Back Numbers : 映画ログ No.15



今月の一言 : 去年アメリカで公開されたローレンス(ラリー)・フィッシュバーン様主演の『Hoodlum』、もう日本に来ないのかと諦めていたところ、先日、【奴らに深き眠りを】という邦題でビデオ・リリースされました。大恐慌時代のハーレムが舞台で、因業の海に独り身を沈めていくラリー様ってば超シブい ! ティム・ロス、アンディ・ガルシアといういずれ劣らぬクセ者が共演するこんな上々のギャングスター映画なのに、興行価値が無いと判断されてしまったなんて……出来れば映画館の大っきい画面で見たかった。
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【a.b.c.<アー・ベー・セー>の可能性】三つ星
この映画のパスカル・フェラン監督は、昨今フランスで新鋭として注目を集めているアルノー・デプレシャン監督なんかとお友達なんだそうな。言われてみれば理屈っぽいやりとりが多いところなんか似ているような気がするが、監督が女の人だからかな ? デプレシャン監督の作品よりは、描かれているきめ細かい感情に共感が持てる、ような気がする。それにしてもフランスの若い人って、悩んでいる問題の設定方法自体が優雅な(というか浮世離れしている)ような気がするんだが。隣の芝生だから青く見えているだけかしら。
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【アミスタッド】四つ星
結局、最初っから白人さえいなければ何の問題も起こらなかったってこと ? ……かどうかはとりあえず置いといて。スピルバーグがどういうきっかけや思い入れでこの映画を作ろうとしたのかはよく分からないが、白人の側から奴隷制を扱ってみた映画としては、出来うる限りの誠意をもって作られていて、実際、予想以上によく出来ていたのではないかと思う。少なくとも、【シンドラーのリスト】がアカデミー賞を取ったのならこれがノミネートされない法はないと思うのだが。やはり、アメリカ史に於ける大きなトラウマの一つである奴隷制について語ることは、全国民的に賛同を集めやすい反ナチズムというテーマとは違って、(表面的にはどうであれ本音の部分では)未だに敬遠する向きも存在しているのだ、ということなのではなかろうか。
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【アルビノ・アリゲーター】二星半
密室劇の緊迫感の盛り上げ方は、ケヴィン・スペイシー監督、これが初監督作品とは思えないほど上手いと思う。が、登場人物の何人かの性格付けがどうも統一されていないように感じた - 例えば、前半はやたら勇ましいのに後半は何とも脆くなってしまうフェイ・ダナウェイや、後半になってやたら道徳づいてしまうゲイリー・シニーズなど。とは言え、みんな芸達者な役者さん達だからその存在感自体の方にまず目が行ってしまうし、マット・ディロンがお話の中心にでん、といるので、それほど気にせずに済ましてしまえばそれでよかったのかもしれないが、どうも私は気になってしまったのだ。
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【エンド・オブ・バイオレンス】二つ星
よく分からないが、この脚本がもともと持っている乾いた資質は、ヴィム・ヴェンダースの持つ知性が表現しうる性質のものとは全く違っているのではないか。大体、ヴェンダースの映画から陰影だの抑揚だのを取り去ってしまったら、一体何が残るというのだ。ビル・プルマンさんも、(内面に抱えている葛藤まではこちらからは分からないが)どうも地獄で悪魔を見てきたことのあるタイプの俳優さんには見えにくいような気がするし。この映画は、いろんなパーツがちぐはぐになってしまって、出来としては成功しなかったのじゃないかという気がする。
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【グッド・ウィル・ハンティング】三星半
(才能の有無は別にして)自分の殻に閉じこもってしまい自分を素直に表現することが出来ない人間、というのはよく分かる気がする。その彼が少しずつ周囲と折衝を重ねていく姿の描写はなかなかいいと思った(ロビン・ウィリアムスのシリアス演技はやっぱり凄い ! )。が詰めの部分、「It's not your fault」×4でそんなにあっさり陥落しちゃうとは……まことに素直でよろしいなぁ。私だったらまだそこで「嘘でぃ ! 」ってひねくれ倒すので、ちょっと物足りない気がしたのだが。ところでガス・ヴァン・サント監督、最近はすっかり演出が手堅くなってきましたよね。こういうのも好きですが、また以前みたいなブッ飛んだ作風のも手掛けて戴けないものでしょうか。待ってま~す。
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【ゲット・オン・ザ・バス】四星半
スパイク・リーは、マッチョ思想の持ち主で黒人隔離主義者(=黒人は黒人だけの国を作るべきだとする人々)である。現在はそうではないかもしれないが、少なくとも、若い頃そのような思想に強く影響を受けていた時期があるのは確かである。彼がかなり強い考えの持ち主だった為、彼の作品は強いメッセージ性を持つ反面、その考え方に同調出来ない人の反発を買いやすい傾向も常にあった。私とて彼の考え方の全てに賛成していた訳では決してなかったが、それでもなお彼が天才であることには変わりはなかったし、彼が白人が支配するハリウッドの土壌の中でも黒人の置かれている状況を真摯に語らんとし続けてきた先駆的な映画人の一人であったことも紛れもない事実だった。だからこそ私は、偉大なフィルム・メーカーの一人としてずっと支持し続けてきたのである。その彼も、早い時期からライフワークであると公言していた【マルコムX】を撮り終えてからはやはり気が抜けてしまったのか少々精彩を欠いていたが、(【ガール6】では多少復調の兆しが見られたが、)ついに本作では完全復活を遂げた。この映画は1995年の7月にワシントンDCで行われた黒人男性によるミリオン・マン・マーチ(百万人の大行進)を題材にしており、やはり黒人男性の尊厳と自立を促すことが最も重要なテーマになっている。しかし、私がこの映画で一番感銘を受けたのは、一口に黒人男性と言ってもその中には様々な立場があることが実に見事に描かれていることと、ユダヤ人男性(黒人の急進的な一派とはしばしば最も激しく対立している)や幾人かの黒人女性を登場させることによって、彼等をとりまく視点というものまで話の中に導入しようとしていることだ。彼は黒人男性なのだから、どうしたってその立場からの映画しか創れないのは事実である。当然だろう。しかし、映画をただ一つの考え方に一方的に収束させていくという今までの彼の映画にありがちだったタッチとは違い、今回の映画では、実際はいろいろな考え方が並立しているのだということを余すところなく描き出すことに成功しているのだ。かつてしばしば先鋭的に過ぎ排他的にすらなってしまいがちであった傾向をついに脱し、彼はこんな映画まで撮れるようになったのだ ! この作品は、彼が映画を創ることに対してどれだけの誠意を持ち続けてきたのか、その証として出来上がったものであるかのように思えて仕方がない。ずっとスパイク・リーが好きで本当に、本当に、本当によかった。私は心からそう思った。
ところで : この映画のラストは実にうまい ! これならあまり金を掛けずに撮れるし、ごくノーマルに作ったときより更に感動的ですらある。黒人社会からの出資を募ったというこの映画の製作費はなんと240万ドルぽっちなんだそうで、これは普通のハリウッドの予算規模からすると1/10とか1/20くらい、まるで日本映画並みに安い金額なのである。凄い。
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【コップランド】三つ星
スタローン氏がアクション路線を廃業してシリアス演技に挑戦……ま、とりあえず、デ・ニーロとハーヴェイ・カイテルが共演というところに興味を引かれて見に行った。ボテボテ、ヨレヨレのスタローン氏、スタースターしておらずお話に自然に溶け込んでいるところに彼の本気の取り組みを感じ、私は凄く好感を持った。のだが、これはお話の方が……背景の説明に時間を掛け過ぎで、展開が緩慢に過ぎ、観ていてもなかなか焦点が絞り込まれて来ない。最後の最後になるまでどうも盛り上がりに欠けるのだ。思うに、最後は正義に傾くに決まっている主人公が何故現状に埋没してしまおうとしているのか、その描写がなかなかうまく行かずもたついてしまったからではないだろうか。その作りは丁寧ではあり、デ・ニーロさん・ハーヴェイさんの素晴らしい演技もろとも、出来自体が悪いというのでは決してないだけに、何か残念である。
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【シーズ・ソー・ラヴリー】三つ星
運命の愛、狂気の愛、というとジョン・カサヴェテスならばどんなふうに演出したであろうか……この映画を観ている間中、ずうーっとそのことばかりを考えてしまっていた。較べて言うのは間違いなのかもしれないが、この正攻法の演出はどうにもあっさりし過ぎて、うわぁ~~っ !! と思わず来てしまうような溜めや引っ掛かりが無いというか、どうにも物足りなさばかりが残ってしまった。これは当初の予定通りショーン・ペンが監督していた方が……ひょっとしてまだ面白かったかも。
う : ところで、【フェイス/オフ】にニック・カサヴェテスが俳優として出てる筈なんだけど……どの人だか分かんなかったんだよねー。
ぴ : あーたがそう言うのでエンド・ロールを一生懸命見てみましたよ……あのディートリッヒっていうスキンヘッドのおっさん、キャスターの子連れの愛人のお兄さん役の人がそう。
う : え゛ !? あのガタイのいいおぢさん…… !? 意外ーっ !!
ぴ : データベースでも調べてみたから間違いないんだけど……私もキャスターの弟のポラックス君とかの方がイメージだったんだが……。
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【四月物語】三星半
地方出身者の恨みつらみを目一杯抱えた私のような人間の上京物語とは全く別のところにあるものではあるが、これはこれで、いかにも岩井俊二監督らしい丁寧なつくりの、美しく可愛らしい詩編に仕上がっているのではないかと思う。私は松たか子はあまり好きではないし、はっきり言ってもっとけなしてやろうと意気込んで映画館に行ったのだが、それはやめることにした。
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【女優マルキーズ】四つ星
見応えのある重厚なコスチューム・プレイで、観たぁぁ、という満足感にひたれること必至。フランスの演劇史あたりももう少し勉強してみたいものだなぁ……そういえば、歴史の教科書に演劇の話はあまり出てきてなかったよな。
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【スタントウーマン・夢の破片<かけら>】二星半
香港映画の舞台裏を背景に、そこで頑張るスタントウーマンをヒロインにして映画を作るというのは、とてもいい発想だったんじゃないかと思う。ただ、特に後半、スタント云々という部分があまり出てこなくなってしまった上に、サービス精神でいろんな要素を取り込もうとするあまりかえって面白さの焦点がぼやけてしまったような気がするので、ちょっと勿体ないというか。
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【ニル・バイ・マウス】四つ星
この映画に出てくるレイっていうおっさんは、体型といい、うーぴーのおとさんにとてもよく似ている。お酒を飲んでキレると暴力を振るってしまうというのは、子供が癇癪を起こすのと一緒。あるいは駄々をこねているのだとすれば、要するに周りに対する甘えの形態の一種なんだな。そして、相手が傷つくことに思い至らないというのは、相手の感情を想像してやるための情緒をたっぷりと育む時間が、その人の人生に不足していたから。……そんなことを分かってあげられるには、昔の私はあんまりにも幼かったのだが。ゲイリー・オールドマン監督が何かのインタビューで、“悲しいことだが、かような苦しみは再生産される運命にあるのだ(だからこれは実は救いようのない映画なのだ ! )”てな主旨のことを言っていた。それは事実なのかもしれないが、運命的にエントロピーにしか向かわない人生の汚泥の中でも一筋の光明を夢見ながら生きていくしかないのではないか、というゲイリー監督の所信表明が、このラストには込められているように思う。この映画を創出したゲイリー監督の勇気は心底褒め称えたいのだが、あまりにも馴染みの深い内容でどうも客観的に観ることが難しい(いいんだか悪いんだかよく分からないくらい)、ように思うので、とりあえずこれくらいのお星様をつけてみました。
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【PERFECT BLUE】三星半
お話は、とてもよく出来ており面白かった。アイドルが裸になったりすることで“大人”に“脱皮”して(今日のテレビ的文脈でいうところの)“女優”になる、とかいう馬鹿らしくもげろげろな通念の描き方さえもう少し何とかなっていれば、もっと純粋に楽しめたと思うのだけれども。
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【FISHING WITH JOHN】三つ星
遊ぶ時には本気で馬鹿になるべし。しかし、いくら時間数の関係とはいえ、モーニングショーとレイトショーに分けるのはどうだろう。両方見に行くのはすごく面倒くさいし、2回で合計3000円(当日)も払わせるのはちと非道い。この“ジョン・ルーリーと愉快な仲間たち”のホーム・ビデオみたいなの(実際にビデオ作品である)に3000円 !? この作品の、力の抜けた笑いを誘うような感じはキライじゃないから一応三つ星にはしたが、こりゃどう考えても、お家でだらだらしながらビデオで見た方がよさそうである。
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【フェイス/オフ】四つ星
顔の皮フを取り替えてお互いの人間に成りすます !? あんまりにも荒唐無稽な設定(体型の問題はまだクリア出来ても、体質や頭の中身まで取り替えることは出来ないんだから、顔を換えたくらいで分かんなくなるワケねーだろっ !! )に当初は不信の念を抱いていたのだが、試写会に行って来たを含め、周囲の評判が意外といいので行ってみることにした。ううむ成程、かつての香港ノワールが、ハリウッドの潤沢な資金を得て正しくスケール・アップしている印象。設定の無茶苦茶さは、お話を楽しむための前提として流してしまえば気にならなくなる、というか、その設定の上に立ったお話が異様な迫力を持ってどんどん展開してしまうので、気にしている暇なんてなくなってしまうのだ。飛行場や海上を始めとする未曾有のアクション・シーンの数々も充分楽しめるが、登場人物の内面描写が決しておろそかにされていないところは、もっと特筆に値する。「スターを二人使うのに、二人とも善玉も悪玉も担当できるように作るなんてうまいよねぇ」、とはの弁だが、顔を取り替えることにより相手だか自分のことだか段々分かんなくなってきて、(根っこの部分は保ちながらも)アイデンティティがぐちゃぐちゃになっていってしまう過程が、見ていてすごく面白かった。
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【ヤマトナデシコ】二つ星
周囲の評判はかなりいいのだが、私はどうしても駄目でした……ごめんなさい。この映画とも関連して、ごく最近何人かの人と話をしていて気がついたのだが、私は自分のしでかしたことに自分自身で落とし前をつけようとしない女の人が嫌いで、そのような人物がヒロインになっている映画にはかなり点数が辛い傾向があるようだ。気をつけようと思う。
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今月のもう一言 : 風邪をひいて寝込んでしまい、望月六郎監督の【極道懺悔録】を見逃してしまった。うぅ、悔しい……。


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