Back Numbers : 映画ログ No.27



昨年度のベスト映画の中で期待賞の一本に推していた井坂聡監督の“女刑事RIKO”シリーズの続編ビデオ、【女神<ヴィーナス>の永遠】は超おススメでございやす !! 「何~ ? またVシネ借りてきてんの ? 」と小バカにしていたが、終わり頃には身を乗り出して見ていたくらいなのだから ! この映画に描かれている女の人の像は必ずしもうーぴーの好むところではないかもしれないのだが、そういったものを補ってあまりある滝沢涼子さんの存在感たるや素晴らしすぎる !! 彼女は今後、絶対どこかで大ブレイクすることであろう。いや、しなけりゃおかしいってば。

【愛する者よ、列車に乗れ】四つ星
すごく不親切な映画である。まるでその場にいきなり居合わせた第三者のように、私達は幾多の登場人物の断片的な会話しか聞き取ることが出来ず、人間関係も断片的にしか把握することが出来ない(というか、最初の頃は誰が重要な登場人物かすら分からないような状況である)。でも最後まで観ているうちに、まるでパズルのピースがぴたりと合うように彼らの関係性が浮かび上がってきて、同時に彼らの愛や孤独も目のあたりにすることが出来るのである。観る側におもねらないこの作風はしかし、まるで「偶然列車に乗り合わせた」だけであるかのような行きずりの関係性が、現代の人間の関係性そのものであると示唆するために必然的に採用されているのではなかろうか。うーん、クールでかっこいいんでないかい ? 個人的には凄く好みだから、必然的に評価も高くなってしまったのだけれど。
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【愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像】三星半
多重露出だのレンズで歪ませた画面などを多用しつつ、芸術家のほの暗い情念を描写する切り口。うーん、なんかひところ流行ったような、結構懐かしい感じの作りのような。そういうの割と好きなんだけどな。
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【ヴァージン・フライト】三星半
「気難し屋」の役どころはヘレナ・ボナム・カーターにぴったりだし、夢を捨てきれない夢想家というのはケネス・ブラナーによく合っている。二人の持ち味が素直に出ているという点ではこの映画の素材はとてもいいんじゃないかと思うのだが、ただ、ストーリーがあまりにも予想通りの展開で進行してしまうので、少し物足りない気がしてしまったかな ? まぁ、非常に安定感があって安心して見ることができる佳作なので、ごく一般的にそこそこお薦めすることはできると思うのだけれど。
邦題について : いつもやたらとけなすことばかりが多いので、たまには誉めてみることにしよう。この映画の原題は【The Theory Of Flight】(空の飛び方、かな ? )というのだが、【ヴァージン・フライト】という邦題の方が映画のテーマがとても簡潔に出ていて(映画のセリフ中でもバージンバージン言ってるくらいなのだから)、逆にいいくらいなんじゃないだろうか ?
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【海を見る/サマードレス/X2000】三星半
【ホームドラマ】三つ星
本邦初公開というフランソワーズ・オゾン監督。まず【ホームドラマ】の方を見たのだけれど、なんかアメリカのアングラ映画みたいだなー、とか思っていたのが、どこかで「ジョン・ウォーターズ的世界を意識した」という監督の発言を読んで納得。でもそういうことなら、それはジョン・ウォーターズさんに任せておけばよいと思うのね、別にオゾン監督がわざわざ作る必要はないではありませんか。ということで、レイトショーの短篇集の方が監督の持ち味がよく出ていて断然面白いような気がしたので、昼夜のプログラムを入れ替えた方がいいんじゃないだろうか ? と思ったりもしたのだが。短篇3本の中でも特に【海を見る】は、美しい景色の中に展開される異様に張り詰めた緊張感があっとおどろく結末に転がっていく、ずっしり残った印象に後でうなされてしまうような傑作で、結構必見ものかもしれない。
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【大阪物語】四つ星
ちょっといぢわるな見方をすれば、市川準監督もそろそろ東京では題材が無くなったので大阪へ行っちゃったか、という気がしないでもなかったのだが、しかし実際見てみるとやっぱりよかったのよね、多少古くさい感じのする音楽を除いては(全編、あの“真心ブラザーズ”の曲を使ったシーンくらいのセンスは欲しかったかなぁ)。主人公の女の子の成長物語という、ちょっと間違えるとウソくさいことこの上なくなってしまう題材も、池脇千鶴さんの好演が、周りのそれぞれの登場人物の存在感をうまく吸い上げて、いい具合に着地していたのではないかと思う。脇では特に、沢田研二&田中裕子夫妻の演技たるや素晴らしすぎる ! (特に沢田研二の「ナイーブすぎて駄目になっちゃうちょっといい男」のリアリティはものすごい。あ、そういえば、“ちょっといい男”というところを除けば、うーぴーんところの父親もそういうタイプだったかなぁ。)ああ、日本に彼らをもっともっと生かせる企画はないものなのだろうか。あと余談になるが、大阪が舞台の【二人が喋ってる。】という素ん晴らしい映画を撮った実績のある脚本の犬童一心氏がもしこの映画を撮っていたらどんな感じに仕上がっていたか、ちょっと興味があるのだけれど。
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【ガメラ3・邪神<イリス>覚醒】四星半
ついに完成してしまった、世紀末に捧げる黙示録。平成版ガメラの文句無しの最高傑作である !! 本作を“美少女映画っぽい”とか“オタク映画っぽい”とかいって評価するのをためらう人も一部にいるようなのだが、(確かに主な人物はほとんど女性だし、男性キャラで唯一異彩を放っている手塚とおる氏が究極のオタクという役どころのなのは絶対に偶然じゃないとは思うけど、)今回のような映画はむしろ、表現を突き詰めたいという欲求さえあれば、美少女映画であれオタク映画であれここまでの域に到達することが可能なのだと見るべきなのではないのだろうか。ただ、全くのガメラ初心者には少々取っ付き難いきらいはあるかもしれないが、まぁ何はともあれ、批判するにもとにかく一度とりあえずは観て戴きたいと思うんである、この映画に関しては !
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【コキーユ・貝殻】四つ星
中原俊監督は、素材がツボにはまれば非常にいい持ち味が出る人なのだなと再確認。この映画が、不倫という状況を素材にしている割には粘ついたようないやったらしい感じがあまりしないのは、いわゆる“かなえられなかった初恋”の話を軸にしているからばかりではなく、主人公の二人が、自分の人生にも、道ならずとも止められない思いにも、精一杯の誠意をもって向き合っていることが見る側に伝わってくるからだろう。小林薫氏の良さがこれだけよく引き出されている作品は近作では珍しいのではないかと思うし、風吹ジュンさんの方は、もう一歩行ってしまうと“女の嫌らしさ”が鼻について見るに耐えなくなってしまいそうなところをギリギリのところで押し止めて、逆に、ずっと胸に抱き続けていた炎(ほむら)を絶妙の加減で表現することが出来ていたのではないかと思う。また、ヒロインの彼女が、あんまりにもささやかな自分の人生を、秘かな思い出を紡ぎ合わせていくことによって生き抜いていこうとする姿には、分かっていながらちょっと泣きそうになってしまった。だからこそ、あの「死なせオチ」とかそれ以降の展開とかは冗長な感じがしてどんなものかなぁと思ったりはしたのだが、そういった点も細かいことになるのかもしれない。とにかくこれは、若い人に見せてもうだうだしていてよく分からねー映画だと片付けられてしまいかねないから、ある程度の紆余曲折を経た中年の人々にこそ、是非観てほしい気がするのである。
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【シックス・ストリング・サムライ】三星半
思えば、が映画をせっせと見始めた80年代の中頃には、監督のシュミと気合いだけで無理遣り押しまくったような“カルト映画”と呼ばれる類いの映画がまだてんこもりであったんだけどなぁ。最近は、映画作りというのは実は大変お金のかかるリスキーなビジネスである、という認識が広く一般に浸透してしまったせいか、いわゆる“ちゃんとしたコンセプト”みたいなものがないと最初から企画として成立させてもらえないのだろうか、なんか一見もっともらしいような感じの映画ばかりになってしまって、心から笑える底抜けのバカさ加減こそを愛でるようなタイプの映画にお目に掛かるのがどうも難しくなってしまったような気がするんだけども ? そりゃあ映画にビジネスの側面がついて回るのは必然的なことなのかもしれないが、でもそれが“ビジネスのために映画を作る”という段階に移行してしまったら終わりだと思うのよ。映画というものが見たこともない奇っ怪な個性や情念の発露でなくなってしまったとしたら、少なくとも私個人は、もう映画という媒体と向き合う必然性はなくなってしまうんだけどなぁ。……と、前置きが長くなってしまったが、なんでこんなお話を長々と書いたかと言えば、1957年にソ連に支配されてしまったアメリカ(?)の最後の砦のロスト・ベガス(?)を40年間支配してきたキング・エルヴィスが崩御した(?)ので、主人公を始めとする強者たちが次期キングとなるべくその地へ向かう、という、今時あんまりにも出鱈目すぎるこの映画のプロットに、そりゃあ惹かれずにはいられなかったからである ! しかも主人公は、ギターを後生大事に抱えた、チャンバラをものするカンフー野郎ときたもんだ……うーんよく分からんが、とにかく作った人の趣味だけが全開しておるのは確かだな。一見、90年代に甦った真性カルト映画 !! というたたずまいに、私はいたく心を動かされたのであった。しかしこれだけの展開にも関わらず、全体的には無茶苦茶に破綻したりすることもなく割と端正にかっちりとまとまっていたりするのは、やはり今の時代の状況のなせるワザなのだろうか。その予想に反して(?)安定していた作品の出来に、逆に安心感とも一抹の寂しさともつかないものを感じてしまったりしたのだが。
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【SAFE】四つ星
私がアレルギーを発症して半年ほど寝込むことになったのは、20代前半のある年、10代後半から長患いをしていた自律神経失調や神経症らしきものとやっと何とかケンカせずにやっていけそうなめどが立ち始めたばかりの頃だった……いやぁ、あの時ゃさすがに、これで人生本当に終わったなと思いましたね。何が辛いって、ただ普通の日常生活を送ること自体に支障があるということを、人に理解してもらうのがなかなか難しかったこと。役立たずに穀潰しに無駄飯喰らいな、ちっとも思い通りに動いてくれない自分の心と体を、私はどれだけ呪ったことだろう。だからして、圧倒的な絶望感の中で沸き起こる自殺衝動と必死で折り合いをつけながら何とかここまでやってきた私としちゃあ、主人公がまがいなりにも自分の心や体と和解する方法を模索し始めたというこの映画のエンディングを「未来がなくて暗い」と評された日には(監督のトッド・ヘインズさえそのようにコメントしているのだが)、立つ瀬が無いんだが。……ということで、個人的な興味ゆえに少し評価が高めになってしまったきらいはあるかもしれないが、しかし、アメリカの郊外を車で走っていると何だか感じてしまうぽっかり穴の開いたような異様な空虚感(アメリカ郊外の中流社会に潜む病理というとドナルド・フェイゲン辺りがよくテーマにして歌っていたセンかもしれないね)をこのくらい的確に表現してみせた映画も、かつて無かったと思うんだよね。片や【ベルベット・ゴールドマイン】のような映画も創りつつこのような映画も創ってみせるとは、いやぁ、トッド・ヘインズ監督という人は大した才人である。才人と言えば、この映画のジュリアン・ムーアも特筆に値するだろう。平々凡々な主婦を敢えて演じることくらい難しいこともこの世に無いと思うのだが、これが本当に【ブギーナイツ】や【ビッグ・リボウスキ】の彼女と同一人物なの ?
人類はもはや、毒を食らいながら生きて行くより他にないのである。ということでこちらのコラムもどうぞ。
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【パーフェクト・カップル】三星半
一つ非常に感心したのは、この映画が“大統領選挙の裏舞台”というもろに政治的な題材を取り上げつつ、それをきっちりエンターテイメントとして作り上げて成立させているところだ。同じ題材ならひょっとして、クリントンを大統領にしたスピン・ドクターを扱ったドキュメンタリー映画なんかの方が面白いんじゃないか、という気がしないでもないのだがまぁそれはそれとして、どんな素材でも貪欲に映画の素材にして、しかも野暮ったい感じにせずにそこそこ見られる映画に仕立て上げてしまうポテンシャルだけは、是非とも見習うべきではなかろうか。しかしそう考えると、まるで大統領夫妻だけに焦点が当たっているかのようなこの邦題(と一連の宣伝展開)はなんか少し違っていて、「アメリカが自国の政治を映画の中でどのように扱うか」というこの映画のケーススタディとしての面白さや見所を伝え損なっているような気がしたのだけれども。
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【バグズ・ライフ】三星半
現在のCG技術の粋を尽くしたような画面の美しさといい、ファミリー向けという方向性で徹頭徹尾実によくまとめられたプロットといい、技術的には文句なく良く出来ている(よく出来た脚本を作ったりするのも一種の技術力だと考えられます)ので、さすがディズニー、さすがピクサーとうならずにはいられない。(特にあの「NG集」ときたら、ハリウッドオリエンテッドの映画オタク魂が全開していてものすごいと思う。)が、それ以外の新しい何かがこの映画にあるのかといえば、何にも無いような気がしてしまって仕方がないのだが。あと、昔から実物の蟻をこよなく愛するとしては、やはり四本足の奇妙な生き物をどうしても蟻として認識することができないんだよね。いやぁ、どうしたもんかなぁ。
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【パッチ・アダムス】三つ星
別に大学時代からそんなことをして周囲との軋轢を起こしまくらなくても、自分の病院で自分の方針で診療活動をしたいなら卒業してからすればいーじゃん、とかいう疑問には、この映画はあんまし答えてくれなかった……。例えばそんなふうな細部の詰めの甘さは感じられないではなかったのだが、まぁ全体的には、いかにもロビン・ウィリアムス向けのよくはまった題材なのではないだろうか。
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【バンディッツ】二星半
ドイツで大ヒットした音楽映画ってどんなんだろう ? と思って期待半分、不安半分で見に行ったら、あまり脈絡のない歌のシーンとか、いきなりの見せ場のシーンとかの連続で結構驚かされてしまった。こ、これはいわゆる、昔ジャニーズとかがよく作っていたアイドル路線映画の展開そのまんまじゃないか~っ !! きっと本国でもティーン向けに作られた映画とかだったのだろうね。
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【リトルシティ】三星半
アナベラ・シオラさんは結構好きな女優さんなので、彼女が中心の三角関係の話(つまり彼女が一番メイン)なんてめずらしいじゃん ! と思い見に行ったら、こりゃ宣伝に大ウソをこかれていたのであった。予告編やポスターでは、中心人物は彼女を入れた3人であるかのような書き方をしていたのに、果たしてこれは5人の男女を巡るお話で、アナベラさん一人が(重要な登場人物の一人ではあるけれど)唯一の主役という訳ではない。うーむ見る側をなめくさっとるな、この配給会社。内容の方は、【シングルス】からグランジ色を抜いて(サンフランシスコが舞台である)年令設定をちょい高めにした感じで、展開的には結構好きだったから、もっと正攻法でアピールする方法ってあったんじゃないかと思うんだけどなぁ。
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