オウム真理教破産手続と被害者救済の実体
国と自治体の被害者無視の横暴そしてマスコミの責任
1997年2月19日、オウム真理教の破産手続で、第2回債権者集会が、東京地裁(遠藤賢治裁判長)で開かれました。
阿部三郎破産管財人は、地下鉄サリン事件の被害者など一般債権者への配当は18%〜19%程度になるとの見通しを明らかにしました。主な不動産の売却が終わり次第、今秋にも中間配当をしたい、としています。
極めて困難な業務を迅速果敢に遂行された阿部管財人には心からの敬意を表したいと思います。
しかし、本来被害者救済の目的であったはずの破産手続に、国や自治体が事後的に参加してきており、何と被害者よりも優先して、あるいは被害者と同列で配当を受けるという実体があるのです。
破産手続は、裁判所から任命された破産管財人が破産者の財産を全て管理換価し、他方、届出られた債権をチェックし、確定した債権者に対し公平に配当を行うことを目的としています。
オウム真理教の教団(宗教法人)に対する破産は、東京地方裁判所民事第20部が所管し、阿部三郎弁護士が破産管財人に任命されました。
阿部弁護士は、前々日弁連会長で、坂本弁護士事件の救出運動でも大変お世話になりました。東京駅ドームでのイベントや警視庁の飛行船作戦などなど、阿部会長のアイディアと実行力は驚異的でした。
このオウム破産管財人の選任においても、誰もが尻込みする極めて困難な職務であるにもかかわらず、私たちの推薦を快諾していただき、今日まで極めて迅速果敢に管財業務を遂行されました。本当に心から尊敬できる、すばらしい弁護士だと思います。
さて、この債権者集会での報告で次のことが判明しました。
資産合計 約12億
負債合計 約51億
負債の内 被害者の損害賠償請求権など普通破産債権は約48.6億
固定資産税等の租税債権が約7000万円
<重大な問題点>
1、山梨県の上九一色村と富沢町、群馬県の長野原町へ不動産を それぞれ無償で譲り渡したこと。
2、公租公課等の交付要求
3、国や自治体など個人被害者以外からの債権届。
1、山梨県の上九一色村と富沢町、群馬県の長野原町への不動産無償譲渡
これらの町村にはオウムの施設が建設されていました。
それらは本来すべて売却し現金化して配当に回されるはずなのですが、その建物が特殊でそのままの状態では転用ができないため、解体し更地にして売却しなければなりません。ところがいずれも土地の価格が安いため建物解体費用の方が高くなってしまい、マイナス財産となってしまいました。
そこで、やむなく管財人は、それらが存在する町村に無償で譲渡することにしました。
そして、その建物解体費用については、国が補助金を支出することになりました。
この結果、これら町村は、固定資産評価額で合計4億3400万円もの資産を無償で取得したことになってしまったのです。丸もうけっていうやつです。
法的には、無償譲渡が成立している以上、不当利得であるとしてその利得を返せということはできないのですが、被害者への配当がわずか18%という極めて悲惨な状況を前にしてそのような丸もうけ、不公平が許されていいのでしょうか。
2、公租公課等の交付要求
そもそも破産手続の中では、破産者に対する租税債権は、一般の債権者に優先して100%の配当が行われます。
本件オウム破産においても、交付要求のあった租税債権は合計7000万円。その内、東京都(区)は合計金380万円、大阪府は合計金360万円の、いずれも固定資産税の未払分を交付要求してきています。
しかし、東京都はオウム真理教の宗教法人化を認めた自治体なのです。本来教団を指導監督すべき立場にあったにも拘わらず、平成7年3月22日の強制捜査まで、オウム真理教の暴走について何ひとつ調査もせず、また対策も講じないまま、ただ怠慢とこれを放置し続けてきたものです。
オウム施設のある大阪府も、事実上教団の増長を黙認してきたものであり、いずれも教団の数々の凶悪犯罪について責任の一端を痛感すべきであると考えます。
本来住民の安全を守るべき自治体が、住民の安全を守れなかったにもかかわらず、今度は被害回復の場面において、被害者に先んじて税金を全額回収しようなどということが許されていのでしょうか!
繰返しますが、最愛の家族を殺され、また傷つき後遺症に悩む被害者にはわずか18%の賠償しかないのです。
国や東京都その他の自治体は、固定資産税の交付要求をすべて撤回すべきです。
3 国や自治体などの債権届
地下鉄サリンなどでは、通勤途中の被災であったため多くは労災保険が使われました。また、健康保険も同様です。
本来、第三者の加害行為による傷害にそれら保険を使った場合には、保険者(国)は、その第三者から保険給付した分を取り戻す(求償)ことができます。
本件オウム破産でも、国は、労働者災害補償保険や公務員共済組合、健康保険及び国民健康保険などの求償債権として、さらにはオウム真理教に対する清算手続の予納金の返還などで、金5億円を超える債権届出を行っています。その結果、被害者の配当分が確実に減るのです。
しかしそもそも、労災保険の目的は、傷害を受けた労働者や遺族を援護し、労働者の福祉の増進に寄与することにあるのです。また、健康保険制度も同様です。
坂本事件発生直後の警察の不手際以来、一貫して国・警察の対応は後手後手に回り、オウムの武装化を放置し、本来起きなくて済んだはずの大惨事を引きおこしました。
その一連のオウム犯罪によって甚大な被害を受けた多数の債権者たちが、わずかな配当しか受けられない状況において、国が自らの責任を反省するどころか、逆に被害者の救済を阻害する結果となる行為(金5億円を超える債権届出)をすること自体、とうてい許し難いものと考えます。
先日の債権者集会には、多数のお役人が参加していました。被害者らから次々と上がった国の債権届出での撤回を求める悲痛な声を、無表情な彼らはどう聞いて帰ったのでしょうか。ちゃんと上司に報告しているのでしょうか。
私たちは、ここでもう一度このオウムの破産手続の所期の目的に立返らなければならないと思います。
1995年一斉捜査の前後からオウムは財産隠しを急速に進めていました。それらを防止し、多数の被害者の救済を図るため、オウム財産の全体に網を掛けようと申立てたのがこの破産手続でした。
しかも、国がオウムと直接対峙することを怖がって尻込みしていたときに、勇気を奮って破産申立てをしたのはその被害者自身でした。国民を守るため、国民の被害を回復するため、本来まず最初に申立てをすべきはずの国は、被害者が申立てをするのを見てから、ノコノコと追加申立てをしてきたに過ぎません。
国と自治体は、もう一度この本質に立返って考えるべきです。
−マスコミの責任−
またこのような重大な問題があるにもかかわらず、何も報道しないマスコミにも一言いいたいところです。坂本事件以来オウムの増長を許してきた責任の一端はマスコミにもあるのです。
国と自治体とマスコミ関係者は、地下鉄サリン事件被害対策弁護士団(中村裕二事務局長)が、同債権者集会で陳述した、渾身の意見書を真摯に受止めよっ!!