Back Numbers : 映画ログ No.76




【愛の落日】三つ星

本国のアメリカでは公開が危ぶまれるほどのすごい問題作として扱われていたらしいけど、CIAが世界各地の紛争の影で裏工作をやってるなんて、他の国の人からすれば別に目新しい話ではないのでは。となると焦点は、マイケル・ケインとブレンダン・フレイザー(実はシリアスな役柄も悪くない)と、若くうっつくしいベトナム女性との三角関係の話に移る訳だが(だからこんなにおちゃらけた邦題になってしまった訳ね)、21世紀になった今でも、第三世界の現地の人と関わりを持つというと御当地の女に手をつけるという展開の話しか作れないのか、で、もしかして、それが彼等に対する“救済”であると本気で信じていたりする ? という辺りで既にげんなり。それにマイケル様がいくら未だにかっこいいって言ったって、彼女とのその年齢差はあまりにも何だかな。トータルで見て、これはちょっと……という感じだった。

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【アイ,ロボット】三つ星

ウィル・スミス君も、金とヒマに任せて肉体改造に励むハリウッド男優の御多分に漏れず、随分とムキムキな体になってしまったなぁと(そういや彼は以前、筋肉つけて【アリ】なんて映画に出てましたっけ)……あぁ気持ち悪いよー。昔のスレンダーな印象のウィル君の方がよかったよー。
で、この映画のお話は……どんなんだったっけ……つまり、もう覚えちゃいないくらい印象に残ってないってこと。中盤以降アクションがハデになり、それが見せ場だったかな。そこそこつまらなくはなかったかもしれないからヒマつぶしにはまぁいいのかもしれない、可もなく不可もなくのごく普通のハリウッド映画といった感じ。でも、同じロボットものなら、浦沢直樹さんの『プルートウ』でも買って読んだ方が、100万倍面白くてためになりますぜ。

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【青い車】四つ星

90年代が青春時代だったというあるライターの人が、原作の漫画もこの映画も、当時の不安定なメンタリティを最も的確に反映していると書いていた。なるほど、この映画に独特の磁力があるのはとてもよく伝わってきても、それが自分にとってリアルで切実な感覚として感じられないのは、そうした訳だったのか。だから私はどうしても、他人に対してああいう距離の取り方をする男の子って実際いそうだよなぁ、とか、ARATA君ってやっぱり上手いよなぁ、いいよなぁ、でもこういうシャレにならない二股の話って今の若い人にはありがちなのかなぁ、とかいった見方しかできなかったりする。奥原浩志監督は、オリジナル作だと抑揚のなさが気になることもあるのだが、こんなふうに他から題材が与えられればその独特の空気感が生かされていいのかもしれない。

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【イズ・エー[is A.]】四つ星

少年法を絶対に考え直さなければいけないこの時期に出てきた、文字通り問題作と言えるだろう。親だからといって子供を裁く権利があるとは思わないが、人生で深く関わらざるを得なかった人間への自分なりの責任や落とし前のつけ方だと言われれば、そういうこともあるのかもしれない。クライマックスは異論や拒否反応も出るかもしれないくらい激しいもので、いろんな解釈が可能だろうけれど、津田寛治さんの演じる主人公が最後に取った行動は、一人の父親として私憤の域を超えていたもので、だからこそためらいがなかったのだと私は思った。でも、そうしたところでどうにもならない虚しさが残るだけなのが、ラストの号泣の意味だったのだろうか。祈るような姿で死んでいく内藤剛志さんの姿がいつまでも胸に残る。ここまでの出来だからこそ、演出にもう一歩粘って欲しかったシーンがいくつか見うけられたのが惜しかったが、藤原健一監督が、初の一般劇場用長編としてこのような作品を撮った気概には拍手を送りたいし、内藤さんや初主演となった津田さんの狂気スレスレの演技を堪能させて戴けて大変嬉しかった。

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【インファナル・アフェア 無間序曲】四つ星

難点があるとすれば、ヤクザものの常として序盤の人物把握がちと大変なことと、トニー・レオンとアンディ・ラウの若かりし頃を演じた二人の役者さんの見分けがつきにくかったこと。(そんなのは私だけ ? でも、特に警官の方はあんまりにもトニー・レオンと顔が違い過ぎない…… ? )その点を除けば、こりゃもしかして前作より面白かったりするかも。ヤーさん側もポリさん側も、密かに仕掛けてあった切り札を次々に切って行き、逆転、逆転、また逆転、その愛と憎しみの連鎖が堪えられない !! 今回の主役のアンソニー・ウォンとエリック・ツァンの上手さが図抜けており、特にアンソニー・ウォンがシブくてかっちょいいったら !! 昔【…人肉饅頭】とかに出てた人と同一人物とは思えない。

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【ヴィレッジ】四つ星

こういうネタの映画でした、と思って見ればそれ止まりで、だから「それほど面白くなかった」と評する人も少なくないのかなと思うんだけど、でも私は、映画を見終わった後に、この人達がこんな方法しか取れなかったのは理解できるとしても、この後は一体どうするつもりなんだろう ? とか、考えるともなしにいろいろ考えてしまったのね。
彼等が培養しようとした純粋さの中で最も無垢であるはずのものですら、彼等が逃れようとした世界の歪みを本質的に孕んでいて、彼等はそのパラドックスを突きつけられる訳ですよ。所詮人間は原罪から逃れられないのではないか。でもすべては、愛ゆえに恐怖に打ち克てる強さを持ったヒロインを始めとする、若い人達に委ねられるのでしょう。それって結論放棄と取れなくもないが、人類の愛と勇気と誠実さはどんなエグいことにも立ち向かうことができる、と信じるが故のポジティブなオープン・エンディングであると解釈することもできる。この映画で訴え掛けていることは、もしかして【シックス・センス】などを含む今までの作品より多かったりしないだろうか。
ストーリーの仕掛けの妙味なんて客を呼び込むための方便でしかなく、M・ナイト・シャマラン監督はもしかして、そのどさくさに紛れてその一歩先にあるものを見せようとしているのではないか。今回の映画を観て、初めてそんなことを感じた。それがもし当たっているのであれば、以前に“学生映画”などと揶揄したことを撤回し、ますます腕を磨いて戴くべく今後は応援して行きたいと思う。
個人的に好きなのはやっぱりホアキン・フェニックスで、彼の役柄の朴訥とした誠実さがまたこの映画に不可欠な要素の一つだったと思う。でも、この映画に生命を吹き込んでいるのは、まずは何と言ってもヒロインのブライス・ダラス・ハワードだろう。愛する人のために禁断の森を抜けようとして必死で恐怖感と戦う様は圧巻。また彼女のこの姿は、人類が抱える恐怖感というものは実は心の中に作り出された幻影に過ぎないののかもしれないと語りかけているかのようだ。彼女に並ぶ重要な存在なのが、共同体の精霊とも言えるような存在を体現していたエイドリアン・ブロディ。精霊というのは本質的には善悪のどちらでもなくただそこに存在しているもので、角度によって愛らしくも恐ろしくも見えるのだ。こんな無茶苦茶難しそうな役柄に全身全霊でなりきっていた彼は、やっぱり役者として半端じゃないと私は思ったのだが。

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【海猫】二つ星

私が読んだ評はどれも、「こういう映画であればよかった」という希望的観測を伝えているだけで、「こういう映画であった」という実体からは懸け離れていたものが多かったのではなかっただろうか。大体このヒロインからして、顔は確かにきれいだけど、どう転んでも日本人顔でロシア人とのハーフには見えなかったし。で、ハーフがどうとか漁村に嫁ぐのがどうとか、どうも微妙にピンと来ない設定の箇所が多いなぁと感じていたら、これ、原作では昭和30年代の話だったのね……なるほど。社会の中に日本人以外の血が存在することに対する異物感なんて、90年代以降はずいぶんと薄らいできたんじゃないかと思うのだが、そこに悲劇の根幹を据えようとすること自体、いくら田舎の話と言ったってそもそも無理があるんじゃない ? 現代社会のことも、地方の風俗のことも、頭でっかちに解釈しているからこんなふうになってしまうんじゃないの ? それに、ヒロインの心の動きとかがあまりちゃんと描かれていなくて、やることなすことどうも唐突に映るよなぁと思っていたのだが、これは要するに、ヒロインの演技があまりにも下手で、あるべき感情の流れを全く表現できていないのだということに気がついた……。結果、佐藤浩市ばかりが誉められている映画になってしまってますやん。久々に、かなり「金返せー !! 」の域にまで至ってしまったぞ。森田芳光監督って、嵌る時にはきっちり嵌ったものを作るけれども、外す時にはどうしてここまで外してしまうんだろう……。

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【オーバードライヴ】三つ星

津軽三味線バトルという着想は面白かったのではないかと思うし、いろいろなことを詰め込もうとしているのは分かったけど、じゃあどこをどう見ればいいのかというと、どれも中途半端に終わってしまったかもしれない。少なくとも私は乗り切れなかったなぁ。残念。

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【オールド・ボーイ】四つ星

15年間監禁された男の復讐譚、という予備知識の先入観で観ていたら、話がどんどんディープな方向へ流れて行くのに呆気に取られる暇もなく。どうして15年監禁されたか、ではなく、どうして15年経って開放されたのか、というところにエグい仕掛けがあったりする。確かにこりゃタラちゃんが好きそうな話。(注:今年のカンヌ映画祭で審査委員長だったQ.タランティーノ監督がこの映画をグランプリにした。ちなみにその上の最高賞パルム・ドールだったのが【華氏911】)。かなり荒唐無稽なこのお話を成立させているのが、チェ・ミンシクさんの演技の力技。世間の常識がどうであれ、ラストのあの泣きそうな笑顔には、そうですか、と引き下がるよりほか仕方あるまい。世間の一部は韓流ブームとかで盛り上がっておりますが、韓国にはこんな映画もあるみたいよと、皆さんに触れて回りたいものだ。

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【お父さんのバックドロップ】四つ星

李闘士男監督は大阪の御出身であると見た。ストーリーの処理の仕方などはまぁ普通かなと思ったけれど、登場する大阪の下町の人々の活写が素晴らしく、特に、人一倍プロレスを愛すればこそ団体の維持のために守銭奴にならざるを得ない生瀬勝久さんや、生活にくたびれたオバチャンでありながら色気も完全には捨て切っていない南果歩さん、ももひき姿のおじいちゃん役のチャンバラトリオの南方英二さんなどの、なんとも味わい深い存在感が印象的だった。クライマックスで、血まみれになりながら息子(神木隆之介君)に向かってニカーっと笑う宇梶剛士さんの表情が素晴らしく、気がつくときっちり感情移入もさせられていたりして。ちょい役で登場の原作の中島らも氏に再度合掌。

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【地球交響曲 ガイアシンフォニー第五番】三つ星

今までの【ガイア・シンフォニー】シリーズの出演者が大挙来日したり、お子様が生まれたりと、龍村仁監督にとって個人的に重要な出来事が短い期間にいろいろ起こったというのは分かるんだけれど、それをただ詰め込んだだけでは映画にはならないのではないかということくらい、本来の監督ならよくお分かりなのではと思うのだが。今回は一体どうしちゃったんだろう。ダライ・ラマが伊勢神宮を参拝したりする貴重な映像もあるものの、全体的に掘り下げ不足で、テーマの整理も練りこみも足りずとってつけたような感じで、今までのコンセプトの焼き直しに終始してしまっているかのような印象。お子様が生まれたことによる環境の変化であんまりにも頭がいっぱいになっちゃったのかな。次回作はもっと腰を据えて取り組んで戴けるよう期待したいと思う。

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【隠し剣 鬼の爪】四つ星

【たそがれ清兵衛】と似たような話、って言う人がいるけどそうかなぁ。あれよりはもっと青春ストーリーという側面に寄った話だったと思うけれど。(永瀬正敏さんもそろそろ40男なのに青春もないかも知れないが。)身分制度などの社会の制約が厳しかったかの時代に、その制約に背いてまでも、自分の矜持を曲げることなく生きようとした一人のお侍さんが主人公。全編、心に残るシーンが満載なんだけど、“鬼の爪”を泣きながら埋めるところが特に印象に残った。こんなキナ臭い世の中、強さというのはマッチョになることではないのだよと、声を大にして叫んでやりたい。心のねじくれた奴も純朴な奴も変幻自在の永瀬さん、今更ながら、やっぱりいいなぁ。

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【雲の向こう、約束の場所】四つ星

新海誠監督はこれまで自主制作でアニメーションを創ってきて、今回初めて商業用作品を手掛けられたのだそうだ。言われてみれば、ティーンエージャーの男の子同士の友情とか、可愛い女の子とか、ちょっと訳ありのシブいおじさんとか、日常的風景とSFが同居している設定とか、いかにもアニメファンの人が好きそうな要素が満載されているような。(そして、観客の8割方はアキバ系のお兄さんだったような……。)SF的な設定の風呂敷をいろいろと広げてあっても、結局は主人公の男の子と女の子の恋愛話のミニマムな世界に収束し、設定はどちらかというとそれ自体として別途楽しむものだったりするところも、いかにも今時のアニメーションらしいかもしれない。それでも、美しい画とも相俟って、独り善がりにならずに観る者に語り掛ける一定の力はあるように思う。アニメファンもこれだけ裾野が広いと、やっぱり一人や二人は才能のある人が出てくるものなんだなぁ。感心。

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【恋の門】四つ星

才能がある人って普通、意識的にか無意識的にか、「オレは才能がありますよ~」というオーラをもっと漂わせているものじゃないのか。松尾スズキさんを始めとして、大人計画の人ってどうしてこう得体が知れなくて不気味なんだろう……。いや、一応ホメてるつもりなんですけど。原作は読んだことないけれど、いかにもマンガチックなデフォルメ感やデコレーションや、松田龍平さんや酒井若菜さんのここまでやるかのはっちゃけた演技で楽しませてくれる。けど、芯は案外、逃げも隠れもしないがっぷり四つの恋愛ストーリーで、観終わった時には心地よくもどっぷり疲れてしまっていたりして。

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【CODE46】三星半

上海にアラブ風の文化の一部も流れ込んできている時代となると、あと1000年ぐらいは後の話になるのではなかろうか。ともかく、豪華なセットやCGなどを多用するのではなく、ありものを活用して未来だと言い張る手作りの感覚SFって、今日び懐かしいなぁと思った。でもお話の方は、個人的にはどうもなぁ。愛の記憶をなくすより痛みを抱えて生きることを選ぶ彼女の側に立ってみれば切ない話かもしれないが、基本的には、妻も子もある中年男が若い女に入れ揚げる話、としか見えなかったりして。マイケル・ウィンターボトム監督、サマンサ・モートン、ティム・ロビンスと大好きな人ばかりを取り揃えながら、私はどうも最後まで、今ひとつ感情が乗り切れなかったですね。

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【珈琲時光】四星半

ホウ・シャオシェン監督の近作は今ひとつピンと来ないものが多かったのに加え、小津安二郎の生誕百年記念作品だとか、日本で撮るだとか、どうも怪しげな触れ込みばかり並ぶので一体どうなることだろう……と戦々恐々としつつ観に行ったのだが、すべての杞憂を吹き飛ばす素晴らしい出来でほっと胸を撫で下ろした。子供が出来たので一人で産むと告げる主人公(一青窈)に、実際無茶苦茶心配でも黙って見ているしかできない両親(小林稔侍、余貴美子)、また、一見変わりないけれど内心大いに狼狽しているらしい彼女の男友達(浅野忠信)、彼の気持ちをそれとなく代弁するその親友(萩原聖人)。微妙な心理がさりげなく滲み出る自然な演技と、彼等が息づく街の情景を、ホウ・シャオシェン監督はただ包み込むように見詰める。ヴィム・ヴェンダースはこういうのを“天使の視点”と評したのではなかったか(注:【ベルリン・天使の詩】のクレジットでは小津安二郎にオマージュが捧げられています)。現代の東京って果たしてこんなに優しい場所だったかしら ? などと思う反面、そんな戯言なんて軽くぶっ飛ばすような普遍性を、この映画は宿しているのだろうと思う。やっぱりホウ・シャオシェン監督は本来こういう資質こそが美点の人で、やっと真骨頂を出して戴けたかなと、嬉しくなった。

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【ザ・ゴールデン・カップス/ワンモアタイム】四つ星

ゴールデン・カップスと言えば、ゴダイゴのミッキー吉野さんがいたグループ・サウンド時代のバンドの1つ、という認識くらいしかなかったのだが、彼等は時代の趨勢で無理矢理そういう括りに入れられてしまっただけで、実際はこんなにも本格的なブルース・ロックバンドだったのだ……なんて知らなかった。どうして横浜が今もって文化的に1歩抜きん出たオシャレな場所として認知されているのか、その理由の一端が分かった気がする(彼等はベトナム戦争当時、本牧の米軍相手のバーを拠点に活動していた)。後半の再結成ライブのシーンが超圧巻 !! このおっさん達は一体何者 !? もしかするとローリング・ストーンズよりもカッコよかったりして。

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【SURVIVE STYLE 5+】四つ星

オムニバスかと思っていたら、それぞれに少しずつ関連している5つのストーリーが同時進行しているというスタイルで、例によって純正映画ファンにはアレルギーが出るような代物かもしれないが、このザッピング感覚に抵抗が無く、登場するキャラクターを面白がることが出来る人なら楽しめるんじゃないのかな。私は荒川良々さんとヴィニー・ジョーンズさんの殺し屋コンビや阿部寛さんの怪しい睡眠術師がもう笑えて笑えてしょうがなかったし、浅野忠信さんとゾンビ妻との仁義なき戦いも段々と可笑しくなってきたし、これまた神木隆之介君の「鳥であり、お父さんでもあるお父さんを受け入れる」という台詞もなかなか感動的で(ちなみに、鳥になっちゃったお父さんは岸部一徳さん)、総じてとても楽しめたので、こういうのはこういうのでいいんじゃないの ? と思ったのだった。でもラストのシーンは、もっとあっさり切ってしまった方が余韻が残ったのでは ? サービス過剰に見せ過ぎてしまうのは、業界長い人(脚本の多田琢さん&監督の関口現さんはCM業界では有名な方々らしい)の悪いクセかも。

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【三人三色】三星半

韓国のチョンジュ国際映画祭では、アジア圏出身の3人の監督にデジタルフォーマットで短編を撮ってもらってオムニバスを製作するということを、2000年から毎年やっているのだそうだ。今回公開になったのはその2004年度版で、韓国のポン・ジュノ監督(【殺人の追憶】)と日本の石井聰亙監督が参加していると聞けば観に行かないわけにはいかないじゃないの。石井監督の【鏡心】は非常に内省的な世界を扱っていて、デジタルでここまで出来るの !? という映像表現が素晴らしい。ただ、このヒロインみたいな奴が目の前にいたら、クリエーターは大変ねと言いつつ殴ってしまうかもしれないので……。一番面白かったのはポン・ジュノ監督の【インフルエンザ】。ソウル市内の様々な監視カメラに映っていたある男の姿を編集したという設定(正にビデオ画像向き !! )で、概ねは犯罪のシーンの映像の連続なんだけど、何故かおかしみを感じてしまったりする妙なユーモア感もあったりして、それがまた逆に不気味だったりして。世の中はとっくにビッグ・ブラザー社会になっているのよという痛烈な指摘も込められているかもしれない。やっぱりこの人は凄い才人だ。これからも注目していきたい。最後に、香港のユー・リクウァイ監督の【夜迷宮】なんですけど……前に監督の長編を観に行った時もかなり駄目だったんだけど、今回もものの2、3分で見事に沈没してしまった……。相性の問題とかそーゆうもんだとしか言えない。本当にごめんなさい。

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【GERRY】三星半

砂漠に迷い込みただ彷徨する若者二人。この世のものでないような砂漠の風景とも相俟って、非常に実験映画っぽい色彩が強い。私は一部の評論家やライターさんが激賞するほどには入り込めなかったが、こういう形で自らの作品世界をリセットしてみようと試みるなんてなかなか出来ることじゃないと思うので(ちなみに、本作の後に【エレファント】を創ったのだと伝え聞く)、ガス・ヴァン・サント監督はやはりなかなか大したお人なのだったのだなぁと見直した……以前【サイコ】のリメイクを作った時はどうしようかと思ったが。今回、マット・デイモンはベン・アフレックの弟のケイシー・アフレックと共演しているのだが、お兄様にはついに見切りをつけたのでしょうかしら。

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【ジョヴァンニ】三星半

歴史的な背景が分かりにくいという指摘もあるが、メディチ家も権力維持のために戦争をしなければならない時期もあって、その矢面に立ったのが本編の主人公のジョヴァンニさんだった、くらいの認識があればまずは何とかなるのでは。でも確かに、本格的コスチューム・プレイでお腹いっぱいになれたのはいいけれど、エルマンノ・オルミ監督の言いたかったことがちゃんと全部理解できていたかどうかはちょっと疑問で、少し勿体ない見方をしてしまったかもしれない。

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【スウィングガールズ】四星半

監督独自ののほほんとしたユーモアを残しつつ、流れるようなテンポで緩急自在。矢口史靖監督、【ウォーターボーイズ】の時よりも更にますます腕に磨きが掛かっているのでは。味のある演技で見せた主役級の上野樹里さん、貫地谷しほりさん、本仮屋ユイカさん、豊島由佳梨さん、平岡祐太さん辺りはみんなスターになりそうだけど(上野さんは既に御活躍中、本仮屋さんはNHKの朝の連ドラの主役が決まったみたい。おめでとう ! )、他のガールズのメンバーも、ちょい役であってもそれぞれに大事にされているのがいい。谷啓さんがジャズ教室の先生という出色のキャストを始め、脇を固める配役もいちいち贅沢で、安心して観ていられる。ひたすら面白く、ツボを外さない期待以上の出来。実際に練習して腕を上げたという最後の演奏シーンはやっぱり圧巻で、きっちり感動させてくれるのがズルいぞ~っ !!

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【スペースポリス】四つ星

【19】以来、渡辺一志監督の長編を待っていたんですよ~。今回は基本的にはB級SFコメディ。忍成修吾さん演じる怒涛の無気力青年と、見た目はどうしたって時代錯誤の濃ゆいハードロックおじさんにしか見えない宇宙警官(目黒祐樹さんというキャスティングがまたマニアック)との熱い友情とか、悪の宇宙人の親玉を怪演する板尾創路さんと、彼の歌うアンドロメダ・バーガーの歌の確信犯的な脱力感とか、ビデオの画質の悪さを逆手に取ったようなハレーション気味の独特の色味のある映像に、時々どうしようもなく映画的なショットがインサートされるところとか、見どころはたっぷり。目黒さんの宇宙警官のアナクロいハードボイルドさ加減が何でかカッコよく見えてきたらもう末期症状。これをケッ作と言わずして何とする !! 渡辺監督は間違いなく才能ある人だなぁと確信できて嬉しい。でもお願いだから、吉祥寺にはアンドロメダ・バーガーの支店は作らないで下さいね(笑)。

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【父、帰る】三星半

12年ぶりにいきなり帰ってきた父(そのいきさつは全く語られない)と息子(特に幼い次男の方)の間には当然齟齬がある訳で……いきなりそんなことをしたら嫌われるに決まってるじゃん !! と思いつつ、でも父親の方も何か思うところがあってやってるのかなという節もあるから微妙だったり、子供の方も、何もできやしないくせに言うことだけは一人前なのが段々ハラ立ってきたりして。でも、表現に力があるのは認めるけど、結局何が言いたかったのだろうというと……親子の断絶とか ? 父親像なるものの喪失とか ? う~ん、どちらも個人的には、20年前ならいざ知らず、今更あんまりピンとくるテーマじゃなかったのかもしれない。

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【血と骨】四つ星

以前にたまたま本作の原作を読んだ時、その図太い迫力に圧倒されたものだが、活字の世界の登場人物達がこのように生身の人間によって文字通り血肉化すればこそ、敢えて映画化という行為を行う意味があるのだなぁという、そのお手本みたいな映画だった。カオスの化身のごとき化け物じみた存在である主人公を体現したたけしさんを筆頭にして、新井浩文さん・田畑智子さん・オダギリジョーさんらの子供達、主人公の舎弟の松重豊さん、愛人の中村優子さんに濱田マリさん、工場の従業員の北村一輝さん、主人公に借金をする國村隼さんに塩見三省さん、etc.etc.……と、俳優さんがみんな惚れ惚れするほど素晴らしかったけど、実は私的にちょっとだけ物足りなかったのが主人公の妻役の鈴木京香さん。この人、何をやっても綺麗にまとまり過ぎてしまうんだよなぁ。嫌い倒しているというだけでは決して括り切れないはずの、情念ドロドロの底知れない愛憎関係をもっと表現してくれていれば、この映画は更にもう一段スケールのでかいものになっていたかも知れないのに、ちと残念。
ところで、ウチの父もこんなだったと回想する人も、世間にはそれなりに多くいるらしい。かくいうウチの父も、何事につけワンマンで、理屈を言っても通用せずにすぐに疳積を起こして大暴れしてしまう辺りが、ちょっとだけ似ていたかもしれない。ま、ここまで暴力的でもなければこんなふうに守銭奴でもなかったし、近所に愛人を囲ったりもしていなかったですけどね~。

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【2046】四つ星

いろいろな評を読んでみるに、今までのウォン・カーウァイ監督の作品を隅から隅までインプットしている真性のファンの人、また、ディテールを掘り下げてじっくり鑑賞するのが好きなタイプの人には、監督があちこちに散りばめた旧作からの引用などのいろいろな暗号を読み解くのがさぞや楽しいのだろうなぁと思った。ただ、それほどコアな監督のファンでもなく、作品もどちらかと言えば漫然と観ている私のような人間からすれば(このような人間が実のところ一番多いのではないかと思うが)、3~4本分以上の作品のアイディアが無造作に詰め込まれているように見える本作はともすれば整理不足にも感じられ、また、好き好んで不幸な恋愛ばかりしたがる男の話なんてとっつきにくい面もあるのではないかと思われた。それでも、トニー・レオンの極上の演技には有無を言わせない説得力があり、彼さえ観ていればかなり満足できたので、それなりに評価したいとは思うんですけど……。木村拓哉さんは、トニー・レオンが書く小説の主人公となる人間で、出番はそんなに長くないけどすこぶる重要な役。なんだ、ちゃんとお役目を果たしているじゃん、よかったよかった。

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【ニワトリはハダシだ】四つ星

そういえば森崎東監督の映画は始めてだったりして。検察庁の裏金のデータを抹消するのに警察権力を利用して、警察はその仕事をヤクザに下請けに出して……なんてところが“問題作”なのか(ありがちな話じゃないのかな)、それとも知的障害者や在日コリアンなどを登場させているからなのか、その辺りはよく分からないけれど、有無を言わせずに見る側をぐいぐい引っ張っていくエネルギーには確かに満ちているように思われた。タイトルは「生まれた時は皆ハダカ」といった意味合いに近いみたいでした。

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【バイオハザードII アポカリプス】三つ星

前作とは監督も変わったところで、もう原作のゲームの世界観からはすっかり離れてしまい、アクションの部分だけをひたすら強調した薄っぺらいアクション・ホラーと化してしまっていた。映画オリジナルのヒロイン、ミラ・ジョヴォヴッチ演じるアリスのバケモノじみた強さを強調するために、原作では主人公である筈のジル・バレンタインの扱いが中途半端になってしまっていたような気がするのだが、そこんとこ、原作のファンの人にはどうなのだろうか。

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【ハウルの動く城】五つ星

確かに、今までの宮崎駿監督作品とは描き方が違うかな。以前なら体力と気力に飽かせて1から10までぎっちり描き込んで説明していたような部分も今回そうはせず、描きたいシーンだけをばーっと描き飛ばしているような印象がある(もしかしてお年のせいとかもあるのかもしれないが)。それを“自由なイメージの飛躍”とかいった言葉で表現している人もいる一方で“説明不足”とか“重厚感が足りない”ということで評価できないと言う人もいるのだろう。特に、一部の評論家みたいに、それまでアニメなんて見なかったのにある時期以降やたらと宮崎駿監督を誉めるようになったような人にはありがちなのかもしれない。(若い女が出てこないとか言っているらしい一部のアニメ好きのおにーさん達は、この際、論外とさせて戴きます。)でも、世の中は実は、宮崎監督の過剰なまでの“重厚感”が好きな人ばかりではないと思うし、実際、こういうのはこういうのでいいんじゃない ? と言う人もたくさんいるんじゃないかと思うのよね。総て説明してもらわなくても、説明の足りない部分は自分で好きに想像すればいいのだし、もしかすると、その余地を敢えて残す創り方をしているのかもしれない。少なくとも私はこの映画を観て面白かったし、必要な部分は自分でいろいろ考えてみるのもまた楽しめて、今までとは違った形で作品を堪能することが出来たのだった。
↑というのは最初に観た時の感想です。2回目以降に観た時の感想はこちら↓をどうぞ。これはとてつもない傑作だという気がしてきた !!

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【春夏秋冬そして春】三星半

善人なおもて往生す、いわんや悪人をや、って親鸞の悪人正機説みたい ? 最初っから聖人であればはなから悩む必要もない訳で、煩悩まみれの凡人だからこそ悟るところがいろいろあるという訳で。昔観て好きだった【達磨はなぜ東へ行ったのか】(こちらも韓国映画)などをちょっと思い出してしまったが、かの映画に較べるとキム・ギドク監督の本作は、何かこう、“既に判っているものしか描かれていない感”があり、私はちょっと食い足りなさを感じたのだった。

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【ビハインド・ザ・サン】三星半

ウォルター・サレス監督が【セントラル・ステーション】と【モーターサイクル・ダイアリーズ】の間に撮った作品とのこと。舞台がどこかも判然としないが、家業のさとうきび農業と何代にも渡るらしい土地争いだけに終始するある家族を描いている様子。これは、世の中の紛争とはすべからくこういうふうに無益なのだと象徴的に観た方がいい作品だと解釈してよろしいのでしょうか。

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【フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白】四つ星

アメリカのスーパーエリートの思考回路の一端を垣間見ることが出来て、興味深いと思う。ただ、わずかに出てくる私生活の話などを見た印象では、マクナマラ元長官は、スーパーエリートと呼ばれる人種の中ではきっとこれでも人間的な感情がかなり豊かな人で、こういう映画に出ることを決心すること自体、まだしも柔軟なところがあるんじゃないかなと思った。ベトナム戦争に対する彼の言及は責任逃れ的だとの指摘もあるが、組織論的に言えば、上の人間(つまりこの場合はジョンソン大統領)に100%従うのが当時の彼の職務だったのであり、個人としての道義的な呵責は別にして、公的な立場上の最終的な責任はあくまでも上の人間にあるという主張は、ある程度は理にかなっているんじゃないかと私は思ったのだが。

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【みんな誰かの愛しい人】三星半

少しずつ愚かしいけどみんな愛すべき人達、というのが正しい鑑賞方法なのだろうけど、子供にいまいち興味のない親とか(興味のあるフリだけでもしているところが逆に偉いかもしれないが)、有名人の子供と知って態度を変える人とか、その少しずつ愚かしい部分というのがかなり微妙で、個人的にはあまり愛せなかったみたい。特に、必要以上に過剰に「どうせ私なんて……」と思い込み過ぎて周りに迷惑まで掛けているちょっと太目の主人公のネガティブさがどうも駄目。近親憎悪 ? 言われてみればそうかもしれないけれど。

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【モーターサイクル・ダイアリーズ】四つ星

時代を共にするにはちと遅すぎたし、ポップ・イコンになってしまうのにはちと早すぎたしで、私くらいの世代ってちょうど、チェ・ゲバラに対する思い入れが一番薄かった頃かもしれなくて。この旅での経験の一つ一つが伝説の革命家を形作っていったのだなぁという余韻が心に残ったとは言え、場内を混雑させているおじさん(&若干のおばさん)のように思い入れたっぷりの見方が多分出来なかったのが、ちょっと悔しいような気もした。

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【モンスター】四つ星

良くも悪くもクールな映画かな、という印象を受けた。つまり、ある娼婦が起こした連続殺人事件の、そこで起こったことの詳細に目をつぶることなく、中立的でフェアな姿勢で描写しようという意志が伝わってくる代わりに、あまりにも冷静でありすぎて、シャーリーズ・セロンが熱演するヒロインの、圧倒的な孤独や飢餓感、やっとみつけた愛情への執着、という凄まじい感情が今ひとつ伝わってきにくかった側面もあるのではなかろうか。ヒロインに一方的に同調することなく常に外側から観察する、言わばジャーナリスティックな視点で話を進めるのは、やり方としては間違っていないかもしれないけれど、観る側の感情を盛り上げるという観点から考えれば、やっぱり損をしているのではないかという感は否めなかった。
それにしても、“これってシャーリーズ・セロンのはずだよな……”と観ながら何度自問したことか。本当に別人みたい。あれほど見事な容姿の人だもの、多分男の監督さんだったら、こんな役をさせようという考えには思い至らないんじゃないのかな、そこはパティ・ジェンキンズ監督の慧眼だなぁと感じた。また、自分は悪い人間じゃないと頭から信じていて、人を傷つけることに最も鈍感である無意識の悪意を体現するクリスティーナ・リッチは、ことによるともっと怪演かもしれない。やっぱりこの人はいいぞう。若い身空でもう何本も代表作のある彼女だが、それこそ映画史に残るようなズッ嵌りのすんごい役をいつか観てみたいものだ。

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【笑の大学】三星半

西村雅彦さんと近藤芳正さんの舞台版をTVで放送してたのを何度か見たことがあるもので、あの呼吸の見事さや演技の懐の深さと較べてしまうと、個々のリアクションのカット割りを繋いだ映画版は、撮り方が違うのだから仕方がないとは言っても、どうしても物足りなさを感じてしまった。勿論、三谷幸喜さんの原作の筋書きの見事さは言うまでもないので、このお話に始めて触れる若い人には充分楽しめると思うのですが。

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