Back Numbers : 映画ログ No.2



【アディクション】三つ星
吸血鬼というのは邪悪さに起因する飢えへの中毒(=addiction)である、という新解釈。荒涼とした心象風景には、スタイリッシュなモノクロの画面がよく似合う……でもなぁ、善悪の彼岸(しかも善=キリスト)という二元論は、私ら東洋人の認識にはマッチしないのでは ? と、確か前にアベル・フェラーラ監督の映画を観たときにも感じた。その辺りのちょっと小難しいせりふは、リリ・テイラーがやっているととてもぴったりではあるんだけど、ちょっとついていくのが苦しいかな ? クリストファー・ウォーケン様、せっかくかっこいい役だったので、個人的にはもう少しかつやくして戴きたかった……。
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【アメリカの災難】三つ星
一定水準の面白さは確実にあると思うので、見に行っても失望するようなことはないと思うのだけれど、ただ……予告編にあった以上の面白さも無かったかなぁ。
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【ある貴婦人の肖像】二星半
ジェーン・カンピオンはとても、とても好きな監督さんなのである、が、今回のこのお話にはどうしても入って行けなかった……。愛するジョン・マルコビッチ様が悪役なのがいけないのか、とか、ニコール・才色兼備・キッドマン様の完璧バリアーに跳ね返されてしまったのか、とかいろいろ考えたのだが、結局、ヒロインの心の動きが全然理解できない、というところに尽きるように思った。理解できないのが、映画のせいなのか私自身のせいなのかは分からなかったけど……。このお話は、きっと原作の方が、テーマ性がはっきり出て面白いのでは ? (読んでいないんだけどさ……)。
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【エビータ】四つ星
当代屈指のエンターテイナーであるマドンナ(彼女をよく言わない人に限って、彼女のステージ・パフォーマンスもビデオも見たことがないに違いない)が思いっきり歌って踊るのだから、これが面白くない訳がない。しかも、音楽がブロードウェイの御大・アンドリュー・ロイド・ウェーバー様であり、【ザ・コミットメンツ】などで劇中音楽を処理する腕は充分に証明済のアラン・パーカーが監督さんなら尚更である(オリバー・ストーンが監督にならなくて本当によかった……)。アルゼンチンの近代史やエバ・ペロンついての知識が得たいんであれば、本を読むなり他の映画を見るなりすればいいのであって、これは元々ミュージカルなんだってことをそもそも勘違いするべきではない。
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【哀しみのスパイ】三星半
まず一言言いたい。この、一目見ただけで絶対に見に行くのやめようと思わせてしまうような、ださださの邦題はやめてくれんか。確かに原題の“愛国者たち”は分かりにくいとは思うが、もう少しは工夫のしようがあるんでないの ? さて私は、【愛さずにいられない】を最初に観た時からのエリック・ロシャン監督のファンである。この人の描く“自分にとっての大切なこと”は、とてもつややかでなめらかで、の心の琴線に触れまくる。あんまりにも自分自身の感覚と分かちがたい部分をすとんとフィルムに定着させているような気がするので、かえって高い評価をするのがためらわれてしまう、のでこのくらいの評価。何故モサド !? とは思ったが、全世界のユダヤ人コミュニティでは現実的にありうる話なのだろう(本当 ? )。ところでイヴァン・アタルさんは、ほどよくつぶれていい感じになってきたなぁ。
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おまけ : 【愛さずにいられない】三星半.......本当は10コくらいつけたい。
多分、が世界中で一番好きな恋愛映画である。どうしてこんな“ダメ男”(イッポリト・ジラルド様 ! )にそこまで魅かれるのかが、なんだかとてもよく分かるところがいい。【哀しみのスパイ】にあわせて現在レイトショーで公開中なので、よかったら御覧になってみて下さいませ。
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【彼女は最高】四つ星
出てくる人物が皆、スネに傷持つ身であるか、またはちと変わり者。こう書くと奇をてらった感じを想像してしまうのだが、これが普通の人々の普遍的な営みを、とてもアメリカ映画とは思えないようなきめの細かさでナチュラルに活写している映画である。お互いの欠点を共感を持って受け入れるという上質のユーモアに満ち溢れており(これがアイリッシュ系ということなら大歓迎 ! )、むしろ日本なんかで受けそうな気がするのだが、これがアメリカでも一定の評価を得ているというのが何か嬉しいじゃないの。あー、【マクマレン兄弟】もちゃんと観とくんだった。
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【クラッシュ】三つ星
死にそーな感じとエクスタシーが存外近い関係にあるらしいというのは、割と古典的なテーマだよね。そういえば【愛のコリーダ】なんかでも、最後は首の締め合いである。でもなんかこの映画は、似たよなシーンが多くて、見てるとだんだん飽きてきちゃうんですけど……これもひょっとして、文章(原作)の方が面白かったりして(だから読んでいないっちゅうに)。ホリー・ハンターが思ったほどかつやくしなかったので残念。それより、キャサリン役のデボラ・アンガーがすごくよかったので要注目。IMDBで調べたところによると、今度【セブン】のデヴィッド・フィンチャー監督の映画にショーン・ペンなんかと一緒に出るらしいですぜ。わくわく。
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【サバイビング・ピカソ】 う : 二星半 ぴ : 三つ星
今月のよもやま話で特集しておりますので、そちらの方を御覧下さい。また、What else ? の「10倍楽しく見る方法」もどうぞ御参考までに。
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【しずかなあやしい午後に】三星半
椎名ブランドの総力を結集してお送りする、一粒で3度おいしい映画。これはとても成功しているオムニバスであると言えよう。なんか面白いものをみたという気分には絶対(多分)なれる、と思う。
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【セルロイド・クローゼット】三つ星
私自身が映画を見始めたのがほんの10年くらい前のことで、これはアメリカ映画でもゲイの描写を全面に押し出したものが現れてくるようになった時期と一致している。また日本だと、ゲイの描写に対してもう少しは寛容な下地があるだろうヨーロッパや他の国々で創られた映画も相当数観ることができるので、私自身には「映画の中ではゲイの描写が押さえられている」といった印象はあまりないのだが(ただしレズビアンの方はかなり少ないように思うけど)。ま、ハリウッドの歴史の中で、という但し書きが最初から付いているドキュメンタリーだから、これはこれでよいのだろう。今度はどこかの国のどなたかが、世界の映画史全体の中でのゲイ表現、というもっと壮大なテーマでドキュメンタリーを創って下さらんかのう。
ところで : この映画を観て思い出したので、今更ながらではあるが。映画【フィラデルフィア】の中のトム・ハンクスは、申し訳ないけれども、どう見たってヘテロの人にしか見えないぞ。彼がいい役者じゃないとは思わないが、自らの信条をぶち破るほどの演技はしていなかったというか、「本当はオレはヘテロだぞっ !! 」って顔にかいてあるんだもん。この役でアカデミー賞を取れたというのは、一にも二にも三にも、彼のことを見つめるバンちゃん(アントニオ・バンデラス)の熱っぽい視線にこそ“彼らがカップルである”という説得力があったからに他ならない……という訳で、このアカデミー賞は本当はバンちゃんのものである。ハリウッドに移ってからはすっかりマッチョな役柄しか求められなくなったバンちゃんだが、また昔のアルモドバル映画のような、どんな性的嗜好性もウェルカム・ってな方向性に立ち戻って戴ける時が、いつの日かやって来るのでしょうか……。
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【ナッシング・パーソナル】四つ星
一応北アイルランドが舞台なのだが、もっと普遍的な物語として、何通りもの読み替えが可能なお話だと思う。私は、やはり銃(あるいは、物理的な暴力)で物事を解決させようとするのは愚かだ、という物語であると受け取った。それを個人の能力や達成感とすり替えようとする人々の姿は、私には耐え難いものである、が、現実には存在する。最近では【ビフォア・ザ・レイン】などを観た時も思ったのだが、人類は二十世紀を経ても、何一つ学習しなかったんだよね。
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【パラサイト・イヴ】二つ星
今時どこにあんな、ちょっとそーじや洗濯をしただけで真っ黒になっちゃいそうな真っ白けを着た若奥様がいんのよ(しかもごてーねーに頭におりぼんまでつけて)。限られた予算(CGでほとんど使ってしまったのか ? )の中でなんとか雰囲気を出したいといった努力は買うが、病院や研究所、はたまた三上博史の狂気まで、端々に作り手側なりのこだわりを垣間みせられるほどますます、なんか一昔前の描き方といった感じが強まる。という訳で申し訳ないけれど、全体的にセンスが古くさいんじゃないの ? 好みの問題になるのかもしれないけど、私はあんまり好きじゃない。ラストも安直だし。
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【ひみつの花園】三星半
人から見てどんなにアホな情熱でも、情熱は持ったもん勝ちですな、というところが、実は現代日本文化のものすごく優れた批評になっていたりして……お金くらいにしか情熱が持てない、というところも。(ホンマかいな ! )普段てれーとしているように見えて時々キラリと妖しく異様に目が光る、矢口映画の全てのエッセンスを体現しているかのようなヒロイン(西田尚美さん)がとにかく絶品 ! 利重剛さんも、どうしてこんなにも巻き込まれ型のキャラが似合うの !! これはもう、大笑いできる日本映画、というだけでとにかく偉大だ。しかしこの画面から滲み出る独特のビンボ臭さは、きっと予算を50億くらい積まれたとしても変わらないんだろーなー……って、いやいや、ホメてるんですってば。
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【フェノミナン】三星半
この映画の評を何本か見掛けたのだけれど、あの【クール・ランニング】のジョン・タートルトーブ監督の映画に深遠なドラマを求めるという発想自体が、そもそも間違っていると思うよ。魅力ある人物達(トラボルタ、フォレスト・ウィテカー、カイラ・セジウィックらのキャスティングは最高ですな)に、辛すぎず、甘すぎもしないストーリー。純然たる娯楽として考えた場合、実にすんなりと、気持ちよく見ることができるジャスト・サイズな映画という意味では、私はむしろ、すごくよく出来てるんじゃないかと思った。E・クラプトンの曲がまた、いやがおうにも雰囲気を盛り上げる。とにかく、おデートには最適の一本。
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【マイ・ルーム】一星半
ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、レオナルド・ディカプリオにデ・ニーロ。これだけの役者を揃えておいて(各人の演技は確かに悪くないのに)、この最初から最後まで一本調子で、途中に何の抑揚も展開もない演出は何なのだ。これは“再会した家族がお互いの影響を受けて変化する”というお話ではないの ? 違っているのなら誰か教えて。
余談 : ダイアン・キートンの“不治の病でも健気に頑張る、無条件でいい人”という演技がアメリカで絶賛されている、という話をどこかで聞いたのだが、そんな人、日本映画ならてんこ盛りで出てきそうな気がするのは私だけ !?
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【身代金】三星半
自分なりのテーマを盛り込みつつも確実にヒットを叩き出せる、といったいい意味で目下ハリウッドNo.1の職人監督であるロン・ハワードの映画だから、まず手堅く間違いのないところだろう。今回もやはりまずまず、ではあったが、いくらアメリカでもあそこまで誘拐報道が野放しなの ? とかいろいろ疑問に思った点もあったし、テーマ性や脚本で引っ張ったというよりは、どちらかというと役者に助けられた、といった気がしなくはない。主役をメル・ギブソン、対する悪役を存在感抜群のゲイリー・シニーズが演ったから面白かった(脇を固めるレネ・ルッソ、デロイ・リンドもよいし、なんとあのリリ・テイラーまで出ている ! )が、他の人だったらもっと薄っぺらいドラマになってしまった可能性もなきにしもあらずでは。まぁ私は、ゲイリー様をたくさん観れただけで満足だからいいんだけど。
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おまけ : ゲイリー様と言えば、【二十日鼠と人間】四つ星
【フォレスト・ガンプ】【アポロ13】以降、日本でも認知度が高まってきた(かな ? )ゲイリー・シニーズ様ですが、私が最初に彼のことを知ったのはこの映画でありました。かのジョン・マルコビッチ様との共演作で、なんと監督までつとめていらっしゃいます。素晴らしい映画ですので、どこかで機会があったら御覧になってみて下さいませ。彼が単なるギョロ目・短足の変な役者さん、ではなく、なかなか才覚のある方だということが分かって戴けるのではないかと思います。(……というほど私も、ゲイリー様のことをよく知っている訳ではありません。もっと何かいろいろ御存知の方は、御教授戴けるととても嬉しいです !! )
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【ミルドレッド】三星半
とりあえず、ジーナ・ローランズ様(がアメリカで一番好きな女優さんの一人)が出演なさっているということで観に行った。この手のフレーズはあまり好きではないのだが、今回敢えて使わせてもらう、さすがカサヴェデス夫妻の息子。すごく完成度が高い。お母様のジーナ様が出演なさらない場合どんな感じになるのかは、今後、随時確かめてみることにしよう。
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【ユメノ銀河】四星半
今まで私が観た石井聰互監督の映画の中で、多分最もセリフや音楽が少なく、しかし最も饒舌で、そして一番好きな作品となった。行間という行間に、石井監督の声にならない“言葉”が溢れまくる。観る者に真剣勝負を挑んでくる、この迫力こそ正に映画なるものの醍醐味。これは、御家庭用のテレビ画面からでは絶対に伝わってこないぞ。映画館へ走るべし !!
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【ラストマン・スタンディング】二つ星
とにかく【用心棒】云々というのは、まったく別物の映画だからして、考えない方がいいと思う。この役柄はブルース・ウィリスが演じるにはぴったりだし、BGMも素晴らしいのだが、これだけユーモアも思想性も何もなくただ人々が虫ケラのようにぶち殺されていくのを延々見ていると、私は何か薄ら寒い気持ちになってしまっただけであった。
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【リディキュール】三星半
パトリス・ルコント、悪いとは思わないがそこまで評価するかぁ !? 、と今までは反発していた。当初の日本での紹介のされ方だった“大人の官能もの”路線のイメージが強すぎたのが大きな原因だったと思うのだが、それはこの映画を観て完全に払拭された。この監督は、様々な面白さの要素を取り扱うことの出来る(官能路線もその枝の一つにしか過ぎない)真のサービス精神に溢れた職人監督であって、その意味合いにおいてこの人は巨匠なのであった。そういえば、最初はコメディ専門だったというし、【タンゴ】【タンデム】【大喝采】etc. 、実は全然違うものを創っていらっしゃるものね。おみそれしました。今回、今時なんで十八世紀フランスの貴族社会なの !? と観る前は思っていたが、エスプリをテーマにした娯楽映画の舞台としては必然であった。これが、高級感を保ちつつ面白いというのが凄い。こんなもん、ハリウッドでは絶対作れないし、世界中で他に作れる人もいないだろう。伯爵夫人役のファニー・アルダンが最高 !
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