ボールペン物語なんてたいそうなタイトルをつけましたが、ボールペン開発とかボールペン販売作戦なんていう、たいそれたことではなく、まったくささいな話でございます。
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私が子供の頃、ボールペンというのはもちろんありました。
昭和30年前でしょうか? オヤジが会社からひとつ持ってきて、「これはボールペンといって万年筆とは違いどの方向にも書けるすばらしいものなんだ」といいました。
親父の話によると東京裁判で東条英機を弁護をしたなんとかいう弁護士がボールペンを使っていたとか?
東京裁判というのは 1948年(昭和23年)のこと
いくらなんでも、私はそんな昔のこと知りません。
さて、親父が持ってきたボールペンというのは・・・まったく使い物にならなかったのです。まあそんなものだったので会社でも不要品だったのでしょう。
書こうとしても、インクが出ないのです。インクがないわけではなくインクが硬く固まっていてなめらかに出てこないのです。
しばし手に持っていますとだんだんと温まってきてインクが軟らかくなり書けるようになりました。オヤジは持ってきたもののそのボールペンが使い物にならないので私にくれました。
当時の子供が持っている筆記具といえば鉛筆だけでしたから、私はありがたく頂戴し、使うときは手で握り、
ユリゲラーのごとく念力を投じたのです。
やがてそのボールペンのインクがなくなりました。替えインクなんてありません。でも捨てるには忍びなく、インクの芯を取り出して後ろから息を吹きかけてインクを押し出すとしばらくの間は使えます。そんなことを繰り返して使ったのを覚えております。
私はそれをラッパペンと呼んでいました。
高校入学した記念に親戚から万年筆をもらいました。うれしかったですね。
当時はスポイトタイプからカートリッジタイプに切り替わった頃で、いただいたのはカートリッジ式でした。インクがなくなるとカートリッジを差し替えるのがなにか大人になったような気がしました。

その頃ボールペンというのは正式書類には使ってはいけないという風潮がありました。学校に出す書類でも、市役所で届けをするときにも、万年筆を使いボールペンを使いませんでした。
もっともたかが高校生、たいした書類を書くこともありません。万年筆などかざりであります。
工業高校であったので製図は必須科目です。多くの生徒は2Hとか3Hの鉛筆を製図用の独特の形に削り線を引いたものでした。ところが金持ちの子供はシャープペンシルという新兵器を持ってまして、これは0.5ミリの芯ならいくら書いても線が太くならないというすぐれものでありました。我々貧乏人はシャープペンシルの芯が1本何十円もすると聞いて腰を抜かしたものです。
かようなものをつかうのは卑怯者だ!
おっと、ボールペンの話でした。
高校生の頃はそんなわけでボールペンというのは、関心などありませんでした。
就職しまして、機械製図工というのになりました。学校時代に
"飛び道具卑怯なり"とさげすんだシャープペンシルを使って図面を書くということにあいなりました。確かに鉛筆を削って図面を書くよりは楽ですわ・・・鉛筆ならせいぜい数十センチ線を引くとナイフと紙やすりで芯を削らないとなりませんが、シャープペンシルなら永遠に図面が書けるのです。これはラクチンです。
しかもシャープの芯は会社からもらえるのです。
あたりまえか?
おっと、ボールペンの話でした。
先輩にきざな人がいました。かっこいい人で持ち物も一味違いました。今で言うところのブランド志向だったのです。
といっても昔の田舎のことですからたかが知れていますが・・
この人がパーカーのボールペンを持ってました。
「東京に行ったときアメ横で7000円で買った」と言います。
ええ!たかが筆記具ごときにそんな大金を出すのか? とうなってしまいました。
給料が月3万とか4万の時代です。きざであるということは金がかかるのですね。ヴィトンをもっているお嬢さんもお金がかかっているのでしょう。でも、いまどきヴィトンのバッグが差別化戦略になるのかといえば、どうでしょうか?
持たない方がユニークなのではないでしょうか?
私は感化されやすい人間なので、パーカーのボールペンが欲しくて欲しくてたまりませんでした。迷ったあげくとうとう買う決心をして、近くの地方都市のデパートに行ってパーカーの一番安いタイプを買いました。そのとき6000円だったのを覚えています。替えインクをくれといったらなんとそれが1000円もするのです。驚きました。
ブランド品は高いのです。
そんな大決心をして買ったボールペンでしたが、内ポケットにさして通勤しているうちにどこかで落としてしまいました。いきさつから考えると大ショックを受けてもよさそうなのですが・・・全然気になりませんでした。
物の価値は、値段とか入手するときの労苦ではなく、利用して評価されるのだとマルクスなみの境地に到達したのかもしれません。
それ以降、私はボールペンに限らずブランドや値段にあまりこだわらなくなりました。
お金がないからだなんていっちゃいやですよ
やがて、市役所でも公式な契約書でもボールペンが認知され万年筆の出番はなくなったようです。実用的で大変よろしいことです。
私は実用優先、費用対効果を重んじる人間ですから
(単に貧乏人ともいいますが)ボールペンなどは10本でいくらというのを買ってきて使っています。
ホテルに泊まりますとホテルの名前が書かれたボールペンが部屋にあります。もちろん忘れずに持ち帰り使わせてもらいます。
でもなぜかホテルに備え付けのボールペンはインクの量が少ないとかちゃちゃいのが多いですね。
10年くらい前はパーカーの500円くらいのものを置いてあるホテルもあったのですが、最近はそんなしっかりしたものはありません。
私は出張の多い仕事で、ホテルからいただくボールペンでほとんど間に合っておりましたが、最近は異変があります。
従来はどのホテルでもノック式のボールペンが置いてありましたが、今ではそのようなものは少なくなりました。キャップを取り外すタイプがふつうです。これはツーアクション必要なのであまりいただけません。というわけでわざわざもって帰らなくなりました。
そして最近ではそのキャップさえないボールペンが増えてきております。
困ったことです。
持ち帰りを防ぐためか? 値段を安くするためなのでしょうか?
私のようにホテルのボールペンを利用している貧乏人は生活が圧迫されます。
オオット、私が泊まるような安ビジネスホテルだけなのでしょう。

やさしい娘は私がそんなボールペンしか持っていないのをみて、可哀想と思ったのかブランド品らしい全金属製のボールペンをプレゼントしてくれました。ありがたいことです。
といっても娘のことですからまったくの善意でなかったことはもちろんです。私が嬉し涙で目が曇っているうちにプラダの小物入れをしっかりと私のカードで買わせておりました。
このボールペン、確かにいいのですが飛行機に乗るたびに
"ピーピー"警報が鳴って参りました。そんなわけで、今は持ち歩かずに、パソコンの前に置いたきりでございます。
娘よ、使わないのはそういうわけなのだよ
というわけでお持ち帰り自由のボールペンを見かけると必ずいただいております。お持ち帰り不可の場合でも相手が気付かなければもちろんいただいて帰ります。
あなたのボールペンがなくなっていたら、私が持ち帰ったのかもしれません。