98条2項 2002.02.04
「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」

条約とは国会の承認を必要とします。
テレビで外相や全権大使が立派なファイルにサインをしているのがよく映りますがあれは調印です。
調印だけでは条約は成立しません。
京都議定書に調印して、批准しない某国が批判されたりしてますが、、、
条約が成立するには次のような手順を踏まえて行われます。
     ---------------------------------------
         全権大使の任命 ←内閣
             ↓
             交渉   ←全権大使
             ↓
             合意
             ↓
             調印   ←全権大使
             ↓
            国会承認  ←国会(衆参) 
             ↓
           批准書認証  ←内閣
             ↓
            批准書  ←天皇
             ↓
           批准書交換
             ↓
             公布   ←天皇
     ---------------------------------------
つまり成立過程としては法律と同等です。
条約を締結した場合、国内法に展開される場合もありますし、展開せずに条約そのもので国内に施行というか実施される場合があります。法律へ展開されなくとも強制力があるのは法律と同等に審議可決されるからでしょう。
ちなみにフロン禁止・削減のモントリオール議定書は長い間、法律とならないで条約(議定書)そのもので国内運用されていました。
国会で審議可決されたものを、「これを誠実に遵守することを必要とする。」とわざわざ書くことが必要なんでしょうか?
それなら「法律はこれを誠実に遵守することを必要とする。」とする条文もなくちゃいけませんね?
そんなことを憲法に書いたら笑われてしまいます。

ちょっと待ってよ、
・誠実って何ですか?
 この形容詞の意味なんでしょうかね?
 誠実でなく遵守するということがあるんでしょうか?
憲法や法律は道徳を決めることはできません。
「殺人した者は○○に処す」と決めても、「殺人するな」とすることはできません。
反逆罪を定めても、「愛国心を持て」という法律は制定できないし、論理的に無理です。
倫理観、道徳を定めるのは宗教です。
・必要とするって何ですか?
 この言い回し、私は嫌いです。
 100歩譲って、「遵守すること」あるいは「遵守する」と終わるべきでしょう。

この条文はまったく意味ないと考えます。
少なくとも憲法の条文に記載するだけの意義はないでしょう。


私の結論
こりゃ、盲腸条文ですね不要です。


六花様からお便りを頂きました(2014.08.28)
憲法98条2項について
98条の2項は、条約の国内法に対する優越性を説いた条文です。この条文がなければ、つまり国内法を盾に国家間で締結した条約を容易に覆してしまうようでは、そもそも他国から条約など結んでもらえません。
この手の条文はどの国の憲法にもきちんと書かれていて、例えばアメリカ合衆国憲法の第6条や、フランス共和国憲法の第55条にも同様のことが記載されています。
最近の韓国などを見ているとよくわかりますが、靖国放火犯について日韓犯罪人引き渡し協定を破って中国に送還したり、日韓基本条約で放棄したはずの賠償請求を今さら蒸し返したりと、明らかに条約を「誠実に順守」していません。これでは国際社会から信用されませんよね。
なので「最高法規」に記載されている98条2項は必要だと思います。
と考えた次第ですが、いかがでしょうか?

六花様 お便りありがとうございます。
私が憲法についてああだこうだと書いたのは10年以上前のことで、最近はご訪問者も途絶え限界集落ならぬ限界ウェブページのありさま・・・よくぞご訪問していただいたと村民総出で歓迎するところです。
さて、お断りしておきますが、私は人並みの常識はあると思っておりますが、法律なんてものは自分が関わった環境・公害関連しか知りません。法哲学なんてのは食べたこともありません。ということをご理解ください。
じゃあなんで憲法について書いているのだというご質問を頂くかもしれませんが、私の仕事であったISO的考えで憲法を読むとどうなのかという発想というかアプローチを追及するためです(オイオイ)
とまあそれを前提に私の考えを語らせていただきます。

私は50年前、機械製図工として世の中にデビューしました。機械製図工なんてご存じないかもしれませんが、要するに設計図を書く下っ端です。図面を書くのは昔はT定規、まもなくドラフターとなり、CADへと進化しました。しかしすることは変わりません。図面にはたくさんというか必要な寸法を記入します。しかしこのとき、同じ個所の寸法をダブって書くのはご法度なのです。必要十分でなければならないわけです。
図面
そういう人生を送ってきた人間から見ると、この日本国憲法はきれいに整理されておらず、ごちゃごちゃしていて、文章構成がものすごくレベルが低いと感じます。だって憲法に「○○する」とあれば守るのは当たり前、逸脱したら処罰されるのが当たり前ですよね。
私がここで問題にしているのは似たようなことを書くなということです。ましてその言い回しが「誠実に遵守する」なんてあるので開いた口がふさがりません。
まず、元々ここに書いたことは(なにせ12年も前のことですから半分忘れました)「条約を遵守せよ」と書く意味がないだろうということです。「いや守らない人もいるから書く必要があるのだ」というならば、「この憲法も遵守せよ」と書かねばならないでしょうし、「法律も遵守せよ」と書かねばなりません。しかし、そういう記述はありません。ご不信でしたら、全文検索で確認してください。そもそも日本国憲法には「遵守」は1か所、第98条2項にしかありません。とにかく文章能力が低すぎます。
ということで私の意図をご理解願います。

まあ、私の弁明は以上でおしまいですが、六花様の書かれたことについて若干コメントしたいと思います。
憲法が上か、条約が上かというのは昔から議論されてきましたが、特段「98条の2項は、条約の国内法に対する優越性を説いた条文」ではなさそうです。ネットで調べた限りでは、現在の通説では憲法優位説が優勢のようです。
ただ私のISO的アプローチからすると、通説なんて関係ありません。文章をひたすら読んで理屈から考えるだけです。そうしますと、憲法と矛盾する条約が国会承認されるわけがありません。なぜなら「公務員は憲法の遵守義務があり(99条)」、「国会議員は公務員であり(15条)」、「条約は国会の議決を要する(61条)」ということを考え合わせますと、憲法に違反する条約は論理的に承認されないことになります。それでも誤って可決される可能性がありますが、そのときは憲法違反を持ち出して、条約破棄か憲法改正の二者択一を求めることになります。
もっとも六花様がおっしゃるように、近隣には「日韓基本条約」を結んだことを忘れて「もっとお金を出せ」とか「お代わりちょうだい」と言っている国もありますし、「日中平和友好条約は国家間のことだけで個人については書いてない」なんていちゃもんをつけている国もありますから、そういう国のためにはあったほうがよろしいかもしれません。とはいえ、日本国憲法にあっても韓国憲法や中国憲法になくちゃ意味がありませんよね
実をいって「かんこくけんぽう」と入力したら「韓国剣法」、「ちゅうごくけんぽう」と入力したら「中国拳法」となりました。かの国々には憲法という概念がないのかしら・・・

アメリカ憲法6条を例に挙げてらっしゃいますが、私が読む限りそこには「合衆国憲法、法律及び条約は州の憲法や州法に優先する」とありまして、合衆国憲法と条約の優先関係についての定めはありません。
なお、韓国憲法においては条約の遵守については書いてありません。和訳では「条約は国内法と同様の効力を有する(6条)」とありますが、私は原文が読めないので、条約が憲法と同等なのか、あるいは一般法と同等で憲法より低位なのか分りません。ただどの法律で決まっているのかわかりませんでしたが、現実にはアメリカも韓国も、条約は法律と同等の効力であって、憲法が優先するそうです。
中国憲法においては、条約と憲法の関係については記載がありませんでした。
ということでご満足いただけたでしょうか?

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