外部コミュニケーション

22.07.04

ここはISO規格の解説ではなく、ISO規格を家庭に適用したらどうかを考える……というか想像して遊ぶところ。本日は外部コミュニケーションの規格要求を、家庭でルール化して運用することをシミュレーションしてみよう。


ISO規格で「コミュニケーション」なる言葉が現れたのは、1996年のISO14001からだと思う。とはいえそれより前は、コミュニケーションが無視されていたとか、それに関する要求事項がなかったわけではない。

ISO9001の初版である1987年版はB to Bの品質保証に用いることが主目的だった。B to Bの場合、顧客は一社ではないにしても、常に1対1の取引になる。また調達先とも当然1対1の取引であり、要するに利害関係者が少なく、その関係は単純だった。クレームがあるとしても不特定多数からくることはなく、取引契約を結んでいる取引先しか想定していない。

注:苦情(complaint)とクレーム(claim)は違う。クレームは正当な要求であり、日本語のクレームはコンプレインにあたる。
映画「クレーマー、クレーマー」の原題は「Kramer vs. Kramer」で、このクレーマーは苗字である。まだ離婚していないから元夫も元妻も同じ苗字でクレーマーさん同士の裁判という意味で、いちゃもんをつけている人ではない。
クレーマー 、
クレーマー
上のクレーマーを書くのに
結構頭使いました。
ポスターと同じレイアウト
は無理です。
日本語のカタカナでは同じだから苗字とクレーマーをかけていると思うかもしれないが、英語ではRとLで発音が違うからダジャレではない。
ちなみにKramerは12世紀のドイツで、テントとかいちを意味するKramが商店主とか小売商の職業名となり、更に苗字となったもの。
「クレーマー、クレーマー」からもう40年以上経っていることに驚く。子役を演じたジャスティン・ヘンリーも51歳、父親役ダスティン。ホフマンは84歳、母親役メリル・ストリープは私と同じ73歳。年は取りたくない。(年齢は2022年7月時点)

もちろん1987年版であってもコミュニケーションが大事なことは変わりなく、規格の中にちゃんとあった。
ではそれらがどこにあったかといえば、顧客については「契約内容の確認」という項番で仕様や納期コストなどに認識に差がないことと注文の達成が可能であることを確認し、「是正処置及び予防処置」では顧客の苦情や意見についての対応を定めていた。
下請けや部品メーカーに対しても、「4.6購買」の項番でなすべきことが定められていた。

ここでお気づきのように外部とのコミュニケーションの記述は二通りある。
ひとつはISO9001の初版のように、顧客とのコミュニケーションを契約時とかクレーム時の項番に書き込む方法もあるし、もうひとつは2015年版のようにさまざまなコミュニケーションを集めて一つの項番にまとめる方法もある。

コミュニケーションをひとつの項番として独立させるか否かは考え方だ。
規格ではコミュニケーションプロセスを確立せよ、実施せよ、維持せよ(7.4.1)とあるが、コミュニケーション単独でプロセスをなすわけではない。
ISO9001の2000年版でプロセスなる要求事項が現れたが、そこでいうプロセスとコミュニケーションプロセスのプロセスは、意味合いにしても規模からしても同レベルではないように思える。
コミュニケーションは独立した業務ではない。種々プロセスの中のタスクやイベントをつなぐに過ぎず、もちろん重要ではあるが購買プロセスや設計プロセスと同列に論じるものではなさそうだ。
種々のコミュニケーションを集めたものを、プロセスと呼ぶのはどうかなと思う。まあサブプロセスという言葉もあるから、プロセスと呼んでも良いのだろう。

とはいえコミュニケーションは「7 支援」のカテゴリーにあり、「7.2 力量」や「7.5 文書」なども要求事項すべてに関わるから、コミュニケーションを独立した項番にするのもありかという気もする。

だが力量プロセスとか文書システムという表現をしていないのに対して、コミュニケーションにプロセスがあるのは気に入らない。要するに整合性というか一貫性がない。
等々いろいろ考えると、コミュニケーションをひとつの項番とするのは、どうも理屈に合わない感じがする。
みなさんはどうだろう?


とはいえ、そういう発想になると、内部コミュニケーションと外部コミュニケーションに分ける発想がそもそもおかしい。一つの状況変化という情報がどのように処理(分析・評価・決定)され、関係部門へ伝達されるということを一つのプロセスと考えれば、外部も内部もない一続きのものである。

注:状況とは普通「その時のありさま」を意味するが、見方を変えると物事が移り変わることである。


おっと、ここは家庭でISOMS規格を云々というコーナーであった。規格の条項の構成などどうでも良いことである。
一般家庭において外部コミュニケーションとはどのようなものがあるだろうか?

そもそもISO14001では、外部コミュニケーションとしてどんなことを要求しているのか?

7.4.3 外部コミュニケーション
組織は、コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに、かつ、順守義務による要求に従って、環境マネジメントシステムに関連する情報について外部コミュニケーションを行わなければならない。

ええと……この文章を平たくまとめると

ということです。

家庭において外部コミュニケーションとして何があるかといえば、そりゃたくさんあります。官公庁対応、会社関係、学校関係、地域関係、知り合い、趣味、その他の知人友人などなど。つまり一般的なコミュニケーションプロセスつまり付き合い方の方法を決めておいてそれに従いコミュニケーションをとること、法律に基づくものはその法律に従い対応するってことですね。


家庭で法律に基づくコミュニケーションとなると、まず官公庁関係としては、税金関係とか選挙とか事故とか違反があれば出頭するなどだろうか。裁判員に選ばれることはまずないだろう。
でも事故ったとき、いや当事者でなくても交通事故の目撃者になったとき証言を求められるとかそういったことは、予め対応方法を決めておきようもないですね。

まあ、それは規格の文言にある通り「順守義務による要求に従い」つまり法とか官庁が決めた書類や手順通りにするということしかないでしょう。というか発生する前から考えてもしょうがないことです。
どんな問題が起きるか想定もできないから、ルールとするならば「法律に関する問題は弁護士、税に関することは税理士に相談する」くらいしか決めようがない。

そういう事態が起きたらそれに関わる官庁の定める文書に従い対応すると書くと「外部文書の管理」問題になるかもしれないから、コミュニケーションの手順としては、所管省庁の窓口で該当する課題に対応する手順の指導を受けるとか書くしかないだろうなあ〜
一般家庭ならそれで十分だろう。

例えば娘が修学旅行でパスポートを取るという場合のコミュニケーションプロセスとか、 パスポート めでたくジャンボ1等当選時の受け取り手順などを、予め決めておくことなど想像できない。
パスポートなら学校から案内があるだろうが、そうでなくても普通の家庭ならネットで調べるとか、旅行会社に相談して対応するはずだ。
ジャンボ宝くじの場合は、みずほ銀行に駆け込みましょう。

官公庁ではないけれど準公的な会社関係、学校関係でも普通は向こうが決めたルールがあるから、急病とか忌引きとか校内のいじめ相談など、相手方の定めたルールに従って対応することになる。というかそれしかない。
そういったものは付従契約的であり、先方が決めたとおりにした進まない。自分が決めてもしょうがない。

注:付従契約(あるいは付合契約)とは、契約当事者の一方が多数の契約を画一的に迅速に処理するため、あらかじめ一方的に契約条件を定め、この契約条件に契約の相手方は無留保で従う形で契約を締結するほかないような実質を有する契約をいう。


では官公庁や学校や会社関係などを除いた純粋に私的なコミュニケーションはどのようにするのかというと、これもあらかじめ文書に決めておくのもむずかしい。
例えば伯母宅でご不幸があったときの香典の額、誰がお通夜に顔を出し、告別式は誰が行くかなんてことは決めておいても、その時になればいろいろ事情があるでしょう。奥さんが病気で寝込んでいるかもしれないし、コロナ流行などで遠距離移動が規制されているかもしれない。娘が遠隔地の大学を受験するときは奥さんが同行するかもしれない。
金額もときに地域によって上がり下がりもあるし、我が家で不幸があったとき香典をいくらもらったかも考慮しなければならない。

地域の役員とかマンションの管理組合などは、学校に通っている子供がいればそれなりに参加し役員もしなければならないだろうけど、子供が大きくなれば不義理をしても負い目も感じないしデメリットもない。

近所の奥さん連中との交際は、その地域の交流が密なのかそうでないのかによって参加する要否は変わる。変な人の情報などを得ることもできるが、ボスママの派閥に加わるようなことになるとめんどいことになる。


言い換えると私的なコミュニケーションは社会常識というか、通念というか、そういうものであって、基本はあるだろうが状況に応じて臨機応変に対応することになる。
となると「コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに」ではなく「社会通念に基づいて年長者や地域の詳しい人の助言に基づいて対応する」くらいしか書きようがない。

そしてまた親族対応の外部コミュニケーションは、ものすごく流動的というか変化が大きい。
遺産相続でもめて絶縁だ!なんてことになると、年賀状や暑中見舞いを止めても良いが、死亡したときは連絡するのかしないのか、私はそういう事態になったことはないが、判断に迷う。

絶縁でなくても、叔母さんが高齢になったからもう付き合いやめますなんてお手紙が来ることも多い。叔母さんに子供(従妹・従兄弟)いるだろうにと思うが、私の代になると従妹・従兄弟の付き合いなど紙どころか空気より薄い。
うちは孫がいないから我が家の遺産はいつかは遺産相続でそっちに行くことになるが、家内のほうに相続することにしておくぞ!
元同僚などもお互い退職して5年も経つと年賀状出しても返ってこない。ああそうかと思うしかない。


うそ800 本日のまとめ

家庭における外部コミュニケーションには、ISO規格の要求事項を適用することは困難というか不適当である。
あまり硬直したルールでなく、周囲の認識とか時代の流れに合わせた運用をすべきである。あるいは物事が発生したときの相談先を決めておく程度でよいのかもしれない。




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