私も依頼されれば、ISO14001の解説とか、内部監査員講習とか、環境法規制講座なんてこともしております。
私の話はすべてが即興であり、出たとこ勝負、相手の反応をみての成り行き次第で、テーマもながれもオチも客さんの期待すること、あるいは居眠りがいれば面白い話をして眠らせないようにしているつもりです。なにしろISOは顧客満足が至上ですから。
ということでわたしの持ちネタはたくさんありますが、シナリオなんてありません。もちろんパワーポイントは使いますが、同じ絵で何でも話せるという特技がありますのでもうなんでもありです。いわゆるペーパー読みなんてのとは無縁でして、私が行ったセミナーや講演は多々あるものの原稿も講演録もありません。
しかし、これは私が某所にてISO14001事務局や内部監査員を対象に講演(?)したとき、まめな聴講者がワープロ入力しており、それを頂いたという貴重な資料であります。
自分の話した記録をいただき読み返したおかげで、私がどんな話し方をしているのか? どんな話をしているのかを改めて認識いたしました。十分反省しこれからに反映したいと思います。
しかし私はなにを目的に話をしようとしているのかといえば、知識ではない。知識なんて本を読み考え経験を積めばよいこと。知恵は伝えることは困難だ。私が伝えようとしているのはそういうものではなく、精神である。法を守るという覚悟、必ず目標を達成しようという粘り強さ、公平無私な心、労をいとわないこと、社会や会社への貢献、そんなことを伝えたいと念じているので、テーマもストーリーも関係ないといえば関係ないと考えております。
では本日は内部監査員教育での私の現実の高座をお聞きください。
今日は私の話をお聞きにお集まりいただきありがとうございます。
みなさんは管理職あるいは重要な地位に就かれているわけで、一人1時間当たり1万円以上の人件費やその他の費用がかかっているはずです。ぜひそのくらいの価値のある話をしたいと願っております。ひとつ約束したいと思います。もしみなさんが居眠りをしたら私の負け、居眠りなしであれば私の勝ちとしたいと思います。
さて、ISO14001に関する話ならなんでもいいという主催者のご要請でしたので、監査とか審査にまつわることを話していきたいと思います。
はじめに不適合の是正処置について確認しておきましょう。一般的にどこでも「是正処置」の意味が理解されていません。是正とは再発を防ぐことだということは頭では分かっているのでしょうが、不適合に対する是正計画書をいただくと「これが是正か?」と嘆くようなものが多いのです。是正処置とは、具体的にどこまでするのか?どのような対策が是正処置になるのかならないのか?ということを考えてみましょう。
生産現場では不良が出ます。あなたの工場からは出ないですか? それは幸せな方です。もっとも半導体など、不良と言わずに歩留まりといっている製品もあります。
私は人生のスタートは現場作業者でした。最初はライン作業でしたが、後に不良でライン落ちしたものの修理になりました。そして、不良品を一生懸命修理をしておりました。あれから40年になります。10年一昔といいますから、40年前は大昔になるでしょう。不良を直しても直しても、次から次と不良が出ます。私の仕事がなくならなくてうれしいなんてことは決してありません。
修理と手直しは何が違うか? 実はこれは定義されています。修理とは使えるようにすることで仕様とおりでない場合も含み、手直しとは完全に仕様とおりにすることをいいます。
不良をなくすにはその原因を突き止めて、たとえばねじ締めが弱いなら、ねじ締めしている人のところに行って「強いドライバーを使ってください」と頼まなければなりません。
すると前工程の人が「ヨッシャ分かった」といってドライバを交換してくれました。
次の日、またねじ締め不良がでるので前工程に行ってみると、人が代わっていました。強いドライバを使うことが伝わっていなかったのです。笑い話ではありません。そういうのが現場の実態です。
言葉の意味を再確認しましょう。処置は不具合を直すこと、つまり私が一生懸命手直しをしていたことをいいます。では是正処置とは・・・強いドライバに代えること、ではないようです。
強いドライバに代えてもらってもそれが継続しなければ、再発防止にならないのです。すると是正処置とはどうすればよいのか? 例えば、使うドライバの型名を作業手順書に書き、従事する作業者に業務開始時あるいは定期的に作業指導をして、定期的に適正なドライバを使っているかを確認することなどシステム的な対策が必要になります。そこまですれば再発はなさそうです。でもけっこうおおごとになります。
じゃあ不良が出たらどんな不良にも是正処置をしなければならないのか?となりますが、そんなことはないと直感で分かります。めったに出ない不良であるとか、重大な不良でなければ大々的な手を打たないのが費用対効果から言ってあたりまえです。現実の生産現場においては、不良が出てもやむをえないと割り切って手を打たないと言う選択もあります。何十人もついているラインの場合、多少不良が出ているからと生産を止めて社員を自宅に帰してさまざまな段階のライン仕掛かりを作っても困りますので、すべて完成状態にしてしまいあとで改修をするという判断をすることもあります。また不良原因が技術的に確立していないためとか、あるいは費用対効果から一定の不良率を前提に生産することもあり、それは妥当だと思います。
また、出てしまった不良品は必ず手直しするのかと言いますと、しなくてもよいものもありますし、修理できず廃棄するしかないものもあります。不良品を直すこともできず、また捨てるには忍びないこともあります。そういったときはどうするか? 「特採(とくさい)」といって顧客(後工程)の了解を得て臨時に採用する方法があります。
監査と不良は関係ないといわないでください。私はアナロジーというより監査と検査、不適合と不良は理屈上まったく同じと考えているのです。だから、監査も検査も似たようなもの、不良対策も監査の不適合の是正処置も同じようなものです。名称が不良ではなく、不適合と変ることくらいです。そしてきっと「特採」のような逃げ道もあるはずです。
監査において注意しなくてはならないことは、私たちは個々の不適合を相手にしているのか? システムを相手にしているのか? を認識しなければなりません。ISO規格対応の内部監査はシステムを対象としています。なぜか? 簡単です。規格に「マネジメントシステムの監査をする」と書いてあるからです。
遵法監査においてはどうか? これは性質から言って個々の事象が対象となります。だって発見された違法に対して手を打たないということは許されません。しかし、是正はシステムを対象としなければ再発は防げません。
となると、ISO規格への不適合には、処置と是正処置をするもの、処置だけで是正処置をしないもの、処置は不要で是正処置をするもの、特採かもしれません、処置もせず是正処置もしないものがあります。何もしなくて良いならそれは不適合じゃなさそうです
是正処置の要否の判断基準は、ISO規格に書いてあります。「問題の大きさ、及び生じた環境影響に見合ったもの」です。法規制への不適合には、自然人であろうと法人であろうと最低限法律を守らねばなりませんから不適合をそのままにしておくという選択肢はなさそうです。この場合、処置と是正処置をするもの、処置だけで是正処置をしないもの、処置はできないが是正処置をするもの、でも遵法に関わるものなら「処置は不要」とは言えないでしょう。処置はできないし是正処置もしないものなんてあるはずなさそうです。
処置ができるかどうかは一目瞭然です。廃棄物の契約書がなかったからと1年前の日付で締結することはできませんし無意味です。マニフェスト票を後で修正することもできません。改竄になってしまいます。しかし違法に対してなにもしないでおくことはできませんから、行政への届けとか問い合わせをすることは必要です。それが処置だと言えば処置なのでしょうが、原義である不適合を直すことではないのですから「特採」のような気がします。
みなさんが監査事務局ならば、監査是正計画書の提出を受けた時、その不適合の重大性からみて、処置が必要か? 是正処置が必要か? 不要か? を判定し、被監査部門に是正計画書を差し戻すことを含めて指導をしなければなりません。
私がよく監査のオープニングでも「廃棄物保管場所に法で定める看板がない」という指摘があると「看板をつけました」という是正計画を見かけるがそれでは困ると言いますと、出席者のみなさんそれを聞いてアハハと笑っていますが、現実にはそのような「是正計画?」が堂々と提出されてくるのです。
さて内部監査とか外部監査たとえばISO審査を受けるときの話をします。
もちろん、審査の準備といいましても、文書や記録の確認、関係者のスケジュール調整などのほかに、会場に書類を運んだり、お客様の部屋の用意とかお茶出しの段取りもありますし、その他に「心構え」というのがあります。
では本日はそのあたりについて
監査も審査も違いはありません。そもそも、監査には第一者監査、第二者監査、第三者監査に分けられ、第三者監査のことを審査といいます。ただ、これは日本の場合であって、英語では審査も監査も同じ「audit」で区別はありません。みなさんはもう内部監査も外部監査も何度も経験していると思いますが、監査や審査には共通なセオリーがあります。
その1 主導権は監査側にあるということ。何を聞くか、何を見せてもらうか、時間の配分、その他すべての決定権は監査側にあります。受け手が、これを聞いてください、これを見てくださいというのはありえません。受査側は何でも聞いてください、といって受身の体制で審査側の質問を待っているだけです。
監査員の質問が途切れれば時間切れで受査側の不戦勝。もちろん、受査側(受け手)が自分に有利な証拠を提示したくて、主体的に発言することはありますが、それを受け入れるか否かは監査側の権利です。もし受査側に主導権を取られるような審査員、監査員がいたならば、審査員の資格はありません。
被監査側が話しすぎるのはダメです。私は年長者を敬い礼儀を尊ぶのでそういう場合も黙っておりますが(失笑)、普通の監査員なら「こちらからした質問に答えていただければいいです」くらいは言うでしょう。
その2 審査は範囲が限定されています。監査とはサンクチャリーのない無制限な全面戦争ではなく戦場が限られている限定戦争なのです。その範囲とは規格4.1で定めた範囲であり、範囲といっても規格の適用範囲、組織的な範囲、物理的な範囲、業務上の範囲、などの観点があります。
万一、この範囲からはみだしたこと、例えば防災上の不具合である防火扉が動かないようになっていたとしても「これは環境問題ではありません」といえばNGにはできません。同じように「これは適用範囲外の別会社です」「廃棄物保管場所は当社ではなく、ビル管理会社の管理です」「本社といっても出張所は含みません」などというのもありです。
もちろん、相手が言うのがもっともだと思えば対策することは悪いことではないと思います。ただし、審査の不適合とはできないということです。
その3 前項に続きますが、審査前に審査基準(監査基準)の確認をします。環境監査において何を基準にして「適合」あるいは「不適合」を判定するのかということです。監査のオープニングミーティングにおいて監査基準について監査側、受査側が確認・同意して行います。たぶん「私たちはISO14001規格の2004年版を基準に審査を行います。」といいます。「後だしじゃんけん」という言葉がありますが、最初に決めたこと以外を持ち出すのはルール違反でフェアでありません。
しかしながら審査は実はISO規格だけではありません。ISO14001審査の審査基準はISO14001規格、IAFガイド66、審査機関の審査登録ガイドブック、適用される法規制及びその他の要求事項、会社の明文不文の規則などが適用されます。みなさんはISO14001規格の序文から付属書までだけではなく、そういったものを自家薬籠としておくことが必要です。それ以外、例えばISO14001ANNEX、ISO14004は基準ではありません。
しかし内部監査においては、みなさんは環境だけでなく、安全や防災を点検してもおかしくありません。これは環境監査の範囲ではなく逸脱、越権ではないかと思われるかもしれません。しかし内部監査がISO規格で要求しているからするのだ、なんて考えている内部監査員がいるならすこし問題です。内部監査は会社をよくするためにするからです。
私は規格に適合するためのシステムとか内部監査なんてまったく意味がないと考えています。誤解を恐れずに言えば、ISO規格に不適合であっても良い会社になるならそれで良いと思います。少なくとも過去のさまざまな業務改善手法、古くは科学的管理法、小集団活動、TQM、TPMその他より、ISO規格がすぐれているという証拠はありません。グローバルであることは確かですが。
その4 進め方として審査というのは書面審査、現場審査というステップを踏むことになっています。現場とは工場という意味でなく、受査組織で行うということです。昔のISO9001ではこのステップがISO10011規格で定めていましたが、現在はISO規格ではなくIAFのガイドで決めています。つまり、まず審査側は受査側から提出された種々資料をみて、それが「その3」の要求事項に適合しているか否かをチェックします。
ガイドでは提出書類が規格を満たしていない場合は現場審査を行ってはいけないことになっています。まあ、そうはいってもマニュアルのできが悪くても審査に来るのですが
つまり、現場に審査に来るということは「お宅からいただいた資料は要求を満たしています」ということであり、「そのとおり本当に実施しているかを見に行きます」という意味なのです。
その5 何を聞くのか?
今申し上げたように、審査側が聞くのは提出資料に書かれた範囲に限定されます。マニュアルに書いてあること、そこで引用している会社の規則で定めていること、実施計画に書いてあること、などなどが調査範囲となります。マニュアルに書いてないことを聞かれても「そういったことはしていません」と応えればよいのです。それがISO規格に関連するものであってもです。なぜなら「マニュアルに書かれていることだけで規格を満たしている」と判断されているはずですから。まあ、相手の言うことを聞いてやれば多少心証を良くする効果はあるでしょうけれど。言い換えるとマニュアルに書いてあること、そこで引用している規則で定めていること、実施計画などは絶対に運用していないとならないということです。ということは、我々はマニュアルに書いてあること、実施計画書で計画してあることを立証する証拠・エビデンスを提示できなくてはならないということです。
みなさんは審査前に次のようなものを確認しているでしょう。たとえばマニュアルに書いてある文書、記録はあるか? どのファイルにあるのか? ウェブにあるのか? それを提示するにはどうするか? ファイルを持っていくか、ウェブを見せるか、担当者に説明してもらうか 特に固有名詞でなく、範疇語(はんちゅうご)で示しているものについては何をそれに充てるかを考えておきます。もし「ありません」といったらマニュアルは絵に描いた餅ということになります。
どこまでのエビデンスを必要とするのか? マニュアルでクローズしていれば良いのですが、詳細を会社規則で定めるとあると、その会社規則で何を決めているのか?どんな記録を作成することになっているのか・・・とたどります。
「マニュアルに書いてはあるが、それは規格以上のことだから勘弁してね」ということは通用しません。
その6 監査で確認するものをエビデンス証拠といいます。エビデンスとは文書と記録だけではありません。狭義の文書、記録、行為 規則とおりの動作をしているかしていないか、現象 たとえば看板がないとか危険物保管庫のドアが開いているなどがあります。
通常口頭の回答をネガティブなエビデンスとはしません。憲法で定めていますが自白だけで有罪とすることはできません。そして具体的なエビデンスなしに口頭の回答だけで適合とすることもできません。しかし多くの場合、口頭の回答を不適合のエビデンスにはしませんが、適合のエビデンスとするケースは見かけます。私は監査員の立場なら怖くてそんなことはできません。
その7 何が不適合に該当するか? 審査の対象は「個々の現象なのか?システムなのか?」という話をいいました。ISO審査はマネジメントシステムの審査ですから、システムが不具合である場合「不適合になります」システムに起因しない問題、すなわちケアレスミス、偶発的な不具合はシステムの問題ではない。ここに実施計画書に決裁印がないものが1点あったとき、不適合か否か?あなたはどう判定しますか? レベルの低い審査員なら不適合と言いそうな気がします。(笑い)審査はマネジメントシステムが規格に適合しているか否かを見るのだから、決裁印の漏れがシステムに起因するか、否かが検討対象です。私は例えば30部門のうちの2件程度であれば、単なるポカミスでシステムの問題じゃないと判断します。私たちがマニフェストのチェックをして200件の内2〜3件記載漏れがあったとしてもそんなこと問題じゃありません。でも10件もあればこれはシステム的に遵法が確保できないと判断します。監査員、審査員はこの考え方を理解しないといけません
その7 同意確認
審査員が何事かを見つけて「不適合だあ〜」と鬼の首を取ったように叫んでもそれは不適合ではありません。それはまだ不適合の候補に過ぎません。審査員が協議して審査側の総意として不適合として提示するものを決めた後、受査側と審査側が打ち合わせを行います。
そして受査側が不適合であると同意したものが不適合となります。このとき受査側は不適合ではないと拒否することは可能です。もっとも明らかにおかしなものは拒否する人はいないでしょうけど。もし審査側と受査側が同意に至らない時はどうするのでしょうか?
ISO審査がはじまった90年初頭はそのようなことは考えもつきませんでした。審査員は神様、仏様、お武家様、泣く子と地頭には勝てないという時代でありましたので、審査員の判定は絶対でした。私ども民百姓はひたすら白砂に這いつくばり、「家には乳飲み子と年老いたババアがいるのでお許しくださ〜い、お代官様」とお願いする程度でありました。しかし、今は当然のことですが、審査側・受査側は対等です。納得できないものは拒否するのが当然です。でも最終的に同意に至らないことも多々あります。
審査において、審査側と受査側の意見が一致しない場合、主任審査員が最終判断することとなっています。 じゃあ、やっぱしだめなの? そう心配しないでください。お楽しみはこれからです。そういったときは異議申し立てということにあいなります。しかし物事には順序があります。まず、審査機関に対してお問合わせをします。これは特に決められていませんが、すぐに異議申し立てするのも大人げありません。すると審査機関の幹部、取締役の次くらいの人が対応してくれます。当然我々は根拠となるエビデンスを持っていくわけです。例えば審査員がこう判断したけれど規格ではそうではない、具体的にはISOTC委員に問合せ結果はこうであるとか、JABに問合せた結果、UKASに問合せた結果などを持参します。もちろんこちら側としては自信がなければそんなことはやめた方がよろしい。不適合が多いから割引してよ、なんて理由でしたらしないこと。まあ、先方もすぐに不適合を取り消すとは言いませんでしょうけれど、内部で協議してこちらの主張が正しいと判断すれば不適合通知を書き直します。さて、こういったことをしても不適合を撤回しないという場合は、審査機関に正式に異議申し立てをします。この時の手続き・用紙様式は審査機関が決めてあります。以前某審査機関が異議申し立ての窓口を掲載していなかったので苦情を言いましたらすぐに設けてお詫びを頂きました。
さあ、いよいよ宣戦布告、メインイベントが始まります。異議申し立てをされると審査機関は上位組織である認定機関に報告しなければならず、当然こちらはその前に認定機関に確認するくらいの準備はしておきます。ということはまず負けません。
異議申し立ては正式なプロセスですからすべて審査の記録に残ります。審査機関は異議申し立てを受理する前に、審査報告書を修正するのではないかと愚考します。残念ながら私もまだここまでステップが進んだことはありません。なにか、力が入ってしまいました。笑い
ところで審査のオープニングミーティングで異議申し立て方法を説明しなければならないとIAFガイド66で定めていますが、みなさんの会社のときはどうでした。ほとんどの場合、説明していないようです。説明しないこと自体異議申し立ての対象です。ぜひとっちめてください。
その8 審査の結果、不適合と判定されたものには是正処置をしなければなりません。
不適合の呼び名は審査機関によっていろいろあります。不適合ではないが観察事項とか改善ポイントなどと呼んで改善を提案する審査機関もあります。これにたいして是正する必要はないのですが、普通はどこの受査組織もかしこまって対応しているのが実態です。もちろんどこかの会社では次回監査で「検討しましたが採用しませんでした」と言ったと聞きます。それも当然ありです。不適合でなければ理屈から言って是正ができるはずがありません。よけいなことをするのは改悪かもしれませんね。もちろん、会社を良くすることなら不適合であろうとなかろうと実施すべきと思います。しかしくだらないことならしないほうが会社のためだと思います。
では今度は監査をする側として考えて見ましょう。監査というのは仕事です。なんら日常業務と変わることはありません。勝ちも負けもあるわけはなく、淡々と粛々と行うべきものです。でもなぜか自然体がキープできないことが多いのです。
まず、監査員はえらくありません。普通、監査員になるとなにかえらくなったような気がします。内部監査などをしますと、自分より職位が上の方が対応してくれるでしょう。そういった方から「○○さん」などと持ち上げられると悪い気はしません。監査員は被監査側とまったく対等であると常に認識していないととんでもないことになります。監査員は虚心坦懐、公平無私でなければなりません。そんなことは私が言っているのではありません。ISO19011という監査の規格に書いてあるのです。でまあ、人間はいろいろな欲望、雑念があります。ついつい監査に行って講釈を語ったり、演説したりしてしまうのです。こうしたほうが良い、改善できるとアドバイスするくらいならまだしも、わしは若いときこういうことをしてきた、いくら費用を改善したなどと監査そっちのけで話をする人がいます。はっきりいって、そういう方は監査員失格です。
監査員の目的は監査基準に適合しているかいないかを監査依頼者に報告することが第一義ですからそれをまっとうできない人は、いくら知識があってもだめです。
次に、監査基準を忘れてはいけません。検査員は検査基準に基づき合否を判定します。検査基準を作るわけではありません。あなたは監査員です。あなたが監査基準を定めることはできません。常に発見したエビデンスと監査基準を比べ適合、不適合を判定するだけです。もちろんリスクがあると思われるもの、改善した方が良いと思うものは改善を推奨することはできます。しかしそれは不適合ではありません。
もう一度確認しますが内部監査における監査基準とは、ISO14001:2004、会社規則、部門の規則も入ります、法律などです。
次に監査員は万能ではありません。知らないことがあっても当然です。
既にお年を召されて定年されましたが、環境管理の専門家として市内の某社に近隣に名前が知られた方がいました。私は2・3度その方の監査を拝見する機会がありました。その方、ものすごい博識でなんでも知っているんですよ。何か見つけると「○○法何条何項に反している」などと立て板に水で、私はものすごく感心しました。私が知っているのは消防法と廃棄物とか公害関係くらいです。当時は安全衛生なんて全然知りませんでした。
あるとき彼の発言をメモしてきて調べました。驚きました。全部でたらめなんですよ(笑い)ああ、あれはハッタリなのか、と感心しました。でもいつかボロがでるぞと思いました。
もちろんそんな方ばかりではありません。私が今までにお会いした方の中には、毎日毎日環境法規制を読んでいる方がいます。その努力を私は尊敬します。私たちは常に研鑚に励まなければなりませんが、同時に知らないことを知った振りすることはありません。
分からないことがあれば聞く、調べることです。
監査の最中にそんなことができるか?とおっしゃいますか? 「できます」というより、「しなくてはならない」のです。法律で分からないことがあったとすると、相手に対して「これが適法であることを調べた記録を見せてください」といえばいいのです。もし提示できなければ「法律を調べていない」という不適合を出します。また不明なところがあれば電話をします。私は分からないときはだれでも知っていそうな人に電話をして「・・・・は法律でどう定めてましたっけ?」と聞いいています。監査中に監査員が本部へ電話することを被監査側がどう思うか?とご心配ですか。今では空文化しているかもしれませんが、第三者審査というスキームができたとき、監査員に部屋と電話を提供することと言うことが審査前の契約に盛込んでありました。もう10年も前ですが、審査員講習会を受けたときは「不明なところ、判断に迷うことがあれば審査会社に電話をして指示を仰ぐこと」ということが教えられました。いまはどうでしょうか? 今は誰でも携帯を持っています。被監査側が法違反でないなんていったら、その面前で環境省に電話したらビビリますよ、きっと(笑い)
もうひとつ反省しなければならないこととして、監査側のときと、被監査側のときで、態度が変ってませんか? 某社の環境部に親しい方がいるのですが、彼は監査員として参加すると何が何でも不適合をだすぞと、瑕疵はないか、不適合はないかと目を皿のようにしています。ところがその方が監査を受けるときは決して不適合にしないようしないように防御に務めています。まあそれも人生観かと思えばそれまでですが、私は決して潔い人とは思いません。私たちは監査するときも、監査されるときもまったく価値基準は変らないはずですし、対応も自然体であるべきです。
法律にないことを要求するのは間違っているし、おかしなところがあってもおかしくないと言い訳するのはみっともない。虚心坦懐、無私無欲
最後です。あなたは組織の代表者です。あなたは監査依頼者の代表者です。あるいは被監査部門の代表者です。堂々として、信じるところ、行っているところを、問い、答えるだけです。
言いたいことはまだまだあるのですがもう予定時間を過ぎてしまったので本日はここまで
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