特選詩集   

 

一日のアッシジ

一筋の煙が昇る
天へ
風が鐘の音を揺らす
小高い丘の上に立つ
中世の街
アッシジ

細い石畳の小道が幾つでもあって
行けども 行けども迷路だった
その奥で
何かが手招きしているようなのだが
息を切らせて
小道へと走り込んでみても
何か だったものに
行き着いたことはない

かわりに
見つかるのは一匹の猫だったり
突き当たりの古い扉や
料理屋や酒屋の看板だったり
した

小鳥に説教する
貧者フランシスコの絵を買って
さっきの突き当たりに
修道士の一人でも立っていたら
写真には最高だったのにねぇ なんて
連れのひとりをつかまえて
言ってみたりもした

鐘の音を聞いて
飛び込んだ先はレストラン
祈りとはどのようなものか
わからないままに
ムヤムヤと感謝らしいものを
唱えておく

日の暮れかかるころ
とっとと
バスに乗ってローマまで帰って行く
信仰とか信心などは
あるような ないようなツアーの一団の一日



松本 賀久子

2000年 5月 インターネット文芸通信「プレアデス」掲載