特選詩集   

 

蛍の海

ほたるいか
群れて
輝き
あれあれと
波から
網へ
波から
網へ

富士湾の春
網を引く船と観覧船が
湧き上がる光を取り囲む
明け方の漁

産卵を終えて
深い海の底へ
帰ろうとする光の群れは
まぼろしか

二本の腕の先を
眩しく光らせ
透き通った小さな体を
柔らかな蛍光の斑点で包み

光は
光のままで
星になって天の流れへ
帰ろうと
するのか

天の
明るさを恋いて
岸辺に
身を投げる涼とした深海の光よ
ほたるいかよ



松本 賀久子

2000年 8月 インターネット文芸通信「プレアデス」掲載