Back Numbers : 映画ログ No.90



2013年に見た全映画です !!


【アート・オブ・ラップ】三つ星

監督・出演:アイス・T
出演:アフリカ・バンバータ、カニエ・ウエスト、コモン・ドクター・ドレー、エミネム、アイス・キューブ、モス・デフ、ナズ、Qディップ、RUN-DMC、スヌープ・ドッグ、イグジビッド、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカのラップ界の錚々たる面子がご出演、ということで期待してたんだけど、インタビューを積み重ねているだけでこれといった方向性のようなものが見えてこず、だらだらした内容に終始してしまっていた。明確なポリシーを持って編集されないと結局何が言いたいのかよく分からないものになる、という悪しきドキュメンタリーの典型みたいになってしまって残念だ。一方、ほとんど全員が黒人という出演者の中でエミネムだけがやたら異彩を放っていたのが印象的だった。もしかすると、プア・ホワイトは黒人以上に声を上げにくい状況になっているのではあるまいか。(詳しくは【8Mile】をご覧下さい。)

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【R100】二つ星

監督・脚本:松本人志
出演:大森南朋、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、前田吟、YOU、松尾スズキ、渡部篤郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:正直、全然分かりませんでした……(orz)。私には松本人志監督の才能は分析できません。でも、言い訳する訳じゃないけど、世の中にはそういう分かりにくい映画も存在していたって全然構わないと思うんだよね。ただ本作は、そのテの映画にしては予算を掛けすぎで、公開規模が大きすぎたという点だけが問題なのであって。だから、もっとローバジェットで無名な人を使ってゲリラ的に作って小規模に公開すればよかったんじゃないんだろうか。実際そうしなかったというのは、松本監督本人というよりは、カネを出す吉本の側の見識の問題ではないかと思うのだけれども。

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【愛、アムール】五つ星

監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール、他
製作国:オーストリア/フランス/ドイツ
ひとこと感想:認知症がどんどん進行する妻を介護する夫という老老介護のお話。父親が若い頃に亡くなったので、通常は人が死ぬ前には老いるという過程があるということにかなり最近になるまで気づいていなかったんだけど、この映画を見ていると、自分達の母親はどんなふうに老いて、自分達きょうだいはどんなふうに介護していくことになるのかと考えてしまわざるを得なかった。衰えた自分達の姿を受け入れられなくて肉親相手にすら没交渉になり、どんどん孤立していく彼等の姿は辛すぎる。この結末は絶対に受け入れ難いものだけれど、ミヒャエル・ハネケ監督にしてはかなり分かりやすい愛の帰結でもあるのかもしれない。

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【アイ・ウェイウェイは謝らない】四つ星

監督・脚本:アリソン・クレイマン
(ドキュメンタリー)
出演:アイ・ウェイウェイ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:政治的な発言も辞さず、当局の弾圧にも屈せずに、中国本土で活動を続ける先鋭的な中国人アーティスト、アイ・ウェイウェイ氏の姿をアメリカの女性監督が追ったドキュメンタリー。日本にもいろんな人がいるように、中国にも当然いろんな人がいる訳で、こういう人物のフィルターを通すと、日本にいると分かりにくい別の中国の姿もまた少し見えてくるような気がする。

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【愛さえあれば】四つ星

監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イェンセン
出演:ピアース・ブロスナン、トリーネ・ディアホルム、他
製作国:デンマーク
ひとこと感想:何せスサンネ・ビア監督の大ファンなんで、評価も少し甘めかもしれないけどまぁ許して。かの『探偵レミントン・スティール』のピアース・ブロスナン氏(この際【007…】ではなく)を一方に据えた大人のロマンティック・コメディって、硬派な印象が強い監督には珍しい内容かもしれない。ヒロインのトリーネ・ディアホルムさんは、監督の母国・デンマークの国民的女優なのだそうだが、ハリウッド女優みたいに不自然に美しすぎる訳じゃなく、夫の浮気だの乳癌だのに苦しむ等身大の女性を演じるには適役かもしれない。いろんな愛がいろんな試練を受ける中、2人が自然な愛を育くんでいくのがよかったと思う。

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【悪人に平穏なし】四つ星

監督・脚本:エンリケ・ウルビス
共同脚本:ミシェル・ガスタンビデ
出演:ホセ・コロナド、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:なりゆきで人を殺してしまった元敏腕刑事のむさいオッサンが、証拠隠滅を図るうちに、モロッコ産麻薬の密売組織に関わるテロリスト集団の陰謀に巻き込まれる、なんて荒唐無稽な話。このオッサン、やることなすこと無茶苦茶だけど、オッサンなりの落とし前をつけようとしているところが、ハードボイルド感性が高い皆様の共感を呼ぶ……んだろうなぁ。私のようにそのテの感性が低い人間には、ちょっとハードルが高いかもしれない。

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【明日の空の向こうに】三つ星

監督・脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ
出演:オレグ・ルィバ、エウゲヌィ・ルィバ、アフメド・サルダロフ、他
製作国:ポーランド/日本
ひとこと感想:ロシア国境付近に暮らす貧しいストリート・チルドレン達が、いい暮らしを夢見てポーランドへの越境を試みる……そして、まぁ当然こうなるかな?という展開に。ストーリーだけを見るといささか冗長に感じられ、あの年少の男の子が“天使みたいに可愛い”と愛でることができなければ間がもたないように思われた。

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【甘い鞭】四つ星

監督・脚本:石井隆
原作:大石圭
出演:壇蜜、間宮夕貴、中野剛、屋敷紘子、竹中直人、伊藤洋三郎、有末剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:監禁、ダメ。ゼッタイ。監禁した女を強姦し続けているうちにいつか自分を好きになってくれるとか、昔そういう映画も見たことあるし、AVなんかでもありがちな設定なのかもしれないけど、ある人間が自分の気持ちや意志を否定し続ける奴を好きになるとか、そんなこと絶対あり得ませんから !! ……本作の前半では、むごたらしく正視するのも辛い描写が続き、後半は、そんな仕打ちを受けた女性が成人してSM嬢になった話になる。(注:以下ネタバレです)彼女はSMではなく、ましてや監禁された状況下で受けた数々の身の毛がよだつような仕打ちでもなく、自由になるために人を殺したその感覚に魅了されていたのだった。そのシーンまで行き着いて初めて、彼女が陥ってしまった闇の本当の深さが分かった。この壮絶などんでん返しには、さすが石井隆監督と唸らざるを得なかった。ヒロインの2つの時期を体を張って演じ切った間宮夕貴さんと壇蜜さんにも拍手を送りたい。

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【ある精肉店のはなし】三星半

監督:纐纈あや
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:つい最近まで牛の肥育から屠殺までを自ら手掛けていた大阪・泉南地域の肉屋さんの一家を追ったドキュメンタリー。昔はどこでもこうやって屠殺から解体までやっていたのかと考えると凄いなぁ。(解体シーンもあるので、そういうのが弱い人は見ないでね。)ただ、撮影対象をくまなく映し取ろうとするあまり、ところによってはこの肉屋さんのファミリー・ヒストリーの比重が大きくなりすぎて、テーマがどこにあるのか若干ぼやけた印象になってしまう傾向もなきにしもあらず。けれど、記録しておくべきものに真摯に向き合っている姿勢には敬服したいと思う。

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【アルバート氏の人生】四つ星

監督:ロドリゴ・ガルシア
脚本:ジョン・バンヴィル
脚本・出演:グレン・クローズ
原作:ジョージ・ムーア
出演:ミア・ワシコウスカ、ジャネット・マクティア、他
製作国:アイルランド/イギリス/フランス/アメリカ
ひとこと感想:少女の頃に天涯孤独になり、酷い体験も経た結果、男性として何とか生き延びてきた主人公。確かにこのグレン・クローズさんは初老のオジサンにしか見えなくて凄いし、お話もきちんとよく出来てはいる。けれど、可愛い若い女の子と店を持ちたいなどと夢想する主人公のセクシャル・アイデンティティが十分に掘り下げられているようには思えなかったし、主人公があまりに報われない展開もどうも盛り上がるのが難しい。総じて、観客の感情を揺さぶるためというよりは、グレン・クローズさんの演技力をひたすらアピールするための企画だと感じられて仕方がなかったのだけれど。
本作のロドリゴ・ガルシア監督のお父様で20世紀を代表する作家の1人であるガルシア=マルケス氏が2014年4月にお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈り申し上げたいと思います。氏の作品は【エレンディラ】【予告された殺人の記録】【コレラの時代の愛】などいくつか映画化されているものもありますが、『百年の孤独』の映画化に世界で初めて公に成功する人は誰なんでしょう。(寺山修司氏は個人的にあまり好きじゃないんでその辺りはあまり触れないで下さい。)畏れ多くて誰もおいそれとは手を上げられないでしょうが、メキシコ出身のアレハンドロ・イニャリトゥ監督あたりはどーですかね?

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【遺体 明日への十日間】四つ星

監督・脚本:君塚良一
原作:石井光太
出演:西田敏行、緒形直人、勝地涼、國村隼、酒井若菜、佐藤浩市、佐野史郎、沢村一樹、志田未来、筒井道隆、柳葉敏郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:東日本大震災の際に、次々と運び込まれてくる圧倒的な数のご遺体のお世話をした方々の物語。何せ火葬場が満杯になってしまうなど通常では考えられない事態が進行していた中で、一見物体にしか見えないほどの死体の山を個々の人間として取り扱い、少しでもきれいなご遺体にして家族の元へ返して差し上げるという大切な作業を担った方々が、きっとどこの現場にもいらっしゃったのだ、と思い至った。きっとこれはある事象の一側面だけを取り上げたフィクションに過ぎないのだろうけれど(そして、これでも現実よりはだいぶ小綺麗なんだろうけど)、その事象について最大限の誠意を持って語ろうとした作品なのではないかと感じられ、誤解を恐れずにこの作品を世に問うた君塚良一監督やキャスト・スタッフの皆様に感謝したいと思った。

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【偽りなき者】四つ星

監督・脚本:トマス・ヴィンターベア
共同脚本:トビアス・リンホルム
出演:マッツ・ミケルセン、他
製作国:デンマーク
ひとこと感想:小っちゃな女の子の愛の告白を退けたからって、ちょっとしたプライドを傷つけられた彼女の小っちゃな作り話で性的虐待者と疑われ、人生が壊滅してしまうなんて不条理すぎるでしょー !! 状況的には仕方のないことばかりだけど、何一つ悪いことをしていない主人公(マッツ・ミケルセンさん、かっこいい!)が疑われ、小さなコミュニティの中でどんどん追い詰められていく姿は恐ろしすぎる。こんな酷い物語を、無駄のない削ぎ落とした表現で構築し淡々と描写しているトマス・ヴィンターベア監督の力量は、改めて凄いと思った。

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【いとしきエブリデイ】四つ星

監督・脚本:マイケル・ウィンターボトム
出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:服役中の男を待ち続ける妻と子供達の姿をただひたすら描くマイケル・ウィンターボトム監督作品。普通に見えるけれど大切なもの(この場合はパパ)が決定的に足りない日常を淡々と描くことで、なんてことない日々の奇跡的な大切さが身に染みる。これは、一見ごく普通の作品に見えて、ある意味とんでもない実験作なのかもしれない、と思った。

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【犬と猫と人間と2 動物たちの大震災】四つ星

監督:宍戸大裕
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:【犬と猫と人間と】の前作は拝見していないのだが、2作目となる本作では、東日本大震災で被災した動物達を巡る問題がいろいろと描かれていた。そこまで動物好きではない私でも胸が痛くなるような話が満載で、かなりブルーになってしまった。

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【イノセント・ガーデン】四つ星

監督:パク・チャヌク
脚本:ウェントワース・ミラー
出演:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グッド、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:突然現れた若くハンサムな叔父との危うい関わりの中で凶暴な自我に目覚めていく少女。『プリズン・ブレイク』の脚本家ウェントワース・ミラーさんという人のオリジナル脚本らしい。河岸はハリウッドに変わっても、人間の性質の中に潜む暗くねじれた属性を描くパク・チャヌク監督らしい立派な変態ピカレスクになっていて、やっぱりブレないなぁ偉いなぁ、と思った。

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【命ある限り】三星半

監督:ヤシュ・チョプラ
脚本:アディティア・チョプラ
出演:シャー・ルク・カーン、カトリーナ・カイフ、他
製作国:インド
ひとこと感想:インド映画特集『ボリウッド4』の一編。古風が美徳だからなのか、あまりにもくだらない理由(と日本人には思える)に頑なにこだわり続けてシャー・ルク・カーン演じる主人公を拒否し続けるヒロインも、ヤケになってわざわざ危険な仕事(爆弾処理?)に志願するシャー・ルクも、シャー・ルクにちょっかいを出す自信過剰で能天気過ぎる若い女も(インドではこれが“新しい女性像”なのだろうか?)若干理解不能で、過剰にメロドラマ的であろうとしてちょっと強引でしつこくなりすぎてしまう展開にはいささかげんなり。でもこんなちょっと無理めな設定に片目をつぶり、ツッコミながら見るのが逆に楽しいのかもしれない。本作を手掛けたのはシャー・ルクさんとも長年馴染みのベテラン監督さんで、本作が遺作になったとのことだった。(エンド・ロールに長々と流れている謎の映像はその関連映像らしい。)合掌。

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【インターミッション】三つ星

監督・脚本:樋口尚文
脚本:港岳彦
出演:秋吉久美子、染谷将太、佐伯日菜子、奥野瑛太、他
製作国:日本
ひとこと感想:銀座シネパトスは、あの独特のプログラム編成や、あの三原橋地下街の佇まいも含めて、その在り方自体が一つの文化だったから、失われてしまったことは大きな文化的損失に他ならない。本当に残念だ。東京都が耐震性の問題を看過できなかったのは分かるけど、単に立ち退き命令を出すだけじゃなく何か代替案を出すとかできなかったのか。映画館はあっさり取り潰しておいてオリンピックとか、この文化度の低さは一体何なんだ。ちゃんちゃらおかしいわ。
しかし、シネパトスの閉館がいくら残念でも、映画の出来はまた別の問題かなぁ。これは、シネパトスを舞台にした60~70年代っぽいセミドキュメンタリータッチの映画とでも言えばいいのか。しかし、シネフィル志向があまりよくない方向に噴出してしまった、大林宣彦作品の出来のよくないエピゴーネンみたい。映画評論家としての樋口尚文氏は大変ご尊敬申し上げているのだが、まぁ餅は餅屋というか、残念だったと言うことしかできない。

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【ウィ・アンド・アイ】三星半

監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
共同脚本:ポール・プロック、ジェフ・グリムショー
出演:マイケル・ブロディー、テレサ・リン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ミシェル・ゴンドリー監督の最新作。ニューヨークのブロンクスの高校の、下校中のスクールバスの車内で繰り広げられる高校生達の人間模様……にあまり興味が持てないのは、【桐島、部活やめるってよ】の時と同様、自分の高校時代にあまり芳しい思い出がないという、完全に個人的な理由によるものだと思われる。本当にどうもすみません。

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【ウォールデン】三つ星

監督:ジョナス・メカス
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:現在90歳のジョナス・メカス監督が、1964年から69年に撮影した映像をまとめた日記映画。高名な【リトアニアへの旅の追憶】は1972年作で、本作の後になるようだ。今でこそこんな手持ちカメラ映像なんて珍しくもなんともないだろうが、当時はこんなふうに手持ちカメラを駆使してパーソナル映像を撮り(デジタルなんて当然ない時代なので全部16ミリフィルム)、パーソナルな“映画”を作るという発想自体が画期的だったのだろう。そのような歴史的意義は感じるし、現在とは微妙に違う当時の風俗が映り込んでいるのも面白いけれど、正直、手持ちカメラのブレブレ映像をずっと見続けるのはちょっとツラいものがあるかもしれない。

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【海と大陸】四星半

監督・脚本:エマヌエーレ・クリアレーゼ
共同脚本:ヴィットリオ・モローニ
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:イタリアの片田舎の陽光溢れる昔ながらの漁師町。でも伝統産業である漁業だけではやっていけない町は経済発展に取り残されつつあり、中途半端に観光地化しつつある。これはまんま日本の地方都市にも当てはまりそうな図式だ。この町に、アフリカからの難民が舟で流れ着く。法律では助けてはいけないことになっているけれど、昔から海に生きる人々の常識からすれば、目の前に溺れている人がいたらまず救助するのが当たり前。結果、難民の母子をかくまうことになってしまったけれど、この家族はどうするのか。右往左往していた主人公の少年はどのような決断を下すのか。これは決してどこか遠い外国のヒューマンドラマなどではなく、グローバル化という名の統制の進む世界の中で、個々の人間が進むべき道をどのように選び取るかという重要な命題を描こうとした物語なのではないかと思う。

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【永遠の0】四つ星

監督・脚本:山崎貴
共同脚本:林民夫
原作:百田尚樹
出演:岡田准一、井上真央、三浦春馬、吹石一恵、風吹ジュン、夏八木勲、橋爪功、山本學、田中泯、濱田岳、三浦貴大、新井浩文、染谷将太、他
製作国:日本
ひとこと感想:しばらく前から戦争映画のアレルギーになってしまったので、この映画も山崎貴監督&岡田准一主演でなければ最初から鑑賞対象外だったはずで、ていうか男性監督ってどうして1回は戦争映画を作りたがるワケ?とかぶつくさ言いながら見に行ったら、思っていたほどには悪くなかった。よく言われているように、宮崎駿監督の【風立ちぬ】のラストで飛んで行って帰ってこなかった幾多の飛行機に実際に乗っていた人達が描かれていたような印象があり、特に、特攻隊員達が、国のためだと言い含められながら、敵艦に辿り着くことすらできず全くの犬死にをさせられてしまう姿を容赦なく描いていたのは、真っ当ではないかと思った。ただ、宣伝などを見る限りではそうした側面は全く伝わって来ず、凡百の「軍人さん、カッコイイ!」映画との違いが意図的にぼかされているようにすら思われ、そのような捉え方をしたがる人々も少なくない中で、この映画を評価するべきなのかどうか。今の自分にはすぐに答えが出てこないかもしれない。

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【映画 鈴木先生】三星半

監督:河合勇人
脚本:古沢良太
原作:武富健治
出演:長谷川博己、臼田あさ美、風間俊介、土屋太鳳、でんでん、富田靖子、他
製作国:日本
ひとこと感想:生徒達を思い切りいい子に育てることで逆にきちんと現実に向き合わせる力をつけさせる、という発想が逆に斬新。同じ古沢良太さんが脚本を手掛けるドラマ『リーガル・ハイ』の、俗物の権化のような弁護士が法の崇高さを照らし出すという逆説的手法に少し相通じるものがあるだろうか。テレビ版は全く見ていないんだけど、まぁ面白かったかな。

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【エリジウム】四つ星

監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン、ジョディ・フォスター、シャールト・コプリー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:【第9地区】のニール・ブロムカンプ監督の最新作。余命5日になっちゃったんで、一般ピープルには禁止されている最新鋭の医療機器があるスペースコロニーを目指す、とかそんな話。悪くはないんだけど、前作ほどぶっ飛んだ発想がある訳ではなく、どこかでみたことあるような平凡な話かな?という印象が残ってしまった。

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【オーガストウォーズ】三つ星

監督・脚本:ジャニック・ファイジエフ
出演:スベトラーナ・イヴァーノヴナ、他
製作国:ロシア
ひとこと感想:グルジア周辺はキナ臭い土地柄という認識はあったが、2008年の南オセチア紛争、別名ロシア・グルジア戦争、別名8月戦争(August War)については不勉強で全く知らなかった。南オセチアは、ソ連崩壊後にグルジアに帰属した元ソ連の自治州で、独立して北オセチアと統合したがっていたけれど、グルジア政府はこれを阻止したくて、南オセチア領内にロシア軍が平和維持軍として駐留していたのにも関わらず侵攻し、戦争状態になったのだとか……大雑把に言えば、ロシアとグルジアで南オセチアを取り合っているいうことか。で本作は、あるロシア人の母親が、この戦争に巻き込まれた我が子を救おうと脱出を図るという話。でもこの女、男と旅行に行きたいから南オセチアにある元夫の実家に子供を押し付けていただけなので、そもそもあんまり共観できないのだが。加えて、ロシア映画だから当然なのだろうが、正義のロシア軍が悪のグルジア軍を叩きのめすという強力な図式がどこまでも一方的にプッシュされていて、傍から見ている人間には毒気が強すぎたりして。一部のマニアの皆様には、子供が見る幻影に登場するロシア製のCGがウケていたみたいだけど、ここまで一方的なプロパガンダに支配されている映画をただ面白がるだけでいいものか。私は少し薄ら寒いものを感じてしまったけれど。まぁいろいろなことがあまりにも違うんで、世界は広いなぁ、世の中にはまだまだいろいろな映画があるのだなぁと、ある意味非常に参考にはなったけど。

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【おじいちゃんの里帰り】四つ星

監督・脚本:ヤセミン・サムデレリ
共同脚本:ネスリン・サムデレリ
出演:ヴェダット・エリンチン、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:ドイツのトルコ系移民というとファティ・アキン監督などを思い出すが、こちらは本作が長編デビューの俊英の女性監督作。家族を食わせるためにドイツに移住して半世紀、必死で働き続けて一族の長となったおじいちゃんがトルコに里帰りしたいと言い出して、すったもんだの挙げ句、孫も引き連れた総勢9人でバスを運転して帰郷することに……。えーっそうなるの !? という展開もあるけれど、暖かい目線で生き生きと描写されたそれぞれの登場人物が、それぞれの人生をゆっくりと見つめ直す様が秀逸。このおじいちゃんの決意の力によって築かれてきたものの大きさがさらりと描かれているのが素晴らしい。

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【同じ星の下、それぞれの夜】四つ星

『チェンライの娘』
監督・脚本:富田克也
共同脚本:相澤虎之助
出演:川瀬陽太、Ai、スシットラポン・ヌッチリ、レイザーラモンRG、他
『ニュースラウンジ25時』
監督・脚本:冨永昌敬
出演:ムーディ勝山、阿部真理、森松剛憲、西方凌、他
『FUN FAIR』
監督・脚本:真利子哲也
出演:山本剛史、スン・ジェニー、アズマン・ハッサ、他
製作国:日本
ひとこと感想:吉本興業の製作とはいえ【サウダーヂ】の富田克也監督×【パビリオン山椒魚】【乱暴と待機】の冨永昌敬監督×【イエローキッド】【NINIFUMI】の真利子哲也監督のオムニバスという思わぬ拾いモノ!それぞれタイ、フィリピン、マレーシアを舞台にしているのは、もしかして吉本の今後の何らかの目論見と関係しているのかもしれないけど、それぞれいい味が出ていて悪くなかったと思う。レーザーラモンRGさんやムーディ勝山さんの役者としてのポテンシャルにも注目したい。3作中一番好きだったのは真利子哲也監督の『FUN FAIR』。ドラマとしての出来もよかったけど、真利子監督がこんなカワイイお話も作れる方だったなんて!

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【俺俺】三星半

監督・脚本:三木聡
原作:星野智幸
出演:亀梨和也、内田有紀、加瀬亮、キムラ緑子、高橋惠子、ふせえり、岩松了、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:いろいろあったKAT-TUNだけど、残ったメンバーの生真面目さが結構好きだ。今後はもっといい仕事ができるんじゃないかと思うので、今こそ頑張って戴きたいと思う。本作の亀梨和也さんも、1人33役なんて不条理な役にきちんと取り組んでいるのが素晴らしい。しかし、自分が際限なく増殖して世界中の誰もが自分になってしまうというのは……自我の肥大のメタファーなの?三木聡監督がそれで何を表現したかったのかは、私にはちょっとよく分からなかったかもしれない。

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【俺はまだ本気出してないだけ】四つ星

監督・脚本:福田雄一
原作:青野春秋
出演:堤真一、橋本愛、石橋蓮司、生瀬勝久、山田孝之、濱田岳、水野美紀、他
製作国:日本
ひとこと感想:40過ぎて実家暮らしで大きな子供もいるぐうたら野郎が、会社辞めてマンガ家になりたいとか……イタい!あまりにもイタすぎる!でもこんなヤツの言動に周囲の人々が巻き込まれ、影響されていく姿は何だかちょっと面白い。人間、年を取ると段々とライフスタイルができ上がってしまって、決まり切ったルーティンを繰り返すだけの日常に陥りがちなんだけど、周りにどう映ろうが、非常識であろうがなかろうが、(犯罪なんぞでない限り、)思い切った行動を取ってみることも悪くないのかもしれない。しかし、こんなに役までハマってしまう堤真一さんってほんっと凄い。やっぱり日本最強クラスの俳優の一人なんじゃないかと改めて思った。

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【オン・ザ・ロード】三星半

監督:ウォルター・サレス
脚本:ホセ・リベーラ
原作:ジャック・ケルアック
出演:サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン、他
製作国:アメリカ/イギリス/フランス/ブラジル
ひとこと感想:ジャック・ケルアックの『路上』、学生時代に読んでみた時もさっぱり意味が分からなかったんだけど、今回映画化された本作を改めて見てみても、やっぱり全然入っていけないと思った。アメリカの50年代のビート・ジェネレーション文学の代表作で、60年代のカウンターカルチャーの聖典だった、と言われても。自分の人生はどの部分もこの本の要素と重ならないし、こうした要素を必要としていないのだろう。まぁ、世界中のどこかには必要としている人もいるからこそこうして古典になっているのだろうから、それでいいんじゃないのかな。

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【オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ】四つ星

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:良く言えばスタイリッシュ、悪く言えば自己耽溺。やっぱりジム・ジャームッシュは、いついかなる時もどこまで行ってもジム・ジャームッシュなんだな、いい意味でも悪い意味でも。
最近、【りんごのうかの少女】で共演している永瀬正敏さんと工藤夕貴さんを見てジャームッシュ監督の【ミステリー・トレイン】を思い出したのだが、異国で彷徨うあの若い日本人カップルの寄る辺なさは、本編の主人公である根無し草の吸血鬼カップルの寄る辺なさにもちょっと相通じるものがあるのかもしれない、と思ったりした。

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【楽隊のうさぎ】四つ星

監督:鈴木卓爾
脚本:大石三知子
原作:中沢けい
出演:川崎航星、山田真歩、宮崎将、徳井優、井浦新、鈴木砂羽、他
製作国:日本
ひとこと感想:中学の吹奏楽部の話。物語の中心となるのはオーディションで選ばれた子供達で、絵面的には地味めかもしれないけれど、映画の中でも本当に練習して演奏しているらしいので、部活にいそしむ本物の中学生を覗き見しているみたいな気分になった。かくいう私も大昔の中学時代は吹奏楽部だったので、一つ一つのエピソードがあるあるー !! と身に覚えがあるようで懐かしい。部活が終わって皆で帰途に着いた時のあの空気感とか、何となく思い出してしまったな。

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【かぐや姫の物語】五つ星

監督・脚本:高畑勲
共同脚本:坂口理子
声の出演:朝倉あき、地井武男、宮本信子、高良健吾、高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、橋爪功、古城環、中村七之助、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:本作を観て、何故かトーキング・ヘッズの『Heaven』という曲が真っ先に頭に浮かんできた。「…Heaven is a place where nothing ever happens.」死後の世界なんてものが(そもそも無いと思うけど)もしあるとするのなら、何の色彩も無く、何の匂いもせず、何の感覚も無く何の感情も起こらない、真っ白な空間のような世界なんじゃないかと思っていた。かぐや姫が帰っていくのは、きっとそんな、怒りも苦しみも無いけれど、喜びも一切無い世界のことなんじゃないかと思った。
生きていることの苦しみから解放されたいと願う気持ちは、人間の中には常にどこかに存在しているものなのかもしれない。けれど、苦しみも含めた何かを感じることを手放してしまうのは、生きていないのと同じことなのかもしれない。だからかぐや姫は、清浄で苦しみも無いけれど何も起こらない世界を離れ、苦しみや不浄に満ちているけれど溢れる感覚を享受することができる世界に足を踏み入れることに恋い焦がれたのだろう。これは何が人間を人間たらしめているかについての深遠な問い掛けではないのか。でもかぐや姫は結局は元の世界に連れ戻されてしまう。そのことは何を意味しているのか。
かぐや姫ってこんな凄いお話だったっけ……?基本的な筋書きがそれほど改編されている訳ではないのだが、高畑監督が深く掘り下げた解釈により、この話にはもともとこんな哲学的な意味があったのではないかと想起させられる。そして、日本の文化は根底にこれほどの洞察を内包していたのだろうかと震撼とさせられる。技術的または美術的な到達点を考えても、本作は世界のアニメーション史にも映画史にも残る資格がある紛うことなき傑作だと断言できると思うけれど、もしかしたら私達は、そんな地点にすら留まらない何かとんでもないものを見せつけられているのではないだろうか。

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【風立ちぬ】五つ星

監督・脚本:宮崎駿
声の出演:庵野秀明、瀧本美織、野村萬斎、西島秀俊、西村雅彦、國村隼、志田未来、大竹しのぶ、風間杜夫、竹下景子、スティーブン・アルパート、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:美しい夢を追うことは呪われた所業だけど、それでも人は夢を追いかけずにはいられないという、夢を追うことの業(ごう)を描いた映画だと思う。ということで、くわしくはこちらをどうぞ。

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【カラカラ】四つ星

監督・脚本:クロード・ガニオン
出演:工藤夕貴、ガブリエル・アルカン、他
製作国:日本/カナダ
ひとこと感想:クロード・ガニオン監督作ってずいぶん久しぶりに拝見した。人生が乾いてしまった人達の大人の修学旅行といった趣きで、“カラカラ”を「I'm empty, fill me up!」と表現しているのが上手いなぁと唸った。流れはどうあれ中年主婦が主人公の初老の男性とあっさりベッドインしてしまったりするのに抵抗感がある向きもあるかもしれないが、監督は、ちょっとした寄り道としてお互い納得した関係性はありだと捉えているのだろう。工藤夕貴さんは相変わらず英語も演技も達者だったので、もっといろんな作品で拝見したいものだなぁと思った。

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【カルテット!人生のオペラハウス】四つ星

監督:ダスティン・ホフマン
原作・脚本:ロナルド・ハーウッド
出演:トム・コートネイ、マギー・スミス、ポーリーン・コリンズ、ビリー・コノリー、マイケル・ガンボン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:かのダスティン・ホフマンさんの監督作。引退したクラシックの音楽家専門の老人ホームを舞台にした物語で、本物のミュージシャンが数多く出演しているらしい。正直、老人ホームを舞台にしている人生の機微を描いた群像劇的な映画は最近ありふれているんだけど、本作はそこに音楽という要素を介在させているところがひと味違った。第一線は退いてもあくまでも音楽家である彼等は、音楽の美という総てを超越する絶対的な規範を共有しているからこそ、お互いの我儘も過ちも老いも何とか受け入れてやっていけるのだろう。なんかいい話だったなーという見ごたえ感が残る佳作だったように思う。

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【華麗なるギャツビー】四つ星

監督・脚本:バズ・ラーマン
共同脚本:クレイグ・ピアース
原作:F・スコット・フィッツジェラルド
出演:レオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイア、キャリー・マリガン、ジョエル・エドガートン、他
製作国:アメリカ/オーストラリア
ひとこと感想:【ロミオ+ジュリエット】以来の恋するディカプリオ、【ムーラン・ルージュ】の派手派手さ。バズ・ラーマン監督作品の楽しさをちょっと思い出した。

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【鑑定士と顔のない依頼人】三つ星

監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・ホークス、ドナルド・サザーランド、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:一部ではやたら評価が高かったのだが……う~ん、みなさん、これが好きなの?私は全然駄目だった。このテのエキセントリック系の女なんてどこがいいのか分からんし、女に入れあげてるからって仕事を忘れるなんてプロとして問題外だろ。芸術に対する愛情がその程度のものだから芸術に裏切られたんじゃないの?そもそも、エラソーにアドバイス垂れる若造の言うことを易々と信じてしまうのも、いい年こいてどんだけ世間知らずのとっちゃん坊やなんだよ。そりゃ騙した方が悪いに決まっているけれど、申し訳ないけどあまり同情する気にもならなかった。

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【きいろいゾウ】三星半

監督:廣木隆一
脚本:黒沢久子、片岡翔
原作:西加奈子
出演:宮崎あおい、向井理、柄本明、松原智恵子、濱田龍臣、浅見姫香、リリー・フランキー、緒川たまき、他
製作国:日本
ひとこと感想:廣木隆一監督は、ソフトでもハードでも、男女関係を描くのは得意技。本作でも、ツマさんとムコさん夫婦の結びつきがゆっくりと深まるのをじっくり描いているのは悪くないと思った。けれど、ちょっとまったりしすぎで、今ひとつコレといった決め手に欠けていたのかもしれない。

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【危険なプロット】三星半

監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:フアン・マヨルガ
出演:ファブリス・ルキーニ、エルンスト・ウンハウアー、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:高校の文学教師が、才能ある教え子の文章がもっと面白くなるようにと指導を続けるが、それが教え子の行き過ぎた行動を誘発する……。フランソワ・オゾン監督の新作で、スペインの舞台劇が原作らしいのだが、これはストーリーが無理くさ過ぎじゃないでしょうか。私はあんまりついていけませんでした。

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【奇跡のリンゴ】四つ星

監督・脚本:中村義洋
共同脚本:吉田智子
出演:阿部サダヲ、菅野美穂、山崎努、伊武雅刀、原田美枝子、池内博之、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:映画の公開時期に、本編の元となっている木村秋則さんの無農薬りんご栽培について、批判も含めたいくつかの記事を見掛けた。大まかには(1)木村さんの栽培方法は他で再現することができていないので、その是非を科学的に検証することはできないし、広く普及させることもできそうにない、(2)今では農薬の種類も撒布方法も研究されているので、昔と違って農薬を使用したりんごにも危険はない、といった内容のものが多かったように思う。なるほど、と思った点も多くあったのだが、私以上の世代の人間には、戦後の高度成長期(1970年代くらいまで)の数多くの悲惨な公害事件や薬害事件が記憶に生々しく刻まれているので、もはや農薬はそんなに危険ではありませんと言われても、はいそうですかと簡単には信じられなかったりする。それならばしかるべき筋の人が、そうした新しい見識を一般に浸透させるためにもっと何かしら手を打つ必要があるのではないだろうか。
まぁ無農薬リンゴの是非はともかく、本編はお話としては感動的だし、主演の阿部サダヲさんと菅野美穂さんの演技は主演賞ものなので、観賞には値するのではないかと思う。山崎努さんの演技も今のうちにしっかりと記憶に焼き付けておくべきではあるまいか。

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【きっと、うまくいく】四つ星

監督・脚本:ラジクマール・ヒラニ
出演:アーミル・カーン、カリーナ・カプール、R・マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー、他
製作国:インド
ひとこと感想:インド映画特集『ボリウッド4』の真打ち。学歴社会の軋轢、という裏テーマは結構シビアだけど、歌あり踊りあり青春あり恋愛あり、のてんこ盛りで楽しい!ストーリーも割と無理がなく、最後はハッピーエンドで満足度が高かった。

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【君と歩く世界】四つ星

監督・脚本:ジャック・オディアール
共同脚本:トーマス・ビデガン
出演:マリオン・コティヤール、マティアス・スーナーツ、他
製作国:フランス/ベルギー
ひとこと感想:ヒロインがシャチの調教師という設定に胸をときめかせたのだが、序盤でショーの最中の事故により両足を切断してしまうという以外、その設定があまり活かされていなかったのは残念。ただ、大人の辛口のラブ・ストーリーとして見る分には、本作はなかなかの秀作なのではないだろうか。自分の都合しか見えていなくて息子も恋人も振り回す男性には脱力してしまうが(いるよね、こういう男)、そんな男性の勝手な振る舞いも大人の女性として受け入れて、彼から生きる力を得ていくヒロインの強さが美しい。最後には男性もやっと少し成長してくれて、よかったなぁと安堵した。

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【キューティー&ボクサー】三星半

監督:ザッカリー・ハインザーリング
出演:篠原有司男、篠原乃り子、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1960年代からニューヨークで活躍している御年80歳のアーティストの篠原有司男さんと、その21歳年下の妻である篠原乃り子さんの夫婦を描く、アメリカのドキュメンタリー。この映画を楽しめるか否かは、このご夫婦を見て楽しいとかステキとか思えるかどうかなんじゃないかと思うけど、私はそこそこだったかな。ただ、内助の功で夫を支え続けるだけだった乃り子さんが今になって自分自身の作品作りに目覚めたというのは、ちょっと面白いと思った。

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【凶悪】五つ星

監督・脚本:白石和彌
共同脚本:高橋泉
原作:宮本太一
出演:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、他
製作国:日本
ひとこと感想:尼崎事件や北九州監禁殺人事件のような、聞けば聞くほど信じがたいような事件が実在していて、私利私欲のためだけに何とも思わずに人を殺すことができる人達が存在するというのはどうやら現実のことらしい。この映画も実話が基になっているらしいのだが、このような人達を真正面から何らの修飾も弁明も与えずにリアルに描いてしまったというのは、今までにはなかったことなのではないだろうか。ピエール瀧さんが演じる死刑囚の凶暴さや、リリー・フランキーさんが演じる事件の首謀者の底知れない冷酷さも薄気味悪いけれど、山田孝之さんが演じる取材記者が取り憑かれた別種のエゴもまた恐ろしい。若松孝二監督の弟子筋であるという白石和彌監督の手腕と決意に震撼とし、映画がつまらなくなったとか分かったような口を聞いている場合ではないと強く強く反省させられた。

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【今日子と修一の場合】四つ星

監督・脚本:奥田瑛二
出演:安藤サクラ、柄本佑、他
製作国:日本
ひとこと感想:奥田瑛二氏の監督・脚本で、出演は柄本佑・安藤サクラご夫妻。ついに来たか、奥田家×柄本家のファミリーコラボ第一弾 !? ただし主演2人の共演シーンはほとんどなくてちょっぴり残念だったけど。2人は、それぞれの人生の中で図らずも身を持ち崩し、それでも何とか再起しようとする。予算も限られていそうな中で粘って健闘しているなかなかいい作品だとは思ったのだが、この内容を東日本大震災と絡める必要性は微塵もないのではなかろうか。あと、カンニング竹山さんの出演シーンが陳腐なロマンポルノみたいで、そこだけやたら浮いているのはちょっと戴けなかった。

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【恐竜を掘ろう】三つ星

監督・脚本:大和田伸也
共同脚本:大和田健介
出演:松方弘樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:大和田伸也さんは福井のご出身なのだそうで、今や福井県の地域活性化の目玉になっている恐竜をモチーフにして映画を撮ろうというその心意気は素晴らしいと思った。しかし、老境に差し掛かって孤独が身にしみるという主人公の描き方はまだともかく、その周囲の人物の描き方はかなり恣意的でご都合主義的。お話も別に恐竜掘りじゃなくてもよかったのでは?という展開になってしまい、ちょっと残念だったかも。

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【清須会議】四つ星

監督・脚本:三谷幸喜
出演:役所広司、大泉洋、小日向文世、佐藤浩市、鈴木京香、寺島進、でんでん、中谷美紀、妻夫木聡、伊勢谷友介、坂東巳之助、剛力彩芽、浅野忠信、篠井英介、中村勘九郎、阿南健治、松山ケンイチ、浅野和之、染谷将太、天海祐希、西田敏行、他
製作国:日本
ひとこと感想:織田信長が死んだ後、跡継ぎや領地をどうするかで会議をしたのが、日本で初めて合議によって政治が動いたエピソードとされているとは知らなかった。本作は、そんな史実を割と忠実に踏襲しながらも、三谷幸喜テイストがしっかりと織り込まれているのが素晴らしい。これは今までの映画監督作の中でも一番の労作なのではあるまいか。しかし、豪華キャストとは言っても、松山ケンイチさんや天海祐希さんなどの使い方がいささか勿体なさすぎるのでは……それでも事務所がOKを出しているのが凄いと思うけど。

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【くちづけ】四つ星

監督:堤幸彦
原作・脚本・出演:宅間孝行
出演:貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、田畑智子、橋本愛、平田満、麻生祐未、岡本麗、嶋田久作、他
製作国:日本
ひとこと感想:「東京セレソンデラックス」による知的障害者のグループホームを描いた舞台作品の映画化。元の舞台を手掛けた宅間孝行さんがそのまま重要な役で出演しているので、おそらく、舞台版のエッセンスは充分反映されていているのではないだろうか。登場人物がなかなか知的障害者には見えにくいとか、舞台の映画化作品にありがちなように全体的な演劇っぽさがなかなか抜けないとかはあるけれど、魅力的な登場人物たちが紡ぐ空間には目が離せない吸引力があると思う。この結末は何とも許しがたいけれど、私達の社会はこの結末を断罪できるほどにはうまく機能していないんじゃないだろうか。

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【クラウド アトラス】四つ星

監督・脚本:ウォシャウスキー姉弟&トム・ティクヴァ
原作:デイヴィッド・ミッチェル
出演:トム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、ベン・ウィショー、ペ・ドゥナ、ジム・スタージェス、ジェームズ・ダーシー、ヒューゴ・ウィーヴィング、ヒュー・グラント、スーザン・サランドン、他
製作国:ドイツ/アメリカ/香港/シンガポール
ひとこと感想:いつの間にか兄弟から姉弟になっていたウォシャウスキー監督のお二人と、【ラン・ローラ・ラン】【ヘヴン】のトム・ティクヴァ監督のコラボ作で、人種も性別も変えながら6つの時代を輪廻転生する人々がよりよき人間になろうとする物語。詳細についてはこちらのページの解説が素晴らしかったのでご覧になってみて戴きたい。よく言えば、こんな盛り沢山な話がすっきり見やすくまとめられているのが素晴らしいけれど、悪く言えば、カタログや絵葉書を並べられているみたいで深みに欠けるかもしれない。でも、彼等に限って言えば、こんなふうにスケールの大きなお話を志向しようとする姿勢も嫌いじゃないので、これからも頑張って戴きたいと思った。

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【暗闇から手をのばせ】四つ星

監督・脚本:戸田幸宏
出演:小泉麻耶、津田寛治、森山晶之、菅勇毅、ホーキング青山、モロ師岡、他
製作国:日本
ひとこと感想:身体障害者専門のデリヘル嬢を描いた中編。噂に聞く身体障害者専門の性風俗店というものに対する下世話な興味があったことは否定しないけれど、経営者(津田寛治さんの名演!)もヒロインも、競合相手がいないからとか男性が暴力をふるわないからとかいった非常にプラグマティックな理由でこの仕事を選んでいたので成程と思った。デリヘルの仕事を淡々とこなすヒロインは、様々な身体障害者の男性達と関わる中で少しだけ光明のようなものを見出すのだか、その姿には少し特異な青春映画としての側面も感じられ、案外爽やかな印象が残った。

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【グランド・マスター】二星半

監督・脚本:ウォン・カーウァイ
共同脚本:ゾウ・ジンジ、シュー・ハオフォン
出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、他
製作国:香港/中国/フランス
ひとこと感想:トニー・レオンやチャン・ツィイー、チャン・チェンというスターを擁しておきながら、この印象の薄さは一体なんなのだろう……。同じイップ・マン(ブルース・リーのお師匠様)を描いた先年の【イップ・マン 序章】【イップ・マン 葉問】などと較べて全然心に響かなかった。そもそも、カンフーや戦前の中国文化をスタイリッシュに描くという以上の動機が感じられず、その肝心のカンフーもカット割りに頼ったつぎはぎだらけで、これでごまかされるほど観客も甘くはないんじゃないのかな。ウォン・カーウァイ監督は、才気だけで押し切っていたような時代も過ぎ去り、撮るべきものを見失って迷走しているのではないかと感じられてならなかった。

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【クロユリ団地】三星半

監督:中田秀夫
脚本:加藤淳也、三宅隆太
出演:前田敦子、成宮寛貴、田中奏生、勝村政信、西田尚美、手塚理美、他
製作国:日本
ひとこと感想:思ったほど恐くなかったという感想に尽きる。前田敦子さん、成宮寛貴さんを始めとする出演陣の演技は決して悪くなかったのだが、ヒロインの家族のネタは途中で読めてしまうし、狂人オチという展開は安易だし、あの男の子のインパクトは貞子さんには遠く及ばないしで、どうも煮え切らなかった。ホラーって因果律と問答無用の不条理さとのバランスが難しく、同じ中田秀夫監督といえど、かの【リング】を超えるのってなかなか至難の業なのだなぁと改めて思った。

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【クロワッサンで朝食を】四つ星

監督・脚本:イルマル・ラーグ
共同脚本:アニエス・フォーブル、リーズ・マシュブフ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー、他
製作国:フランス/エストニア/ベルギー
ひとこと感想:故郷のエストニアを出てパリで家政婦を始める女性(監督さんがエストニア出身なのだそう)と、偏屈で孤独な老婦人の心の交流。これは彼女達が暮らすパリの街の華やかな美しさこそが物語の主役なのだろうか。いつまでもどこまで行ってもアムールなジャンヌ・モロー様は、幾つになってもアムールで居続けていて戴きたいなぁと思った。

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【劇場版ATARU THE FIRST LOVE&THE LAST KILL】三つ星

監督:木村ひさし
脚本:櫻井武晴
出演:中居正広、栗山千明、北村一輝、田中哲司、玉森裕太、利重剛、村上弘明、堀北真希、松雪泰子、他
製作国:日本
ひとこと感想:サヴァン症候群の特殊能力を見込まれFBIで捜査官をする主人公をSMAPの中居くんが演じる本作。ドラマ版を何となく見ちゃってたんでついつい見にいってしまったんだけど、尺を持て余してしまっているのか余計な誇張が目立ち(特に栗山千明さんのキャラの悪化が甚だしい)、バランスが壊れてしまって、ドラマ版の良さが消えてしまっていたかも。テレビドラマの関係者の皆様、何でもかんでも映画化すりゃあいいってもんじゃないということを、たまには考えてみて戴けないでしょうか。

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【劇場版SPEC 結(クローズ)漸(ゼン)ノ篇/爻(コウ)ノ篇】三星半

監督:堤幸彦
脚本:西荻弓絵
出演:戸田恵梨香、加瀬亮、竜雷太、神木隆之介、岡田浩暉、松澤一之、載寧龍二、有村架純、福田沙紀、北村一輝、栗山千明、向井理、大島優子、北大路欣也、城田優、田中哲司、安田顕、真野恵里菜、浅野ゆう子、三浦貴大、大森暁美、半海一晃、ダンディ坂野、多田木亮佑、Simone、佐野元春、石田えり、香椎由宇、遠藤憲一、KENCHI、イ・ナヨン、渡辺いっけい、他
製作国:日本
ひとこと感想:【劇場版SPEC~天~】を見て抱いた感想がそのまま当てはまってしまった感じ。これはもう完全に人知を踏み越えた世界の話になってしまい、ほとんど何も感情移入ができなくなってしまった……。この手の作品が風呂敷を広げようとするとすべからくこうなってしまうのか、もっと他の方向性はなかったのかと、残念に思った。ただ、ラストに当麻さんと瀬文さんのツーショットがあったらしいのを見逃してしまっていたらしく、悔しいったらありゃしない。今後のテレビ放送などを気長に待って確認したいと思う。

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【県庁おもてなし課】二星半

監督:三宅喜重
脚本:岡田惠和
原作:有川浩
出演:錦戸亮、堀北真希、船越英一郎、高良健吾、関めぐみ、甲本雅裕、松尾諭、他
製作国:日本
ひとこと感想:人気の有川浩さんが原作の作品だけど、あまりにも生ぬるい出来に、見ながら脳味噌が停止しそうになった……。なんつーの?このタイトルを掲げている以上、この「おもてなし課」なる部署がどのような部署で何を成し遂げることができるのかが語られていないことにはお話にならないんじゃないですか?それなのに、登場人物が具体的な仕事をやっている描写がほとんどなく、誰も表だったアクションをほとんど起こさない。無意味な引き延ばしとディテールの描き込み不足で、お話に起伏がなく全然盛り上がらない。恋愛要素なんかを入れたいのであればそれもいいけれど、ベースになるお話が面白くなければ、観客はそもそも興味を持てないのでは?いい役者さんがいい演技をしているのに勿体ないったらありゃしない。

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【恋するリベラーチェ】四つ星

監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
原作:スコット・ソーソン、アレックス・ソーライフソン
出演:マイケル・ダグラス、マット・デイモン、ダン・エイクロイド、ロブ・ロウ、スコット・バクラ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:これまた不勉強で知らなかったのだが、リベラーチェ氏はアメリカのエンターテイメント系のピアニストとして有名な方なのだそうで、ゲイだというのは(本人は隠していたそうだが)公然の秘密だったらしい。本作は、晩年のリベラーチェに恋人ができ、倦怠期になり、浮気が発覚して破局する話で、そこだけ聞くと非常によくある痴話話だけれど、リベラーチェ役のマイケル・ダグラス様と恋人役のマット・デイモン様の本域のラブシーンというのは他に類を見ないゲップがでそうなほどに圧倒的な濃さで(……)、裁判沙汰になって完全に決裂し、最後はエイズで死んでしまうという展開はそれなりにドラマチック。なんというか、リベラーチェという人の根っからのきらびやかさと、ワン&オンリーなその存在感の厚みはよく分かったような気がする。

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【恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム】四つ星

監督:ファラー・カーン
脚本:ムスタク・シェイク
出演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、アルジュン・ラームパール、他
製作国:インド
ひとこと感想:“キング・オブ・ボリウッド”ことシャー・ルク・カーン様主演の2007年作品。生まれ変わりの話ってどうなの?と思っていたけれど、始まってしまえば気にもならず、とにかくど派手で華やかなで、ロマンス、サスペンス、コメディなどの様々な要素が盛りだくさんで楽しめて、サントラの中毒性もハンパなくて(『Deewangi Deewangi』という曲をついiTunesで買ってしまった!)、お得感満載。ファラー・カーン監督は女性の方で(キャストとスタッフが全員登場する楽しいエンディング・ロールでお顔が拝見できます)、インドでも女性監督がメジャー作品で成功するのはまだまだ珍しいようだけど、本作では男性監督にも全く引けを取らないカーン監督の実力が十二分に感じられた。

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【恋の渦】四つ星

監督:大根仁
原作・脚本:三浦大輔
出演:新倉健太、若井尚子、柴田千紘、後藤ユウミ、松澤匠、上田祐揮、澤村大輔、圓谷健太、國武綾、松下貞治、鎌滝博秋、杉尾真理子、広瀬登紀江
製作国:日本
ひとこと感想:【モテキ】の大根仁監督が、山本政志監督がプロデュースする『シネマ☆インパクト』の枠組で、三浦大輔さん主宰の劇団ポツドールの上演作品を映画化したインディーズ作品。男女8人+αが室内で誰が好きだの嫌いだのを延々と繰り広げるという、いわばそれだけのお話なのだけれど、この他愛のない会話の軽さが滅法面白い。この軽さの中に今時の若い人の空気感を活写する大根監督独特の才能は本作でもしっかり証明されていると思う。しかし、監督の才能については未だにうまく言語化できておらず、どうにも消化不良だな。うぅむ。

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【皇帝と公爵】四つ星

監督:バレリア・サルミエント
脚本:カルロス・サボーガ
出演:ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、ミシェル・ピコリ、キアラ・マストロヤンニ、マリク・ジディ、他
製作国:ポルトガル/フランス
ひとこと感想:チリ出身でパリ在住だった故ラウル・ルイス監督が残したという最後のプロジェクトの映画化で、ナポレオンがどうしても勝てなかったというイギリスのウェリントン将軍について描いた作品。フランス映画界を中心とした綺羅星の如くの名優の皆さんが大挙ご出演なさっていて凄いんだけど……ほとんど話について行けん。ナポレオン時代の詳しい時代背景とかも、きっとフランスの皆さんは一般教養として当たり前に知っていることで、さほど説明とかも要らないんだろうなぁ。勉強不足で本当にすいません……。

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【コズモポリス】二星半

監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
原作:ドン・デリーロ
出演:ロバート・パティンソン、ポール・ジアマッティ、サマンサ・モートン、サラ・ガドン、マチュー・アマルリック、ジュリエット・ビノシュ、他
製作国:フランス/カナダ/ポルトガル/イタリア
ひとこと感想:退廃的な生活を送る大金持ちの投資家が泣こうが笑おうが破滅しようが、勝手にしてくれという感じ。今までたくさんの秀作を見せて戴いたクローネンバーグ監督には大変申し訳ないけれど、本作に関してはびっくりするほど全く何の感慨も起こらなかった。

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【孤独な天使たち】四つ星

監督・脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
共同脚本:ウンベルト・コンタレッロ、フランチェスカ・マルチャーノ
原作:ニッコロ・アンマニーティ
出演:ヤコポ・オルモ・アンティノーリ、テア・ファルコ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:コミュ障気味のティーンエイジャーの少年が、学校行事に参加せず誰にも内緒で地下室に籠もってしばしエンジョイしようとしたところ、没交渉だった異母姉がいきなりやってきて引っかき回される。びっくりするような大事件が起こる訳じゃない、小さな世界の小さな物語。けれど、ベルトルッチ御大の視線はあくまで優しくて、恐くないから閉じこもってないで外の世界に手を伸ばしてごらん、と若者に呼び掛けているみたい。デヴィッド・ボウイさんの『スペース・オディティ』のイタリア語版(英語版とは歌詞が違う)が映画の内容にピッタリで、あまりに美しすぎて泣けてきた。
ベルトルッチ監督はしばらくご病気だったそうで、本作は10年ぶりの新作になるとのこと。監督だってもう70オーバーだもんね……(ウチの親と同い年だ!)。なのにこの期に及んでのこの瑞々しさにはちょっと驚き。この先、新たな映画を創ることができる可能性はどんどん低くなりそうだからこそ、今この時に若者に未来を仮託しようとしているのだろうか。そう思うと少し切なくなってきた。

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【言の葉の庭】四つ星

監督・脚本:新海誠
声の出演:入野自由、花澤香菜、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:少年と年上の女性との出会いの物語だけど、ストーリー云々より、様々な雨がアニメならではの表現で繊細に描かれているのが超絶美しく、それだけでも十二分に観る価値があるんじゃないかと思った。個人的には今まで観た新海誠監督の作品で一番好きかもしれない。

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【渾身 KON-SHIN】三星半

監督・脚本:錦織良成
原作:川上健一
出演:伊藤歩、青柳翔、甲本雅裕、財前直見、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:隠岐諸島の古典相撲という題材ありきで、話は後づけという印象。佳作だとは思うんだけど、男性が地元のお祭りを通して自己実現して、女性はそれをただひたすらバックアップ、みたいな構造が出来上がっちゃっていることに対して、思春期の頃に常に感じていた山のような疑問がフラッシュバック……申し訳ないけれど、これは個人的には完全にアウトな領域に入ってしまい、感動するも何もなくなってしまった。

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【コン・ティキ】四つ星

監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
脚本:ペッター・スカヴラン
出演:ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、他
製作国:ノルウェー
ひとこと感想:ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールは、ポリネシア人の祖先は海を渡ったアメリカ・インディアンであるという説を立証するため、1947年、ペルーからポリネシアまで8000kmをいかだのコン・ティキ号で航海するという実験を行って成功したんだそうな。その後、DNA研究などでこの説自体は否定されたそうだけれど、学問というのはこういう仮定と立証とその破壊の繰り返しの死屍累々の上に成り立っているものだと再認識させられた。1度だけノルウェーに行ったことがあるんだけど、その時にコン・ティキ号博物館も見とくんだったな~。ムンク美術館とバイキング船博物館と国立美術館と民俗博物館で時間切れだったんだよ~。
実は、本物のコン・ティキ号では航海中に白黒フィルムを回していて、このドキュメンタリー【Kon-Tiki】はアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞まで獲っているらしく、何とYouTubeで見ることができる。それで本作を見た印象は「本当にこんな感じだったな~。よくできてるな~。」まぁ、記録映画の方にはヘイエルダール氏や乗組員の皆様の心の葛藤までは描かれていないし、カラーでもないので、ヘイエルダール氏の業績を振り返る意味も込めて本作を創った意義はあったと思うのだけれども。

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【最愛の大地】三つ星

監督・脚本:アンジェリーナ・ジョリー
出演:ザーナ・マリアノヴィッチ、ゴラン・コスティック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1990年代の旧ユーゴスラビアの内戦を描いた、かのアンジェリーナ・ジョリーさんの監督作。しかし、ムスリム人のヒロインやセルビア人の将校という配置がそもそも図式的だし、彼等が何考えてるのかも分かりにくく、ストーリーの都合だけでただ恣意的に動かされている感じ。ムスリムとセルビアの対立に無理矢理ロマンスを絡めようとして、中途半端で失敗してしまった感が否めない。旧ユーゴの状況を描いた映画ならもっといい作品がいろいろあったと思うから、わざわざこの映画を見ることはないんじゃないだろうか。ただ、アンジェリーナ・ジョリーが監督しているというだけで、旧ユーゴにまるで興味が無くてもこの映画を見る人は一定数いるのだろうから、全く意味がないという訳でもないんだろうけれど。

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【最後のマイ・ウェイ】四つ星

監督:フローラン=エミリオ・シリ
脚本:ジュリアン・ラプノー
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、他
製作国:フランス
ひとこと感想:クロード・フランソワ、通称クロクロ。あのフランク・シナトラの『マイ・ウェイ』の作曲者が実はフランスのスーパースターだったなんて知らんかった。大ヒット作となった【エディット・ピアフ~愛の讃歌~】みたいな路線を目指したかったのかもしれないが、【…ピアフ…】ほどのごっつい芯もなく、父親との関係などの描き方も中途半端で、実話ベースの話にどうしてもありがちなある種の冗長さから逃れられなかったのは残念。それでも、我儘で傲慢だけど極度の神経質という厄介極まりない性格でありながらも誰もが愛さずにはいられなかった、という主人公の天賦の才の在り方が余すところなく描かれていたのには、それなりに心を打たれた。

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【最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん 吉原最後の証言記録】三星半

監督:安原眞琴
出演:四代目みな子姐さん、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:インタビューをほぼそのまま撮っているだけなので、映画としてはそれほど盛り上がるものでもなかったのだが、記録としては大変貴重なものになると思う。いろいろな証言を交えながら芸者としての誇りや矜恃を語り、インタビュー後に亡くなられてしまわれたみな子姐さんに合掌。

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【サイド・エフェクト】四つ星

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
脚本:スコット・Z・バーンズ
出演:ジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタム、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:治験薬を巡る不正を描く物語で、「side effect」は「副作用」という意味。スティーヴン・ソダーバーグ監督は、前衛的すぎて訳分からない実験作もよく創るけど、こういう社会派サスペンスを創ると抜群に上手く、本作のストーリー・テリングも完璧で非の打ち所がない。ソダーバーグ監督は本作で映画監督から引退するとか仰っているそうだが、ほとぼりが冷めたらきっとまたやりたくなると私は信じているので、引退に飽きたらいつでも戻ってきて下さいね。

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【サカサマのパテマ】三つ星

監督・脚本:吉浦康裕
声の出演:藤井ゆきよ、岡本信彦、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:重力の異なる二つの世界の男の子と女の子の邂逅、という発想は面白い。けど、私はあの女の子の「あはっ」とか「うふっ」とか「えーっとぉ」とかいう独特の「しな」が強いアニメ声が気になって、肝心のお話に全然集中できなかった……。これは「しな」というか過度の「媚び」だよね。高畑・宮崎両氏がプロの声優さんをあまり使いたがらないというのがよく分かったような気がした。

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【桜並木の満開の下に】四つ星

監督・脚本:舩橋淳
共同脚本:村越繁
出演:臼田あさ美、三浦貴大、高橋洋、他
製作国:日本
ひとこと感想:最愛の夫を死なせた青年に惹かれていくというストーリーを丁寧に描いているけれど、元々のお話の無理さ加減がところどころ制御しきれていないように見える。そもそも、そんな人と同じ職場で働き続けるなんてできる?私ならどんなことをしてでも職場を変えると思うけど。相手の青年が彼女に惹かれるというのも唐突に映るし。それでもなおヒロインの臼田あさ美さんの女優力には見るべきものがあるので、映画ファンならチェックしておくべきだと思う。

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【ザ・マスター】四星半

監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:50年代のアメリカを舞台に、サイエントロジーをモデルにしたカルト宗教の内部を描く。俗的で卑近、行き当たりばったりで矛盾だらけ、でも不思議な人間的魅力と話術で人を魅きつける教祖(マスター)と、そのマスターに見出され、宗教に救いを見つけたかに見えていつまでも逡巡し続ける主人公。フィリップ・シーモア・ホフマン様とホアキン・フェニックス様がもうハンパなく上手くて神々しすぎる。これは現在のハリウッドが創り得る最高峰の芸術作品なんじゃないだろうか。

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【さよなら渓谷】四つ星

監督・脚本:大森立嗣
共同脚本:高田亮
原作:吉田修一
出演:真木よう子、大西信満、大森南朋、鈴木杏、井浦新、新井浩文、鶴田真由、木下ほうか、三浦誠己、他
製作国:日本
ひとこと感想:私は女性を強姦しなきゃエピソードを作れないような話は基本的に嫌いだ。強姦した相手とどうこうなるとかいう話、現実だったらほぼ絶っっ対にありえないので、一昔前ならともかく今現在になってまで男性の映画制作者連中がよってたかってこの手のファンタジーを作りたがるのは、いい加減やめてもらえないかと切に思う。でも本編が心に残ってしまうのは、真木よう子さんが全身全霊で演じる主人公が、脚本や演出の機微もあってギリギリ成立してしまっているからだろう。本作の製作関係者は全員、真木よう子さんに心から感謝を捧げるべきだと思う。
ところで、大西信満さんって「のぶみつ」さんじゃなくて「しま」さんだったのね。今度から間違えないようにします……。

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【さよならドビュッシー】四つ星

監督・脚本:利重剛
共同脚本:牧野圭祐
原作:中山七里
出演:橋本愛、清塚信也、ミッキー・カーチス、相楽樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:利重剛監督の作品は【クロエ】以来10年ぶりなんだそう。俳優としても活動を続けながら監督する機会を虎視眈々と狙っていたなんて偉いなぁ。本作は『あまちゃん』でのブレイク目前の橋本愛さんが主演で、全編出ずっぱり、作中では実際にピアノも演奏しているなど見どころ多し。また、ピアノの先生(岬洋介というピアニスト兼名探偵で、原作はシリーズ化されているのだそう)を演じる清塚信也さんも、さすが本職のピアニストだけあって演奏は上手いし、ちょっと謎めいた雰囲気も役柄にぴったり。ミステリー色はあまり強くないのでそこを推した宣伝展開にしなきゃいいのに、とは思ったが、音楽なるものについての考察を丁寧に綴ったなかなかの良作で、いろんな意味で見るに値する作品じゃないかと思った。

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【三姉妹 雲南の子】四星半

監督:ワン・ビン(王兵)
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス/香港
ひとこと感想:中国の再極貧地帯に暮らす幼い三姉妹を追い掛けたドキュメンタリー。母親は家を出て、父親は都会に働きに行ったきりで、まだ幼い長女が無邪気な下の子たちの面倒を見ながら家の仕事も全部引き受けているという状況には、中国の地方と都市の経済格差の問題が色濃く反映されている。けれど、余計なことを考えることすら知らずただ黙々と働く長女の姿には、世俗の問題を超越した人間の崇高さがただ映し出されていたような気がした。

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【3人のアンヌ】二つ星

監督・脚本:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、他
製作国:韓国
ひとこと感想:ホン・サンス監督はフランス筋の評論家からはやたらに評価が高いように思うが、ミニマムな世界を切り取る作家性がフランス映画と親和性があるんだろうか。でも私は、監督の“女性ってこういうものだ”的な決めつけがどうしても気持ち悪くて入っていけない。それはフランス映画界の至宝イザベル・ユペール女史を主役に据えたところでやっぱり同じだった……。

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【しあわせカモン】四つ星

監督・脚本:中村大哉
原作:松本哲也
出演:鈴木砂羽、石垣佑磨、他
製作国:日本
ひとこと感想:ろくでもない男に引っ掛かり、水商売で働かされ、薬に手を出し、後は延々と薬と手を切るための戦いの繰り返し……という主人公の母親。よくある話なのかもしれないけど、欠点だらけでも強くなくても、子供と共に暮らすことだけを夢見てとにかく懸命に生きようとする姿には泣けてくる。この母親に血肉を与えている鈴木砂羽さんがとにかく絶品。本作は2009年に創られてしばらくお蔵入りしていたらしいんだけど、こうして出会うことができて本当によかった!

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【ジ、エクストリーム、スキヤキ】四つ星

監督・脚本:前田司郎
出演:井浦新、窪塚洋介、市川実日子、倉科カナ、他
製作国:日本
ひとこと感想:「♪ダイナマイト持ったなら フリーウェイでジャンボリー 忘れないこと 集めて吹き飛ばそう……」ムーンライダーズの曲はどれもこれもとても映像的なのに、こんなにちゃんと引用してくれてる映画って今までなかったような気がする。(本作ではムーンライダーズの岡田徹さんが音楽を担当してムーンライダーズの曲の再アレンジも手掛けており、なんとチョイ役でご出演もなさっている!)監督の前田司郎さん(劇団の主宰者で【生きてるものはいないのか】【横道世之介】などの脚本家でもある)はきっといい人に違いない。本編の方は、青春の時間のゆる~い巻き戻しみたいな、オフビートコメディっぽい内容。細かいストーリーよりは雰囲気先行なのかもしれないが、【ピンポン】以来11年ぶりという触れ込みの井浦新さんと窪塚洋介さんのまったりとした息の合ったやりとりに何か引きつけられる。ちょっとニヒルで浮き世離れした浮遊感は、やっぱりムーンライダーズの遺伝子でもあるような気がするのだけれども。

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【地獄でなぜ悪い】四星半

監督・脚本:園子温
出演:長谷川博己、二階堂ふみ、國村隼、堤真一、星野源、友近、坂口拓、ミッキー・カーティス、他
製作国:日本
ひとこと感想:園子温監督が20年くらい前に書いた脚本が基になっているそうだが、そう言えば監督は、10年くらい前、【自殺サークル】【奇妙なサーカス】【紀子の食卓】といった血みどろスペクタクル系の映画を量産していたような。本作はもう笑ってしまうしかないようなおよそ現実離れしたバイオレンススプラッタコメディだけど、狂った國村隼さんも、狂った堤真一さんも、カッコイイ二階堂ふみさんも、終糸困り顔の星野源さんも、ファックボンバーズの面々もヤクザの皆さんも、みんなステキすぎる。彼等の言動が映画を撮ることの狂気に集約されていくんだけど、高らかに笑いながら地獄を駆け抜けていく狂った長谷川博己さんは、きっと監督自身の現し身なんだろうね。

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【四十九日のレシピ】四つ星

監督:タナダユキ
脚本:黒沢久子
原作:伊吹有喜
出演:永作博美、石橋蓮司、二階堂ふみ、原田泰造、岡田将生、淡路恵子、他
製作国:日本
ひとこと感想:継母を亡くしたヒロイン(永作博美さん)が実家に戻り、継母にお世話になった人達を交えて皆で四十九日の宴会を開くというのが大筋。自分がそうだから言うけど、「子供を産まなかった女の人生は空白ばかり」という継母さんの台詞、それはホントにその通りだと思う。けど、それならそれで自分のやるべきことをどれだけ見つけられるかがきっと肝心で、これだけ多くの人の人生に影響を与えることができたこの人の人生には意義があったと言えるだろう(……私とは大違いだ)。しかし、このヒロインもまた子供ができず、夫が浮気相手に子供を産ませたことに悩んでいたのだった。この期に及んで「選べない」とか言っているような男はくたばればいいと心底思ったのだが、ヒロインは優しすぎるだろ~。あと、岡田将生くんが日系ブラジル人というのはどうしても解せなかったので、彼を出す必要があるのなら設定を変更するべきだったんじゃないのかな。本作が遺作となった淡路恵子さんに今一度合掌したいと思います。

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【自縄自縛の私】四つ星

監督:竹中直人
脚本:高橋美幸
原作:蛭田亜紗子
出演:平田薫、安藤政信、津田寛治、綾部祐二(ピース)、馬渕英俚可、他
製作国:日本
ひとこと感想:新潮社のR-18文学賞というのは女性が性をテーマに書いた小説に対する賞として創設されたのだそうだが(第11回目からは趣旨を変更したそうだが)、本編はその映画化の企画らしい。自分を縄で縛る趣味に目覚めた女性の話だけど、趣味はまぁ人それぞれだし、存外マトモな落とし所にまとめ過ぎているくらいかもしれない。ともあれ、安藤政信さんのご出演は嬉しいし、変態が炸裂する津田寛治さんの怪演は見逃せないでしょう!

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【謝罪の王様】三星半

監督:水田伸生
脚本:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、井上真央、岡田将生、尾野真千子、高橋克実、松雪泰子、竹野内豊、荒川良々、濱田岳、岩松了、野間口徹、白井晃、小野武彦、嶋田久作、濱田マリ、津嘉山正種、他
製作国:日本
ひとこと感想:阿部サダヲ主演×宮藤官九郎脚本×水田伸生監督トリオの3作目。テンションの高いナンセンスな笑いに拍車が掛かっていたので、ナンセンス・コメディが大好きな人はいいんじゃないかとも思うけど、個人的にはナンセンスって苦手で……せめてもう少し体力のある時に見たかった。何だかエネルギーを思い切り吸い取られてしまい、ひたすら疲れました……。

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【シャニダールの花】四つ星

監督・脚本:石井岳龍
共同脚本:じんのひろあき、田中智章
出演:綾野剛、黒木華、伊藤歩、山下リオ、刈谷友衣子、古舘寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:爆裂パンク系の元・石井聰亙監督こと石井岳龍監督は案外植物系のモチーフを内在させていて、たまにこんな映画が突然変異的に出現してくるのが面白い。私は【エンジェル・ダスト】の南果歩さんとトヨエツさんの温室でのラブシーンをがっつり思い出してしまった。(今にして思えば、あれは私の映画鑑賞歴の中でも最も印象に残るラブシーンの1つだったような気がする。)しかし、石井監督によると「花はエロスと死の象徴であり、それに侵される男女を見つめ直すことは、生命力のあり方をとらえ直すこと」なんだそうだ。ええっそうなの?私は花=愛かと思いながら見てたんだけど。ともあれ、主演の綾野剛さんと黒木華さんは、これからも映画界で末永く活躍して戴きたいなと思った。

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【ジャンゴ 繋がれざる者】四つ星

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、クリストフ・ヴァルツ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:このテがあったか!のタランティーノ印のブラックスプロイテーション風ウェスタン。個性的な悪役を嬉々として演じるディカプーやサミュエル・L・ジャクソンが楽しいし、黒人のバウンティ・ハンターなんてカッコよくていいじゃない!……と無責任に思うのだが、まぁ勝手な歴史の“創造”(あるいは捏造)には違いないから、そこに一定の歯止めを掛ける人も必要で、スパイク・リー監督みたいな批判が出るのも仕方ないのだろう。正しい歴史はそれとして伝えていかなければならないわよね。

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【終戦のエンペラー】四つ星

監督:ピーター・ウェーバー
脚本:デヴィッド・クラス、ベラ・ブラシ
出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、羽田昌義、火野正平、中村雅俊、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:終戦後にマッカーサーの部下として昭和天皇の戦争責任を調査した知日派の情報将校ボナー・フェラーズ(実在の人物)が本編の主人公。中途半端な恋愛話なんぞ入れてあるのはハリウッド的ご愛嬌というか、まぁ要らないんじゃないかと思うけど(このお相手の日本人女性は実在の人物をモデルにした架空の人物らしい)、それ以外の部分では実によく調査してあると感じられるし、時代考証的な意匠も日本側の登場人物の台詞や行動も違和感を感じる部分は少ない。同じ日本を舞台にしたハリウッド映画でも【ラスト・サムライ】なんぞよりは100倍くらいマシな映画なんじゃないかと思う。今回は日本の芸能事務所をしっかり通したんじゃないかと思われる日本人キャストも本当に素晴らしいのだが、ことに西田敏行さんの流暢な英語にはびっくりさせられた。

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【自由と壁とヒップホップ】四つ星

監督:ジャッキー・リーム・サッローム
(ドキュメンタリー)
製作国:パレスチナ/アメリカ
ひとこと感想:そもそもパレスチナにヒップホップ文化が入ってて、しかも今やメジャーな表現方法だということ自体にびっくりした。しかもパレスチナのヒップホップ事情ってまたちょっと特殊みたいで、親の世代も理解があるし、学校では子供達にも教えたりなんぞしているし、建物がないんで古い劇場とか公民館みたいなところをライブ会場にして、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで老若男女が皆でこぞって聴きに来るという……。生活のあらゆる面で制約が多く、できることも限られている状況の中で、ヒップホップやラップは数少ない娯楽としてコミュニティ全体を巻き込む形で機能しているらしい。ラップはもともと持たざる者の音楽なのだと、これほど強く意識したのは【8Mile】以来のことかもしれない。しかし、こういう状況の中で、女性ラッパー達は更に強い抑圧を受けているという。なんていうか、いろいろと道のりは遠いなぁ。

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【10人の泥棒たち】三つ星

監督:チェ・ドンフン
脚本:イ・ギチョル
出演:キム・ユンソク、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン、サイモン・ヤム、キム・スヒョン、キム・ヘスク、他
製作国:韓国
ひとこと感想:韓国や香港のスターが大挙出演しているということだけど、登場人物が多過ぎ、大したことのないエピソードが数だけ多過ぎ。あと、韓国資本だから仕方ないかもしれないけど、サイモン・ヤム様などの香港チームの使い方とか勿体なさすぎじゃない?これってゴージャスなのかなぁ?私はあんまりノれなかったんだけど……。

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【樹海のふたり】三星半

監督・脚本:山口秀矢
出演:板倉俊之・堤下敦(インパルス)、遠藤久美子、中村敦夫、きたろう、烏丸せつこ、他
製作国:日本
ひとこと感想:二人で一人前みたいなディレクターのコンビがそれぞれの人生を見つめる、的なお話?これがどうして樹海だったのかという部分にはあまり必然性はないように思われ、とにかく樹海ってタイトルに入れたかったから適当にこしらえたという雰囲気がなきにしもあらず。逆に、樹海っていうことで話を始めたのなら、それ以外のエピソードを描くことはどこまで必要かなぁ。総じて枝葉の部分が少し多い気がして、もう少し整理した方がいいように思われた。しかしそれ以前に、主役のインパルスのお二人、特に堤下さんの方のシリアス演技がどうにも笑えてしまって……駄目だこりゃ。

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【上京ものがたり】三星半

監督・脚本:森岡利行
原作:西原理恵子
出演:北野きい、池松壮亮、木村文乃、谷花音、瀬戸朝香、黒沢あすか、岸部一徳、他
製作国:日本
ひとこと感想:同じ監督さんによる同じ西原理恵子さん原作の【女の子ものがたり】も確かイマイチだったような。西原さんの実体験に基づくエピソードはそりゃそれなりに面白いんだけど、どうもちぐはぐでうまく生かし切れていない感じ。この監督さんは“女の子”をどこか可愛いものとして捉えたがっているきらいがあって、実際にはもっとハードボイルドである女性の実像とはどこかずれているのではないだろうか。

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【少女は自転車にのって】四つ星

監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、他
製作国:サウジアラビア/ドイツ
ひとこと感想:本作は、サウジアラビア出身の女性監督(現在はアメリカ人と結婚してバーレーン在住)による大変珍しいサウジアラビア映画(ドイツとの合作)。生活に様々な制約が課されており、ましてや自転車に乗るなんてとんでもない!とされているサウジアラビアの少女が、自転車に乗ることに憧れて、様々な方法でお金を貯めて自転車を買おうとする話。話自体はさりげなく可愛らしいものなんだけど、人々はこんなふうに暮らしているのかだとか、女性はこんなことにまで制約があるのかとかいったサウジアラビアの日常を、しかも女性目線から見ることができるなんて、それだけで激レアで価値が高いと思う。しかし、日本だって、ここまで極端じゃないにしろ、一昔前までは女性はあれやっちゃ駄目、これはするべきじゃないって、もっといろいろ訳の分からない社会的制約があったような。そういう悪しき風習って、時間を掛ければ変えていくことができるものなのだと信じたい。

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【SHORT PEACE】四つ星

『オープニング』監督:森本晃司
『九十九』監督・脚本:森田修平
『火要鎮』監督・脚本:大友克洋
『GAMBO』監督:安藤裕章、脚本:石井克人、山本健介
『武器よさらば』監督・脚本:カトキハジメ
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:大友克洋親分とその仲間たちによる世界に冠たるハイ・クオリティ・ジャパニメーション!米国アカデミー賞の短編アニメ賞にノミネートされた『九十九』を始め、どれもこれもレベルが高い!『武器よさらば』だけは少し個人的な趣味には合わなかったけれど、現在の日本のアニメーションのポテンシャルを俯瞰するためには欠かせない1本なのではないかと思う。

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【少年H】四星半

監督:降旗康男
脚本:古沢良太
原作:妹尾河童
出演:吉岡竜輝、水谷豊、伊藤蘭、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、佐々木蔵之介、原田泰造、岸部一徳、國村隼、他
製作国:日本
ひとこと感想:妹尾河童氏(本名は肇(はじめ)さん)の少年時代についての自伝が原作で、神戸でテイラーをやっていて様々な外国人と交流があった父親と、キリスト教徒で博愛の精神を持つ母親の、当時としては珍しいくらいの広く公平な見識を持っていた両親に育てられた少年が、戦時下で様々な人間の誤りや矛盾を目の当たりにしながらも徐々に成長していく物語。同時に、この一家を通して「庶民の目線から見た戦争」を詳細に描いた作品でもある。降旗康男監督の手堅いお仕事も素晴らしいけれど、【ALWAYS 三丁目の夕日】【キサラギ】『リーガル・ハイ』などのヒット作を手掛けてきた古沢良太さんの脚本が本当に素晴らしい。水谷豊さん、伊藤蘭さんにとっても、本作は代表作の1つになるのではないだろうか。

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【しわ】四星半

監督・脚本:イグナシオ・フェレーラス
共同脚本:アンヘル・デ・ラ・クルス、ロザンナ・チェッキーニ
原作・脚本:パコ・ロカ
(アニメーション)
製作国:スペイン
ひとこと感想:スペイン製作のアニメーションなのだが、認知症とか老人施設って万国共通なんだな……としみじみ感じ入ってしまった。老後の現実的問題を扱った作品は、実写でも本数が限られてくると思うのだが、アニメというのは少なくとも私は初めて見た。こんなに救いのない、それこそしわい話(注:私が育った地方の方言では「世知辛い」とか「やりきれない」とか)は、どんなホラー映画より恐くてあまりにも正視しがたくて、実写ではもっと見てられないかもしれない。これをアニメというあまり生々しくなりすぎない形式でそっと呈示するのは、割と有効な方法なのかもしれない。

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【ジンジャーの朝 さよならわたしが愛した世界】四つ星

監督・脚本:サリー・ポッター
出演:エル・ファニング、アリス・イングラート、アレッサンドロ・ニヴォラ、クリスティーナ・ヘンドリックス、アネット・ベニング、ティモシー・スポール、他
製作国:イギリス/デンマーク/カナダ/クロアチア
ひとこと感想:欧米人の核への恐怖感って大体いつも観念的で、日本人から見たら表層的だな~と感じざるを得ない。でも、第二次大戦以降スウィンギング・ロンドン以前の昔風な空気感が残ってるイギリスで、人々は核戦争の可能性に本気で恐怖を感じていたのだろうし、この時代感覚を描写しているのは新鮮に映る。ヒロインのエル・ファニングさん(ダコタ・ファニングさんの妹)がめっさ可愛くて、ティーンエイジャーの繊細な感性を演じるのにぴったり。しかしこの父親、自分の娘の友達に手を出すとか論外だろ……。経験から言うと、自由でいたいとかほざいてるような男は大概、責任というものを引き受けるだけの度量のないアホでやんす。

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【人生、ブラボー!】三つ星

監督・脚本:ケン・スコット
共同脚本:マーティン・プティ
出演:パトリック・ユアール、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:若い頃に精子提供のアルバイトにうっかり精を出したら533人の子供が……というアイディアが先行してしまったかな?だからどうなの、といった感じで、それ以上の感慨が湧かなかったかったかもしれない。

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【人類資金】四つ星

監督:阪本順治
原作・脚本:福井晴敏
出演:佐藤浩市、香取慎吾、森山未來、観月ありさ、仲代達矢、岸部一徳、石橋蓮司、オダギリジョー、豊川悦司、三浦誠己、寺島進、ユ・ジテ、ヴィンセント・ギャロ、他
製作国:日本
ひとこと感想:旧日本軍が密かに残したと言われる“M資金”という都市伝説(そう言えば、ふた昔前くらいまでは“M資金詐欺”という言葉もたまに聞きましたね)をモチーフにした一作。実力派揃いの大好きな俳優さん達が演技合戦を繰り広げているのが見応えがあって(特に謎の秘書役の森山未來さんが素晴らしい!)力作だと思ったんだけど、ストーリーは良くも悪くもエンターテイメント寄りで、あちらこちらで予定調和的に流れているのがちと物足りなかった。なんというか、このテの陰謀の現場って実際はもっとエグいというか、草も生えないくらい寒々しいものだよね、多分。それと、アメリカ側のエージェントがヴィンセント・ギャロ一人だけってのもちょっとショボすぎ。こういうところにももっとリアルなスケール感が欲しかった。

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【スーサイド・ショップ】四つ星

監督・脚本:パトリス・ルコント
原作:ジャン・トゥーレ
(アニメーション)
製作国:フランス/ベルギー/カナダ
ひとこと感想:パトリス・ルコント監督の新作がアニメとは意外だったけど、監督は実は昔バンドデシネ作家だったらしい。自殺用グッズ専門店っていかにもフランスっぽい毒気が強くて、子供向けではないかもしれないけれど、独特の味があって面白い。しかしこの夫婦、子供3人作っといて未だにラブラブなくせに人生絶望してますとか、そりゃないでしょ(笑)。あと、あの長男の造形がもう有吉弘行さんにしか見えなくなってしまい、どうしても笑わずにはいられなくなってしまった……。

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【すーちゃん まいちゃん さわ子さん】三星半

監督:御法川修
脚本:田中幸子
原作:益田ミリ
出演:柴咲コウ、真木よう子、寺島しのぶ、染谷将太、井浦新、木野花、銀粉蝶、他
製作国:日本
ひとこと感想:雰囲気押しではあるけれど、日々地道に自分らしくあろうとする妙齢の女性達の悩みを丹念にすくい取り、それをここまで形にできる御法川修監督の手腕は大したものだと思う。この空気感に矢野顕子さんの『PRAYER』がぴったり嵌っていたのはよかった。ただ、選ばなかった方の人生の続きなんてもの、考えたって不毛なだけだと思うんだけどな。

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【スタンリーのお弁当箱】四つ星

監督・脚本・出演:アモール・グプテ
出演:パルソー、他
製作国:インド
ひとこと感想:最近ちょっと流行りの、ストーリー重視でミュージカルシーンの無いインド映画の秀作。独自のお弁当文化が発達しているインドで、家庭の事情でお弁当を持って来れない男の子のためにお弁当を分けてあげる子供達が超可愛い♪しかし、そんな子供達からなけなしのおかずをせびり取り、ブタのようにがつがつ食す気色悪い担任教師があまりにも不条理でちょっとブルーに……(この悪役教師が本編の監督で、主人公の男の子は息子さんなんだって)。まぁ、どんな子供達もそれぞれの背景を背負っているのだろうけれど、どの子も漏れなく幸せになってもらいたいものだと思った。

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【ストラッター】四つ星

監督・脚本:アリソン・アンダース、カート・ヴォス
出演:フラナリー・ランスフォオード、ダンテ・ホワイト・アリアーノ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アリソン・アンダース監督の【グレイス・オブ・マイ・ハート】は筆者のライフタイム・フェイバリットの1本だったりする。本作はクラウド・ファンディングとタランティーノ監督やガス・ヴァン・サント監督、コーエン兄弟らの支援により低予算で制作が実現したとのことで、やっぱり本国にもファンがいるんだね!本編は、ロックな人々のなんてことのない日常を綴ったなんてことのない内容なんだけど、80年代的なのどかなオフビート感が心地よくて懐かしいな~と思った。小さな悩みはあるけれど、基本的に安心で安全なお気楽極楽(byウゴウゴルーガ)な世界?今の世界からは失われて久しいものであるような気がする。

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【ストロベリーナイト】三星半

監督:佐藤祐市
脚本:龍居由佳里、林誠人
原作:誉田哲也
出演:竹内結子、西島秀俊、大沢たかお、小出恵介、丸山隆平、宇梶剛士、染谷将太、高嶋政宏、遠藤憲一、渡辺いっけい、三浦友和、武田鉄矢、田中哲司、生瀬勝久、津川雅彦、金子賢、石橋蓮司、鶴見辰吾、今井雅之、柴俊夫、他
製作国:日本
ひとこと感想:ドラマ版を見てないんでよく分かんないんだけど、本作はこの姫川さんと菊田さんという人達の関係性が結構キモなんじゃないんだろうか?ドラマ版のファンの皆さんはこの終わり方でOKなのかな?それとも、更なる続編を前提にしてるとかそういうことなの?まぁいいんだけど、それをわざわざ映画にする必要はあるんだろうか。

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【スヌープ・ドッグ ロード・トゥ・ライオン】三つ星

監督:アンディ・キャッパー
出演:スヌープ・ライオン(スヌープ・ドッグ)、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:スヌープ・ドギー・ドッグ先生がいつの間にかスヌープ・ライオンと改名してレゲエ・ミュージシャンになっていたとは。血で血を洗うギャングスタ文化に嫌気がさして、マリファナをキメてピースフルになりたかったらしい……と言われましても、はいそうですかと承ることしかできないのだが。それにしても、新しくレゲエの曲を作るようになってもそれなりにハイレベルな曲になるあたり、スヌープ先生はやっぱり一流ミュージシャンなんだなとは思った。

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【スプリング・ブレイカーズ】四つ星

監督・脚本:ハーモニー・コリン
出演:セレーナ・ゴメス、ヴァネッサ・ハジェンズ、アシュレイ・ベンソン、レイチェル・コリン、ジェームズ・フランコ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカの大学生の「スプリング・ブレイク」(春休み)ってそんなに滅茶苦茶好き放題やってるものなの?う~ん、日本のちょっとおバカな大学生がはしゃいじゃって迷惑行為に走ってしまったりするのと本質的にそんなに変わらんがな。それでもって、現状に対する閉塞感を打ち破り束の間の開放感(あるいは自由という幻想)を得るために「スプリング・ブレイク」にどうしても行かなければと思い詰めて強盗なんぞを働く女子大生達の話って……少しも共感することができないので、お説は承りましたと呆然と観察するくらいしかできねーな。ここが天国と言うけれど、これはそもそも現実じゃないんだからさ……ってことに彼女達は気づきたくもないんだろうけれど。
ハーモニー・コリン監督の映画を久々に見た気がするけれど、一応ちゃんとお話になってるというか、昔のようないい意味でも悪い意味でも混乱したような作風ではなくて、整理整頓されて小綺麗になってる印象を受けた。人間、生きていれば変化していくもんだな、とちょっとした感慨があった。

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【世界にひとつのプレイブック】四星半

監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル
原作:マシュー・クイック
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、クリス・タッカー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:家に帰ったら結婚式の時に使ってたスティーヴィー・ワンダーの『My Cherie Amour』が掛かってたら、そりゃロマンチックな気分になるわよねぇ。それで部屋の奥に入っていったら奥さんが他の男と浮気の真っ最中だったら、そりゃあブチ切れるわよねぇ。でもそのブチ切れ方がちょっと激しかったせいで離婚裁判に負けてしまうだなんて何て気の毒な……本作はそんな男性が主人公。この男性、普通よりちょっと極端な言動はあるけれど(例えばカッとしたら見境がなくなるとか、読んでいた小説が気に入らないと夜中に騒ぎを起こすとか)、根は割と真面目で一途で、例えば彼のお父さん(ロバート・デ・ニーロの名演!)なんかの方がよっぽど人格破綻者で、お母さんが立派だから何とかやってこれただけだったりして。こんな男性が出会ったのが、旦那に早世された寂しさからセックス依存症になり問題を起こしまくっている女性。滅茶苦茶な男と滅茶苦茶な女の滅茶苦茶なラブストーリー。これが滅茶苦茶面白い!ブラッドリー・クーパーさんとジェニファー・ローレンスさんという新たな才能のおかげで、滅茶苦茶な主人公の二人が画面上で何ともチャーミングに息づく。みんなギリギリのところで何とか持ち堪えているだけで、自分をいい形で許容してくれる人と出会えればなんとかやっていけるものなのかもしれない。みんな幸せになってね、と願わずにはいられなかった。
ジェニファー・ローレンスってどこかで聞いたことがあるような、と思ったら、かつてこのHPでも【あの日、欲望の大地で】と【ウィンターズ・ボーン】の2作品で言及していた。これらの映画ではまだ少女の役柄だったからすぐに気がつかなかったのは迂闊だったけど、本作では実年齢(当時22歳)より少し年長と思われる役ということもあり、すっかり大人の女性になっていてこれまたびっくり。彼女はもしかしたらジーナ・ローランズとかメリル・ストリープばりの大女優に大化けする可能性がある逸材だと思うので、よろしければこの2作品も是非チェックしてみて下さい。

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【赤々煉恋】二つ星

監督・脚本:小中和哉
共同脚本:山野井彩心
原作:朱川湊人
出演:土屋太鳳、他
製作国:日本
ひとこと感想:死後の世界とかあんまり信じてない私。もう死んじゃってる人間が主人公とか、その時点でついていけないし……。ましてや、演技的にはまだまだあまりお上手とは言えないお嬢さんのモノローグで繋いで雰囲気だけで押し切ろうとする展開の何に感動すればいいというの?もっとよく確かめて見に行くべきだったかなぁ。

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【セデック・バレ】四つ星

監督・脚本:ウェイ・ダーション(魏徳聖)
出演:リン・チンタイ、マー・ジーシアン、安藤政信、河原さぶ、他
製作国:台湾
ひとこと感想:戦前の台湾でセデック族という原住民族が起こした『霧社事件』という抗日暴動を血生臭くもダイナミックに描いた描いた歴史大作。彼等は「敵の首を狩ってこそ一人前」と目されるいわゆる「首狩り族」であり、“相手の血で自分を清めて虹の橋を渡り先祖の待つ地へ向かう”という観念がある。まー野蛮だわ、と現代の感覚なら思うけど、そこには彼等特有の歴史感覚に裏打ちされた決定的な世界観の違いが存在するから、それを尊重せずにただ力で押さえつけて矯正しようとしてもうまくいくもんじゃない。でも、セデック族を始めとする原住民族側にも日本側の警察官になった人や日本人の妻になった女性もおり、日本軍にも原住民族を理解しようと努める人もおり、敵だ味方だとそんなに簡単に割り切れるものじゃなかったりもする。そうした諸々の現象をかなり公平な視点から描こうと努めているところがいいなと思った。戦前の日本が海外で行った行為について、非難するべきことは非難すればいいと私は思うけど(法律上の補償とかはまた別の問題だけど)、認めるべきことは認めようとしてくれる人も比較的多いような気がするので、やっぱり台湾のことは少し贔屓目に見てしまうかもしれない。

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【ゼロ・グラビティ】四つ星

監督・脚本:アルフォンソ・キュアロン
共同脚本:ホナス・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
製作国:アメリカ
ひとこと感想:テーマはズバリ、重力。最後にグラビティを感じるまでの宇宙空間での浮遊感が本当に凄い。独りで死ぬのはいいけれど、重力のないところで死ぬのは絶対嫌だと心底思った……。宇宙飛行士の皆さんは、こんなふうになってしまうリスクも心のどこかで分かっていて志願するのだろうか。宇宙飛行士さんへの尊敬が10倍にもそれ以上にも膨らまざるを得なかった。

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【ゼロ・ダーク・サーティ】三星半

監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
出演:ジェシカ・チャステイン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:割と信頼していた某映画コメンテーターが激賞してたので、行くつもりがなかったのにうっかり見に行ってしまい、あまりにも何の感慨も湧かなかったのでこれまたびっくりしてしまった。まぁあまりにも予想通りの内容というか、アメリカの掲げる正義なんて今も昔もこの程度のものだよね。
どこの国へ行っても現地の状況などさておいてそこそこ設備の整った現地オフィスを作りその中でのうのうと仕事するし、少し仲の良かった同僚が殺されて一気に感情的になるとか完全に私怨だし。拷問なんて当然だし、本来であれば生け捕りにして裁判に掛けるべきであろう対象者だって最初っからそんなつもりはさらさら無くて殺す気満々だし。(どんな極悪人だろうと裁判で弁明させないと、同じ種類の犯罪の原因解明と再発防止に繋がらない。かつてはナチスドイツの高官にだって裁判をしただろう?でもアメリカは、そんな弁明すら世の中に一切流布させたくないから、弁明する機会なんて与えない。)自分が悪人だと思った人は検証を経ることもなく殺していいとか、どんな中世だ。どうしてそれを決める権限が自分だけにあると思うのか。
テロに暴力で報復することは無間地獄の入口にしかならないとか、そんな殺し合いの畜生道に陥ったって虚しいだけだとか、実際にやってみるまで分からないものなの?まぁ分からないからこそ実際にやってしまうのだろうけれど、アメリカは、20世紀中に世界のあちこちでそんな所業を続けてきたんだよね。テロは手段として完全に間違っているけれど、CIAのやってきたことは彼等とそんなに変わりないんじゃないの。
でもクライマックスでドヤ顔の軍人さんがアップになって華々しくファンファーレが流れたりしないのはこの映画のいいところで、証言から得られた“事実”を割と客観的に淡々と提示しているからこそ、何ら感慨も湧かなかった代わりに大して腹も立たなかったのだろうと思われる。それがかろうじてキャスリン・ビグロー監督の理性だったのだろうか。ともあれ今後は、この映画コメンテーター氏の言うことは話半分に聞くことにしたけれど。

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【戦争と一人の女】四つ星

監督:井上淳一
脚本:荒井晴彦、中野太
原作:坂口安吾
出演:江口のりこ、永瀬正敏、村上淳、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:坂口安吾の短編小説に、終戦直後に実際に東京周辺で発生した連続強姦殺人事件(小平事件)の話を盛り込んで創作した物語。戦争に背を向けて愛欲の世界に溺れるってちょっと【愛のコリーダ】みたい。日本軍の蛮行や天皇の戦争責任が一つのテーマとされていて、監督は「日本がやってきた、よその国を侵略し、植民地にして、殺したり、犯したりしたことをなきものにしようとする風潮だけは、絶対に許せないと思います。」と発言していることに、私は最初は少し今更感を感じてしまったのだが、例えば【ゆきゆきて、神軍】や【蟻の兵隊】や【鬼が来た!】や【キャタピラー】などの映画を見ている人達なんてごく少数な訳で、こうしたことは何度でも語り直されなければならないのだ、と反省した。
本作に関して言えば、戦争が不条理だからって自ら不条理と化す必要がどこにあるのかがあまりよく分からず、女の性を手前勝手に神話化したりブラックボックス化したりデウス・エクス・マキナ(万事解決ツール)化したりするのはまたかよ古いよ昭和かよと思ったけれど(いかにも荒井晴彦御大の好きそうなプロットだ)、江口のりこさんがそれを見事に肉体化させているのでこの映画は何とか成立している。江口さんステキ。江口さんにはもっともっといろいろな作品で活躍してもらいたい。
本作も【凶悪】の白石和彌監督と同様に若松孝二監督の弟子筋である井上淳一監督の作品。若松監督はお亡くなりになっても、監督の遺伝子を受け継ごうとする人々がいるということは嬉しいなあと思った。

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【ゼンタイ】四つ星

監督・脚本:橋口亮輔
出演:ワークショップに参加した俳優の皆さん
製作国:日本
ひとこと感想:以前、確かタモリさんの番組だったような気がするのだが、テレビで全身タイツフェチ=ゼンタイの存在を知った時の衝撃は忘れられない。頭全体から爪先までをすっぽり覆うタイツを着る?この人達は何が楽しくてこんなことをするのだろう……さっぱり分からなかった。本作はそんなゼンタイさん達をフィーチャーした、何と橋口亮輔監督の最新作。出演しているのは橋口監督が主催する演技のワークショップに参加していた人々ということだが、さすが演出力に定評のある橋口監督の門下生、有名俳優は皆無であるにも関わらず演技のレベルはすこぶる高い。彼等の会話劇のオムニバスによってゼンタイさんたちの心のヒミツがちょっとだけ分かった……かどうかは定かではないが。

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【千年の愉楽】四星半

監督・脚本:若松孝二
共同脚本:井出真理
原作:中上健次
出演:寺島しのぶ、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太、井浦新、佐野史郎、原田麻由、山本太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:若松孝二監督の遺作となってしまった本作。原作は中上健次氏で、中上氏が「路地」と呼んだ被差別部落に呪われるほどに美しく生まれつき死んでいった男達を、彼等を見守ってきた一人の産婆の目線から描いている。私は本来“血”とか“血筋”とかいった言葉は嫌いなんだけど、この映画の場合、いいとか悪いとかの区別なく、ただ命が紡がれて燃やされていくその系譜をそのような名前で呼び習わしているのだろう、と思った。舞台として選ばれた三重県尾鷲市須賀利町の昭和を思わせる景観がこの物語に何とも合っている。これから後の時代には、こんなふうに匂い立つような映画はきっともう誰にも撮れないんじゃないだろうか、と思った。

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【草原の椅子】四星半

監督・脚本:成島出
脚本:加藤正人、奥寺佐渡子、真辺克彦、多和田久美
原作:宮本輝
出演:佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、貞光泰風、小池栄子、中村靖日、黒木華、AKIRA、他
製作国:日本
ひとこと感想:中年になってからいきなり誰かから親友になりましょうと声かけられるとか、離婚後にワケありのきれーなおねーさんと首尾よく仲良くなっちゃうとかねーわ。あんな男の夢が詰まったようなラストも現実にはねーわ。でもまぁなんかグッときてしまったからいいことにする。「世界最後の桃源郷」と呼ばれるパキスタンの山岳地域フンザに出かけ、虐待を受けたせいで言葉がしゃべれなくなった子供を引き取る決心をする。これは、「大人であるとは責任を取ることを引き受けるということだ」と切々と物語る中年のお伽噺だ。この迷える中年男をじっくりと腰を据えて演じる佐藤浩市さんが何たって素晴らしいかったが、小池栄子さんと中村靖日さんが演じる激烈うんこカップル!も強く印象に残った。

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【そして父になる】四星半

監督・脚本:是枝裕和
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、黄升炫、中村ゆり、樹木希林、田中哲司、國村隼、風吹ジュン、夏八木勲、他
製作国:
ひとこと感想:エリートか何だか知らないが、人間の価値を年収でしか測れないタイプの人間で、実際に子供を育てたりとか家庭を構築したりとかいった面倒くさいことは一切放棄しているくせに、自分の仕事に韜晦して義務を果たしたつもりになっている男……いるいるこんな奴~。実際に何人か知ってる~。しかし、6歳の息子が産院で取り違えられた他人の子供だと判明した時、男の苦悩が始まる。この6歳という年齢が微妙で、実際にその子を育てた思い出が既に蓄積してしまっているし、子供自身の記憶や感情も無視できないものになっている。この子供達の扱いを巡って妻とは齟齬を来し、ずっと年収も低く俗物に見えた相手方の家族の父親の方が実は家庭人として格段に優れていることも見せつけられ、男は、自分が“出来損ないのパパ”だった事実や、目を背けてきた自分の過去にも向き合わざるを得なくなる……。優れたテーマの優れた筋書きを優れた役者が演じた名作なので、ヒットしたことは誠に喜ばしく、是枝(裕和)監督のネームバリューも上がったものよと思ったが、福山雅治さんという大きな勝因を忘れてた。まぁ福山さんにとっても、本作は代表作の1本になったのではないだろうか。尾野真千子さんや真木よう子さんも素晴らしかったけど、リリー・フランキーさんの役者としてのポテンシャルの高さには改めて目を見張らされた。

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【タイガー 伝説のスパイ】四つ星

監督・脚本:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン、カトリーナ・カイフ、他
製作国:インド
ひとこと感想:インド映画特集『ボリウッド4』の一編。主演のサルマーン・カーンさんはちょっとジョージ・クルーニーみたいでカッコイイし、インド映画で女性のアクションをこれだけ本格的に描いているのはおそらく初めて見たのでシビレた。しかし、“伝説のスパイ”というタイトルからして、主人公がスパイとして大活躍する映画なのかと思いきや、ほぼ全編、恋に落ちたスパイの逃避行劇だったので、いささかずっこけた(笑)。でも楽しかったからまぁいいや。

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【だいじょうぶ3組】四つ星

監督:廣木隆一
脚本:加藤正人
原作・出演:乙武洋匡
出演:国分太一、榮倉奈々、余貴美子、田口トモロヲ、安藤玉恵、渡辺真起子、根岸季衣、他
製作国:日本
ひとこと感想:乙武洋匡さんは何で先生を辞めちゃったのかな?と思っていたのだが、もともと杉並区の任期付教員として採用されていて、最初から期限が決まっていたんだね、成程。乙武さんの役柄を演じるのは乙武さん以外には不可能だと思うけど、これをドキュメンタリーではなく物語として成立させたのが面白い。(ドキュメンタリーの真実性というのもややこしい問題だから、かえって表現の自由度が低くなる場合があるもんね。)「みんな違ってだいじょうぶ」という科白には乙武さんの信条が凝縮されていると思うが、子供達の個性を尊重したい気持ちと、平等というの名の一律性を重んじる風潮との狭間で逡巡しながら子供たちとの絆を深めていく姿を誠実に描いているのがよかった。乙武さんもなかなか演技が上手くて意外だったけど、役者としての国分太一さん(【しゃべれども しゃべれども】とか)もやっぱりいい。これからも少しずつでも役者として露出する機会を増やしていってくれたらな、と思う。

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【大統領の料理人】三星半

監督・脚本:クリスチャン・ヴァンサン
出演:カトリーヌ・フロ、ジャン・ドルメッソン、イッポリト・ジラルド、他
製作国:フランス
ひとこと感想:故ミッテラン仏大統領は結構なグルメで、どうしても大人数仕様になってしまう官邸用料理が嫌で、官邸内にわざわざプライベート・シェフを雇っていたそうな。そんな実話を映画化した本作。そのプライベート・シェフは独特の自由な料理哲学を持つ女性だったそうで、元々あった厳格な官邸の厨房からの締め付けやら嫉妬やら嫌がらせやらでいろいろ苦労したらしい。実話にありがちな冗長さや不条理さで話が少しぐちゃぐちゃしていたのは残念だったけど、料理がどれもこれも美味しそうだったのは悪くないんじゃないかな。

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【旅する映写機】三星半

監督・脚本:森田惠子
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:日本中で消えつつあるアナログフィルムの映写機がまだ活躍している小さな映画館などの現場を追った作品。観客の減少や建物の老朽化など、いろいろな原因で日本全国から(東京でも!)映画館がガンガン減りつつあるけど、デジタル化への対応の可不可というのも大きな問題の一つ。(デジタル化って簡単に言うけど、フォーマットの統一化や旧作のアーカイビングの問題はどうなってるんだろ。)問題山積の日本映画界、10年後にはどうなってるのかな……はぁ。そんな時代の狭間で頑張っている皆さんを見ると本当に頭が下がる思いがする。

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【旅立ちの島唄 十五の春】三星半

監督・脚本:吉田康弘
出演:三吉彩花、大竹しのぶ、小林薫、他
製作国:日本
ひとこと感想:沖縄の離島で暮らす少年少女達。島に高校がないから彼等は十五歳で島を離れなければならない。その年で人生の方向性の第一段階を決断するって大変だけど、誰もがそのことを意識しながら成長するので、必然、誰もがその年で濃密な人生を生きている。日本中を探せばこんな子達も現実にいるんだろうな。この島の生活のテンポや距離感がよく、またヒロインの三吉彩花さんが抜群に素晴らしかった。

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【タリウム少女の毒殺日記】一星半

監督・脚本:土屋豊
出演:倉持由香、渡辺真起子、他
製作国:日本
ひとこと感想:この世は全部はプログラムだって私は分かってまーすって、そんなの当たり前だろ?そんなことごときに絶望して、それを言い訳にしてひねくれるとか何を甘えとるんじゃ!ガキをこじらせるのもたいがいにせぇよボケ、と言いたくなった。それでもそんな頭でっかちなお話を作りたいなら、ある程度の説得力を醸し出せるだけの演技力があるか、せめてもう少し雰囲気が合っている人に演じてもらわなければ話にならないだろう。あーこれは久々にやっちゃったと、映画館に来たことを後悔した。

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【探偵はBARにいる2 ススキノ交差点】三星半

監督:橋本一
脚本:古沢良太、須藤泰司
原作:東直己
出演:大泉洋、松田龍平、尾野真千子、ゴリ、渡部篤郎、田口トモロヲ、篠井英介、波岡一喜、近藤公園、他
製作国:日本
ひとこと感想:前作は思わぬ大ヒットになってよかったね。本作でも大泉洋さんと松田龍平くんのコンビぶりは相変わらずで、オノマチさんの力演もあって、お話自体はまぁまぁ面白かった、けれど、拳銃をぶっ放すシーンが普通に出てくるのには少し違和感があったのだが。いくら裏街道に片足を突っ込んでいるとはいえ、日本の一般ピープルには拳銃を撃つ機会なんてそうそうないはずだから、もう少しとまどいや逡巡があってもいいんじゃないの?日本製ハードボイルドを創造したいのであれば、もう少し違った描き方を工夫してもいいんじゃないかと思ったのだけれど。

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【父の秘密】四つ星

監督・脚本:マイケル・フランコ
出演:テッサ・イア、ヘルナン・メンドーサ、他
製作国:メキシコ
ひとこと感想:母親が死んで残された父娘が引っ越した先で、父親は仕事がうまくいかず、子供は陰湿なイジメに合う。このイジメというのがエグくて目もあてられない……。メキシコでもどこでもイジメってあるんだな。どうやらディスコミュニケーションがテーマらしいのだが、結局、最後まで何も交わらないという展開に、ひたすら心が寒くなった。

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【チチを撮りに】四つ星

監督・脚本:中野量太
出演:渡辺真起子、柳英里紗、松原菜野花、他
製作国:日本
ひとこと感想:長い間音信不通だった父親が病気で死に掛かっていると分かり、写真を撮ってきてくれと母親に頼まれる姉妹の話。他人と再婚した父親の家という異世界におっかなびっくり足を踏み入れる姉妹と、その後帰ってきた娘達を迎える母親の姿に、3人で肩を寄せ合って生きてきた歳月が見えてくるみたい。“喪の仕事”という軽くないテーマを扱っているのに、ユーモラスで爽やかな後味を残すのは素晴らしい。中野量太監督の初長編作らしからぬ演出力を大いに評価したい。たまたま遭遇してしまった舞台挨拶には監督の高校の同級生だというブラックマヨネーズの吉田さんがいらしていたのだが(吉田さんも本作をマジ褒めしていた)、今の時代、映画監督になるなんて至難の業なんだから、コネでも何でも使えるモノは何でも使ってどうぞガンバって下さいね!

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【チャイルドコール 呼声】三星半

監督・脚本:ポール・シュレットアウネ
出演:ノオミ・ラパス、クリストファー・ヨーネル、他
製作国:ノルウェー/ドイツ/スウェーデン

【隣人 ネクストドア】三星半

監督・脚本:ポール・シュレットアウネ
出演:クリストファー・ヨーネル、セシリエ・モスリ、ユリア・シャクト、アンナ・バッハ=ウィーグ、ミカエル・ニクヴィスト、他
製作国:ノルウェー/デンマーク/スウェーデン

ひとこと感想:どちらもノルウェーの鬼才ポール・シュレットアウネ監督によるサイコスリラー。若干先が読める展開かもしれないし、お話の整合性を厳密に求めてしまうとちょっとがっかりしてしまうかもしれないし、結局夢オチかよ!という点も気になったりはしたけれど、北欧独特のほの暗い精神性が薫る作風は嫌いじゃない。【チャイルドコール…】の方では、本家【ミレニアム】シリーズのリスベット役でお馴染みのノオミ・ラパスさんの違った側面も見ることができて、ちょっと楽しめた。

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【中学生円山】三星半

監督・脚本:宮藤官九郎
出演:草彅剛、平岡拓真、遠藤賢司、仲村トオル、坂井真紀、ヤン・イクチュン、他
製作国:日本
ひとこと感想:宮藤官九郎さんは、中学の頃は頭の中でこ~んな妄想ばかり描いていたんだって。成程。でも、大変申し訳ないのだけれど、女性の目線からすると、男子中学生の妄想って世の中で最もどうでもいいものなんじゃないのかな~。暴走した妄想が現実とリンクしていくところなんかは面白かったし、草彅くんの謎な雰囲気とか仲村トオルさんの妙な生活感とかいった見どころもいくつかあったけれど、この映画をどこまで人に勧められるかと言われるとちょ~っと限界があるような気がした。

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【つやのよる】四つ星

監督・脚本:行定勲
脚本:伊藤ちひろ
原作:井上荒野
出演:阿部寛、小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、真木よう子、忽那汐里、大竹しのぶ、田畑智子、羽場裕一、岸谷五朗、渡辺いっけい、永山絢斗、奥田瑛二、他
製作国:日本
ひとこと感想:“つや”さんという名の死にかけている女性に振り回された人々の群像劇。最初の夫やその愛人、ストーキングの相手やその恋人、元愛人の妻子、また現在の夫やその元妻と娘、等々。“つや”さんは最後まで登場しないが、それこそ艶っぽくて自由奔放な人だったんだろう。“つや”さんの周囲の人々を豪華キャストがそれぞれ丁寧に演じていてまぁ面白いけど、あくまでもふわっとした印象しか残らず、それ以上の記憶にはなりにくいかも。“つや”さんに最も振り回されている現在の夫役の阿部寛さんのやつれっぷりは色っぽくてなかなかステキだったけど、もっともっと狂おしさがあってもよかったかな?

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【デッド寿司】三星半

監督・脚本:井口昇
出演:武田梨奈、松崎しげる、津田寛治、手塚とおる、須賀貴匡、他
製作国:日本
ひとこと感想:乱れ飛ぶスシ・ゾンビ!井口昇監督作品を久々に見たら、アホアホに磨きがかかっていた……。やっぱり私にはこのB級テイストをどっぷり楽しめる回路は残念ながら無いんだなー、と思いつつ、何だか楽しそうだから、この際、井口昇監督には、どんどんこの路線を突き詰めて、世界のB級映画ネットワークのドンの一人になるべく邁進して戴きたいと思った。それにしても武田梨奈さんのアクションは素晴らしい。日本の宝。日本映画界は彼女という人材を他にも活かさない手はないよ。

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【天使の分け前】四つ星

監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラバーティ
出演:ポール・ブラニガン、他
製作国:イギリス/フランス/ベルギー/イタリア
ひとこと感想:暗くてどうにも救いの無かった前作の【ルート・アイリッシュ】とは正反対の明るめのノリが楽しく、いい意味でケン・ローチ監督らしからぬ映画。最初見て単純に、コレって窃盗じゃん !! と思ったけど……無駄金を持て余してる金持ちは、ビンボーな若者にセカンド・チャンスを与えてやれという監督の謎掛けなのか?更正といってもなかなか一筋縄にはいかない厳しい現実を反映してはいるけれど、愛する女性との間に子供を得て変わろうと奮闘する主人公の姿は美しかった。

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【天心】二星半

監督・脚本:松村克弥
共同脚本:我妻正義
出演:竹中直人、平山宏行、中村獅童、木下ほうか、他
製作国:日本
ひとこと感想:“日本近代美術の父”と言われた思想家・岡倉天心を描いた映画。しかし、すごく真面目に歴史的事実を並べるのに終始しているだけで、こういったことを岡倉天心に仮託したいといったような映画的な情熱は感じられなかった。画龍点睛を欠くというか、ときめきがない。そんな映画を2時間も見続けさせられるのはちょっとしたゴーモンみたいだった。

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【東京家族】四星半

監督・脚本:山田洋次
共同脚本:平松恵美子
出演:橋爪功、吉行和子、妻夫木聡、蒼井優、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作は【東京物語】にインスパイアされているけど、【東京物語】のリメイクではないと声を大にして言いたい。本作に較べると、小津安二郎監督の目線はかなりシニカルで「もう家族間の繋がりなんて失われている」という諦念がベースにあるのを感じるけれど、一周廻った今の時代に生きる山田洋次監督は、一見ドライで自己中心的な家族同士を描いているようで、心の底ではお互いに対するなけなしの思いやりを保ち続けて何とか繋がり続けている家族像を描いているような気がした。誰もがせわしなく生活に追い立てられざるを得ない時代に、これ以上人間を追い詰めて糾弾してどうするんだという。それは今の時代に生きざるを得ない私達一人一人に対する山田監督の愛なのだと思った。

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【トゥ・ザ・ワンダー】三星半

監督・脚本:テレンス・マリック
出演:ベン・アフレック、オルガ・キュリレンコ、ハビエル・バルデム、レイチェル・マクアダムス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:“巨匠”テレンス・マリック監督の前作【ツリー・オブ・ライフ】は、太古の昔から現代アメリカに至る一大黙示録的内容がアメリカの評論家筋からやたら評価が高かったけど、アメリカ人じゃない私にはイマイチ感動が薄い代物だった。で本作は、ただでさえ感動の薄いその前作を更に薄めて卑近な話にしたという印象。腰の据わらない男女の寄る辺ない彷徨を神サマっぽい視点から描こうとしたのかもしれないけれど、正直、どうでもいいような他人の惚れた腫れたを内省的なモノローグで延々綴られても、それこそどうでもいいとしか思えなかったのだが。それでもな~んか見入っちゃうだけの吸引力は確かにあるんだけど、最後の最後まで来てまたずっこけた……と自分のメモに書いてあったのだが、どんな内容だったのかすら最早さっぱり覚えてない。

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【図書館戦争】三星半

監督:佐藤信介
脚本:野木亜紀子
原作:有川浩
出演:岡田准一、榮倉奈々、田中圭、福士蒼汰、栗山千明、石坂浩二、橋本じゅん、鈴木一真、相島一之、西田尚美、嶋田久作、児玉清、他
製作国:日本
ひとこと感想:多くの作品が映像化されている有川浩さん原作の作品。何でも、主演の岡田准一さんと榮倉奈々さんは、雑誌「ダ・ヴィンチ」の読者投票で最も支持された仮想キャスティングだったのだそうで、この二人のアクション・シーンを含め、いろいろな本気さが随所に感じられるとても真摯に作られた娯楽作だとは思った。しかし、この特殊な設定は三次元化するといろいろとアラが見えて、限定された箱庭の中の遊戯以上のものには見えなくなってしまい、二次元化までが限界なんじゃないかと思えた。それでもなんでわざわざこれを実写化するのか?結局、ドンパチやアクションやラブコメを描くための素材が欲しいという以上に大した理由なんて無いんだろうな。
ともあれ、岡田さんのアクションについては、こんなんじゃまだまだもの足りない!岡田さんのこのムダに高い戦闘能力を、誰か何とかしてあげてくれないだろうか。例えば、ジェット・リーとかドニー・イェンとかトニー・ジャーとかを日本に招聘して三池崇史監督でアクション超大作を作るというのはどないだ。思い切って一回それくらい振り切ってみた方がいいと思うんだけど。

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【共喰い】四つ星

監督:青山真治
脚本:荒井晴彦
原作:田中慎弥
出演:菅田将暉、光石研、田中裕子、木下美咲、篠原友希子、他
製作国:日本
ひとこと感想:田中慎弥氏の芥川賞受賞作を青山真治監督が映画化した作品。舞台は以前奥田瑛二さんが監督した【風の外側】(今にして思えば安藤サクラさんのデビュー作!)でも舞台になってた下関で、やさぐれ、さびれた、泥臭い街の、更に下層の地域に暮らす人々を描く。主人公は、セックスの時に女を殴らずにはいられない暴力的な父親(光石研さんの名演!)と同じ血を持つことに脅える高校生(菅田将暉さんの名演!)なんだけど、私はどうもこの男の子の母親(田中裕子さんの名演!)の目線で見ていたきらいがあるかもしれない。ろくでもない男に振り回されながら、それでもどこかで受け入れていたものを、ついに臨界を越えてしまう出来事が起こってオトシマエをつける。それで母親自身は何の後悔も思い残すこともないんだろうけれど、これからも続く男の子の人生はどうなるの……。彼に祝福がありますようにと願わずにはいられない。およそ愉快なお話ではないけれど、あまりにも高い描写力に青山監督のポテンシャルを思い出し、近作では随一の出来だと思った。

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【トラブゾン狂騒曲 小さな村の大きなゴミ騒動】四つ星

監督:ファティ・アキン
出演:トラブゾン地方チャンブルヌ村のみなさん、他
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ
ひとこと感想:【愛より強く】【ソウル・キッチン】などが日本でも公開されているファティ・アキン監督はトルコ系ドイツ人。本作は、監督の両親の出身地であるトルコのトラブゾン地方のある村に無理矢理ゴミ処理場が建てられ、美しかった村がどんどん汚染されていく様子を逐一記録したドキュメンタリー映画。ここはひとつ、下手なことを言うより本作に関する監督のインタビューを引用してみたい。「建てて、建てて、成長して、成長して……それが環境にツケを払わせる。それがこの映画で描かれていることなのだ。」「ゴミ問題はつねに起きていたんだ。そこで政府は2000人しか住んでいない小さな村にトラブゾンから出るすべてのゴミを捨てることを決めた。そして、100万人がその政党に投票し、2000人だけが反対したのだ。」「僕がこの映画を作っている最中に福島の事故が起こった。ドイツでも原発の核汚染ゴミの処理場問題も起きていた。そして、こうした問題すべてのつながりに気づいた。」「世界は変わりつつあるんだよ。僕たちは資本主義の終焉に近づいているのだと思う。国も経済も毎年成長するというというのはウソだよ。資本主義では毎年成長することが重要。でも、もうこれ以上の成長はない。限界に達したのだ。さらなる成長を望めば、僕たちは破滅するだろう。」……成長を前提にした経済モデルも、成長のツケを環境に払わせるのも、もう限界に達しているのは世界共通の問題なのである。

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【トランス】三星半

監督:ダニー・ボイル
脚本:ジョー・アヒアナ、ジョン・ホッジ
出演:ジェームズ・マカヴォイ、ロザリオ・ドーソン、ヴァンサン・カッセル、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:催眠療法で無くした記憶を取り戻していったら、偶然と思っていたものが××で、自分は実は●●だった……。家人にストーリーを説明してて、改めてヘンな映画だなぁと思った記憶はあるが、細かい筋立ては最早ほとんど覚えていない。なんか最近、こういうストーリーのためのストーリーというか、凝りすぎててひねくれたプロットとか、ついていけないというか興味が湧かないのよね……。

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【ナイトピープル】三星半

監督:門井肇
脚本:港岳彦
原作:逢坂剛
出演:佐藤江梨子、北村一輝、杉本哲太、若村麻由美、他
製作国:日本
ひとこと感想:ちょーっと昔のハードボイルドっていう感じがするな~。特にヒロインの設定が古いというか、ベースが純愛なのに謎の女やらファム・ファタルやらを中途半端に入れ込もうとして、収集がつかなくなってる気がした。せっかく佐藤江梨子さんがいい感じなのにもったいない。でも、北村一輝さんが珍しくちょっと気弱なフツーっぽい男を演じてるのはちょっとステキだったかも!

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【嘆きのピエタ】三つ星

監督・脚本:キム・ギドク
出演:イ・ジョンジン、イ・ジョンジン、チョ・ミンス、他
製作国:韓国
ひとこと感想:見知らぬ女に母親と名乗られてコロっと騙されてなつく奴って……頭に何か湧いてんのかな?私はやっぱりキム・ギドク監督独特のナルシズムや女性に対する手前勝手な偶像化(もしくは甘え)が苦手で、どうしても相容れない。これは完全に相性の問題だと思うので、どうもすみませんと謝る以外どうしようもない。

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【夏の終り】四つ星

監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:瀬戸内寂聴
出演:満島ひかり、小林薫、綾野剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:瀬戸内寂聴先生の自伝的小説の映画化で、半同棲中の年上の不倫相手と、昔駆け落ちしたことがある年下の元恋人との三角関係を描く。理解できるかどうかと言えば全然分からないような気がするが、この濃密な空気感には圧倒されるし、満島ひかりさんの憂いを含んだ艶っぽい演技も必見レベル。重苦しい情念をみんな浄化してしまうような不思議な浮遊感のあるジム・オルーク氏の音楽の説得力が半端なかった。

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【なにもこわいことはない】四つ星

監督:斎藤久志
脚本:加瀬仁美
出演:高尾祥子、吉岡睦雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:見た後のこのもやもやとした感慨をどう表現していいか分からなかったのだが、このタイトルが「この世は怖いことだらけ」の反語なのだという瀬々敬久監督の素晴らしいコメント(公式ホームページより)を読んで得心がいった。この夫婦が些細な日常生活の手順を丁寧に繰り返す様は、まるで何かを振り払う儀式を延々と続けているかのように見えた。お話の中とはいえ、この人達には幸せになってもらいたいと願わずにはいられなかった。

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【25年目の弦楽四重奏】三星半

監督・脚本:ヤーロン・ジルバーマン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン 、クリストファー・ウォーケン 、キャサリン・キーナー 、マーク・イヴァニール、イモージェン・ブーツ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:パーキンソン病になったリーダーが引退しようとしている四重奏団、そこから始まる疑心暗鬼と中傷合戦……全く以て救いなし。お前ら何がしたいんだよ?大人だったら、認め合ったり許し合ったり、どうしようもなければ円滑に別れるとかの知恵は無いのか?とても成熟しているとは言い難い自称大人の皆さんのエゴのぶつけ合いがとてもよく描けているのかもしれないが、見ていて全く楽しくはなかったな……。

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【日本の悲劇】四つ星

監督・脚本:小林政広
出演:仲代達矢、北村一輝、大森暁美、寺嶋しのぶ
製作国:日本
ひとこと感想:そりゃ年金などの公金の不正受給はイカンけど。あまりに悪質な詐欺的なケースはごく少数で、それよりは、必要な人に必要な援助が行き渡らないことの方がよほど害があるって言うよ?そもそもの弱い人がまともに暮らしていけない社会であることに問題があるのに、社会のセーフティ・ネットをこれ以上貧弱にして、弱い人をますます逃げ場のない立場に追い込んでどうするの。予期せぬ病気とか失業とか家庭環境の変化とか、色々なことが重なってしまったら、今まで何とか暮らしてた人でも一寸先はどうなるか分かったものではないのに。この映画の親子を非難することができたりするような人達はきっと、生まれた時から今まで順分満帆で本当に何一つ傷のない人生を送ることができている超ラッキーな人達か、まだ自分の力では何一つ成し遂げたことのない人達なのだろう。私はそのようなおめでたい人達とはあまり関わり合いになりたくはない。

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【熱波】三星半

監督・脚本:ミゲル・ゴメス
共同脚本:マリアナ・リカルド
出演:テレーザ・マドルーガ、ラウラ・ソヴェラル、アナ・モレイラ、カルロト・コッタ、他
製作国:ポルトガル/ドイツ/ブラジル/フランス
ひとこと感想:えーっと、植民地暮らしで退屈した女が不倫したという過去の出来事を探る話ってことでいいのかな?シネフィルの皆様が喜びそう雰囲気や空気感はあるけれど、どうもいまいち乗り切れなかったのは、このありふれた感じのストーリーのせいではないだろうか。マルグリット・デュラスが監督した【インディア・ソング】を記憶の彼方でうっすらと思い出したのは、勝手に人の国にやって来て現地の人達をエラソーに搾取しながら何しとるんじゃという、能天気な植民地趣味への反感みたいなものを本作にもちょっと感じたからかもしれない。

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【眠れる美女】四つ星

監督・脚本:マルコ・ベロッキオ
出演:トニ・セルヴィッロ、イザベル・ユペール、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:2009年にイタリアで実際にあった尊厳死にまつわる事件(長年植物状態だったエルアーナ・エングラーロさんという女性の家族が延命措置停止を訴えて最高裁に認められたのに対し、ベルルスコーニ首相ら保守派が延命措置続行法案の強行採決を画策したが、法案成立前に女性が死亡した)に着想を得た、国会議員の父と娘、自殺願望を持つ女と医師、植物状態の娘を看病する女優という3つの物語のアンソロジー。不勉強で知らなかったのだが、イタリア国内では大規模なデモなどもあったようで、相当大きな事件だったらしい。こうした話に明確な答えなど出ないのかもしれないけれど、自分が実際に何らかの形で当事者になるのでなければ想像力を広げて考えてみるしかなく、こうした映画はそのよすがを与えてくれるのかもしれない。

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【脳男】四つ星

監督:瀧本智行
脚本:真辺克彦、成島出
原作:首藤瓜於
出演:生田斗真、松雪泰子、江口洋介、二階堂ふみ、太田莉菜、大和田健介、染谷将太、光石研、甲本雅裕、小澤征悦、石橋蓮司、夏八木勲、他
製作国:日本
ひとこと感想:生まれつき感情を持たない殺人の英才教育を受けたサイボーグの如き青年。こんな荒唐無稽な設定を成立させているキャストの力量がスゴイ。特に、超難役である主役をこなす生田斗真さんのニュートラルな透明感は特筆すべきだし、他の 3人のサイコパス、二階堂ふみさんや太田莉菜さんのぶっ飛び加減や染谷将太さんの不気味さもいい。(太田莉菜さんって松田龍平くんの奥さんだよねぇ……松田一家恐るべし。)必ずしも全ての展開に納得できた訳ではないけれど、最後まで見入ってしまうドラマに創り上げている瀧本智行監督の手腕は評価すべきだろう。それにしても『21世紀の精神異常者』は名曲だと改めて思った。最近のあの邦題は酷すぎだけど。

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【ノーコメント by ゲンスブール】四つ星

監督:ピエール=アンリ・サルファティ
出演:セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン、ブリジット・バルドー、アンナ・カリーナ、ジュリエット・グレコ、バンブー、ヴァネッサ・パラディ、シャルロット・ゲンスブール、他
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:先年亡くなられたフランスのスーパースター、セルジュ・ゲンスブールのドキュメンタリー。様々な時代の楽曲や映像を網羅的に使い倒しているので、権利関係をクリアするだけで膨大な努力を要したらしい。全編でゲンスブール本人の生前の声を使用しているのもポイントが高く、これはゲンスブールのドキュメンタリーの決定版になるんじゃないかと思う。そもそも、ゲンスブール様はロシア系ユダヤ人であり(両親がロシア革命時にパリへ逃げてきた移民だったのだそうで、元の名前はルシアン・ギンズブルグだった)、父親もアーティストで、自身はボリス・ヴィアンのシャンソンがアーティスト活動のルーツになったとか、知らないことばかり。大観衆が彼の歌を大合唱ししているシーンでは、彼がフランスの聴衆にどれだけ愛されているのかを改めて感じた。月並みだけど、彼は文化的イコンとして、フランス文化の中の彼のためだけに用意された玉座にこれからも君臨し続けるのだろう。

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【ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの】四つ星

監督:佐々木芽生
出演:ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:公務員なのに全米有数の現代美術コレクターになったヴォーゲル夫妻のドキュメンタリー【ハーブ&ドロシー】の続編。その後、ヴォーゲル・コレクションは5000点近くに達し、ナショナル・ギャラリー1館だけでは収蔵しきれないと判明したため、50×50(フィフティ・バイ・フィフティ)というプロジェクトによって50州の50の美術館に50作品ずつ寄贈することに。夫妻の当初の希望通り、コレクションを散逸させることなく1箇所に収蔵するべきという考え方ももっともだけれども、こうした方が作品が人々の目に触れる機会も増え、かえってよかったのではないだろうか。コレクションの形も家族の姿も変わっていってしまうけれど、二人が成し遂げた仕事はこれからも何らかの形で人々に影響を与えていくに違いない。

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【ハーメルン】三星半

監督・脚本:坪川拓史
出演:西島秀俊、倍賞千恵子、他
製作国:日本
ひとこと感想:取り壊されることになった山奥の元小学校に集う人々。正直、この静かすぎる空気感はあまり得意じゃないかもしれないけど、この奥ゆかしさがこの映画の良さでもあるのだろう、と思った。

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【箱入り息子の恋】四つ星

監督・脚本:市井昌秀
共同脚本:田村孝裕
出演:星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳、他
製作国:日本
ひとこと感想:女性経験なしで両親と同居している、真面目一途な35歳公務員。普通に考えたらちょっとキモい設定としか思えないが、これが爽やかな純愛ものになるなんて何かサギ。星野源さんの存在感に説得力がありすぎる。お見合いをきっかけにして主人公と愛を育んでいく盲目の女性を演じた夏帆さんもいい。最近ではテレ東の深夜ドラマ『みんな!エスパーだよ!』で拝見したのだが、最近になって演技が一皮も二皮も剥けてきた感があるので、これからもますますのご活躍をお祈りしたいと思います。

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【パシフィック・リム】四つ星

監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
共同脚本:トラヴィス・ビーチャム
出演:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、ロン・パールマン、芦田愛菜、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:大いなる自然の脅威の化身である怪獣に対し、叡智を結集しロボットを作って対抗する人類……。ギレルモ・デル・トロ監督は本作を“モンスター・マスター”レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧げていたけれど、迫り来る怪獣と次々と戦う感じは、個人的にはどちらかというとウルトラマンなんかの方を強く思い出した。まぁ個別のどの作品と言うよりは、人類がこれまで培ってきた特撮文化の総ての流れがこの映画に結実しているのだろう。どうして日本人にはこの映画を創れなかったのか?と歯噛みするような気持ちがちょっぴりないでもなかったが、日本の特撮文化の遺伝子がメキシコ人のオタク監督の中に蓄積されてハリウッドで花開いた姿は、それはそれで麗しいような気がした。

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【はじまりのみち】四つ星

監督・脚本:原恵一
出演:加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア、濱田岳、斉木しげる、光石研、濱田マリ、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作は。【クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲】が高い評価を受けた原恵一監督の初めての実写映画で、松竹による木下惠介監督の生誕100年プロジェクトの一環として製作されたそうだ。木下監督の【陸軍】という映画の回想シーンが少し長過ぎたように思った以外は(映画の性格を考えればそれも仕方ないか)、これが初めての実写作品とは思えない、まるでベテラン監督さんのような味わい深い作品だった。人間の営みをただ穏やかに粛々と見つめる木下監督のあの作風は、思慮や思いやりや奥ゆかしさに溢れた、昔の日本の理想像を更に美化したような家庭環境があったからこそ生まれたのかもしれない。(なおかつ表現という特殊な仕事に対して理解があるなんて最高ですやん。)昔の自分にはこれが叡智だとは分からなかったけれど、監督の作品を今見直せばいろいろと発見があるかもしれないね。

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【始まりも終わりもない】三つ星

監督・脚本:伊藤俊也
出演・原案:田中泯
製作国:日本
ひとこと感想:いろいろな映画で独特の存在感を放つ田中泯さんは舞踊が本業。本作は田中泯さんによる舞踏で描く叙事詩、ということなんだけど、残念ながら、舞踏の系統は何度見てもどうも理解しきれないみたい……。田中さんは大好きなんだけど……う~ん(悲)。

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【ばしゃ馬さんとビッグマウス】四つ星

監督・脚本:吉田恵輔
共同脚本:仁志原了
出演:麻生久美子、安田章大、岡田義徳、他
製作国:日本
ひとこと感想:脚本家のスクールに集った人々を通して、夢を諦めるというちょっとビターな話をコメディタッチでサバサバと描く。諦めたくないなら別に諦めなくていいじゃん、とも思うのだが、本人もどこかで分かっていて意地の引っ込めどころを探しているのであれば、どこかで折り合いをつける必要もあるのだろう。脚本家志望の面々の人物描写が面白く、特にばしゃ馬さん(麻生久美子さん)とビックマウス君(安田章大さん)の恋愛関係になりそうでならない掛け合いが秀逸だった。

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【ハッシュパピー バスタブ島の少女】四つ星

監督・脚本:ベン・ザイトリン
原作・共同脚本:ルーシー・アリバー
出演:クワベンジャネ・ウォレス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカ南部の湿地帯で、細々と暮らしている人々のもとに大嵐がやってくる……。もともと社会と相容れなかった人々が、絡め取られることをよしとせずに生きる場所として選んだ島だから、暮らしぶりは貧しくて、衛生状態なんかにも甚だ疑問があっても(普通の日本人ならおそらく裸足で逃げ出すレベル……)、2005年のカトリーナ台風を思わせるような嵐に破壊されようとも、皆がこの場所で暮らすことに執着する。父親を亡くして自立せざるを得なくなる少女の目線でお伽噺風に描かれているけれど、ここには、小綺麗で窮屈なスタンダードの中に人々を囲い込んで飼い慣らし管理しようとするグローバリズムと、そこから落ちこぼれて打ち捨てられた人々との確執の物語が色濃く描かれているのではないかと思った。しかし、グローバリズムの最も強力な使徒でありお膝元であるはずのアメリカという国でこういう映画が作られるのだから、一筋縄じゃいかないと思う。

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【パリ猫ディノの夜】四つ星

監督・脚本:アラン・ガニョル
共同監督:ジャン=ルー・フェリシオリ
声の出演:ベルナデット・ラフォン、ブルノ・サロモネ、ドミニク・ブラン、他
(アニメーション)
製作国:フランス/オランダ/スイス/ベルギー
ひとこと感想:いわゆる日本のマンガやアニメにはないタイプの個性的な絵柄だけど、しばらく見てると慣れてきて可愛くなってくるので、世界にはいわゆるアニメ絵以外のアニメもあるんだよーと子供に教えてあげるにはいいかもしんない。ストーリーも、パリの女警視と少女の母子家庭と青年怪盗の家を行き来する猫の話ってなんだかロマンチックで、お話が進むにつれより大仕掛けで予想外の展開を見せるのが秀逸。これは是非とも見といた方がいいんじゃないかと思う。

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【ハンナ・アーレント】四つ星

監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:バルバラ・スコヴァ、他
製作国:ドイツ/ルクセンブルク/フランス
ひとこと感想:政治哲学者のハンナ・アーレントが主人公。元ナチスのアイヒマンの裁判傍聴録において“悪の凡庸さ”(悪の権化のような存在が悪を成すのではなく、思考停止して自分の義務を果たすだけの小役人的行動の帰結が悪となった)を喝破したくだり、また、ユダヤ人の一部の長老達の判断がナチスの所業に結果的に加担することになってしまった(そこまで酷い結果を想定できずにナチスに一時的に従うようコミュニティの人々に促したりしたのだろう)ことを指摘して大批判を浴びるくだり。政治哲学に詳しい人ならこれくらいのことはご存知なのだろうが、知らなかったので勉強になった。被害者はどこまでも神聖で侵すべからざるイノセントな存在で、彼等へのせめてもの償いとして巨大な悪魔を徹底的に憎まねばならない、という感情が先行して大勢を占めていた時代に、理性の力で問題を分析した意義は大きかった。なぜなら、悪の真の正体が分かっていなければ、将来また同じ過ちを犯してしまうかもしれないから。それでも、残念ながら人間は進化してなくて、この世は凡庸な悪だらけで、自分も日々同じ轍を踏んでいるのかもしれないが。

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【ビザンチウム】四つ星

監督・脚本:ニール・ジョーダン
原作・共同脚本:モイラ・バフィーニ
出演:シアーシャ・ローナン、ジェマ・アータートン、ケレイブ・ランドリー・ジョーンズ、サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:ニール・ジョーダン監督の映画も随分久しぶりな気がするな~と思って調べてみたら、2007年のジョディ・フォスター主演の【ブレイブ・ワン】以来だった。(この間、WOWOWで放送した歴史ドラマとDVDスルーの映画があったみたい。)本作はざっくり言えば【インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア】の女性版みたいな作品と言えばいいだろうか。母娘の吸血鬼に追い手がかかるサスペンス的展開に、親離れ・子離れといったテーマも絡む。決して大作ではないかもしれないけれど、何だか好きな愛すべき作品。とにかくニール・ジョーダン監督が健在で嬉しい限り。

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【ひまわりと子犬の7日間】四つ星

監督・脚本:平松恵美子
原作:山下由美
出演:堺雅人、中谷美紀、でんでん、若林正恭(オードリー)、近藤里沙、藤本哉汰、吉行和子、夏八木勲、小林稔侍、他
製作国:日本
ひとこと感想:山田洋次監督の愛弟子・平松恵美子監督のデビュー作で、宮崎県の保健所で実際に起こった出来事をもとにしたストーリーなのだそう。いきなり7日間の話じゃなくなるのになんでこのタイトルなの?とか、あのぬいぐるみの犬は手抜きすぎじゃない?とか疑問に思う点もなきにしもあらずだけど、堺雅人さんや中谷美紀さんなどのさすがの好演もあり、マイルドな描写ながら犬猫の殺処分の問題が比較的きちんと描かれているところに好感が持てた。あとオードリーの若林さん(←割とファンです)も、ドライだけど根は悪い奴じゃない今時の若者をしれっと演じていて、なかなかいい線ついた起用だなと思った。

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【百年の時計】三星半

監督:金子修介
脚本:港岳彦
出演:木南晴夏、ミッキー・カーチス、他
製作国:日本
ひとこと感想:香川で先行上映されたというご当地映画。地元の琴電こと琴平電鉄をモチーフに、ヒロインの学芸員が年老いたアーティストに回顧展を持ちかけるという切り口はちょっと面白かった。けれど、たくさんの人達の協力を仰ぐことになるご当地映画は、運命的に、手堅く大人しい“いい映画”の領域を超えられないことが多く、本作もその枠内に留まってしまった感があるかもしれない。ただ、【20世紀少年】の小泉響子役で注目された木南晴夏さんを主役に抜擢したのは慧眼で、彼女の新たな魅力を見ることができたのは嬉しかった。

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【ビル・カニンガム&ニューヨーク】三星半

監督:リチャード・プレス
出演:ビル・カニンガム、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ニューヨーク・タイムズ誌で50年以上ファッション・フォトグラファーを務めるビル・カニンガム氏を追ったドキュメンタリー。カーネギーホールの上にある古い小さな部屋に住み、マンハッタン内のどこへでも自転車で出かけていってひょいっと写真を撮るカニンガム氏は、ニューヨーク的なるものの番人というか、仙人のような存在だなぁと思った。
しかしカニンガム氏は、まだまだお元気とはいえ、もうかなりの高齢である。カニンガム氏やウディ・アレン監督(最近はもうニューヨークものは撮ってないけどね)のような方々が鬼籍に入られてしまったら、私達が古き良きニューヨークに対して抱いているようなある種のイメージは本当にもう過去のものになってしまうのだろうかと、少し寂しく感じた。

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【ファッションを創る男 カール・ラガーフェルド】三つ星

監督:ロドルフ・マルコーニ
(ドキュメンタリー)
出演:カール・ラガーフェルド、他
製作国:フランス
ひとこと感想:以前、カール・ラガーフェルドらしき人を見掛けたことがある。帝国ホテル近くのガード下に、黒Tシャツに黒パンツというシンプルな格好なのにやたら垢抜けた外国人男性の一群がいて、そこだけ小綺麗な異空間みたいになっていてあれ~何だろ?と思っていたら、その真ん中に白髪を後手に縛った黒サングラスのあの風貌の御仁がいたのだった。彼は今まで直接見かけたことがある有名人の中で一番神々しい存在だったかもしれない。
そんな興味もあって本作を見にいったのだが、事実の羅列に終始している印象で、正直、映画としてはあまり面白くなかった。ラガーフェルド氏の仕事に容赦ない厳しい完璧主義者ぶりは垣間見えたのだけれども。

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【フィギュアなあなた】四つ星

監督・脚本・原作:石井隆
出演:柄本佑、佐々木心音、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作は石井隆監督自身が20年前に描いた劇画で、人形愛というテーマは一周回って今の時代に合っているかもしれない。本作は、人形というかラブドール役の佐々木心音さんの事務所から、演技経験に乏しい彼女を活かす企画としてオファーがあったらしい。ラブドールを愛するという主人公の役柄は、男優さんにとっても結構リスキーじゃないかと思うのだが(事務所によっては速効断られるらしい)、そこはさすが柄本家長男の佑さん、納得ずくの演技は堂に入ったもの。結果、なかなか硬派な見応えのある映画に仕上がったのではないかと思う。

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【47Ronin】二つ星

監督:カール・リンシュ
脚本:クリス・モーガン、ホセイン・アミニ
出演:キアヌ・リーヴス、真田広之、柴咲コウ、浅野忠信、菊地凛子、赤西仁、田中泯、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:まーどうしたってジャパニーズじゃなく、サムシング・ライク・ジャポネスクといったところ。日本だけじゃなく、あまねくアジアのいろんな文化の意匠を適当に混ぜ合わせて手前勝手に食い散らかしてる感じ。こんなのを作って日本文化に着想を得てるとか言わないで欲しいなぁ。こういうのって一番誰からも共観を得られないんだよね。字幕も中途半端に忠臣蔵に寄せたような訳し方にせずに、いっそキワモノ色を強めてアサノとかキラとかショーグンにしときゃいーんだよ。その辺りの日本の宣伝会社の戦略も大間違い。何もかもがあまりにもどっちつかずで、見てると気持ち悪くなってしまって疲れること夥しい。俳優さん達はただ仕事として受け入れてやってるだけだと信じたいけれど。やっぱ見るのはやめときゃよかったなーとただひたすら後悔した。

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【フォンターナ広場 イタリアの陰謀】三星半

監督・脚本:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:【輝ける青春】が日本の映画関係者の間でも評価が高かったマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督作品が、1969年にミラノで起こったイタリア最大の未解決事件「フォンターナ広場爆破事件」について描いた映画。しかし私は、主要登場人物だけで30人近くもいるという人間関係が覚えられず、あらすじにも全くついていけずで、途中で完全に挫折してしまった……すみません!アホでごめんなさい!しかし、思い切り言い訳してしまうけど、これはおそらく、この物語の背景となるイタリア現代史やイタリアの国内事情にかなり詳しくて、背後関係の予備知識をあらかじめ相当持っている人じゃないと難しいんじゃないのかな……。例えば、日本の昭和時代の国内政治の実話を、たくさんの人物を登場させて映画化したとすると、外国の人から見ると相当分かりにくいんじゃないだろうか。

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【武士の献立】四星半

監督・脚本:朝原雄三
共同脚本:柏田道夫、山室有紀子
出演:上戸彩、高良健吾、西田敏行、余貴美子、夏川結衣、成海璃子、柄本佑、緒形直人、鹿賀丈史、他
製作国:日本
ひとこと感想:西田敏行さんの演じた舟木伝内、高良健吾さんの演じた舟木安信は、加賀藩に本当に実在した“包丁侍”で、その献立書が今に残されているほど高名な人物だったらしい。そんな史実をうまくアレンジした本作は、エンターテイメントとして非の打ち所のない出来だったと思う。俳優陣もどの人も素晴らしかったけど、特にヒロインの上戸彩さんが光っていた。ご結婚されて落ち着かれたことが仕事にもいい影響を与えているように思うのだけれど、これからも更にいろんな役柄に挑戦していって戴きたいなと思った。

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【ブッダ・マウンテン 希望と祈りの旅】三星半

監督・脚本:リー・ユー
共同脚本:ファン・リー
出演:シルヴィア・チャン、ファン・ビンビン、チェン・ボーリン、フェイ・ロン、他
製作国:中国
ひとこと感想:原題は【観音山】なのだそうだが、四川だけじゃなく重慶や台北にもある場所を指すのだそうで、祈りの場としての象徴的な意味合いからつけられたのだそう。四川大地震って日本ではそこまでは大きく報道されていなかったような気がするんだけど、日本各地の大地震と同じような大事だったんだなぁと改めて思った。震災の傷に若者たちの心情を重ね合わせた物語は、そんなに簡単に分かったと言えるようなものではないかもしれないけれど、彼等の再生の道が少しでも明るい方向に開けますようにと願う他なかった。

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【舟を編む】四星半

監督:石井裕也
脚本:渡辺謙作
原作:三浦しをん
出演:松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、加藤剛、小林薫、渡辺美佐子、池脇千鶴、伊佐山ひろ子、黒木華、鶴見辰吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:院卒のぺーぺーでコミュニケーション不全気味の言語オタクの主人公が、辞書の編集には意外な才能を発揮して、いつしかその中心人物となり、やっと辞書が出来上がる20年後には素晴らしい妻や同僚を持つマトモな社会人になっていた。辞書編纂って20年越しの大事業だというのも驚きで、そりゃ関わる人々の人生も大きく変わるはずだ。目の前の人間との会話にも不自由していたような人物が、仕事に携わることで成長していく。仕事って偉大。なんか感動的だった。

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【フライト】三つ星

監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ジョン・ゲイティンズ
出演:デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、メリッサ・レオ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:タチの悪いアルコール依存症の機長が周りにさんざん迷惑を掛けまくってやっと反省する話。よかったよ、この主人公がそこまでバカじゃなくて、最後の誇りは守ってくれて。でも、親がアルコール依存症だった私は、こいつには1ミリも同情できねぇ。そもそも、航空会社は予防の意味でフライト直前に搭乗員の薬物チェックとかヘルスチェックとかやらないの?飛行機は墜落してしまったらお終いってことを考えたら、チェック体制が甘過ぎなんじゃないの?そしてデンゼル・ワシントン様は何故この役を引き受けたのだろうか。

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【プラチナデータ】四つ星

監督:大友啓史
脚本:浜田秀哉
原作:東野圭吾
出演:二宮和也、豊川悦司、杏、水原希子、生瀬勝久、鈴木保奈美、他
製作国:日本
ひとこと感想:『ちゅらさん』『ハゲタカ』『龍馬伝』【るろうに剣心】の大友啓史監督が東野圭吾氏の原作を手掛けた作品。DNA情報の管理がどうだとかいう細かい筋は何だかあんまり覚えてないんだけど、トヨエツさんがシブかったのと、前半のニノくんの滑舌が悪いのがやたら気になったことだけはよく覚えている。大変申し訳ないけれど、ニノくんはあれではエリート科学者に見えないので、設定されている世界にすんなり入っていけないよ……後半には彼のナイーヴさが何とか活かされていたけれど。限られた感性の世界だけで演じるのではなく、演技テクニックを向上させることにも心を砕かなければ、残念ながら俳優としてこれ以上大成することはできないかもしれないよ。

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【ブランカニエベス】三星半

監督・脚本:パブロ・ベルヘル
出演:マカレナ・ガルシア、他
製作国:スペイン/フランス
ひとこと感想:安易に何でも白黒映画にしてしまう的な風潮はあんまり好きじゃないんだけど、白雪姫×闘牛×見世物小屋という摩訶不思議なモチーフを扱うのには、これくらいのギミックは必要なのだろうか。昔のサイレント映画に寄せるような形式もあんまり好きじゃないんだけど、見ているうちに段々とこの独特な世界観に毒されてくるかも。このエンディングも……う~ん、やっぱりあんまり好きじゃない。でも見た後に何だか妙なインパクトが残ってしまうんだよね。

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【ブリングリング】三つ星

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演: エマ・ワトソン、他
製作国:アメリカ/フランス/イギリス/ドイツ/日本
ひとこと感想:留守中の有名人(セレブリティという言葉は嫌いなんで使わないことにする)の豪邸への強盗を繰り返したというティーン窃盗団の実話を映画化したもの。彼等はそもそもそれなりに裕福な家の子供達ばかりで、まるで遊び感覚で犯罪に手を染めて、しかも捕まってしまった後はその立場を逆手に取ってスター気取りでテレビ出演。完全にビョーキだよ。有名であることや金持ちであること自体が美徳だと勘違いする病(やまい)。それはこいつらをテレビや雑誌で取り上げたりする奴らもご同様。もしかしてこういう“現象”を取り上げて描くことに批判的な意味が込められているのかもしれないけれど、こんな頭カラッポな連中なんて単純に見るに堪えないし、こんな映画を作ったところで連中は勘違いしして喜ぶだけなんじゃないのかな?無視して無かったことにするのが彼等には一番の罰なんじゃないかと思うけど。

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【ブルーノのしあわせガイド】三つ星

監督・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
出演:ファブリッツィオ・べンティヴォリオ、フィリッポ・シッキターノ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:原題は【Scialla(シャッラ)】といって、「気楽に行こうよ」的な意味のローマの若者言葉なんだそう。15年前にできていた息子の存在を知らされた中年男性と、思春期真っ只中のちょっと困ったちゃんの息子が、初めて送る共同生活を通じてお互いに少しずつ変化していくという展開。悪くはないんだけれど、少しありがちじゃないかなぁ。

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【塀の中のジュリアス・シーザー】四つ星

監督・脚本:パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
舞台監督:ファビオ・カヴァッリ
出演:レビッビア刑務所の皆さん
製作国:イタリア
ひとこと感想:タヴィアーニ兄弟の映画なんて久しぶりだなぁ、と思ったら、イタリアの重罪犯の刑務所の受刑者の皆さんが矯正プログラムの一環として上演する『ジュリアス・シーザー』を撮影した映画だった。背負っているものが違い過ぎるというか、この重厚感は尋常じゃなさ過ぎ。この演劇プログラムによって出所後に実際に俳優になった人もいるくらいなのだそうで(ブルータス役のサルヴァトーレ・ストリアーノさんは【ゴモラ】などにも出演している名の知れた俳優さんで、本作の撮影のために数週間だけ刑務所に戻ったのだそうだ)、「芸術を知った時からこの監房が牢獄になった」という終盤の台詞は重い。ここには人間を人間たらしめているものがちらりと顔を覗かせているように思われる。刑務所って本来は矯正施設だったんだよね、ということを思い出した。

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【ペーパーボーイ 真夏の引力】四つ星

監督・脚本:リー・ダニエルズ
原作・共同脚本:ピート・デクスター
出演:ザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザック、メイシー・グレイ、デヴィッド・オイェロウォ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:【プレシャス】のリー・ダニエルズ監督作で、死刑囚である婚約者を救おうとする蓮っ葉女に恋した少年の物語(少年と言うにはちとゴツい気もするが、ティーンエイジャーで童貞くんなんだからしょうがない)。その女と事件の真相を追ううちに事件はとんでもない方向へ……。じっとりと蒸し暑い夏のアメリカ南部で起こった出来事は、ひと夏の恋と言うにはあまりに濃厚でヘヴィすぎる。この暑苦しすぎる空気感を描き切っているのが何とも凄い。少年の兄のジャーナリスト役のマシュー・マコノヒー様が演じた人間の二面性も、女の婚約者役のジョン・キューザック様が演じた人間の不潔さも筆舌に尽くしがたいけど、何と言っても、ニコール・キッドマン様が演じ切ったこの蓮っ葉女のゲスエロさが完璧すぎる。このニコール・キッドマン様だけでも充分に見る価値があるのではないだろうか。

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【ペコロスの母に会いに行く】四つ星

監督:森崎東
脚本:阿久根知昭
原作:岡野雄一
出演:岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、他
製作国:日本
ひとこと感想:岩松了さんの禿頭って結構衝撃的……。原作となっている同名コミックも少し読んだけれど、可愛らしい絵で現実のやるせなさをどこかファンタジックに昇華している原作と較べると、実際にごついおじさんが右往左往する映画版にはまた少し違った味わいがあるように思う。アタシくらいの年になると、親の病気や介護って今そこにある未来で、ウチの親もそのうち認知症になるんじゃないかと内心心配しているんだけど、何とかやっていける方法を見つけられるのかもしれない、というエールをもらっているような気になった。

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【ホーリー・モーターズ】四つ星

監督・脚本:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、カイリー・ミノーグ、他
製作国:フランス/ドイツ
ひとこと感想:レオス・カラックス監督の13年ぶりの長編なのだそうで、とりあえず長編を撮ろうという意欲があるのが証明されたのは嬉しかったし、一般的には高く評価されているみたいでよかったけれど、一編の映画というよりは断片的なイメージを繋げているような印象で、個人的にはいまいちピンとこなかった。昔のレオス・カラックス作品が好き過ぎるからなんだろうか。もっとも、昔のカラックス作品だってそんなにはっきりしたストーリーがあった訳ではなかったかもしれないけれど……。カラックス氏は本作に関して「今、世界が恐怖の中に逃げ込んでいるような印象を持っているが、閉じこもるのは子供時代への退行。人間は大人になるべきだ。」と発言したそうだが、あのレオス・カラックス氏が大人云々と発言するだなんて、時代も変わりゆくものだなぁとしみじみしてしまった。

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【ボクたちの交換日記】四つ星

監督・脚本:内村光良
原作:鈴木おさむ
出演:小出恵介、伊藤淳史、長澤まさみ、木村文乃、川口春奈、佐々木蔵之介、ムロツヨシ、佐藤二朗、大倉孝二、他
製作国:日本
ひとこと感想:内Pこと『内村プロデュース』をこよなく愛していた私は、内村さんの前監督作で内Pメンバーが出演した【ピーナッツ】も大好きだったんだよね~。内村さんの世界は結構オーソドックスていうかベタ。言わずもがなと思う部分もある。でもそこがいいんじゃないかと思う。本作に関しては、女性陣が揃いも揃って理想像に過ぎるところがちと気になったけど、追い求めた夢を正しく諦める人の姿をしっかり描いているのが秀逸だと思った。
そういえば、主演の一人の伊藤淳史さん(小出恵介さんとW主演)は、内村さんとは『西遊記』で共演して以来の仲良しらしいけど、内村さんの番組ってみんな凄く仲がいい印象がある。内村さんはバラエティやコント番組を手掛ける度に芸能界に着々と人脈を広げていっているみたいなので、その人脈を駆使して、いつの日かまた映画も手掛けてくれると嬉しいな。

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【ぼっちゃん】二星半

監督・脚本:大森立嗣
共同脚本:土屋豪護
出演:水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、他
製作国:日本
ひとこと感想:秋葉原無差別殺傷事件がモチーフだとか言われても。プライドだけ高くて現実に向き合えないこの主人公をどういうふうに受け止めればいいのか、私にはよく分からなかった。そもそも話も全体に妄想的だし、あんなそこそこ可愛い女の子とあんなふうに仲良くなるとか現実的には絶対ないと思うし。どうしてこの映画は一部であんなに異様に高い評価を受けているのだろう?よく分からないことだらけ。

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【ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区】四つ星

『バーテンダー』監督・脚本:アキ・カウリスマキ
『スウィート・エクソシスト』監督・脚本:ペドロ・コスタ
『割れたガラス』監督・脚本:ビクトル・エリセ(ドキュメンタリー)
『征服者、征服さる』監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
製作国:ポルトガル
ひとこと感想:ポルトガルのギマランイス歴史地区(ポルトガル発祥の地とされている世界遺産地区)を舞台にしたオムニバス……なんだけど、内容バラッバラで統一感は全く無し。だから~、オムニバス映画の価値を高めるには事前のテーマのすり合わせが重要なんだってば!まぁ、1本1本が見逃すには惜しい佳作ばかりだから、それなりに見る価値は無いわけではないとは思うけど。
アキ・カウリスマキ監督の『バーテンダー』はちょっとしたスケッチみたいな小品。って、カウリスマキ監督はフィンランド人ちゃうんけ!……実は20年以上もポルトガルに住んでいるんだそうな。ペドロ・コスタ監督の『スウィート・エクソシスト』は相変わらず分かんなかった……1974年の“カーネーション革命”への思い入れがたっぷりと語られているらしいのだが。ビクトル・エリセ監督のドキュメンタリー『割れたガラス』は本作の白眉。エリセ監督もスペイン人なんだけど、ギマランイス近辺にかつて存在していた紡績工場の元従業員たちの回想から資本主義社会の一側面を語る、という内容だからOKだったのだろう。シメのマノエル・ド・オリヴェイラ監督の『征服者、征服さる』は1幕もののコント(本来の“寸劇”の意味)で、歴史地区を一番ちゃんと撮っているし、監督の近作では随一のユーモラスなテイストがなかなか好きだった。

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【マイ・マザー】三つ星

監督・脚本・出演:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:カナダの俊英グザヴィエ・ドラン監督が19歳の時に撮ったという初監督作品なんだそう。これは監督自身と母親との関係を描いたものなのだろうか?この母親、確かに大人げなく心ないことをよく言うタイプみたいだけど、例えばウチの親だってこんなふうなところはいくらもあったし、これがひどすぎるってほどでもないだろう。愛情が無いというのと愛情のボタンを掛け違えているというのは全然違っていて、残念ながら世間には前者の親だっている中で、後者はかなりマシなんだと大人になれば分かるわよ~。まぁ、それでも親が嫌ならば、自分が早く大人になるしかないわよね。

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【マジック・マイク】四つ星

監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:リード・カロリン
出演:チャニング・テイタム、マシュー・マコノヒー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:チャニング・テイタムさん(男性)はショウビズ界に入る前にストリッパーをしていた経験があるんだそうで、本作はその実話に触発されて出来上がったのだそう。男性ストリップという水商売から抜け出したくてもなかなか抜け出せない青年の逡巡がよく描かれていたような気がするのだが、マシュー・マコノヒー様のストリップがあまりに絶品すぎて、細かな記憶が全部吹っ飛んでしまい、最早どんな話だったかいまいち覚えてないような……。

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【魔女と呼ばれた少女】三星半

監督・脚本:キム・グエン
出演:ラシェル・ムワンザ、セルジュ・カニンダ、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:ベトナム系カナダ人の監督さんが、アフリカの少年兵問題をモチーフに脚本を書き、コンゴで主演の少女をスカウトしてロケハンして作った映画だそう。少女が“魔女”と呼ばれるようになった設定とか、その少女を劣悪な環境から都合よく連れ出してくれる少年とか、話は多分に物語的であまり現実的ではないと思う。それでもこういう事象を取り上げて世に問うこと自体に意味があるに違いない。それにしても、フィクションの中とはいえ、銃だけはなんでこんなにアホみたいにたくさん流通しているんだろう……誰の思惑が絡み合ってこんなに歪んだ事態が進行しているのだろう。

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【「また、必ず会おう」と誰もが言った。】四つ星

監督:古厩智之
脚本:加藤淳也
原作:喜多川泰
出演:佐野岳、杉田かおる、嶋田久作、塚本晋也、徳井優、水木薫、戸田昌宏、唯野未歩子、瀧澤翼、角替和枝、古村比呂、国広富之、イッセー尾形、他
製作国:日本
ひとこと感想:古厩智之監督はティーンエージャーの逡巡を一番瑞々しく描ける方なんじゃないかと思う、ていうか私は単に監督のファンなので。本作は、若者が旅をしてちょっと大人になる的な、筋書きだけ聞けばよくある話だけど、旅先で出会う人々の一人一人の人生の重みがさりげなくもしっかりと描かれているのが素晴らしいと思った。

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【祭の馬】四つ星

監督:松林要樹
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:福島の原発事故に巻き込まれてしまったある馬を描いたドキュメンタリー。もともと競走馬だったミラーズクエスト号。成績が上がらず登録抹消後に食肉用として買われ、原発事故後にしばらく放置されてしまった余波で何故か局部が腫れ上がって戻らなくなってしまい、放射能汚染されてしまった故に食用になることを逃れ、当局から殺処分を言い渡されても馬主の意地と温情で生かされ、生き延びたが故に、限定的に復活した「相馬野馬追」に参加することになったという数奇な運命。ミラーズクエスト号を中心に追っている話なので、明確に貫かれたメッセージ性があるというよりは、いろいろなテーマが浮かんでは消えるといった印象。それでも画面から伝わってくるこの馬の体温や重み自体が、命なるものについて何より雄弁に物語っているような気がした。

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【真夏の方程式】三星半

監督:西谷弘
脚本:福田靖
出演:福山雅治、杏、風吹ジュン、前田吟、白竜、塩見三省、山﨑光、西田尚美、吉高由里子、北村一輝、他
製作国:日本
ひとこと感想:1.被害者が殺される理由がよく分からない。それほどの理由があったとは思えない。2.殺人者がそれに見合うだけの罰を受けているとは思えない。3.“秘密を隠してきたこと”の苦悩が見ていてそこまで分からない。隠す理由もよく分からない。4.その殺人にとある人物を巻き込むのがひどい。完全なとばっちりじゃん……。ということで、犯人側の苦悩があんまり伝わってこなくて感情移入できないので、表面的にストーリーを追うだけになってしまった印象。大変な傑作だった前作の【容疑者Xの献身】に較べ、本作は少々拙速で雑だったんじゃないかと思う。

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【マリア狂騒曲】四つ星

監督:井土紀州
脚本:川崎龍太
出演:水井真希、吉岡睦雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:「孤独で疲れ果てたあらゆる魂は歓喜を渇望する/だから映画は、みずからの歓喜を何度でも鍛え直さなければならない/それこそが映画の武器であり、贈り物であるはずだからだ」……公式HPにあった井土紀州監督のアジ文をそのまま転載させて戴いた。ちょっとどうかしてるほどハイパーに突き抜けた破天荒女に引き摺られて行動するうちに、自らも限界を突破する主人公。こんな鬱々とした時代だからこそ、監督は真逆のものを提示しようとなさっているのだろう。『青春H』というシリーズの1本ということで(すみません、そんなシリーズがあるとは初めて聞きました……)Hなシーンが唐突にやってくるのはまぁご愛敬だけど。そんな中にもどうしようもなく映画的な瞬間が潜んでいることが度々あるので、井土監督のファンはやめられないのだが。

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【マンボーグ】三つ星

監督・脚本:スティーヴン・コスタンスキ
出演:マシュー・ケネディ、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:カナダのマニアックな5人組の映像集団『アストロン6』による総製作費8万円のB級SFアクション。この人達の映画愛に溢れるこだわりと頑張りは凄いと思うんだけど、今日び超低予算映画となるとほぼCG頼みになっちゃうのねー。ロバート・ロドリゲス監督の伝説のデビュー作【エル・マリアッチ】みたいな、知恵や工夫を凝らした手作り感覚の映像しか記憶にないロートルな私には隔世の感があるというか、ちょっと物足りなく思えてしまった。

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【Miss ZOMBIE】三つ星

監督・脚本:SABU
出演:小松彩夏、手塚とおる、冨樫真、他
製作国:日本
ひとこと感想:SABU監督の完全オリジナル作品は【幸福の鐘】以来10年ぶりらしい。雰囲気作りのためにモノクロにしたのは多分正解なんだろうけど、何でゾンビ??? というところからして既にハテナがいっぱい。ゾンビ差別とか、人間性を忘れる人間とか、母性を通して人間性を思い出すゾンビとか?けれどイメージ先行でテーマが絞り切れていないというか、意図していることが分かりづらいような気がする。もう少し枝葉を整理して道筋をつけた方がいいんじゃないだろうか。

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【みなさん、さようなら】四星半

監督・脚本:中村義洋
共同脚本:林民夫
原作:久保寺健彦
出演:濱田岳、倉科カナ、永山絢斗、波留、田中圭、ベンガル、大塚寧々、他
製作国:日本
ひとこと感想:数年前に千葉に越してきた時、団地があちらにもこちらにも山のようにあるので驚いた。かくいう私も今や団地の住民なんで、団地の中だけでしか暮らせないこの男の子の物語には、ちょっと親近感を覚えた。
男の子は生まれ育った団地から一歩も外に出られなくなり、その団地の中だけが世界の総てになってしまう。昔の大きな団地には学校も商店街もあり、その中で生活の総てをほとんど完結させることができていたというのが結構驚きだけど、大店法廃止以降寂れてしまった全国各地の商店街と同様この団地の商店街も寂れてしまい、団地も老朽化して人はどんどん流出する。(ピークを通り越してしまった団地の衰退は、私にとっても人ごとじゃない死活問題だ!)でも、男の子が団地から出られないのには致命的なトラウマという別の原因があり、男の子は長い時間を掛けて自身のトラウマと向き合い克服する。よくよく考えたら相当悲惨で暗くて重たい話かもしれないのに、濱田さんが飄々と演じると、少しばかり依怙地だけどナイーブな少年が勇気を持って青年へと成長する、ちょっと悲しいけどユーモラスな冒険譚になっていた。濱田さんは本当に本当に素晴らしい。日本の若手俳優さんの中で最重要人物の一人だと断言できると思う。
こんなふうに「団地」という文化が物語の骨格に据えられているお話って、若かりし頃の嵐が5人で主演していた【ピカ☆ンチ】くらいしか思いつかない……と思ったんだけど、古くは日活ロマンポルノの『団地妻』シリーズとかあったし、最近でも【クロユリ団地】とか【中学生円山】とかあって、探せばまだいろいろあるのかも。日本文化における団地ってなんか特殊な空間で、なんかいろいろ面白いかもしれない。

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【南の島の大統領 沈みゆくモルディブ】四つ星

監督:ジョン・シェンク
出演:モハメド・ナシード元モルディブ大統領、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:インド洋にあるモルディブは、地球温暖化による海面上昇により国家消滅の危機に晒されている国々のうちの1つ。もともとは独裁国家だったらしいのだが、政変で大統領になったモハメド・ナシード氏は、ありとあらゆる手を使って世界中の要人にコンタクトを取り、CO2削減の可能性を少しでも広げようと奔走する。その熱意と信念が素晴らしい。温暖化問題は何とかしなきゃならんだろうと改めて思ったが、この問題だけは個々の国や団体に任せていたのではどうにもならなくて、総量規制を掛けなければ解決できないんじゃないかな……。しかしそうこうしてるうち、モルディブでは元の独裁派が盛り返し、ナシード大統領は2012年に退任させられたそうだ。国が無くなろうとしてるのにそんなことしてる場合かよ!(……まぁ借金という泥船に乗ってズブズブと沈み掛けている日本だって偉そうなことは言えないかもしれないが。)

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【美輪明宏ドキュメンタリー 黒蜥蜴を探して】四つ星

監督:パスカル=アレックス・ヴァンサン
出演:美輪明宏、他
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:深作欣二監督の【黒蜥蜴】を見て主演の美輪明宏さんに衝撃を受けたというフランス人監督が作ったドキュメンタリー。深作欣二監督を始め、三島由紀夫とか、寺山修司とか、横尾忠則とか、宮崎駿とかいった日本の名だたるポップカルチャーアイコンの皆様とお仕事をして来られた美輪さんの歴史がつぶさに調べられていて、縦断的に網羅されているので、美輪明宏ウォッチャーなら大体知ってるような内容とは言え、昨今紅白などで初めて美輪さんの歌を聴いたというような皆様にはお勧めできると思う。監督さんは、美輪さんのようなトランスジェンダーのスターが堂々とテレビなどに出て人気を博している現象に興味があったらしいのだが、マツコさんやミッツさんやはるなさんなどといった方々が毎日誰かしらテレビに出ているのが当たり前になっている今の状況って、よく考えると凄いことだよね。これも元はと言えば美輪さん達が切り開いてきた道の延長線上にあるのだろうと改めて思った。

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【ムード・インディゴ うたかたの日々】四つ星

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:リュック・ボッシ
原作:ボリス・ヴィアン
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、オマール・シー、ガッド・エルマレ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』、日本でも10年ほど前に利重剛監督が【クロエ】という題名で映画化していたけれど、肺に蓮の花が咲くという不思議な奇病を恋人が患うという儚くもロマンティックな物語は、ミシェル・ゴンドリー監督の奇抜でファンタスティックなテイストになかなか合っている。本作は、監督なりに咀嚼しつつもかなり原作に忠実な印象で、案外手堅い映画化なのではないかと思われた。

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【ムーンライズ・キングダム】四つ星

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
共同脚本:ロマン・コッポラ
出演:ジャレッド・ギルマン、カーラ・ヘイワード、ブルース・ウィリス、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン、ボブ・バラバン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ちょっと個性が強いせいでちょっと周りから浮いている男の子と女の子が惹かれ合って駆け落ちするという、ウェス・アンダーソン版のボーイ・ミーツ・ガール映画。でも周囲の大人だって必ずしも人生うまくいっている訳じゃなく、みんなそれぞれ自分の場所で頑張るしかないということが分かる。ボーイスカウトやキャンプというモチーフが日常と非日常の境目を行く絶妙ないい味を出している。なかなか素敵なお伽噺だなぁと思った。

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【麦子さんと】四つ星

監督・脚本:吉田恵輔
共同脚本:仁志原了
出演:堀北真希、松田龍平、余貴美子、麻生祐未、温水洋一、ガダルカナル・タカ、ふせえり、他
製作国:日本
ひとこと感想:長年没交渉だった母親の死後に、母親の本当の姿がやっと見えてくる……。ヒロインの堀北真希さんが素晴らしく、松田龍平さんとの兄妹間の温度感も最高。これまでの吉田恵輔監督作の中で本作が一番好きかもしれない。

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【名探偵ゴッド・アイ】三星半

監督:ジョニー・トー
脚本:ワイ・カーファイ
出演:アンディ・ラウ、サミー・チェン、他
製作国:香港/中国
ひとこと感想:アンディ・ラウ様が演じる盲目の探偵というから、もっと寡黙でシブいキャラを勝手に想像していたら、超ナルシストなお調子者キャラでびっくり。相手の立場になりきって心情や行動の動機を想像するという探偵方法も、同じジョニー・トー監督の【MAD探偵 7人の容疑者】よろしくまた独特。この妙なトーンに慣れ、主人公のお茶目さがちょっと可愛くなりかけてきた頃には映画が終わっていた。人に聞かれたら、すごいヘンな映画だよーとよくよく念を押してから、うっかりちょっとだけ勧めてみてもいいかもしれない。

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【めめめのくらげ】二つ星

監督・脚本:村上隆
出演:末岡拓人、浅見姫香、窪田正孝、染谷将太、黒沢あすか、津田寛治、鶴田真由、斎藤工、他
製作国:日本
ひとこと感想:あのアーティストの村上隆氏の監督作なんだけど……【ジュブナイル】と【ミラクル7号】を足して、村上氏の絵心を少し加えて4で割ったって感じかな……。意匠はかわいいかもしれないけど、お話はどこかで見たような要素がいろいろ詰め込まれていて、しかも整理しきれていない感じ。村上氏はどうして映画を作りたいと思ったのかな?聞けば昔はアニメーターになりたいと思っていたそうだけど(大友克洋さんや庵野秀明さんを見て断念したのだそうだけど)、百歩譲って、この内容なら、アニメの方がファンタジーに遡及しやすくてまだ伝わり易かったんじゃないのかな。

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【メモリーズ・コーナー】二星半

監督・脚本:オドレイ・フーシェ
出演:デボラ・フランソワ、西島秀俊、阿部寛、國村隼、倍賞美津子、他
製作国:フランス/カナダ
ひとこと感想:フランス人女性がなんでわざわざ日本で映画を撮ろうとしたのだろう?亡霊がモチーフなんで、もしかして大島渚監督の【愛の亡霊】にでも影響されたんだろうか?しかし、孤独死した人の思い出がいっぱいになると地震が起こる?という設定がそもそも不可解だし、日本人の全員が亡霊を見る訳じゃないし。ただ、日本人俳優のキャスティングはやたら素晴らしく、特に「フランス語を喋る西島秀俊さん」はファンなら絶対に見ておくべきだろう。

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【もらとりあむタマ子】四つ星

監督:山下敦弘
脚本:向井康介
出演:前田敦子、康すおん、他
製作国:日本
ひとこと感想:一回東京に出たけれど、いろいろあって就職もせず実家に戻ってきているタマ子さん。家事は唯一の家族のお父さんに任せきりで、毎日マンガばっかり読んでダラダラしてて……。あんまりにもだらしなさ過ぎ、甘え過ぎの主人公だけど、でもこれくらいの年のフツーの女の子の内実って、本当はこんな側面もあるんじゃないんだろうか。こんな無防備な姿を演技として晒せる前田敦子さんはかなり凄いと思う。本作を見れば、彼女はこれからも女優としてちゃんとやっていけるに違いないと、誰でも納得できるのではないだろうか。

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【モンティ・パイソン ある嘘つきの物語 グレアム・チャップマン自伝】四つ星

監督:ビル・ジョーンズ、ジェフ・シンプソン、ベン・ティムレット
脚本:デヴィッド・シャーロック、ダグラス・アダムス、デヴィッド・ヤロップ、アレックス・マーティン
原作・声の出演:グレアム・チャップマン
声の出演:ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、テリー・ジョーンズ、マイケル・パリン、キャロル・クリーヴランド、他
(アニメーション)
製作国:イギリス
ひとこと感想:1989年に亡くなられたモンティ・パイソンのグレアム・チャップマン氏が生前録音していたという自伝のナレーションに、14人の新進気鋭のクリエーター(平均年齢28歳)がアニメーションを付けた作品。エリック・アイドル氏以外のパイソンズも声優として全員参加しているという。わざわざ『A Liar's Autobiography』と題名をつけるくらいだから、自伝と言ってもそこは正確な年代記などではなく、大まかに事実を踏襲しつつもフィクションやジョークやアイロニーもたっぷり詰め込み、自らのゲイとしてのアイデンティティにも言及しつつ創作した自伝風物語といった内容になっている。モンティ・パイソンが未だに廃れずに折に触れ取り上げられるのは、彼等の毒気や狂気に取って代われるほどの人達が誰もいなかったからなのだなぁと改めて思った。モンティ・パイソン、改めて見てみたくなったなー。この際死ぬ気でDVD-BOX買ってみようかなー。

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【闇の帝王DON ベルリン強奪作戦】四つ星

監督・脚本:ファルハーン・アクタル
共同脚本:アミート・メヘタ、アムリーシュ・シャー
出演:シャー・ルク・カーン、プリヤンカー・チョプラ、他
製作国:インド
ひとこと感想:インド映画特集『ボリウッド4』の一編。シャー・ルク・カーンさんが極悪犯罪王という今までに見たことのないような役柄なのが新鮮だし、ヒロインと仇同士というのも新機軸。演出自体も現代的でシャープで、今まで見てきたボリウッド映画とは一線を画すような、グローバル・スタンダードにより近いものであるような印象。聞けば本編の監督さんのファルハーン・アクタルという方は、芸能一家のご出身で、まだお若いのに既に監督・プロデューサー・俳優・歌手とマルチに活躍してきた大変な才人のようだ。今、インドという国も経済的・社会的に激変期であるはずで、インドの芸能界も今おそらく激変期にあるに違いないと色々と想像してしまった。

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【夢と狂気の王国】四つ星

監督:砂田麻美
(ドキュメンタリー)
出演:宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫、西村義明、川上量生、宮崎吾朗、庵野秀明、他
製作国:日本
ひとこと感想:自分の死とどう向き合うかなんてテーマはすごく今更だと思って【エンディング・ノート】は見なかったので(多分これからも見ないだろう)、同作の砂田麻美監督が依頼を受けて作ることになったという本作の方はちゃんと見ておこうと思った。宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーなどの懐に入りつつ、でもあくまで傍観者としてジブリ社内の様子をじっくりと観察し、創作の瞬間の空気感までも捉えているのは貴重。宮崎監督がなんのかんの言いつつ現実的条件や作品を完成させることの責務を強く意識しているように見えるのに較べ、高畑勲監督は芸術に対する己のディーモン(悪魔的衝動)にもっと忠実で浮世離れした人格破綻者であるかのように見えたのが印象的だった。(芸術家が時としてそうであるのは仕方がないと私は思う。)引退会見前の宮崎監督の様子なども収められていることもあり、将来的には資料としての価値も出そうだが、まずは本作自体が思った以上に砂田監督独自のドキュメンタリー作品として成立していることに驚いた。いずれにしても、ジブリは鈴木プロデューサーが高畑監督と宮崎監督の作品を世に出すために作った会社なのだから、大きな岐路に差し掛かっているのは間違いないということは、否応なく強く意識せざるを得なくなった。

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【許されざる者】四星半

監督・脚本:李相日
原作:【許されざる者】(監督:クリント・イーストウッド、脚本:デイヴィッド・ウェッブ・ピープルズ)
出演:渡辺謙、柄本明、佐藤浩市、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正、國村隼、滝藤賢一、小澤征悦、三浦貴大、他
製作国:日本
ひとこと感想:クリント・イーストウッド監督の【許されざる者】を開拓時代の北海道を舞台に翻案。キャストも日本最高レベルの布陣で、オリジナル版に負けてないと思う。李相日監督、どれだけ才能あるんだよ。

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【欲望のバージニア】四つ星

監督:ジョン・ヒルコート
脚本:ニック・ケイヴ
原作:マット・ボンデュラント
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ジェイソン・クラーク、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマン、ガイ・ピアース、デイン・デハーン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ニック・ケイヴと聞いておや?と思ったら、個人的なライフタイム・フェイバリットの1本である【ベルリン・天使の詩】で印象的なパフォーマンスを披露してしていたかのミュージシャンと同一人物だった。ニック・ケイヴさんって脚本も書くんだ、意外~。さて本作は、禁酒法の時代に密造ウイスキーを売って儲けた、地元バージニア州では有名だというボンデュラント三兄弟の実話を映画化したものだそう。(原作小説はその子孫の方が書いたものだとか。)中心人物の三男坊、一人前になりたいのは分かるけど、たいして実力もないのにイキがって、でも詰めが甘すぎで周りを窮地に陥れまくり。こーいう奴って大嫌い~。でも上二人のハンパない男っぷりからすると、物語としてバランスを取るのに必要だったのかな。その他、ジェシカ・チャステインさんが演じるワケあり女の女っぷりとか、ガイ・ピアースさんが演じる取締官役の嫌われ者っぷりとか、登場人物のキャラがいちいち立ってて印象的。演出も手堅くカッチリ出来上がっていて、堪能できる一作だと思う。

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【横道世之介】四つ星

監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎
原作:吉田修一
出演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:1980年代の後半というと世はバブルの真っ盛り。私も世之介くんのようにドンピシャ大学時代だったので(個人的には心身共に大低迷期で賑々しい記憶は全く無いけれど)、具体的に誰というのではなくても、こんな感じの人がいたよなーといった記憶が呼び起こされて、なんか懐かしい気分になった。ヒロインである筋金入りのお嬢様役の吉高由里子さんがとてもよかったけれど、彼女はあの留学で視野が広がり違う世界に飛んで行ってしまうことになるのが予想がついたので(そんな人達が周りにたくさんいたので)切なかった。でもこの死なせオチはちとズルいんじゃない?まぁいいけどさ。

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【よりよき人生】四つ星

監督・脚本:セドリック・カーン
共同脚本:カトリーヌ・パイエ
出演:ギョーム・カネ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:レストランを作ろうとしたけどうまくお金が集められず、騙されたり、借金のイロハとしてそれやっちゃ駄目じゃん!てことを次々とやったりして……フランス男は頭が筋肉ざます!人のことはあんまり言えないけど、この主人公の男性ったら人生が下手すぎる。そのうち、自分の手元に子供を置いて外国に働きに行ってくれたガールフレンドと連絡が取れなくなって、一時はドツボに嵌まったりして……。でも、うまくいかない人生に対する特効薬など無いから、一歩ずつ歩いていくしかないんだよね。彼等がこの土地で穏やかに暮らせるよう祈りたくなった。

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【ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日】四つ星

監督:アン・リー
脚本:デヴィッド・マギー
原作:ヤン・マーテル
出演:スラージ・シャルマ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:えーっ、このトラ、オールCGなの !? そりゃ凄い。こんな普通に凶暴なトラと半年以上も漂流するというプロットがどこから発想されたのかは不明だが(原作は小説で、実話とかではないらしい)、トラは神や自然の化身とかそういうことなんだろうな……よく分からないけど。このように制御できない存在として自然を描くのは、アジア人であるアン・リー監督らしいのではないかと思った。

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【楽園からの旅人】四つ星

監督・脚本:エルマンノ・オルミ
出演:マイケル・ロンズデ―ル、ルトガー・ハウアー、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督の最新作。取り壊される寸前の教会堂を舞台にした物語で、キリスト教というフィルターを通して現代の様々な問題を見つめるという意図は何となく伝わってきたような気がするんだけど、私の足りない脳みそではあまりよく分かっていないかもしれない……まぁ分からないなりに雰囲気を味わおうとすることも大事なんじゃないかなぁ、と言い訳してみたりして。

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【リアル 完全なる首長竜の日】四つ星

監督・脚本:黒沢清
共同脚本:田中幸子
原作:乾緑郎
出演:佐藤健、綾瀬はるか、中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、堀部圭亮、松重豊、小泉今日子、他
製作国:日本
ひとこと感想:自殺未遂を起こして目を覚まさない恋人の意識下に潜入する、というちょっとディープなSFもの。何だか凄い恐ろしげな雰囲気があって、何故か、同じ黒澤清監督の超ホラー映画【回路】を思い出してしまった。彼等の意識下の世界の奥底に存在している首長竜は、誰もが抱いているプリミティブな恐怖感の象徴なのかもしれない。

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【利休にたずねよ】三星半

監督:田中光敏
脚本:小松江里子
原作:山本兼一
出演:市川海老蔵、中谷美紀、伊勢谷友介、大森南朋、市川團十郎、成海璃子、福士誠治、山上宗二、袴田吉彦、黒谷友香、檀れい、大谷直子、柄本明、伊武雅刀、中村嘉葎雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:千利休の映画ということで意匠に凝っているのは分かるし、まじめに作られているところは好感が持てる。けれど、創作なのであろう利休の過去の恋愛話とか必要かな?あと、演出の方針もあるのだろうが、ぼそぼそ聞き取りづらい海老蔵さんの芝居がどうしても好きになれない。結局、海老蔵さんとはやはり相性が悪いということを再認識して終わっただけのような気がする。

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【RETURN(ハードバージョン)】四星半

監督・脚本:原田眞人
出演:椎名桔平、水川あさみ、山本裕典、土屋アンナ、キムラ緑子、赤間麻里子、山路和弘、堀部圭亮、田中泯、高嶋政宏、でんでん、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作は、ソフトバンクとエイベックス・エンタテインメントが運営するスマホアプリ「UULA」の配信用に制作されたオリジナルドラマの再編集版なのだそう。心ならずも厄介ごとを押し付けられた主人公、主人公が追う悪徳実業家、その主人公を追うやーさんが、くんずほぐれつ社会の暗闇を突っ走る姿には、ストーリーの整合性やリアリティより勢い重視の昔のVシネをいい意味で思い出した。主人公の椎名桔平さん、悪徳実業家の山路和弘さん、その愛人の一人の水川あさみさんを始め、それぞれの登場人物のキャラクターが強烈なのだが、特に、キムラ緑子さん、赤間麻里子さん、土屋アンナさんのヤクザの三姉妹が抜群に面白い。人が死に過ぎで暴力的過ぎなのでおよそ万人向けじゃないけど、こりゃ【KAMIKAZE TAXI】以来の大傑作なんじゃない?

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【リンカーン】三星半

監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
原作:ドリス・カーンズ・グッドウィン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、トミー・リー・ジョーンズ、デヴィッド・ストラザーン、ジェームズ・スペイダー、ハル・ホルブルック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:リンカーンが奴隷制度の廃止に尽力したということまでは知っているけれど、これが米国憲法修正第13条の成立によって成し遂げられたのだとか言われても、最早さっぱり分からない……。これがアメリカ民主主義の歴史上いかに重要な事柄だったのかというスピルバーグ監督の主張はよく分かったけれど、この修正法の成立を巡る議会内での攻防をこと細かく描くだけでは、映画としてのダイナミズムには若干欠けているような。アメリカ人と余程の法律オタク・政治オタクでもない限り、それほど興味が湧かないんじゃないのかな。

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【りんごのうかの少女】四つ星

監督・脚本:横浜聡子
出演:とき、永瀬正敏、工藤夕貴、他
製作国:日本
ひとこと感想:りんご農家である実家を嫌う少女を描いた横浜聡子監督の最新作。どこまで行ってもりんご畑しかない田舎の閉塞感に対するイライラを持て余す彼女の抱える切実さがヒリヒリと痛い。かなり形は違うけど、私も生まれ育った土地と相容れなくて、結局そのまま出てきた人間だから、彼女の気持ちは分かる気がする。でも一方、彼女を取り巻く“大人”の側の態度や言い分も分かってしまうような年になってしまったのよね……だって主人公より、その親役の永瀬正敏さんや工藤夕貴さんの方が完全に年齢が近いんだもん。永瀬&工藤と言えば、かの【ミステリー・トレイン】の名コンビ。これももう四半世紀前の映画だなんてびっくりだわ。

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【ローマでアモーレ】三つ星

監督・脚本・出演:ウディ・アレン
出演:ロベルト・ベニーニ、アレック・ボールドウィン、ペネロペ・クルス、ジュディ・デイヴィス、ジェシー・アイゼンバーグ、エレン・ペイジ、他
製作国:アメリカ/イタリア/スペイン
ひとこと感想:アモーレというよりは色ボケなんじゃないすかね……。とにかくローマで何か撮りたい!というウディ・アレン監督の観光客的な浮かれ気分はある意味微笑ましかったけれど、小粋な小話のオムニバスと言うよりは、明確な芯がない細切れのエピソードの寄せ集めといった印象。いつものウディ・アレン作品よりはインパクトに欠けるのではないかと思われた。

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【わたしはロランス】三星半

監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ、他
製作国:カナダ/フランス
ひとこと感想:何と19歳の時にデビュー作を撮ったという、カナダのまだ若干24歳の俊英グザヴィエ・ドラン監督の第3作目。本作にもその溢れる才気は感じられるけど、まだゴツゴツと荒削りで未整理だと感じられる部分も少なくない。でもその歳でこじんまりとまとまってしまっていてもしょうがなく、まだまだ伸びしろがあるところが期待されているのかもしれない、とも思った。
ストーリーは、ある日「女になりたい」と告白した彼氏を、彼女がいろいろ葛藤しながら受け入れようとする話。でも、彼女はいつまでたってもこの彼氏をちゃんと受け入れられず、見ていてどうも歯がゆい。もしかすると、今やテレビでも毎日当たり前のようにオネエ系タレントを見かけるようになった日本とのお国柄の違いがあるのかもしれないが。

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【藁の楯】五つ星

監督:三池崇史
脚本:林民夫
原作:木内一裕
出演:大沢たかお、藤原竜也、松嶋菜々子、山崎努、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、本田博太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:孫娘を殺された大富豪に10億円の懸賞金を掛けられてありとあらゆる人々から命を狙われる犯人を、警察官が九州から東京まで護送する、という大仕掛けのサスペンス・アクション。数多くの登場人物一人一人の人間性や人生の背景に丁寧に目が向けられていて、どこまで行っても人間のクズでしかない犯人と、これをつけ狙う人々と、そんな犯人をそれこそ“藁の盾”として命懸けで守らなければならない警察官と、彼等の運命に隠然と干渉する大富豪とのぶつかり合いは、それだけで見応えたっぷり。私は、こうしたエンターテインメントの枠組の中に、人間性や人間の運命などというものにお金で容易く干渉することができると考える拝金主義の傲慢と、自分が自分であるために他人に譲ることのできない意地や矜恃といった何か、つまり、金銭という権力に支配される世界と個人の信念との深刻な相克が図らずも活写されていることに唖然とし、これはとんでもない傑作だと思った。だから、本作をカンヌ映画祭のオフィシャルのコンペティション部門にノミネートさせた人は慧眼だと思ったのだが、現地の評論家連中や審査員連中(この年はスピルバーグ監督が審査委員長だったわね)はあまり芳しい評価を下さなかったらしい。なぁんだ、あの人達は所詮、小綺麗でちっぽけな文化的世界のことしか分からないブルジョア様なんだな。そんな人達に庶民の怨嗟なんてものが理解できる訳がない。
主人公の警察官役の大沢たかおさんも、その相棒役の松嶋菜々子さんも、犯人役の藤原竜也さんも、他の俳優さんも、それぞれが素晴らしい熱演を見せており、それぞれがこれまでのベストアクトなのではないかと思えるほどだった。どんな評価を受けようと、私は本作が三池崇史監督の代表作の1本になる作品だと確信している。

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