Back Numbers : No.9~よもやま話



北野武監督【HANA-BI】は最高傑作ですぜ !

う : あーたそういえば、確か先日、【HANA-BI】の試写会見せてもらってたんだっけ ?
ぴ : うん、某所の御厚意により特別に。
う : 観てきた日に何かきゃあきゃあ言ってたかと思えば、ホントにベネチア映画祭の金獅子賞取っちゃったねぇ、たけし監督。
ぴ : きゃあきゃあ言いたくもなるわよう、あれだけの傑作だもの ! 冠があろうがなかろうが全然関係ないわ、とか思ってたけど、あの良さが実際に認められた、ということは、やっぱり嬉しいもんだねぇ。
う : なんか、“北野武の最高傑作だぁ~ !! ”とかほざいてましたなぁ。
ぴ : ふふん、うらやましいだろ ?
う : うっ……。
ぴ : まぁ個人の好き好きもあるかも知れないから一概には言えないかもしれないけどさ、少なくとも私にとっては絶対、これが最高傑作 !
う : 泣いちゃった泣いちゃった、って五月蝿かったよなぁ。
ぴ : 泣きましたとも。今まで観てきた北野映画、どれも傑作だとは思ってたけど、泣いたのは初めてよ ? 観終わって5分間はかんどーのあまり正気に戻れなかったし、帰りの電車の中でも思い出して、また人目もはばからず泣いちゃったくらいだもん。極めつけは、あれを観終わってから二週間くらい、他の何の映画を見ても全然面白くなくなかったんだよねぇ、あんまりにもインパクト強すぎて。
う : ほう、そりゃすごい。いつも一回に3本も4本も見てあーだこーだ言ってるーちゃんが ?
ぴ : 今までの映画も良かったけど、なんかこの映画で、また一段と進化(深化 ? )してしまったというか、また一皮剥けてしまった感じ。
う : そんなに面白かった ? 一体どこがそんなに違ったと ?
ぴ : まず映画としての文法が絶対に違う。以前インタビューで言ってたんだけどね、極力余分なセリフや説明的なシークエンスを排除して、画(え)そのものと場面の切り返しだけですとーんすとーんと繋げて見せていくようなのが理想だって。ああ、あれってこういうふうなことを言っていたんだなぁって納得しちゃったよ。今回のこれが完成形かどうかは分からないけど、少なくとも一歩理想に近づけたんじゃないのかなぁ ?
う : へぇぇ。
ぴ : 中身なんかも、話だけを聞いていると今までのものと似通っている印象があるかも知れないけど、実際は全然違うと思うよ ? 今までの北野映画がある種、人間が生きる上でどうしても抱えざるを得ない暗闇を前にしてじたばたあがいている映画なのだとしたら、今回のこれは、その暗闇を真っ正面から見据えようとしているところが根本的に違うんじゃないのかなぁ。
う : ほう。
ぴ : 全てはいずれ消えていってしまうものだ、ってトーンは今までと変わり無いかと思うんだけど、それが消えていってしまうものだからこそ余計に美しくもあり虚しくもあり、また愛おしくもあるというか。そういう“消えゆくものを抱きしめる”みたいなタッチって、今までの北野映画には希薄だったじゃない ?
う : はぁ、なるほどねぇ。そう来ると“花火”って題名にもぴったり来るのかなぁ。
ぴ : そぉなのよう。しかも【HANA-BI】ってとこがニクいわよね。英語のFIREWORKSとかじゃなくて、一瞬でぱっと閃いて消えてしまって後に何となく悲しさが残る、日本語の文脈に於ける“花火”の美学を示唆しているんだよね、これは。かと言って、日常空間に実在する“花火”のこととも違うの。あくまでも概念としての“花火”のことを言ってるんだよね。
う : そりゃまたなんか観念的な……まぁ、なんとなくは分かるような。
ぴ : 最近配ってるチラシなんか見てみると、花 = 生、火 = 銃 = 死なんてことが書いてあるけど、北野映画と言えば今まで死のイメージ一辺倒だったのが、今度の映画には確かに生のイメージもあるんだよね。これが両輪で回っているからこそ、よりビジョンが鮮烈に迫ってくるような気がする。ラストのシーンなんかあまりにも壮絶で、これはもう美し過ぎると言うしかないくらい凄まじいんだよ。
う : でも、こないだからTVで流れてる映像とか見てると、何かやっぱり相変わらずの暴力的な映画、みたいな流し方をしてるところが多いみたいなんだけど ?
ぴ : いやー、マスコミでもまだ実際に観たことのある人は少ないらしいから、以前から知ってるイメージだけで適当なことを言ってるところが多いんでないかい ? 確かに暴力描写も皆無とは言わないけど、暴力のことだけをいうのなら【ソナチネ】なんかの方がはるかに直接的にテーマとして扱ってるんじゃないのかなぁ ?
う : あ、そういうもんなの ?
ぴ : 今回は夫婦のお話もメインの一つになってるから、その部分だけでも今までのイメージとはかなり違ったものがあるはずなんだけどなぁ。
う : へぇ……。
ぴ : とにかく、私が観たところ、これは今までになく監督の内面が正直に吐露されている映画なんじゃないかと思うよ ? 北野監督って、実際はすごく照れ屋な人らしくて、でもその照れ隠しにギャグをやっちゃったり極端に走っちゃったりするようなところが作品を分かりにくくしてた部分もあるんじゃないかと思うんだけど、今回はもっと監督の人となりがストレートに表に出てるんじゃないかなぁ。それがナルシーに見えて嫌っていう人なんかも実はいたりしたんだけど、私は、この期に及んで素直になれたなんて結構じゃん、と思ったりしたんだが。北野監督は、やっぱりあの事故の後で、何か根本的なものが変わったんじゃないのかなぁ。死生観とかね。
う : ふうん。
ぴ : まぁこれは、言葉じゃない部分でこそたくさんのことを語っている映画だし、いろんな切り口が何層にも折り重なって重厚な流れを創り出しているものだから、拙い言葉だけで語り尽くすなんて土台無理な話なんだけどね。実際には観て戴いて確かめてもらうしかないでしょう。
う : 腹立つ奴ーっ !! だったらそもそもこんな話題持ち出してんじゃねーよ ! ってなところでおあとがよろしいようで。ところで、ーちゃんがこれまた好きな市川準監督も、モントリオール映画祭で賞を取ったんだってねぇ ?
ぴ : そぉなのよう。なんか次々とスゴいわよねぇ。でもま、当然とも言えるんだけどね。
う : またどして ?
ぴ : 硬直化しちゃったシステムの悪弊にめげずに、何とかうまくやっていく方法をあれこれ模索して本当にいいものを手作りしようとしてきた結果が、ここへ来て実を結び始めてんじゃん。いろんな問題が消えて無くなったわけじゃないと思うけど、これからどんどん変わっていく芽が、やっと出始めたところじゃないんでしょうか。
う : じゃあ、これから期待できそうなんですかねぇ ?
ぴ : おおよ。お楽しみはこれからでいっ。

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