Back Numbers : No.33~雑想ノート



【マトリックス】公開記念 : だから、ローレンス様は名優なんですってば !!

サミュエル・L・ジャクソンも、ジョン・マルコヴィッチも大好きだ。でも、アメリカで一番好きな男優さんは ? と尋ねられたら、迷わず「ローレンス・フィッシュバーン ! 」と答える。10年余の映画歴の中で、少なくとも5年以上、私は彼のファンを自称しているのである。
ハリウッドの若手と呼ばれる俳優さん(といってももうみんな30代だな)の中では、マイペースで独自路線を行くキアヌ君がうーぴーは何たって一番好きだから、この秋【マトリックス】が大ヒットしそうな気配なのはとっても嬉しい。が、TVや雑誌やなんかで【マトリックス】関係の特集を見るとほとんどキアヌ君のことばっかりで、ローレンス・フィッシュバーンのロの字も出てきやしないのは一体どーゆーことなワケ !? 本国ではそれなりにネーム・バリューもある天下の名優を差し置いて、そりゃ皆様、あんまりな扱いなのではございやせんか ?
せめて当ホームページのごく少数の読者の皆様だけにでも、もう少し彼の魅力を分かって戴きたい ! とゆーことで今月は、彼が出演している映画の数々を御紹介してみようと思います。

1.是非是非おススメしたい名作の数々 !

まずやはり筆頭に挙げなければいけないのは、彼のキャリアの中でもブレイク・スルーとなった一作だと衆目一致で見なされている【ボーイズ・'ン・ザ・フッド】(1991)でしょう ! かくいうも、この作品で初めてラリー様の存在を認識致しました。(LarryはLawrenceの愛称で、彼は昔「Larry Fishburne」とクレジットされていたこともあるので、我が家ではすっかりそちらの呼び名が定着しております。)80年代までのハリウッドにはいわゆる黒人の監督さんはほとんど皆無に近い状況だったのですが、ラップやヒップホップ・カルチャーの台頭と時期を同じくして黒人自らの手で映画を創ろうと出てきたのがスパイク・リー監督たちでした。が、その後を受けて出てきた世代に属するジョン・シングルトン監督のこの映画は、あまりにスタイリッシュに描かれた暴力的な傾向ばかりが取り沙汰されたそれまでの黒人監督の映画とは一線を画し、より日常的な視点に近づいた路線を新たに示したとして、非常に注目された作品です。この映画でのラリー様は、主人公・トレ(【ザ・エージェント】のキューバ・グッディング・Jr. ! )のパパという役どころで、信念を持って地に足をつけた生活を営んでいる人物という設定なのですが、若かりし頃は散々やんちゃをしたぞというニュアンスがプンプン匂ってくるようなギラギラした眼つきが非常にワイルドで凶悪です。しかし彼は同時に、そんな今にも暴走しそうな衝動を完全に押さえ込んでいる圧倒的な冷徹さとクレバーさの持ち主でもあります。この二面性を兼ね備えているところが正に俳優ローレンス・フィッシュバーンの得難い資質でもあって、これ以降彼が演じる役には、これらの両方かまたは片方の資質がいろいろな形でアレンジされて表れているように思われてなりません。ちなみにラリー様は、スパイク・リー監督の1988年の学園ミュージカルもの( ? )【スクール・デイズ】にも主演しています。こちらは、いわゆるごく一般のハリウッド映画的なウケ狙いと、時に非常に過激と捉えられる自らの主義主張をどうやって融合させるかという、監督の苦心惨憺のアトが見られる作品なのですが、残念ながら映画としてすごく成功しているとは言いがたいのではないでしょうか。(今見ると、ある意味面白い映画ではありますが。)

さて、その次に観ての中でのラリー様の評価が決定づけられた作品というと、1993年の【ボビー・フィッシャーを探して】になります。これは、【レナードの朝】や【シンドラーのリスト】の脚本家スティーブン・ザイリアンの初監督作品で、とあるチェスの天才少年を巡る物語です(ちなみにボビー・フィッシャーはアメリカの伝説的なチェス・プレイヤーの名前です)。この映画のラリー様は、不動産屋だった【ボーイズ…】とはうって変わって、攻撃型のチェスが身上のストリート・ハスラーという、限りなくヤンキーな役どころです。彼と、静かに戦略を練るタイプの往年の名チェス・プレイヤー役のベン・キングスレーとの対比が映画の中で光っているのですが、時にエキセントリックなまでに息子に期待を掛けようとしてしまう父親役のジョン・マンテーニャ、そんな父親を押し止めようとする母親役のジョーン・アレンなど、他の登場人物の配置やバランスも絶妙で、各俳優さんの演技力と相俟って非常に見応えのあるドラマになっています。それに対する主人公のマックス・ポメランス君の魅力がまた負けてない ! これはの中では子役が可愛い映画のNo.1になっています。画面の美しさも特筆したいですし、とてもお薦めしたい一本です。

そんなこんなでうーぴーの中ではすっかりお株の上昇し切った感のあるラリー様ですが、一般の認知度がグンと上がったのは何といっても【ティナ】(1993)のアイク・ターナー役の演技でしょう。前の2本ではまがりなりにも知性的な役どころだったのに、この映画でのラリー様はまたうって変わって、骨の髄まで下種な男を余すところなく演じ切ってくれています、が、そんな憎まれ役にもどこか悲哀を滲ませるところが、さすがはラリー様、の面目躍如ではないでしょうか。彼がこの役でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされたのは御周知の通りですが、しかし、いくらティナ役のアンジェラ・バセットも主演女優賞にノミネートされていたとはいえ、どう見てもワキのこの役で“主演"にノミネートされてしまうなんてのは……それだけインパクトが強かったっていうことなんでしょうかねぇ。

その次にラリー様が映画にお目見得するのは、1995年の【オセロ】【ハイヤー・ラーニング】などです。【オセロ】では、それまで黒塗りの白人によってのみ演じられてきたオセロ役を初めて黒人が演じたということで話題になりました。相手役のデスデモーナ姫はイレーヌ・ジャコブ ! また敵役のイアーゴーはケネス・ブラナーというなかなかゴーカなキャスティングです。が、オセロが抱くあまりにも偏った嫉妬というのは、情報の伝わり方やそのスピードが違いすぎる現代人の目から見ると、ちょっと苦しいところがあるかもしれませんね ? 片や【ハイヤー・ラーニング】の方は、再び【ボーイズ…】のジョン・シングルトン監督と組んだ一本で、高等教育の場である大学のキャンパスを描写することでアメリカ社会の問題点を炙り出そうとした、とても意欲的な作品です。この映画でのラリー様は何と大学教授 ! とてもキビしくコワい先生で、現実の前に歯噛みしながらも高い理想を掲げ続けるという、映画のかなめの役(主役じゃないけど)なのですが……あのアフロヘアだけを見たら、かなりアヤしい印象を残すかもしれませんなぁ。

さて、その後の主な映画となると、1997年の【イベント・ホライズン】【奴らに深き眠りを】などになるのですが、これらは以前に当ホームページで御紹介したことがあるので、そちらの方を参照してみて下さい。それにしても、年齢的にもキャリア的にももう充分に中堅どころ以上のポジションにいると思われるのに、SF映画でも何でも興味を感じればあっさり引き受けて、何カ月にもわたるカンフーの特訓だってこなしてしまうフットワークの軽さよ ! う~ん、ここへ来て何だかますますホレ込んでしまいましたわ !

2.初期の作品から

10才頃から既に俳優としてTVの仕事を持っていたというラリー様ですが、昨今、彼のフィルモグラフィーの初期の作品としてまず筆頭に挙げられるのが【地獄の黙示録】(1979)です。彼はこの時14才だと名乗っていたそうですが、確か1961年生まれのはずだから……あれ ? (この時の年令詐称は現在では公になっているそうです。)彼はコッポラ監督の作品では他に、【ランブルフィッシュ】(1983)【コットンクラブ】(1984)【友よ、風に抱かれて】(1987)などに出演しています。まぁどれもチョイ役ではありますが、ラリー様が演じてこそのちょっとした色合いを監督は欲しがったのではないのかな……というのは欲目に過ぎるでしょうか。ちなみに映画の好き嫌いから言えば、は個人的には【ランブルフィッシュ】をお薦め致します。
その他の初期のチョイ役での出演作品としては【カラーパープル】(1985)【クイックシルバー】(1986)【レッドブル】(1988)【ミリタリー・ブルース】(1991/原題「Cadence」)などがあります。なんと【エルム街の悪夢3】(1987)なんて映画にも出ているようです ! しかしこの頃となると、さすがに見ていないとか、見てたとしてもラリー様を思い出せない作品が多いかもしれませんねぇ……。

3.その他の作品

1990年の【キング・オブ・ニューヨーク】は、アベル・フェラーラ監督独特のテイストが印象深いフィルム・ノワールで、ラリー様は、主演のクリストファー・ウォーケン様の子分といった役どころです。まぁ黒人なら誰がやっても大差なかったんじゃないの ? といったような役柄ではありますが、キレるというのはこういうことだと言わんばかりの狂暴さはラリー様の全出演作中でもダントツかもしれません。アイス・キューブ(コワモテで有名なラッパー)がキレたってもう少し愛敬があるのではないか、と思わせるくらいの情け容赦のなさが不気味、かつ不敵なのはさすがです。
1991年の【訴訟】は、ジーン・ハックマンとメアリ・エリザベス・マストラントニオが父娘で争う弁護士という話で、ラリー様もジーン・ハックマンの部下の弁護士の役です。これもやはり黒人なら誰がやってもよかったような感じではありましたが、でもスマートでカッコイイ役どころで出番も少なくないし、映画もまぁまぁ面白かったのでそれなりに満足できました。
1992年の【ディープ・カバー】は一応ラリー様の主演作で、犯罪者とほとんど見分けがつかなくなってしまう麻薬捜査官の役ですが、どうにも一貫性を欠く言動は、少しでも自分の頭でものを考えている人物にはとても見えません(最後の2シーンくらいで、白人社会に飼い馴らされない黒人、というセンに無理矢理話を落とし込んではありますが)。こりゃ、【ボーイズ…】の後のどさくさででっちあげたんじゃないの ? とでも言ってしまいたくなるような雑な出来の映画だと思います。
1995年の【理由】も、ショーン・コネリーやエド・ハリスなんていう最強の俳優陣がどれだけ最高の演技をしたところで、スタジオ側の作品に対する愛やビジョンの欠如によって作品は編集段階でいくらでもズタズタにされ、最低につまらなくすることが可能なのだという見本のような映画なので、全くお薦め出来ません
1996年の【FLED】は、脱獄あり、ガンアクションあり、ロマンスありと、とにかくいろんな娯楽ものの要素を詰め込んでみましたといった内容です。悪者も正義の味方もどっちでもありという役の振れ幅はラリー様ならではといったところでしょうか、先がどうなるか読めない展開はそれなりに楽しめるのではないかと思います。
この他にもラリー様はいくつかの映画に出演していますし、TVドラマの役でもかなり高い評価を受けているものもいくつかあるようです。が、いかんせん日本では目にする機会がほとんど無いものが多く、私自身も未見のものばかりですので、残念ながら今回は割愛させて戴かざるを得ません。【マトリックス】がヒットすることによって、今後、ラリー様の出演している映画やドラマも、もう少しコンスタントに入ってくるようになると凄く嬉しいんですけれどもねぇ……。

注 : 文中の映画の製作年はIMDbに記載されているものに統一させて戴きました。日本の資料だと1~2年ずれている映画もいくつかありますが御了承下さい。

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