「戦争の科学」 アーネスト・ヴォルクマンgood

出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
主婦の友社 4-07-235016-8 2003/09/103000全1巻

私たち人間は豊かな生活をしている。「いや貧しい人もいる」とか「貧しい国もある」なんて言っちゃいけません。人間はほかの動物と比較して絶対的に違う生活をしているのです。
たとえば種の保存に汲汲としている人とか国があるとは聞いたことがありません。現在は人口をいかに抑制するかが人類の課題なのです。
野生動物、いや動物に限らず生物は種の保存ということが至上命令だし、種族を維持することはまさしく至難の業である。旧約聖書の時代まで人間もいとも簡単に死ぬものであり、産めよ増やせよ地に満てよと神に祈らないとならなかったのだ。
江戸時代あるいは戦前まで結核などで死亡率は高かったなんていっちゃいけません。江戸時代、飢饉で人口が減ったとかヨーロッパのペストといってもまさか人類が滅亡するような危険水準ではありませんでした。
雑草をむしりながら、あなたがその生命力をいまいましく思ったとしても、雑草の増加する割合より人間の増加率のほうが大きい。いくらゴキブリがたくさんいたとしてもその数が40年で倍増しているなんていう調査結果は見たことがない。
鳥 カラスが増えているといわれているが、その増加の原因は人間活動による自然界のバランスの崩れによって生じた空白をカラスが埋めただけだろうし、いつまでもその割合で増えるはずがない。
自己の肉体で生存競争に励んでいるかぎり食物連鎖を抜け出ることはできず、えさを取るにも限度があり、豊かにもなれず己の生涯の間に子孫を残す以上の成果を出すことはできないのだろう。

この本では現在の科学、文明というのは戦争のおかげで存在しているという。
「戦争はいけない」と語る人は多い。まさか「戦争はあるべきだ」と語る人はおるまい。
しかし私たちの豊かな暮らしを支えるほとんどは戦争のおかげで存在しているのだそうだ。戦争に勝つために開発し発明し発見したものが人類の生活を支えているという論である。
それは近代だけじゃない。有史どころか人類が発祥してから、いやその技術開発によって人類が人類たりえたと言えそうである。
本当かどうか?それは検証は難しい。しかし、この本は読みやすく面白くなるほどと思わせる。
建築技術も土木も道路工事も着るものも、とにかくぜーんぶ戦争遂行のために考えられ、そしてそれが平和利用され人間に貢献しているのだそうだ。
  • 鉛筆・・・ナポレオンのエジプト遠征のときにどこでも書けるように発明された。
    ボールペン・・・高空を飛ぶ飛行機の中で円滑に書ける筆記具として、
  • 羅針盤も時計も航海のために
    GPS・・・いかなる天候でも所在地をセンチ単位で把握するために
  • DDT・・・熱帯での軍事行動のために・・・これがない日本軍は戦闘でなく多くが病気で死んだ
  • モールス信号、電話、電信、もっと前にはフランスに腕木信号があった パソコン
  • 電子レンジはマイクロウェーブの加熱効果の活用
  • コンピューターは弾道計算と暗号解読のために
  • 戦車から土木機械が派生した
  • すべての工作機械、輸送機械、ねじ、リベット、
  • 私の仕事で言えば品質保証という概念もISO規格も
  • オリンピックもスポーツもね、
すべては何十万年か前、ほんの偶然にサルの1種が骨あるいは木の棒を手にしそれが役に立つと気づいたときから始まったのだろうか?

まさに2001年宇宙の旅だね、こりゃ、

道具を持つことにより、生存する可能性が増え、それどころか動物界の最強の地位を占め、生活が楽になったものの、定向進化は止まることなく一層の生活の向上を求めて争うようになったのか?
だとすれば人間の知恵というのは戦争のために発達したのだろうか?平和のために戦争があるとさえ思えてしまう。

たしかに野生の動物が種の保存で汲汲として生きているに対して、人間は生存の最低限の確保をし、それ以上の生活をしようとして争っている。戦争に限らず、人生とは競争である。なにしろ今の社会で人並みでなくてもいいと宣言することは落伍者であると周囲からみなされるのだ。
ところで、反戦論者とは人生の競争から降りた人なのだろうか? 平和主義者の権化と目されている人の多くがエリートコースを歩みながら、人生の価値は成功ではなく自分が満足することだ、ナンバーワンでなくてオンリーワンがいいなんて語っていては誰も信じまい。

この本で気になることがある。
317ページで「南京虐殺が欧米で報じられたとき、日本兵に共感できる連合国の人間を見つけることは不可能に近かったはずだ」と書いている。
これはおかしい。当時、欧米では報じられたはずがない。この問題が事実であるか否かはおいておいたとして、報道され問題視されてきたのは高々20年にすぎない。
事実を基に書くならば「南京虐殺が欧米で報じられたとしたら、日本兵に共感できる連合国の人間を見つけることは不可能に近かったはずだ」となるべきだろう。
この部分の原文は調べようがない。翻訳家の恣意だろうか?
しかしながら著者は平衡感覚は持っている。
アメリカが広島やドレスデンの無差別爆撃を行ったことを併記し、その差はないと書いている。
疑問です 類似の事例として731部隊の存在と共にアメリカ軍が自国の兵士を原爆実験の立ち合わせて被爆した影響を調べたことをあげている。
南京の問題に関しては、著者が知らないのか?翻訳者が故意か過失か間違えたのであろう。
私は日本人がアメリカ人より善良だったなどと主張するつもりはない。皆同じだと思う。
しかし、南京虐殺が報道されていたことを事実とする記述には同意できない。


04.03.11水城様よりコメントいただきました。

ひとつ間違いを発見しました。南京虐殺についてです。
これについての報道は、当時既に行われていたそうです。情報の出所は、「紅卍会」と「国際安全地帯委員会」だそうです。
それがどのような報道だったかまでは、私には分かりませんが。

ちなみに、大虐殺がねつ造であったことは確かですが、しかし日本兵による非行があったこともまた事実です。(中国兵の犯行もありましたが)。
南京入城後の松井岩根(司令官)はそれを知って愕然とし、軍旗粛正・不心得者への処罰・被害者への補償を下命しているそうです。

今中国では、世界の覇者たらんとして国民の福祉や環境保護に費やすべき貴重なリソースを人間衛星に浪費している。その行く末には宇宙基地、地上攻撃衛星、ICBM邀撃衛星を思い浮かべているのだろう。世界の覇権を2000年ぶりに取り戻そうという中華思想の成就を目論んでいるのだろう。

願わくはその中国の野望がかなわないことを!

だれが覇者となろうと技術の進歩と兵器の進化はとどまることはないだろう。
この本では、相手に勝つには決して延長上の技術ではなく、革新が必要であると語る。そして過去のおびただしい歴史をあげてそれを説明する。長弓の軍団に勝つには弓ではなく大砲を開発することであり、大砲に勝つには飛行機であり、飛行機に勝つには・・・・・・それはきりがないのである。
確かに経営あるいは商売でも、相手が安売りならそれより安くという戦術では先が見えてしまうし、そんな方法では泥沼に落ち込むだけだ。ブランドイメージとか付加価値とか今までのものとは異なる次元に進んで競争相手に差別化して一歩抜きんでる戦術が必要なのである。

未来の歩兵はこうなるのだそうだ
解説で神浦元彰氏がアメリカ軍だけが軍事革命を終えたと語る。それは単なる兵力とか破壊力ではなく情報処理なのだという。
この本の論理で行けば、情報化と科学技術で武装したアメリカ軍に対抗するには呪術の類が技術革新なのかもしれない。呪術が完成するまでは、テロという非対称戦術を使うしかないのだろうか?
すくなくとも最先端の科学技術で武装した軍隊がテロに的確に対応できていないことは事実が証明している。もちろん旧来の軍隊ならテロに対抗できるということでもない。


この本にはたくさんの挿絵がある。それを眺めているだけで私は楽しい。エジプト時代の戦車、ガレー船、カタパルト、長弓、甲冑、大砲、ドレッドノート、キャタピラをつけた戦車・・・・・最期にはF117の絵がある。
f117
私は機械が大好きだった。
子供時代は親父がそのへんからもらってきた壊れた機械などをばらしたりしてすごした。
機械を発明して名前を残したレベルの人たちではなく、無名の技術者たちがどのようにして機械や部品を改良してきたのかということに非常に興味があった。
てこを考えたのはアルキメデスなんかよりズット昔、エジプトよりも昔の時代の技術者だったのだろう。歯車というのはどの国でも昔から使われていたが、等速回転する歯形を考えた人は偉いと思う。昔は月桂樹の葉形が良いことが分かりそれをなぞったそうだ。それはインボリュート曲線に近似しているそうです。自動車で半世紀の間に一番進歩したのはベアリングだと聞いたことがある。本当かどうか知らないけど、なるほどという感じだ。ハイブリッドカーもガスタービンも超大型ダンプもベアリングがなければ性能は出ないだろう。
ミネベアのミニチュアベアリングは最重要軍事物資なのだそうだ、


兵器であろうとなかろうと、遠い過去からアイデアを形にし道具を仕掛けを機械をそして電子機器を作ってきた、名もなき多くの技術者のために乾杯
願わくは私も末席に連なりたかったが、その願いはかなわなかった。




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