2002/1/12

大学選手権 決勝

早稲田大学 VS 関東学院大学
早稲田大学VS関東学院大学
163前半1321
0TRY1
0GOAL1
1PG2
0DG0
13後半8
1TRY1
1GOAL0
2PG1
0DG0


いい試合だった。
暖かく、天気も絶好で、久々に試合前から胸が高鳴った。
総武線の信濃町の駅を出た後、国立競技場に近づくに連れ、思わず足早になった。
こんな精神の高揚感を覚えるのはいつ以来だろう? ふとそんなことを考えた。

私は、今日の決勝戦に昨年度の社会人大会「サントリー対神戸製鋼」の戦いと同じイメージを抱いていた。
徹底的にボールを繋ぎまくる早稲田(サントリー)、総合的な力で戦う関東学院(神戸製鋼)。
抜群のフィットネスと継続でボールを回しまくる早稲田だが、勝つためには自陣からもリスクを背負って攻撃を継続するため、一つのパスミスも許されない。どれほど清宮監督が優れた指導者だとしても、果たして1年でそこまで完成度の高いチームができあがるものなのか?
今年の早稲田は関東学院に勝てないだろう、という予想の根拠はそこにあった。

昨年のサントリーもそこまで完成されたチームには至らなかった(今年は違う)。
だから社会人大会では、最後の最後に神戸製鋼に逆転負け、雪辱を期した日本選手権でも引き分けに終わった。
同様に、早稲田も今シーズンでは無理だろうと思っていたのだ。
それでも私が思っていたより早稲田は強かった。よく1年でここまで仕上げたものだ。
清宮監督の老獪な情報戦略も徹底していた。
「絶対勝ちます。10数年振りに"荒ぶる"(早稲田ラグビー部が日本一になった時のみ歌うことが許される勝利の歌。※一度だけ例外があり、故大西監督が指揮を取り、絶対不利といわれた早明戦で本城、吉野を中心としたバックス陣とフォワードの踏ん張りで、下馬評を翻して勝利を治めた時、確か歌ったと思う)を歌います!!」という発言を始終マスコミに流し、早稲田フィフティーンのモチベーションを高めると共に、関東学院には逆に意識過剰な不安や苛立ちを起こさせるという情報戦略だったのではないか、と思う。

彼自身も本音では、関東学院は簡単に倒せる相手ではないと思っていたはず。
時折テレビに映る彼の表情が、さすがにそれまでの試合と異なり、やや緊張気味だった事がそれを物語っている。

試合は、関東学院が序盤からパワー全開で早稲田のペナルティを誘い、2本のPGで先手を取った。
私が戦前にポイントの一つに上げた「山下の個人技を関東は防げるか」という場面が開始早々に訪れた。ハーフウエイ付近からギャップをするりと抜けた山下は、そのまま左ライン際を独走。いきなりのトライかと思われたが、関東学院ディフェンス最後の砦FB角濱が残り5mほどで何とか追いつきタッチに押し出す。将来のジャパン候補二人の見応えのある対決だった。

角濱は、この試合の中で、他にも2回ほど早稲田がトライを奪って不思議のない場面でぎりぎりのタックルを決め、早稲田に得点を与えなかった。あの大きな体と足の早さは世界でも通用するディフェンスだ。

前半20分に早稲田もPGで3点返すが、26分、関東学院がこの試合初めてのトライを奪う。
フォワードの突進から一転して左展開。外へ被り気味になった早稲田ディフェンスのギャップを見つけたCTB榎本が内へ切れ込み左中間にトライ。13対3と差が開き、ようやく試合が大きく動いた。

このトライのポイントは戦前に書いた「関東学院FWのスピードある縦突破を早稲田は止められるのか?」と関連がある。関東のFW、特に1番立川、HO山本、FL若松、NO8山口の破壊力は並ではない。この走れて強いフォワードの縦攻撃を早稲田はかなり良く研究していたし、厳しいタックルと集中力で凌ぎ、結果的にこのカタチでのトライは与えなかったのは見事だ。
(※試合を決めた山口のトライはラインからギャップをついたもの)

ただし、さすがにゲインを奪われる場面が何度かあり、そこに選手が集まるとラインディフェンスがやや弱くなった。この場面も山本、若松などの右サイドへの突進でディフェンスが集中したため、左ラインにボールを振った時、榎本はそのギャップを瞬間に判断し、FL上村の内側を狙って奪ったトライだ。

後半、早稲田はPGで13対6とした後、15分に初めてのトライを奪う。
WTB中山が自陣から左ラインを抜いて大きくゲイン。右に大きく振り、一度CTB山下が縦を突いてポイントを作り、ディフェンスを集中させたため、完全にバックスが余った形となり、もう一度右ラインに振ってSO大田尾、CTB武川、FB西辻、最後はWTB山岡がタッチ際で水野のタックルを振りきり、中央まで回り込んでトライ。Gも決まって同点とし、試合を振り出しに戻す。

その後も互いのG前などで厳しい攻防が続く。ターンオーバーも何度か見られたが、これは互いのミスというよりは、ディフェンスの厳しさによるものだ。最終スコアが私の予想よりかなり低くなったのは、両チームのディフェンスが素晴らしかったから。大学選手権決勝でこれだけ集中力が高く厳しいディフェンスの試合が見られたのはうれしい事だ。
(間もなく社会人の決勝が始まるので、とりあえず、ここまででアップしておきます。お許しを。m(__)m )

(ここからが続きの観戦記です)

さて、後半15分にトライを奪った後の10分間は、早稲田ペースで試合が運んでいたように思う。
早稲田の早い球回し、バックスのスピードは関東学院の予想を上回っていたのではないか。関東学院にとってはバックス攻撃の要となるSO今村が足を故障したのも大きく、ラインアタックに微妙な変化が生じていた。但し、接点、密集でのボールの奪い合いは関東の方が洗練されたスキルを持っており、そこで生まれた早稲田のペナルティを関東学院は上手く点に結びつけた。

逆に早稲田は、さすがに100%ミスのないパス回しというのは難しく、ビッグゲインを見せても、肝心の局面でミスが生まれた。
関東学院はついに今村を諦め、竹山を投入。前回出場した時の竹山は緊張していたのか、ミスが多く見られたが、この試合では結果的に吉と出た。スムーズにバックスに球が回るようになり、俄然バックスが息を吹き返した。

結局その後は、互いに厳しい凌ぎ合いが続き、試合を決めたのは、フォワード、バックスが一体となってボールを繋いだ末に生まれたNO8山口のトライだった。
この攻撃はビデオで見ると、最後のトライに結びつくまで、連続して10回に渡る波状攻撃があり、2分近い攻撃時間だった。この間、ミスなくボールを繋ぎまくった関東の集中力は凄まじく、今年の関東学院の強さの集大成とも言うべきトライだった。

5点差という、1トライ1ゴールで試合がひっくり返る状況の中、厳しいディフェンスは互いにノーサイドまで途切れることなく、ターンオーバーの繰り返しが続き、両チームのファンは最後まで手に汗握って観戦する事となった。

インジュリータイムの43分、乾坤一擲の早稲田の自陣からの攻撃で、左オープンに展開した早稲田はSO大田尾が大きくゲイン。繋いだCTB山下からボールを受けたWTB仲山が、左タッチライン際を走り関東ゴール目前まで迫った。然し、ここもFB角濱に止められ、残り時間をしっかりと認識していた関東は、そのボールをSH春口がタッチに蹴りだしたところでノーサイド。早稲田にとっては非情の笛が、関東学院にとっては歓喜のホイッスルが吹かれた。

関東学院にとって最も危うかったのは、後半、角濱が早稲田SHの球出しに足を出して妨害するプレーをし、ペナルティを取られた場面だったのではないか。
前半のレフェリーのジャッジに対しての不満を露骨に表す、ボールを投げつけたプレー。その後も再三レフェリーにクレームをつけていた。HPのトップページに書いた不安が本当に的中する恐れがあった。この試合が岩下氏だったら、足を出したプレーでシンビンを与えられていただろう。(実際、今日の社会人大会で岩下氏は神戸製鋼のミラー選手にシンビンを与えたことから、これは間違いない)

私が試合2時間前に、角濱選手がシンビンを受ける可能性があるのではないか? とトップページに書いたのは、今年の関東学院は自分たちのプレーに自信があるためか、再三に渡ってレフェリーに大声でクレームをつける場面が見うけられたからだ。

確かに彼らのプレーは立ってラックに参加するプレーをはじめ、反則を犯さない意識が非情に高く、他の大学チームとはその面においては抜きん出ている。まるで外国のチームのようだ。
日本のレフェリーは、その点に関しては判断基準がまだまだ甘い。
だから海外のチームが来日した時に日本のレフェリングに必ず戸惑いを見せる。

寝たままボールに働きかける。モール、ラックに横から入る。頭を下げて突っ込んでくる。そんなプレーが多くまかり通っているのが、極東の地、日本なのだ。それに対してなかなかペナルティを取らない。
だから海外のチームは日本人のレフェリングに苛立ちを見せる。
同様に、そういったプレー意識の高い関東学院は、納得いかない相手のプレーに歯に衣着せることなくレフェリーに文句を言う。そのなかで最も代表的な選手が角濱君だった。(彼は性格的に熱くなりやすいのですかね?)

確かに前半35分、ボールを放り投げた最初のプレーは、下井レフェリーにも問題があると思う。
何故ならあの場面は、関東学院のアドバンテージで進んでいた場面であり、そこで逆にタッチに出た事で何故相手ボールにされるのか、納得いかなかったに違いない。

ビデオに入った音声では「アドバンテージを取っていたが、パスが長く続いたのでアドバンテージオーバーにした後のプレー」と下井レフェリーは説明しているが、私は日本のレフェリーは海外の試合を良く見ているのか? と問いたい。

6カ国対抗、トライネーションズ、スーパー12.世界最高峰の試合のレフェリングを勤めるレフェリーのアドバンテージは、見ていると驚くほど長い時間取る。あの場面で言えば、関東学院が地域を進めたのは10m弱、時間的にもほんの僅かで、アドバンテージオーバーとなる場面ではない。海外のトップレフェリーなら間違いなく、前の早稲田のペナルティを取って戻す場面だ。それがグローバルスタンダードと言えるレフェリングだ。

何故、日本のレフェリーはアドバンテージを短くしか取れないのか?
ここに現在の日本人レフェリーの問題点がある。
選手のフィットネスはここ数年でかなり向上してきた。それに対し、レフェリーのレベルが上がっていない、足がついて行けないというのが現状だ。だからアドバンテージを早めに解消してしまう。もちろん日本のレフェリーは完全アマチュアで、責めるのも酷な部分はあるが、このままで良いはずがない。

だからこそ、協会への切実な要望として、大きな試合にはなるべく海外のトップレフェリーを招待して欲しい。そこで日本のレフェリーは彼等のレフェリングをどんどん学んで欲しいのだ。
さもないと今後も選手達がスキルアップするに連れ、選手の解釈とレフェリーの解釈の乖離が進み、選手達にどんどんフラストレーションがたまり、日本ラグビーの質的向上を妨げる要因ともなる。

とは言っても、あれだけ文句をつけられれば、レフェリーも頭に血が上る。最後の角濱君のラフプレーで彼にシンビンを出さなかったのは下井レフェリーの人柄か。自分を非難する事に厳しい岩下氏なら間違いなくシンビンだったと思う。(まさかこんな予想まで、それに近いものになるとは思わなかったが)

少し試合と離れたレフェリー論が長すぎたので話を元に戻そう。
そういうわけで、角濱はシンビンを受けることなく、最後までプレー出来たため、最後の早稲田仲山の独走を止め、関東学院は2連覇を果たした。

決勝予想で書いたポイントに話題を戻せば、早稲田の両FLは良く働いたと思う。
上村は、縦突破にその潜在能力の凄さを見せつけたが、まだ体調が万全ではないのか、後半ややフィットネスが落ちたように見えた。逆にもう一人のFL川上は抜群の働きを見せた。それ以外のフォワードも全員踏ん張った。関東学院の強力モールにも簡単にはゲインを許さなかった。関東の攻撃を僅か2トライに押え、予想外の締まったロースコアの試合を演出したのは彼等の頑張りがあったからだ。

関東学院のSO今村も痛みに耐え、ピンチの場面では密集にも積極的に参加した。ディフェンスにも体を張った。見ていて感動を覚えた。やはり素晴らしい選手だ。
早稲田のSO大田尾はアタックだけではなくディフェンス能力の非常に高い選手だということも解った。もっともっと伸びる選手だ。

早稲田CTB山下は、開始早々のビッグゲイン以外は目立たないように思えたが、キックの状況判断も素晴らしい選手だと言う事を知った。このまま伸びれば、来年のワールドカップでトヨタの難波とジャパンのCTBを組めるのではないか? CTBが難波と山下、WTBが大畑と栗原、そしてFBはもちろん小野澤。考えただけでもワクワクするバックス陣だ。

関東学院NO8山口は、頚椎骨折(でしたか?)で1年間リハビリに励みながら、良くここまで復活したものだ。その大怪我をした試合を観戦していたが(1999年4月の三ツ沢での対オックスフォードにアンダー23代表として出場していた試合。救急車のサイレンが夜空に鳴り響いていたのを覚えている)それだけに喜びもひとしおだったろう。

兎に角、両校ともお互いの力を十分に出しきった素晴らしい決勝戦だった。
日本選手権では関東学院はクボタ、早稲田はトヨタと当たる事になったが、関東学院には、山口主将のコメントにもあったように、学生の可能性を確かめる良い試合をしてもらいたい。また早稲田には清宮監督のコメントにあるように、弱いチームが強いチームに当たる時の戦い方というのをしっかりと見せて欲しい。

最後に、ここ数年では稀に見る激戦を演じてくれた両チームの選手と監督に感謝して、この稿を終わりにします。ありがとう。

※しかし、この観戦記長いですね(笑)。5600字。400字詰め原稿用紙14枚にもなりました。
最後まで読んでいただいた方々にも感謝致します。<(_ _)>

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