特選詩集   

 

花市

海が見える
白い砂の浜辺も
穏やかな波の上には
浮かんで消えるための泡

私の考えることも
残して来てしまったことも
今日一日は
幾つもの泡と一緒に溶けて
散ってしまえばよい と思った
真冬にニースの海岸

海辺から
市場へと 続くアーチを抜けて
露天の広場へと上がってくる風は
晴れて 爽やかだった

花市にいる
溢れるほどの花 花
あんなにまでも咲いた花が
束ねられ
山となって町の中へ
運ばれて行く
花市と
その只中の
匂い

花が
花市を
花市の中においている

一鉢の色スミレを腕に抱いて
駅へ
旅の続きに戻った後も
花市の香りは
残っていた
朝



松本 賀久子

2000年 4月 インターネット文芸通信「プレアデス」掲載