ資源ごみその他粗大ごみ合計
市川市215.57.138.20.23.8264.9
船橋市249.45.216.10.15.8276.6
習志野市244.27.129.00.64.8285.7

「1人1日当たり」だとそれぞれ726g、758g、783gである。
このデータと2019年の50万以上の都市の家庭ごみ発生量とはずいぶん違うが、出典が違うとこんなものなのだろうか? 信憑性は私もわからない。
ともあれ都市によって項目では凸凹があるが、この3市の764〜785g/1人1日発生量は決して悪くない。いや良い。


ではこの処理に投入している市の予算と費用対効果はどうか?

歳出状況 単位:千円(2019)
都市名人件費処理費車両購入費委託費組合分担金調査研究費合計
市川市124399935612703972813012985574237
船橋市1756366775393483503752353043786336840
習志野市33153335097801628491002311002

単位当たりを見よう

単位当たり費用 単位:千円(2019)
都市名人件費処理費車両購入費委託費組合分担金調査研究費合計
重量当たり費用
千円/トン
市川市9.582.74030.6100.0142.95
船橋市9.894.370.2721.1300.0235.68
習志野市6.677.06032.760046.49
人口当たり費用
千円/万人
市川市2.540.7308.110011.38
船橋市2.741.210.085.8400.019.87
習志野市1.912.0209.360013.28

分析するには情報不足だ。船橋市は委託費が少ないが、その分自前の車両購入費が入っている。また下記の人員を見ても、船橋市は市川市と習志野市に比べ、面積が広く収集運搬の効率は悪くなる。


投入している人員ではどうか

単位当たり廃棄物処理従事者数(2019)
都市名従事者数
市職員+業者従業員数
従事者数/万トン従事者数/万人従事者数/km2従事者数/万人/km2
市川市79160.916.113.81.06
船橋市75142.311.78.800.49
習志野市34669.619.916.53.31

まず一目で気づくことだが、市川市は船橋市より人口が少ないが、船橋市より多い人数が廃棄物処理に従事している。また船橋市の人口の4分の1である習志野市の廃棄物処理従事者が船橋市の半分、ということは人口当たり倍だ。
ということは市川市と習志野市は、船橋市に比べ効率が悪く費用が余計に掛かっていることになる。
ゴミ収集車 実際には船橋市の方が面積が広くかつ人口密度が低く、収集運搬の効率は落ちるはずだ。しかし家庭ごみ1万トンkm2当たりの数字も他市の数倍というパフォーマンスである。
もちろん規模の経済効果(注5)もあるだろうし、習志野市は逆に狭い地域で高い人口密度の地域からの収集のために効率が悪くなるのかもしれない。
いずれにしても船橋市のパフォーマンスは歴然としている。


家庭ごみの分別基準

では身近なことについて考えを進める。分別基準に3市で違いがあるだろうか?
公開されている資料を基に一覧表を作った。

各市のゴミの区分
市川市船橋市習志野市
燃やすごみ可燃ごみ燃えるゴミ
燃やさないゴミ不燃ごみ燃えないゴミ
有害ごみ独立した区分なし有害ごみ
プラスチック製容器包装類ペットボトルペットボトル
新聞新聞新聞
雑誌雑誌雑誌
段ボール段ボール段ボール
紙パック紙パック紙パック
布類古着古着
毛布
ビンビンビン
選定枝
大型ごみ粗大ごみ粗大ごみ
参考資料 注6参考資料 注7参考資料 注8

まず表を見て笑ってしまったのは分類名である。
市川市は「燃やすごみ/燃やさないゴミ」、船橋市は「可燃ごみ/不燃ごみ」、習志野市は「燃えるゴミ/燃えないゴミ」である。船橋市と習志野市は漢語と大和言葉の違いで意味は同じかもしれないが、市川市は意味が違う。「燃やす/燃やさない」はごみの性質ではなく、処理する人の意思である。燃えなくても燃やすのだという意思表明かもしれない。
他方、船橋市と習志野市は燃えるというごみの性質から区分しているわけだ。
どちらが正しいとか良いかは分からないが、隣接する市で分類名が異なるというのは面白い。この底には単なる表記上ではなく、根本的にはごみ処理について市の考えがあるのだろうと推察する。

パソコンのマウス おっと、燃えるゴミと燃やすごみは違う、例えば「パソコンのマウスは燃えないけど燃やすごみに入る」という意見があるかもしれない。
残念ながらマウスは船橋市では燃えるゴミに入る。
各市作成の分別ガイドブックの事例から見ると「燃やすごみ」と「燃えるゴミ」に相違はない。


ごみの袋

各市とも家庭ごみを出すとき市の指定袋に入れて出さなければならない。これもどうかと思う。というのは「ごみ処理は地方自治体の責務」となっている注9ゴミ出しは老人の仕事 当然それは市税を原資とする。それだけでは足りないのか、あるいは排出量に比例して徴収するのが適切と考えた結果なのか。

とはいえ45リットルの燃えるゴミ用袋が20円くらいだ。一家庭で週に2回出すとして世帯当たり年間2000円となる。市民税の3%が清掃費になると仮定して、一世帯だいたい2万円。2000円ということはその10%になるが……それが大きいのか、形式上なのか…分からない。
市指定の袋でなくてもよいとなると、いろいろな品物を買った時の袋が使える。ごみを出すのにわざわざ新たにポリ袋を買うとは馬鹿みたいだ。お粗末な袋を使うと破けたりするのを嫌ったのだろうか?


ともかく市指定のごみの袋に入れるわけだが、その種類も異なる。

3市のゴミ区分による家庭ごみ指定袋
着色部は市指定の袋必須)
ごみの種類市川市船橋市習志野市
燃やすごみ、
可燃ごみ
燃やすごみ用袋可燃ごみ用袋燃えるゴミ袋
燃やさないゴミ、
燃えないゴミ
燃やさないごみ用袋不燃ごみ用袋燃えないゴミ袋
有害ごみ指定袋なし
(透明な袋を利用)
有害ごみという区分はないが、同等品については透明袋を指定
指定袋はない
指定袋なし
プラスチック製
容器包装類
プラスチック製
容器包装用袋
ステーションのネットに入れる指定袋なし
新聞紙指定なし
ひもで縛る
新聞社の紙袋禁止
指定なし
ひもで縛る
ひもで縛るか紙袋に入れて出す
布類有価物回収
透明袋
有価物回収
透明袋
有価物回収
透明袋
ビン缶燃やさないごみ用袋資源ごみ
ステーションおいてある袋に入れる
指定袋なし

市川市は市指定ごみ袋が3種類、船橋市と習志野市は2種類である。更に市川市はこまごました注意事項とかあり、めんどくさいという印象が強い。


うそ800 本日の判定

データの詳細さと信頼性では船橋市がベストである。
もちろんデータが整備されていても行政サービスが優れているとは限らない。しかし資料から見る限り、この3市の中では費用効率、工数効率共、船橋市が一番優れている。
船 橋 市
No.1
習志野市は他に比べて規模が小さいので同列には論じられないが、規模があまり変わらない市川市のサービスは船橋市に比べて明らかに落ちる。
船橋市や習志野市はごみ出しが楽な地区として知られていて、それ故にそこに住むという人もいるという。
もちろん住む街を決めるのはゴミ出しだけではないだろうけど……




注1
注2
注3
注4
注5
「規模の経済」とは生産量や規模が大きくなると、単位当たりのコストが低減されることをいう。
理由として変動費が増えても固定費が一定だからという説明が多いが、それだけでなく習熟の効果、分業の効率あるいは設備投資による自動化なども大きい。

注6
参考にしたのは次の通り 市川市「分別ガイドブック」令和3年4月版

注7
注8
注9
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第6条/第6条の2



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