環境審査 レッスン15 2007.10.20
監査前の心得
何年か前のことである。ある会社に環境監査のために訪問したときのこと、私は約束の時間より30分ほど早く着いたが、そのまま受付で監査に訪れたことを告げ応接室に案内されてお茶を飲んでいた。
coffee.gif 定刻少し前に、やはり監査に来た私の上司というか先輩というかまあそういう関係の方が現れた。
「ちょっと遅いのではないですか」と声をかけると
「うん、実は30分ほど前に着いたのだが、この工場の周りを2周ほどしてきたよ」という。
これを聞いて私は恥ずかしさのあまり血が逆流しどっと汗をかいた。自分がお茶を飲んでのうのうとしているとき、先輩は既に監査を始めていたのだ。

それからというもの監査におじゃましたときは必ず30分前に目的地に着き、工場を一回りして外側から観察することにしている。
これは結構おもしろいし役に立つ。
まず時間調整になる。監査に限らず他社を訪問するのは約束の時間より早すぎても遅すぎても良くない。数分遅いのが良いといわれている。
30分前に着いて外から観察していればこの時間調整ができる。近くのコーヒーショップで時間をつぶすよりは良い。まずお金がかからない。

より大事なことだが情報収集になる。
同じものでも内側から見るのと外側から見るのはまるで印象が異なる。工場から外側の民家を見た感じと、外側の民家側から工場を見た感じはまったく違う。工場から見ると、民家は小さく遠くに見えて自分には縁がないように思うが、民家から見ると工場は巨大で周りを圧倒する。何であれ工場側がこのくらいいいだろうと思うことでも、住民側から見るときわめて影響が強いこともある。
以前監査に行った工場の幹部が「近くにマンションができてその住民から工場の屋根が汚いと苦情がありこちらこそ迷惑だ」と語っていた。確かにそうともいえる。元からある工場の屋根がきれいだろうが汚いだろうが、からすの勝手ではないか。しかしマンションの住民にしてみれば、一生に一度の高い買い物をしたのに窓から見えるのが芳しくない風景では人生の不作であろうか? 気持ちはわかる。
私がマンションを買ったわけではない。 

工場を巡回してトランスのうなりが気になってもフェンスの外側ではまったく気にならないこともある。他方、従業員のレクレーションのためのテニスコートが近所からは騒音源としか思えないこともある。ポンポンというボールの跳ねる音とか掛け声が結構大きく気になるものだ。
緑地をかせぐための植木もムクドリの住みかとなっていて迷惑至極のこともある。内側からはきれいに見える植栽も外側から見ると潅木の下のほうにゴミがいっぱいたまっていたりすることもある。
工場立地法という、工場の敷地の何パーセントを緑地としなければならないという法律がある。
この緑地というのは緑に見えることではなく、高さ何メートルの木なら何平米とみなすというめんどくさいものである。
幸い、私の訪問先が良いのか、今までの経験では外側を歩いていて、油の流れた後があったり、騒音がひどいと感じたことはない。packer.gifただ外側から屋外危険物貯蔵所が丸見えで、化学物質名が書かれた多数のドラム缶が見えたことがあり、これにはあまりいい感じはしなかった。現在は建設機械やごみ収集車でさえ、目立つ黄色いカラーを止めてグリーンとかピンクに染める時代だから、危険物などは外から見えるところに配置しないのは常識というか礼儀になってきたのかもしれない。環境施設を敷地中央に設置するというのがIBMの方針と聞くが、汚いものや目障りのものは目に触れないようにするのが企業市民の務めだろう。

ともかく一般的に監査での工場巡回は敷地の内側だけが多いので、事前に外側から見ておくことは視野を広めて役に立つ。ものを見るときに一方だけからではなく、いろいろな観点から見て考えるということが大事だが、監査においても同じである。
もっとも監査先が雑居ビルに所在するオフィスの場合は、その周りを歩いてもあまり役に立たない。 

これは建物とか敷地などの物理的なことだけでない。測定データなども法規制値を守っているかどうかだけでなく、その測定点が適正なのかという観点でも見なくてはならない。騒音測定点はここですと敷地内部で説明されるとそれで納得してしまう。だが、外側から見るとちょうど民家から離れて意図的に決めたのがミエミエの事もある。
都市化が進んでいる現在、騒音などは規制値を満たすことは困難なことが多い。工場の外側の道路の交通量が多かったり、敷地の外側が民家でなくラブホテルやパチンコ屋ですと少し安心です。
特段の規制や協定がない限り、法的には企業には騒音の測定義務もないのだが、そこはそこ、ちゃんとやらねばならない。
そして法規制値はいくらで測定値がそれより大きいからNG、小さいからOKというのは簡単だが、現実にはそうもいかない。
法規制値と比べるだけでなく、近隣の状況をみてどうか? 世間相場として大丈夫かといろいろな観点から見て判断すべきことも大事なことであると思う。

敷地外部から見ることではないですが・・・
初めて監査にいく場合、相手先の会社情報というか状況を、会社のウェブサイトのチェック、会社四季報を見る、帝国バンクなどを調べる方は多いですね。
CSRとかトリプルボトムラインといっても、環境監査で損益や株価はどう関係するのでしょうか?
まあ損益が良ければ環境投資もしているだろうという発想もあるでしょうが・・・私はあまり関係ないと思っております。
もちろん遵法監査でなくパフォーマンス監査になると関係するのでしょうけど・・

 小次郎が鞘を捨てたとき、武蔵は言った
コジロー敗れたり
果し合いは刀を抜く前から始まっているのだ 


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