Back Numbers : 映画ログ No.17



今月の一言:ニューズウィーク日本版の5月13日号によると、スパイク・リー監督の新作のバスケットボール映画【He Got Game】が全米1位になったそうである。なんておめでたい !

【アサシンズ】二星半
本国などではこの映画の暴力的な描写が非難を浴びたというのだが ? もっとひどい暴力描写がてんこもりの映画に慣れてしまっているせいだろうか(こりゃホメられない ! )、はたまた昨今は現実で起こる事件の方がよっぽどえげつないからか、この映画の中の暴力描写にはそれほど特別なものは感じなかったのだが……。なんでも監督は、暴力主義が嫌になってしまうような映画を作りたかったそうなのだが、観る側に本気でそう思わせるだけの的確なテーマ性の表出もパワーも、残念ながらこの映画には足りなかったように思われる。
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【「A」】四星半
この映画について言いたいことを全部書いていたら、そもそも日本って何 ? 人類って何 ? システムって何 ? なんていうえらい膨大な論文を必要としてしまうことが段々と分かってきたので、今回はやめておくことにした。ということで、最初から予定していたことだけをとりあえず書いておきたいと思う。先日ある友人と、「日本の学校や会社の組織とかって、(外から見れば非合理としか思えない行動論理にどこまでも閉鎖的に固執するところが)言ってみればカルト教団みたいなもんだよね」という話をしていたのだが、ナチズムがヨーロッパ人のメンタリティのある部分から生まれてきたものだと言われているように、オウムというカルトも今の日本という国の一部、あるいは人類が普遍的に持つ何かを分け持って生まれてきたものに過ぎないのではないかと思う。だから、彼等が何故あのような行動を取るのか(あるいは取ったのか)、ということに全く考えを巡らせることもなく、ごく単純化された善悪の二項対立という図式に照らし合わせてただ異物として排斥しようとするだけでは、何の問題の解決にもならないのではないかと考える。平和で美しい秩序だった日常、なんて概念自体がそもそも幻想でしかないのだし、本当の問題は常に私達自身の内側からしかやって来ないのだから。本編の対象になっている荒木広報部長が「出家した時よりも(広報部長という立場に置かれた現在の方が)現世に直面している」と言っていたのが印象的であった。マスコミによる一連のオウム報道に何かすっきりしないものを感じている人も、そうでない人も、この映画については観てから語ることをお薦めしたい。
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【スフィア】二つ星
根っこのアイデアと、そのアイディアを視覚的に形にしたSFXは悪くないと思う。しかしその後の語り口には問題ありで、随所に伏線を張ってるつもりか知らんがその実、キャラクターの人格の統一性を壊しまくり、お話のスムーズな理解と感情移入をめっきり妨げてしまっている。バリー・レビンソン監督が悪いのか編集のせいなのかはよく分からないけど、この作り方ってば、はっきり言って下手くそなんじゃなかろうか。シャロン・ストーンもサミュエル・L・ジャクソンも、【ワグ・ザ・ドッグ】では気を吐いているダスティン・ホフマンも、これでは勿体なさ過ぎる ! 個人的には、私の好きなラッパーのクィーン・ラティファ姐さん(クラゲに殺される役……)の中途半端な使い方も全く戴けなかった。この役に何か意味付けを持たせるなら持たせる、持たせないなら持たせないで、もっとはっきりさせるべきじゃない ?
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【絶体×絶命】三星半
意識的に幅広い役柄に挑戦する姿勢が最近何だかとっても好きになってきたマイケル・キートンに、これまた好きなアンディ・ガルシアが出る映画 !? 期待に胸を膨らませ見に行ったらこれが大当たり !! 全くもー、なーんでこんな面白い映画をもっとリキ入れて宣伝しないのよう ! 腹が立つったらありゃしない。(マイナーな映画のようだから)お話をざっと説明させて戴くと、妻と死別したアンディ・ガルシア(刑事)の一人息子が白血病、やっと見つけた唯一の骨髄適合者がIQ150の凶悪犯のマイケル・キートンで、彼は案の定、手術当日に脱走を計る。病棟内で、アンディは彼を追い掛けるのだが、いかんせん、息子の手術のことを考えるとマイケルを殺すことも出来ず、ついには警察組織との板挟みになり……といったところ。話だけ書いちゃうとよくあるハリウッド映画のようにも思えてしまうのだが、この映画のいいところは、知力を尽くして逃げるマイケル・キートンといい、ほとんどノイローゼ寸前のアンディ・ガルシアといい、自分の死を案外冷静に見つめている息子といい、個々の人間の在り方やそのやりとりの描写に決して嘘っぽくない厚みがあるところである。さすが、【運命の逆転】のバーベット・シュローダー監督の演出は手堅いんでないかい。何だかちょっとギャグっぽくなってしまったラストだけは少し残念だったのだが、ノーマルな終わらせ方では平凡過ぎてつまらないとでも考えたのだろうか(この映画に関しては、普通にまとめた方が安っぽくなくていいと思うんだけどなぁ……)、それとも、スクリーン・テストの結果か何かでこんなふうになってしまったのだろうか ? ま、ハリウッド映画のラストなんてどうとでもなりかねない水モノだと考えて切り離すことにして。これは途中の過程こそを堪能すればよい映画だと思う。
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【だれも私を愛さない ! 】三つ星
が個人的にとっても注目している【ラブetc.】のマリオン・ヴェルヌー監督のスクリーンデビュー作。本作もやはり、登場人物の一人一人やお互いの関係性の描き方が的確かつ繊細で、監督特有のユーモアやリズムがあり、いい感じで流れる音楽やきちんと色彩設計もされていそうな荒い粒子の画面ともあいまって、独特の世界を醸し出していた。のだが……今回、いかにも「女のコ向け」に展開されていたこの映画の宣伝(予告編だけは逆に、何をアピールしたいのかよく分からないシロモノだったが)に凄く違和感を感じた上に、どうもそっちの雰囲気の方に引き摺られてしまって、素直に楽しめなかったんだよなぁ、これが。確かにこの映画の人間の描き方には愛らしい部分はあると思うけど、それを「女のコ的な」文脈だけに封じ込めてそれ以上の視点の拡がりを持たせようとしないのは、もったいなさ過ぎると思うぞ。あー、そんな方向性をとっぱらえれば、この映画はもっともっと面白く観られたはずなのに、私の真っさらな第一印象を返してっ !!
ところで:この作品にはあの【ロスト・チルドレン】のミエットちゃんことジュディット・ビッテ嬢が大事な役どころで出演しています(と言うか、実はこの映画の方が先に撮られているようです)ので、要チェック !
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【D坂の殺人事件】四つ星
何故か断続的に作られる江戸川乱歩ものだが、どの映画も間違いなくある程度のクオリティを持っているのはどうした訳だろう(でもどれも雰囲気が似通ってしまうという意見もあるけど)。というか、腕に覚えのある監督さんじゃなければ挑戦しないってことなのかな ? そんな数ある乱歩ものの中でも、今回のこの作品は特に、実相寺昭雄監督のこだわりや創り込みへの姿勢がいかんなく発揮されており、同監督の【屋根裏の散歩者】の更に上を行く、ピカいちの出来になっていると思う。悪い俳優さんじゃないんだけどスクリーンで見るとどうしてもスケール感の足りない真田広之氏も、一皮剥けたのか監督がよかったのか、今回はとてもいい味を出していた。しかし何といっても嶋田久作氏の明智小五郎である !! これからどんどんシリーズ化してもらいたいくらいのこのおニューな明智像だけでも特筆すべきで、この映画を観る価値はあるのではないだろうか。
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【裸足のトンカ】一星半
ジャン・ユーグ(=アングラード)氏もこの初監督作品のおかげで御結婚までなさったことだし、御祝儀がわりにと思い見に行ったのだが……純粋というよりは一本ネジが抜けているよーな主人公の造形といい、それまでのストーリー展開では全くその必然性がないのに最後でいきなりお粗末な悲劇になってしまうところといい、大変申し訳ないが全体的にかなりの未熟さを感じてしまわざるを得なかった。「ベティ・ブルーのまねじゃん ! 」と言った人が知り合いにいたのだが、実際映画を見てみれば、ひょっとして情熱故に身を滅ぼすヒロイン(と彼女に恋する男)を描きたかったのかしらん ? とかなり納得もしてしまった。成程、スルドい意見かもしんない。
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【バタフライ・キス】五つ星
なんと、90年代に観た作品の中で一番好きかもしれない一本になってしまった。詳細は雑想ノートの欄で !
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【初恋】二つ星
これは、エリック・コットが映画を作るとは ? というテーマをコット監督自身が戯画化したものである。しかしこういった論法は、それまで実際に映画を沢山作ってきた人が使うか、あるいは、エリック・コットという人がスターであるということを(香港ではそうらしいが)よく認知している人を相手にするのでなければ、一般的には通用しないのではあるまいか ? ということで、私はしょっぱなから置いていかれてしまったクチ。確かにある種の才気走ったセンスは感じられるのだが、初対面でいきなり内輪受けのネタを披露されても……といった気分である。このハードルをクリアーした人には、かなり面白い映画になる可能性はあるとは思うのだけれどもね。
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【BE MY BOY】三星半
ゲイを描いた映画は中国語圏のものとしては珍しいのかもしれないが、扱われているモチーフ等には、私は特に目新しいものは感じなかった。それよりはむしろ、恋人同志の気持ちのすれ違いだとか幼なじみを巻き込んだ三角関係だとかの、描写の丁寧さやその微笑ましさなどを、性別云々は置いといた部分で堪能した方がいいのではないかと思う。しかし小春ちゃん(陳小春=チャン・シウチョン)は、決して二枚目の作りではないのだが、何をやらせても上手いし本当にチャーミング。先がますます楽しみな人である。
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【ビヨンド・サイレンス】三つ星
普通、使い終わった楽器の分解も掃除もせずリードもつけっぱなしにしておくとか、ウォーミングアップもチューニングもなしにいきなり演奏に入るなんてことは、まずありえない。楽器を演奏する場面でも本当には息を吹き込んでいないようだし、運指もどうも合っていないように見える。この監督さんは多分、自分でクラリネットという楽器に触ったことは無いのではないか。……何でこんな細かいあげ足取りをしているのかというと、この映画では音楽というものを重要なファクターにしている筈なのに、この監督さんは本当に音楽なるものを理解しているのだろうか、単に都合のいいネタとして使っているだけじゃないのか、という疑問がふつふつと湧いてきたからなのである。以前、フランスの傑作ドキュメンタリー【音のない世界で】やハリウッド映画の【陽のあたる教室】などを観た時に、耳が聞こえない人も本当は心の耳を通して何かを“聞いて”いるのではないか、と感じたことがある。そんなバイブレーションのような何かを、人はあるいは“音楽”と呼び習わしているのではないか。私には実際、聞こえない世界のことは分からないのだけれども、それでもこの映画の聞こえる・聞こえないの対立のさせ方は今一つ単純すぎるような気がして、どうしても最後まで不満が残ったのである。お話の組み立て方自体には丹念な誠意が感じられるし、主人公の描き方なども魅力的だったのにも関わらず。どうにも残念な気がした。
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【ブラックアウト】三星半
分かってしまえばなーんだという感じも、ストーリーだけを見れば少しあるのだが、ナサケナサすぎて全然同情できない主人公(マシュー・モディンの熱演)の混濁する意識の中に浮かび上がってくる悪夢、の演出は、今時クラシックな多重露出なんて手法も効果的に使われており、実に見事なのではないかと思う。エイベル・フェラーラ監督(何故今回から名前の日本語表記が変わったのかな ? )は以前から組んでいた脚本家と別れたとの話を聞いたのだが、本来はこんなに分かりやすい話法も持っていた人だったのか、とかなり驚かされた。デニス・ホッパーのはまり過ぎな因業じじい役(最近この言葉好きね、私)も、一見の価値あり、である。
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【ワグ・ザ・ドッグ】三星半
あのおポンチな邦題(「ウワサの真相」とか言ったっけ ? )はこの際無視させて戴く。wagというのは“~を振る"という意味なのだそうで、普通は“The dog wags the trail."(trail=しっぽ)のように使う訳だが、今の世の中、もしかしてしっぽが犬を振っちゃってるような本末転倒な状態になってるんじゃないの ? というキツい風刺がこの題名には込められているのだから、もっと大事に扱って欲しいもんだよね。さてお話の方は、選挙を間近に控えた現役大統領のスタッフ達が、スキャンダルの火種が大きくなるのを恐れる余り、ありもしない戦争の話を捏造してしまうというブラックコメディ。セックススキャンダルが命取りになりかねないというのはどこかのクリントン大統領をモデルにしているとしか思えないのだが、こんな映画をしゃあしゃあと作れてしまうところあたりがアメリカって国は偉いよなぁと心底思う(日本だと政治問題になりかねないし、こんなソフィスティケートされたタッチにはとっても出来ないよなぁ)。そして、ロバート・デ・ニーロを始めとするホワイトハウス側の人々がマスコミ操作の為に組むのが、ハリウッドの大物プロデューサー役のダスティン・ホフマンなのだが、どんなにヤバい情況でも大丈夫、大丈夫と念仏のように繰り返し、プロデューサーの仕事は評価されないと何かにつけて嘆く、不敵だけれども神経質なその人物像は、実物のハリウッドのプロデューサーもかくやあらんと、かなり笑わせてくれる。内容的には、いくら今のメディアの在り様を風刺しているとはいえ、一流ジャーナリストが揃いも揃ってホワイトハウスからの情報を鵜呑みにして何の裏付け調査もしないというのはちょっとウソ臭過ぎ ? と感じられたので今一つ乗り切れない部分もあったのだが、それでも彼ら俳優さんの演技にこの映画は充分救われているし、そここそが一番の見どころにもなっているのではないかと思う。ところで、ウッディ・ハレルソン様が凶悪犯というチョイ役(でもかなり重要な人物)で出ていたのには驚かされてしまった ! そんな話をどこからも聞いたことが無いところにも、何かこの映画を配給する側の愛情の無さを私は感じてしまったのだけれど……。
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