Back Numbers : No.16~よもやま話



やったぜタラちゃん ! ウェルカム・【ジャッキー・ブラウン】 !

クウェンティン・タランティーノ監督の新作【ジャッキー・ブラウン】の試写会に当たったうーぴーは、春先のある晩、いそいそと出かけて行きました。

ぴ : やー、どうだったねっちゃん ?
う : お、面白かったー !!
ぴ : ねー。なんか骨身にずっしり来るような面白さだったねー。
う : やっぱタラちゃんはただもんじゃないよー !! ビビったよー私ゃ。
ぴ : ここまでの新機軸をぶつけてくるとは思わなかったよ。本当に次を作れるのかしら ? なんて危惧した時期もあったけど、大きなお世話だったねぇ。
う : でもなんか一時ぼてぼてに太ってたし、プレッシャー強過ぎ・ストレス溜まり過ぎかぁ ? とも思ったよ、そりゃ。
ぴ : 全く要らぬ心配でございました ! ところで、どの辺が特に面白かった ?
う : まずは役者だよね。パム・グリアー、超カッコいい !!
ぴ : セクシー、って言葉がほんとぴったり ! 私、これ女の人の誉め言葉には滅多に使わないんだけど。
う : 40代には見えないよねぇ~。しかも黒人の女の人をヒロインにしようっていう発想が。彼女を主役に映画を創ろう ! と考えただけでももう十二分にエラいよ、タラちゃん。
ぴ : またロバート・フォスターがシブくてー。
う : そーよ ! あの出会いのシーンと別れのシーン !!
ぴ : セリフ無しで全てを分からせてしまう演出も凄いと思ったけど、やっぱりあの演技があればこその話よね。
う : カッコよかったぁぁ ! でもこの役者さん、知らなかったなぁ。
ぴ : 私も知らなかったんだけど、なんかTV畑の人みたいよ。パム・グリアーと同じで、やっぱり主に70年代に活躍したとか。
う : ああ、タラちゃんがインタビューで「自分は70年代のカルチャーで育った」とか言ってたっけ。
ぴ : そうそう。だから今回はこの二人が主役なんだよね。後の人は脇。
う : 宣伝の名前の順番は違うけどね。しかしほんっと贅沢ね、この配役は。
ぴ : デ・ニーロさんてば、あんな役でよく出る気になったよね。
う : あそこまでかっこよくない役ってのもすごいねぇ。でもタランティーノの映画ならやっぱり出てみたかったんじゃない ? 役者魂が燃えたっつーか。
ぴ : 確かに燃えてたよー。スターのオーラをあそこまで消し去った演技が出来るものなの !? 今更なんだけど、この人のうまさはマジで半端じゃない !
う : ほんっと見せてくれるよ……でも他もうまい役者さんばっかりだよね。マイケル・キートン然り、ブリジッド・フォンダ然り……
ぴ : でもやっぱなんたってサミュエル・L・ジャクソンでしょう !! この人ってばどーして、こうも出る度にキョーレツな印象を残してくれるんでしょ。またまた惚れ直しちゃったわ !
う : 映画によってイメージが全っ然違うよね。大体、あの【パルプ・フィクション】のアフロヘアの殺し屋と【ダイ・ハード3】のゼウスさんが同一人物とは思えない。
ぴ : っちゃんの好きな【ジャングル・フィーバー】のジャンキーのお兄さん役も入れといた方がいんじゃないの ? ほんと、素だと妙に脳天気な単なるファンキーおやじなんだが。
う : 今回の役どころは、ちょい抜けてるけどやっぱりかなり切れる悪人、ってところ ?
ぴ : 白人の女のコを大事に囲ってるって設定が面白かったね。で、黒人をニガーって呼ぶの※1。これみんな、黒人独自の文化に自覚的じゃない時代の悪しき遺物だって言われてることじゃん。
う : 敢えてそう創ってあるんだよね。でなきゃサミュエルさんが演る訳ない※2
ぴ : あの役柄には必要な要素だし。思想的に正しいかどうかは別にして、ああいうタイプの人って必ずいたはずだもんねー。
う : でもBBCのタラちゃんのインタビューで、スパイク・リーやデンゼル・ワシントンに抗議されたって話が出てたっけ。
ぴ : そりゃしょうがないよな。そういう表現が安易に流行っても困る訳だから、彼等としては立場的に、コメントせざるを得ないに決まってるじゃない。タラちゃんもそこでムキになって反論することないのにね。
う : 聞き流しときゃいいのにさぁ。でもそこで熱くなっちゃうのもタラちゃんらしいかな。
ぴ : ま、彼にしてみれば、今回、どれも入魂のキャラクターだから、一言たりともケチをつけられたくないんだろうね。
う : 今までだってキャラの面白さは際だってたけど、今回はまずキャラクターありきと言えるくらい重要な部分だもんね。
ぴ : そう。それでお話は、まずは各キャラクターとその思惑をみんな並列に並べて、じわじわ進行させていくんだよね。
う : その途中のそっけないテンポがまた逆に、中心人物二人の関係を熱く感じさせるのよう !
ぴ : そうこうしてるうちに、いつの間にかあの無茶苦茶な世界が出来上がってしまってるんだよね。で、後半は滝を下り落ちるように急展開、二転三転 !
う : そのバランスが絶妙なんだ !
ぴ : で、流れが行き着いたところであのラストシーン。決めてくれちゃいましたねぇ。
う : 私は大満足 ! もーホントに時間を忘れてしまう作品でした。
ぴ : うん、あっちゅう間だったね。私もシビレっぱなしだった ! ただ……
う : ただ ? 何よ ?
ぴ : 70年代のソウルをフィーチャーした選曲はすっごいカッコよかったんだけど、それこそ70年代のブラックスプロイテーション・フィルム※3とかと較べちゃうと、音楽のグルーヴ感と映画のリズムが必ずしもシンクロしてないような気がちょっとしちゃったんだけど……。
う : そう ? 私は特に感じなかったけどなぁ。その昔のを見てないからかもしれないけど、でも多分タラちゃんにしてみれば、自分が影響を受けた70年代のエッセンスを自分なりに出してみたかったってことなんだろうから、もっと軽く受け取ればいいんじゃないの ?
ぴ : ま、私も断言できるほど数を観てる訳じゃないからなぁ……てなところでおあとがよろしいようで。
う : さぁ、これでタランティーノの才能は本物だって証明されましたね。めでたいめでたい !!
ぴ : うん、私もそう思う……んだけど、でも一般的にはどうなのかなぁ。この映画って相っ当、渋好みじゃない ?
う : まぁねぇ。
ぴ : 【パルプ・フィクション】を、オッシャレーな雰囲気がスキ・てな具合に観賞してた人達には、この映画はどう映るんだろう。主人公達も中年な訳だし。
う : そりゃ人によりけりじゃない ? でも確かに、「何かちがーう」って思う人はいるかもなぁ。
ぴ : その敢えて違えちゃってるところが凄いんだけどねー。
う : そういえば、前半なんてかなりスローペースだし、ストーリーを追いかけていくタイプの人にはちょっと地味って映っちゃうこともあるかもなぁ。
ぴ : 妙な登場人物の一人一人に愛着が持てて、描き込まれた要素の一つ一つにドキドキできるタイプの人じゃないと楽しめないかも……でもまっ、いっか。
う : そうそ。最低限私達だけは間違いなく、最高 !! に楽しませてもらったんだからっ。


注 :
※1 : BBCのタラちゃんインタビューによると、今回の映画の中で使っていた単語は“nigger”ではなく、黒人同士の仲間内で「お前な~(困った奴め)」くらいの意味合いに使われる“nigga”というスラングだとのこと。ホンマかいな。
※2 : その根拠~ 【ダイ・ハード3】に出てくるインテリの黒人・ゼウスのキャラクター(黒人は自らの手だけで自立すべきだと唱える大の白人嫌い)は、ほとんどサミュエルさん自身が創出したものなのだそうだ。訳が分かってない人にはそんなキャラクター創れませんって。
※3 : 主に70年代に、黒人が見ることを特に意図して作られた一連の映画のことです。

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