特選詩集   

 

海を呑む

白鯨(はくげい)という名の焼酎がある
薩摩の酒で米焼酎
水割りにすると上等の清酒を思わせるが
グラスは
ヒタリと肌に貼り付いて主張する
焼酎だぞ 焼酎だぞ

ラベルには
我呑大海(われ大海を呑む)とある
これがいい
白い髪を振り立てて
真っ白な巨鯨に打ちまたがり
銛を振りかざす船長 あれは誰だったか
神そのもののような
神よりも巨大な鯨との心中とは
男にしか許されないような
妬ましい最期である

その前に
彼に この酒を一口飲ませたい
それに
たまには
言ってやりたくなる相手もいるのだ
私は
腹の底から
鯨を愛しているのだぞ
と



松本 賀久子

2000年 8月 インターネット文芸通信「プレアデス」掲載