特選詩集   

 

キツネザル、ワオ!

ワオキツネザルである
ワオ!キツネザル ではないし
輪をきつねざる でもない

ワオーッきつねざるーっ とは言える
しっぽが長くて
ふかふかで白髪だんだらの模様は
輪っかを幾つもつなげたのと同じ

体は小さく
目ばかりが大きな顔の
こいつ
大きなリスに似ているが
古臭い猿類の仲間らしい

金網越しに
見物人の
ヒト科ヒト属ヒト と目が合うと
キョロキョロする
キトキトする
少しだけ
動く
長い柔らかなしっぽを両手で抱えて
手入れをしているつもりか
または そのそぶり

このお猿さんなに食べてるの
隣で
小さな子供の声がする
そうね木の実とか果物
親が答える

木の実とか果物ならば
こちらも食べてはいるわけで
結局
私はこいつに見物されている一匹なのか
キツネザル、キツネザルと唱えながらその場を離れた
ワオキツネザル とは
思わないように
して



松本 賀久子

ワオキツネザル(輪尾狐猿)
 体長約45センチ、しっぽの長さは体長を超える、マダガスカル産キツネザル科
の哺乳類。背面は灰色、腹面は白く、尾には白と黒の交互する模様が輪状に入っている。

2000年 6月 インターネット文芸通信「プレアデス」掲載