Back Numbers : 映画ログ No.14



【アートフル・ドヂャース】三つ星
日本とアメリカの国境を、内面的なものも含めて、軽々と越えていく。しかし、ニューヨークの日本人コミュニティものといったら昨年公開になった【スリーピー・ヘッズ】なんかもそうで、いくら監督独自の洒脱なテイストがあると言っても、根本的な設定にやはり似通ったものがあるから、どうしてもダブってきてしまうような気がする……と思っていたら、監督さんが両者ともニューヨーク在住で、しかも個人的にもお知り合いなんだそうな。こちらの映画の保田卓夫監督は次回は“日本に上陸”して撮ることを考えているのだそうで、是非そちらの次回作に期待してみたいところである。
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【アムステルダム・ウェイステッド ! 】三星半
アムステルダムにドラッグである。こういう映画、世界のどこかに絶対存在しているとは思ってたが……。トリップ感を思いっきり演出しまくったビデオ撮影による画面と、いかにもヨーロッパ系の無機質なディスコ音楽 - これが、多分実際のクラブ並の大音量(わざと?)で、あちきのような耳の弱いおばさんにはちょっと耐え難いほど、なんかもー訳が分からん、といった感じだった。確かに、こういうのが好きではまる人もいるのかもしれないけどな。お話の方は、よくあるタイプと言えばそうだけど、感覚だけで押し切ろうというこのテの映画によくありがちなスタンスではなく、かなりちゃんと人物設定がしてあって話がそれなりに進行しているのが、何だか逆に印象的であった……しかし主人公のお姉ちゃんてば、見てると結構いい子なんだが、どーして最後その男とくっついちゃうのかね ? 私には理解できん。
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【桜桃の味】四つ星
自殺したいなら一人でしろ ! とは思ったが、人物描写にあんまりにも味があるので、文句を言ってる場合ではなくなってしまった。どこの世界にいてどんな文化を持っていても人間の根本にあるものってあんまり変わらないのね、ということを分からせてくれるキアロスタミ監督の存在は、人類にとってかえすがえすも貴重である。
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【お墓がない ! 】三星半
志摩スペイン村の宣伝でコメディもいける ! ということを内外に示してしまった岩下志麻姐さんだが、この映画では大女優のパロディ、つまり自分自身のパロディを見事演じきっているのである。いゃぁ、本物の大女優は本当に何をやっても出来てしまうのだなぁ、と感心することしきり。お話の方も、現代日本の死生観や東京のお墓事情などをさりげなく取り混ぜて、なかなか面白く出来ているのではないかと思う。ラストは好みがあるかもしれないが、私は拍手したクチ。このテンポのよさ、バランスのよさこそ、昨今のテレビ的映画の特徴と言えるのかな。
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【カルラの歌】四つ星
よく知らないのだが、ケン・ローチ監督は、世界中の革命を求めてあちこちさまよっているのであろうか……いや~もう監督のなさることなら何だっていい、という心持ちではあるのだが、グラスゴーのバス運転手がニカラグア出身の女の人と出会う、といういかにもな展開はいくら何でも、お話をこっちの方に持って来ましょーという作為が強く出すぎてしまってるんじゃないかと思う。でも、一つ一つのエピソードが美しくて丁寧だから、ついついまぁいっかー、なんて思ってしまったりするのだよね~、これが。うぅ、すみません……単なるファン心理。
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【ゲーム】三星半
う~ん、結局は“金持ちの酔狂”のお話なんでないの。仕掛けの面白さは確かにあるけれど、【エイリアン3】や【セブン】のような、グロテスクであることの必然性みたいなものは感じられなくて、いまいち腹までずっしり来ないというか、表面的な賑やかしで終わってしまっているような感じがするんだが。
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【G.I.ジェーン】四つ星
デミ・ムーア演じる将校の立身出世物語というお話として見れば、映画としてはまぁ面白かった。だから四つ星にしたのだが……やはりアメリカの軍隊はアメリカのマッチョイズムの牙城であり再生産装置であって、上から下まで筋肉が強い者が正しいという原理で統一されちゃっている訳で(最後の辺りに一応反語めいたシーンはあるが)、そういった筋肉が無ければ価値がない組織の中で出世するために敢えて筋肉を鍛える彼女の気持ちは、私には多分永遠に分からんのじゃないかと思った。下手に鍛えているから必然性が無くてもつい戦ってみたくなっちゃうんじゃないの ? 私は筋肉型の世界平和は志向していないもので。
余談ですが : デミ・ムーアはどうしてこの役を引き受けたのであろう。ブルースウィリスがお家で、マッチョをひけらかして威張ってたりするのかな ? しかしブルース・ウィリスは、マッチョ俳優で括れない部分こそに本当は魅力があるんだが。(それが証拠に、単なるマッチョという以上の膨らみのない役をやっている時には皆コケているではないか。)
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【スポーン】三つ星
炎まみれの特撮シーン ! 確かによく出来ているのだけれども……何もかもをそのまま実写に置き換えてしまったら想像力を働かせる余地も奪われてしまうというか、矢継ぎ早の画面に目を奪われるばかりでお話の内容までじっくり吟味している余裕も無いというか。実物を見たことないのに言うのも何ですが、これはひょっとして、原作のコミックの方がおどろおどろしくて面白そうな気がするなぁ。
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【のら猫の日記】四つ星
ロードムービーって、“この世の中には居る場所のない人々”の道行きになる傾向が高いのであろうか。この物語に出てくる姉妹も、姉妹が訳あって誘拐するおばさんも、お互い“誰からも必要とされていない”存在であることを暗黙の内に理解し合ったが故に、奇妙な共生関係へと発展していく。そしてお互いの関係性の中に自分の居場所を構築していく前向きさ加減が、この映画の新しいところであり、見ていてほっとする部分でもある。どれもまるで自然にありそうな出来事であるかのような描き方が実にうまい。ちょっと忘れがたい一本になってしまいそうな予感がする。
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【HANA-BI】五つ星
北野武監督の最高傑作。第9号のよもやま話で特集しているので、どうぞそちらの方を御覧になって下さい。しかし、上映館は凄~く混んでいるそうですなぁ。盛況でなによりだす。
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【ハムレット】三つ星
シェークスピアの素養がないことを敢えて前提として言わせて戴ければ、よく考えればハムレットって、マザコンの自己中男(おまけにファザコンでもある)なんじゃないの。私ゃそういや昔からどうも嫌いだったんだよなー。そのハムレットを敢えて現代の観客相手に演るのだとすれば、自分の悩みの中だけに埋没していることの必然性、あるいは滑稽さの側面を描けなければ、説得力が無いような気がする。(それで、その道具建ての為にオフィーリアなどがいるのではないか ? うまく創ってあるよね。)しかるにケネス・ブラナーは、一つ一つの台詞回しとかはさすがに上手いのだけれど、それがトータルとして一つの説得力のある人格を呈示できてはいないように思うのだが。ガートルードやオフィーリアにしても然り。シーンシーンの印象はすごく強くても、一個の人間の気持ちの移り変わりといったようなものはついに画面に立ち現れては来ず、全部がバラバラなのである。平たく言って、この映画では各々の人物を再構築することには失敗している、つまり人間を描くことに失敗しているのではないかと思う。それぞれのシーンの迫力やセットの豪華さで、終わりまで間は持たないことはないんだけど……それだけではこの大がかりな作りはあまりにも勿体なさすぎるよな……。がこれを見て帰ってきた日に、いみじくもが言ったセリフが、「だってケネス・ブラナーってナルシストじゃん」。う~ん、この映画の本質は全部これに集約されているような気がするな。要するにハムレットもケネス・ブラナーも、“埋没くん”であるところが共通しているのだ。
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【ピースメーカー】三つ星
ドリームワークスの第1回作品、ということじゃなければ絶対に見に行かなかっただろうなぁ、このテのアクション・ムービーは。自分達で勝手に核兵器をばんばん作っといてその調整をするのが“ピースメーキング”ってそりゃ何じゃらほい、って感慨をまず直截に受けてしまったし、テロリストの側の論理展開も - 一応テロ側の心情を汲み取ってみようとしているだけアメリカ映画としてはエラいのかもしれないが - それにしても中途半端である。ま、かっこいいジョージ・クルーニーとかっこいいニコール・キッドマンが走り回るどハデなアクション・シーンさえあれば、設定なんか適当でいいのかもしれないけどぉ。外国にも売るつもりで映画を作っているのなら、余所の国の価値観もそろそろ少しは勉強した方がいいんじゃぁないのかねぇ、という老婆心がついつい働いてしまった。
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【ラヴソング】三星半
私は、すぐに「右か左かはっきりせい ! 」と思ってしまう方なんで……。映画自体の出来は悪くないと思うのだけれど、このように微妙に緻密に組み立てられた恋愛ドラマなんてジャンルは、あんまり向いていないよーな気がする。
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【ラブ&ポップ】四つ星
これ以降、これと同じ手法で撮った人がいたら、そりゃあ違うだろうと思ってしまうことだろう。でもこれを最初にやってしまって、実写の処女作(だよね ? )をさくっと一本創り上げてしまったのは凄い。しかも、ただのこけ威しでこの映像で撮っているのではなく、この映像にしている必然性みたいなものを感じるのがまことに凄い……どこにどう必然性があるのか解説してくれと言われたら困るが、例えば、ミニスカ・ルーズソックスの女子高生を下から舐め上げて撮るような、殆どカントクの趣味だとしか思えないような映像でも、不思議といやらしさを感じなかったりするのだ。敢えて言えば、“彼女等が見ているのはこの世界であってこの世界ではない”ということをこれらの奇矯な映像に語らせているのか(ホントか)!?ともあれ、庵野秀明監督のセンスはちょっと並ではないことを、まざまざと見せつけられた一本である。
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【ラブetc.】四星半
男の色気Aのイヴァン・アタルと、男の色気Bのシャルル・ベルリングが、女Cのシャルロット・ゲンズブールを争うお話。分かっていてもどうしようもない残酷な瞬間を知ることは、あるいは狂おしいほどに甘美なことなのかもしれない。この詩情はただごとではない、このマリオン・ヴェルヌー監督はただものではない ! こいつは絶対買いである。
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【リング/らせん】四つ星
映画が終わって出ようとした時に、どこかのきれーなおねーさん達が言ってたのが聞こえてきたなぁ……「これ、【リング】だけでいいんじゃん ? 」う~ん、これだけ完璧な批評が他にあるだろうか。【らせん】のほうは申し訳ないけれど、お話が観念的になってしまったので、恐怖感が実感として胸に迫って来ないのだ。また、先に【リング】を観ておかないと映画として成立しないというところも、較べてみるとどうしても弱く見えてしまうと思う。佐藤浩市さんはいいのだが残念。二つ星。上記の四つ星は、主に【リング】に捧げたものである。……こいつはもうハンパじゃなく怖いぞ。ここをこう来れば絶対に怖いというツボを押さえまくりで、思い出してうなされてしまいそーなくらい。私ゃ怖いのは嫌いなんだってば !! 観に行ったことを死ぬほど公開致しました……。中田秀夫監督は、人間がどういう時に恐怖を感じるのかを、よっぽど研究してあるんだろうなぁ。それをきっちり、計算づくで作ってみせる手腕に脱帽する。これ一本でお話として充分成立しているところも凄い。それで【らせん】の印象を更に弱めてしまったという訳か。
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