Keisuke Hara - [Diary]
2000/09版 その2

[前日へ続く]

2000/09/11 (Mon.)


2000/09/12 (Tues.)


2000/09/13 (Wed.)

朝五時半頃、関西空港に到着。 空港に降り立ったとたんに、まるで文字どおり湯の中にいるようである。 夜明け時間の気温は25度、予想最高気温33度。 シンガポールよりも蒸し暑い。やはり日本は熱帯らしい。 ヒネノで乗り換えてキイに到着、実家に帰る。 念願の正しい日本風朝食と、昼に素麺を食べて満足する。 時差ぼけは激しく普段は唯一の活動時間帯である午後が猛烈に眠く、 何もできない状態である。

帰るなり父から意見される。
「お前の履いている靴を見て情けなくなった。 あんな靴を履いている人間は親でも子でもない。 我々両親は、若いころはモボにモガで通っていたのだ、 もうちょっと身なりというものに気を使いなさい。 イギリス紳士からいったい何を学んできたのであるか」
モボにモガって明治時代人か。 ステテコ姿でそんなことを言われても全く説得力はないのだが、 親の意見と茄子の花は万に一つの無駄もない、 ということであるので有り難く聞き流しておく。 母は洋裁師だったのでまあお洒落であったのかもしれないが、 父に関しては怪しいものである。 私の父と母は、私が実家に帰ると、とにかく、 何故いつでも同じシャツを着ているのか、とか、 もうちょっと身なりに気を使ってくれとか、 同じことをくり返して五月蝿い。 私が書物から学んだことによると、 両親と言う者はもっとなにやら有り難い意見をするものなのではないのか、 例えば「人生の極意は、死ぬべき時に死に、生くるべき時に生くる。 新渡戸博士がおっしゃるように体系としての武士道は滅びても、 山桜の薫りが今も消えぬように、うんぬん、、、」とか。 せめて「故郷に錦を飾るまではこの家の敷居はまたがさぬ」とか。 学者は清貧を誇り、粗末な服を万年着ていることを誇り、 一椀の飯と一杯の水で腕を枕に道の上に暮らすことすら誇り、 精神の清らかさを気高く誇るものであるのに、 まったく親からしてこうでは、困ったことである。 私が自分自身、学者に向いていないと思うのはこういう時である。


2000/09/14 (Thurs.)

14日、朝、山科に戻る。 やはりどうしても午後に目を開けていることが出来ず昼寝。 夕方から三条に出て、ひさしぶりに京都の町をぶらぶらし、 Cafe R***** で一服。 主人と、ひさしぶりですねえ、半年ぶりです、そんなになりますかあ、 というような閑雅な会話を言葉少なに交わして帰宅。 自宅でひさしぶりにあれこれ日本語を読んで眠れない夜を過ごす予定。


2000/09/15 (Fri.)

15日。朝方になってようやく眠れたが、起きたのは午後二時。 日の光をあびて、なにか疲れることをしなければいけない、 と思い、半年ぶりに大学に行ってみる。 南草津駅前に西友が出来ていてちょっと驚いた。 休日なのでキャンパスは閑散としているかと思いきや、 模擬試験があったようで高校生がたくさんいた。

数理科学科の事務に行き、半年分たまった郵便物を整理する。 ふと受講者数調べが目に入ったので、 自分の講議のところを見ると、 講議要項で少しおどろかしておいたにも関わらず、 受講者数250人、230人 などという状態でいきなりブルーな気分になる。 出講恐怖症になりそうだが、 情報学科の膨大な人数の学生に向かって講議させていただくのも、 今年が最後であると思えば有り難くお勤めさせていただかなくてはならん。


2000/09/16 (Sat.)

16日。夜はなんとか寝ても二、三時間ですぐに目が覚めてしまう。 そして午前の遅い時間あたりから異常に眠くなって行動できない。 弱った。月曜日までになんとか直らないものだろうか。

猛烈な眠気と闘いながら、 ハーディ、リトルウッド、ポリヤの "Inequalities" を読んだり。 そういえば数学の分野によって研究をスタートできるまでに 勉強しなくてはいけない本の量が違うという話題で、 実解析は一冊読めば十分とか誰かが言っていたが、 それは事実でもあり、同時にまったく間違いでもあると思う。 実解析というのは普通の微積分の先につながっているので、 新たに何も勉強しないでいいと言うのも事実だが、 (きっとすごくセンスが良ければ何もいらないはずだ)、 同時にいくら勉強してもきりがないような所があるような気がする。 他の分野に比べて特に「教養」とテクニックの豊富さがモノを言うような 所があって、 「あれ、その不等式はどこから出るの?」などと質問すると、 「こんなのはポリヤ=セゲーの問題集に出ている」 とか「それはダンフォード=シュワルツに書いてあるから常識だ」、 「まさかホイッテカー=ワトソンも読んでないのか」 「クーラン=ヒルベルトくらいは学生のうちに眺めておくものだ」 などと言われかねないのである。 ほとんど文字どおりの空手還郷であった私の留学の成果の一つは、 いかに自分に(当然必要なはずの)教養がないか、を嫌と言う程、 思い知らされたことだろうか。 年をとってから勉強することは非常に難しい。 今、20前後の学生時代を思い返してみるに、 昔は勉強が本当にいとも簡単だった。 今はすごく難しい。でもやらなければいけないのである。


2000/09/17 (Sun.)

ようやく夜に眠れたので、明日からは日本時間で暮らせるかもしれない。

午後から三条の十字屋に行ってチェロの弦 とCDを買う。 今のレッスンの課題曲がバッハのアリオーソなのだが、 どういう曲なのか知らなかったので、 半年間、不安に思いながら楽譜だけを頼りに練習していた。 今日そのCDを聞いて、 「こんな曲だったのか!」と驚愕(全然ダメ)。

「アリオーソ」は色々な楽器のソロに編曲されているそうで、 元来はカンタータの一曲。 ちなみにこれも今日知ったのだが、 その題名は「私は墓穴に片足を入れて立つ」 だそうです。いい曲だと思うけど、 この題名はちょっとひどいような。

夜、ヴィデオで「恋に落ちたシェイクスピア」を見る。 何度見てもいい映画だなあ。 昔、観た ABT の「ロミオとジュリエット」を思い出すから だろうか。


2000/09/18 (Mon.)

午後から大学へ行く。 T 先生と A 先生が研究室にやってきて、 しばらく雑談。 数理科学科の最近の様子などを聞いておく。 ううむ、なかなか難しい状況にあるようだ。 数学者にとっては厳しい御時世である。 少なくともこの日本では滅び行く運命の種族かもしれない。 数学者でないフリをして生きていくか、 外国に逃げ出すか。 犯罪者かヴァンパイアみたいだが。

最後のゲームを引き分けて、 JPCA Email Open 2 予戦敗退。 これを勝てば同率三位でぎりぎり残れたのだが、 もう集中力が持たなかった。 最後のゲームは楽勝のエンドゲームだったのに、 ポカで難しくしてしまい、こちらからドローを提案した。 相手は2ナイトにポーン一つ、こちらはビショップ1つに ポーン3つで、こちらの負けはほとんどない。 (2ナイトでのメイトはないので、 ビショップを捨てても最後のポーンさえ取れれば最悪でもドロー) しかし、ポカのショックが大きく続ける気になれなかった。


2000/09/19 (Tues.)

午後から大学へ。木曜日から始まる講義の準備など。 夜に眠れるようにはなったが、まだ午後に睡魔が襲ってくるし、 どうも仕事にならない。そもそも文字を追うのが辛いくらいである。 完全に適応するまでにはまだ時間がかかりそうだ。

今期はプログラミングの演習もあるので、 教室を下見に行くと全部の演習室が、 夏休み中にも関わらず何やら試験中らしく立ち入れなかった。 そういや昨日、私の研究室に 何故か情報学科の学生三人がやってきて、 「明日ある到達度試験の位置づけを教えてくれ」 と聞きにきていたが、その「到達度試験」とやらだろうか。 実際私は何も知らないので、情報学系長に直接聞くか、 学系の事務で聞いてみるように勧めておく。

夜、久しぶりに本格的にチェロの練習をする。 ロングトーンのあと、Feuillard の Daily Exercise からトリルとポジション移動の練習をして、 スケールを弾き、エチュードを二曲さらい、 バッハのアリオーソを練習する。 やっぱり音程が滅茶苦茶になっているようだ。 イギリスでは毎日練習できるだろうと思っていたのだが、 案外そういうわけにもいかず、 ロンドン、Warwick とシンポジウムが続いた時などはおよそ 二週間くらいチェロをさわらなかったりしたので、 かなり心配である。 とにかく、 先生に連絡をとってレッスン再開の日程を決めた。


2000/09/20 (Wed.)

午後から大学へ。 あれこれと雑務をし、 夕方から学系会議。 今日は大きな議題があったので結構長引いた。

夜は明日からの講義の準備。 今期は木曜金曜の二日間にかためて5つも講義があるので、 さすがに全てノートを見ずに講義するのは無理か。

なんだか良く耳にするのだがZoo、 リバイバルでまた流行っているのですか? Zooと言えば、カオリ・カワムラですか、 日露ハーフの。(それもカヴァー)

今日のアルジャーノン・ゴードン効果。
水で珈琲をドリップする。 (ダッチコーヒーが飲みたかったわけではない)


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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

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