Keisuke Hara - [Diary]
2001/04版 その3

[前日へ続く]

2001/04/21 (Sat.)

今日は完全に休日にする。昼頃まで眠って、 午後から三条に出て本屋を周り、 連休中の読書計画のための準備工作のためダンテの「神曲」 (岩波文庫、上中下全三巻)の上巻「地獄篇」を買う。 ちなみに、連休中の読書計画とは、 J.ジョイス「ユリシーズ」(丸谷・永川・高松訳、集英社I、II、III巻) である。 某カフェで珈琲とオレンジクリームをいただきながら「神曲」を読み、 SBUXで珈琲豆を買って帰宅。 突如、睡魔に襲われて昼寝(夕寝?)。食欲がないので、 ちゃんと夜食を取る気がせず、 じゃが芋を蒸してポテトサラダを大量に仕込みながら、 つまみ食いをして済ませる。

ホメロス「オデュッセイア」全二十四歌読了。 ヨーロッパ文学の源泉と仰がれる、 ギリシア最古の大英雄叙事詩。 と言うようなことはさておき、抜群の面白さでした。 内容は、 トロイア戦争終結の後、 英雄オデュッセウス王が帰国の途で漂流し、 十年以上の苦難と冒険に会った後、密かに帰国。 主の失踪中に、王位と莫大な財産と美貌の妻ペネロペイアを 狙う大勢の求婚者達は館に居座り狼藉三昧。 オデュッセウスは乞食に変装して、我が館に潜入、 求婚者たち皆殺しの復讐計画の機会を狙う…と言う感じ。 苦難の王が乞食に変装して我が家に潜入、復讐を狙う、 といった関西弁で言えば「ベタベタな」ストーリーに、 お約束シーンが満載で、一気に読ませます。 また、構成の面で興味深いのは、 全てのストーリーが誰かによって語られる「語り」なので 策略の天才オデュッセウスの、 「騙し」と「実話」とが互いに入れ子のように交じりあって、 全体の「おはなし」になっていて、 さらには実はこの話の全体が、何かの策略のための作り話かも知れないよ、 というような複雑な構造を持っていることでしょうか。

それから一つ気付いたのは、 漱石の「我輩は猫である」に出てくる「首括りの力学」の話のもとネタは、 「オデュッセイア」の復讐シーンで求婚者たちと情を交わした 召使いの女達を一斉処刑する所なんですな。 ああ、あれはここであったか、と読んでいて思いました。


2001/04/22 (Sun.)

次の週の内にしなくてはいけないことが増えてきたので、 キャンパスに日曜出勤する。 ところが、大学についてみると、 何故か theory が cs ドメインから切断されていて、 資料も取れずメイルも書けず受けとれず、愕然とする。 珍しく休日出勤してみれば、しようと思っていた仕事が…(泣)

夕食。パスタとポテトサラダで酒を飲む。

今日の「神曲」地獄篇。全三十四曲のうち、第一曲から第八曲。 ダンテはウェルギリウスに導かれて地獄巡りをする。 地獄は地球の中心を頂点とする円錐形の内面にそって、 九層をなしていて、 地球の中心にある第九獄最下層にむかって、 下に行くほど罪が重い。 この内、第七獄は三、第八獄は十、第九獄は四に さらに細分されている。 地獄全体は第五獄と第六獄の境目の ディーナの城壁で大きく二分されていて、 城壁の外が「放縱」(第一から五獄)、 城内が「邪悪」(第六から第九獄)である。 第八曲を読み終えた所で丁度、 二人はディーナの城壁前に到達。 ちなみに第一獄は洗礼を受けなかったものの獄なので、 ソクラテス、プラトン、ユークリッド、ホメロス なんかまで地獄の一丁目にいるのである。 うーむ。キリストより先に生まれてしまったのも罪なのか。


2001/04/23 (Mon.)

大学へ。「数理計画法」、線型代数の復習の最後。 次回からは線型計画法に入る予定。 続いて「確率・統計」。 コルモゴロフによる確率の考え方。確率空間など。 ただし離散的でかつ有限集合の場合。

大学に来るとまた今週中に書かなくてはいけない書類が来ていて、 本来なら喜ぶべきことかもしれない報せにも、 ちょっと涙目になる。


2001/04/24 (Tues.)

午後から大学へ。 事務仕事を片付けてから、W先生の講義を聴講。 今日はヒルベルト空間論からの準備。 次の講義でCameron-Martin空間を例として挙げれば、 大体関数解析からの準備は一段落して、 確率解析に進んで行くと思われる。

ベイズ理論がコンピュータ技術の世界で話題らしい。 よくわからないが、例えばユーザーが助けて欲しい時に 手助けしてくれるような痒い所に手が届くヘルプシステムなど、 パーソナルアシスタントの人工知能エンジンの基礎として用いるらしい。

ベイズ理論とは(私の理解によれば)、 古典的な条件付き確率の定義式を読み換えることによって、 「結果から原因の確率を推定する」統計的推論の方法だが、 正直に言って未だによく理解できない。 使用している数学に問題はないのだが、 統計的推論の根本的な発想そのものがどうしても納得出来ない。 さらに言えば、上に「」でくくった所、 「結果から原因を推定する」という意味も正確には良くわからない。 はっきりどこがおかしいとは言えないのだが、 何かがおかしい。 使用している数学そのものは正しくて、 その「読み方」「使い方」の哲学的(?)問題である。 そんな人が「確率・統計」の講義をしていていいのか、 という御意見もあろうが、 わからないものはわからないのだから仕方がない。 しかし、今期が私の「確率・統計」の最後になるので、 今回はベイズ理論とアンチベイズ派のいくつかの理論 などにチャレンジしてみる予定である。 なんとかそれまでには自分なりの結論を出したいものである。


2001/04/25 (Wed.)

自宅でTeX原稿書き。 がーっと数時間書いて、休憩のため散歩して、 また帰宅して原稿を見直してチェックを入れる。 夜になって、タイプの合間に疲れを癒すために、 レゴブロックがよろしいのではないか、とふと思った。 色あざやかで綺麗だし、手も動かすし、頭もそんなに使わないし。 早速、以前密かに購入したものを取り出して遊び始める。

いつの間にやら異常な集中力で夢中で組み続け、 そして二時間後、

「ウェストウィング完成…」(泣)

どうしてこうも逃避行動には気合いが入るのだろうか、謎だ。


2001/04/26 (Thurs.)

午後から大学へ。 暗号関係の修論の打ち合わせを一つしてから、 確率論の卒研。スターリングの公式の証明の続き、 一次元ランダムウォークが原点に帰ってくる確率、 原点に帰ってくる回数の期待値など。 続いて、確率解析に続くことを予定した実解析ゼミ。 シグマ加法族の引き戻し、可測関数、などなど。

(1)から(4)の四つの命題の同値性の証明として、 「(1)と(2)の同値は明らか、(2)と(3)の同値も明らか、 (3)から(4)が出るのは明らか、(4)から(2)も明らか。証明終わり」 という証明は全く自明な証明ではないのですよ。 この順序で示せば明らかである、 ってことは明らかじゃないんですから。 実際、四つとか五つの命題の同値性の証明の所に、 どれからどれを導くかを示す矢印が書いてあるだけ、 という証明を何かの教科書で見たことがあります。 非常に明解で、かつトリッキーな証明でした。


2001/04/27 (Fri.)

昼御飯は自宅で餃子を肴にビール。 ビールは税金があまりに高いので好きじゃないけど、 たまにビールでないと、と言う気持になるタイプの 飲み物ですね。特に昼間に飲むと美味しいです。

さて、天気も爽やかなので、散歩がてら午後から大学へ。 連休前にやっておいた方がよさそうな事務的な用事を 色々片付ける。

ちょっとした仕事の関係で、学会から「数学通信」 の創刊号から現在までの20巻が送られてきていた。 学会に入っていると送られてくる会報のようなものだが、 創刊号から読み始めると、 これがなかなか充実した雑誌であるなあ、と再認識した。 読物やエッセイなどどれも楽しい記事が満載である。 書店で売ってもいいのではないだろうか。 それにその仕事の関係で、 普段はほとんど見ない事務情報みたいな所まで目を通したのだが、 それもなかなか興味深かった。 会則の変更とか、入会、脱会者名簿などなど。


2001/04/28 (Sat.)

九時頃起床。 寝台で珈琲を飲みながらジョイスの「ユリシーズ」を読む。 連休中の読書計画である。 昼食はベーコン、唐辛子、大蒜でパスタを作る。 食後の運動にレゴで小さなチェロを作ってから、 三条に散歩に行く。某カフェでさらにジョイスを読む。 「ユリシーズ」は三人の主人公のダブリンの一日を描いた作品で、 この作品だけから1904年6月16日のダブリンが復元出来るとまで言われる 現実を盛り込んだ詳細さと、 複雑に入りくんだ伏線と、これでもかと盛り込まれた「謎」で有名。 ホメロスの「オデュッセイア」の構成を下敷きにしていて、 他にも聖書、アリストテレス、シェイクスピアなどの古典を 縦横無尽に組み込んでいるらしい。 最初の五章を読んだだけでやっぱり、 ダブリンの地図を見てメモを取りながら読まないといかんな、と思ったのだが、 丸善にもダブリンの詳細な地図は売っていなかったので、 本の最後についている参考図で我慢しようか…と思っていたら、 発見しました。通りごとにズームインできる ダブリン地図

第一部。「1 テレマコス」「2 ネストル」「3 プロテウス」。 ダブリン湾海岸の朝。 主人公の一人スティーブン(「若い芸術家の肖像」の主人公のその後) は悪友バック(伊達男)・マリガン とダブリン湾に面する海岸の塔を借りて共同生活をしており、 今はヘインズと言う居候もころがりこんできている。 スティーブンは学校教師で文学志望。 バック・マリガンは医学生。陽気な皮肉屋で多弁。 真面目で陰気で悩める文学青年スティーブンとは対照的。 バックの不埓な髭剃りの儀式の後、三人で朝食。 バックは海岸に泳ぎに、スティーブンは学校へ。 12時半に「シップ」(パブか?)で待ち合わせの約束。 スティーブンは学校に行き授業をし、校長に会って給料をもらい、 サンディマウント海岸を妄想をしながらダブリンの街に向かう。 現在時刻不明。おそらく午前11時前後か。

第二部「4 カリプソ」。同日の朝、時刻は不明。 ダブリンのエクルズ通り、 もう一人の主人公レオポルド・ブルームの自宅台所。 彼は雑誌の広告取り。 ソプラノ歌手である妻モリーと二人暮らし。 ブルームはまだベッドの中にいる妻モリーのために朝食を用意し、 自分用に近所のドーセット通りの肉屋に豚の腎臓を買いに行って 帰宅すると娘のミリーからブルーム、モリーそれぞれへの手紙と、 興行主ボイランからモリーに手紙が来ている。 (ミリーからの手紙で、第3章で名前不明のバックの友人の 話の中に出てきた写真屋のアルバイト娘がミリーと判明。) ブルームはベッドのモリーに朝食と手紙を届け、 自分は台所で朝食をとって、11時からの葬式に出席のため外に出かける。 モリーとボイランの浮気を疑っているようだ。 現在8時45分 (表に出た時のジョージ教会の鐘の音から時刻が判明)。

「5 食蓮人たち」。ブルームはリフィ川南側の川岸沿いに歩き、 ライム通りを歩き、タウンゼンド通りを横切り、 ウェストランド通りの郵便局に立ち寄り手紙を受けとる。 この郵便局留めを利用してブルームは偽名で女性と文通しているのだ (第4章で外出する前に帽子の裏にはさんだ名刺は、 このための偽名名刺と判明)。 道端でマッコイと出会って立ち話。場所はグローヴ゛ナーホテル前。 人気のない通りで女からの手紙を読む。 さらにオール・ハローズ教会の裏口から中に入り、 ミサを眺めて、入口から外に出る。 薬局に寄って、モリーの化粧水を頼み、 葬式に出る前に公衆浴場に入ろうと石鹸を買う。 薬局を出たところで、バンタム・ライアンズに出会い、 新聞の競馬欄を見せるようせがまれる。 ブルームは「ちょうど捨てようと思っていた」と新聞を渡し、 ライアンズは「それで行ってみよう」と答える有名なシーン。 「捨てる(throw away)」を出走馬の名前 Throuaway と解釈したのである。 ブルームは風呂屋に向かう。時刻は不明だが、10時くらいか。


2001/04/29 (Sun.)

朝九時起床。寝台で「ユリシーズ」を読む。 午後は京都文化博物館でロシア特集の室内楽コンサート。 チェロの先生が独奏でグラズノフの「吟遊詩人の歌」を弾いていたのが、 なかなか良かった。やはりチェロはいい。何と言っても音がいいよ、うん。 いつものソプラノ歌手の女の子は、今日はお手伝いらしく受付にいたが、 どこかの老人が道か何かを尋ねたのに、 歌手らしい身ぶり手ぶりで答えていてちょっと可笑しくも可憐であった。

夕方から妾宅引越先の様子を見に行く。 夜は木屋町の「前田豊三郎酒店」で日本酒と食事。 アイナメを軽く焙ったおつくりが美味。 すっぽんの雑炊は失敗。

今日のジョイス「ユリシーズ」。 第6章「ハデス」。同日午前11時。 ブルームはディグナムの葬式に出席。 サイモン・ディーダラス(スティーブンの父)らと同じ会葬馬車に乗り、 ドダー川、グランド運河、リフィ川、ロイヤル運河と四つの川を 横切って市内を横断し、墓地に向かう。 途中、ウォータリー小路口を過ぎたあたりで、 ブルームはスティーブンを見かける。 (ということは、やはりスティーブンが海岸を通って、 街に入ったのは11時頃と考えるべきだろう)。 墓地に到着、埋葬。 ブルームは十三人目の葬列者であるマッキントッシュを着た謎の男を目撃。 これが何者かは不明。 第7章「アイアロス」。おそらく12時前後。 葬式の後、ブルームはスティーブン父などとともに、 新聞社にいる。ブルームは酒屋キーズの広告の仕事、 他の者達は勝手なおしゃべり。 ブルームが仕事に外出した途端、 スティーブンが新聞社に登場。 第2章で校長に頼まれた新聞への投稿記事を編集長に渡すため。 スティーブンの提案で皆で酒場にくり出す。 ブルームが戻ってくるがすれ違いで、主人公二人はまだ出会わない。


2001/04/30 (Mon.)

午前中に起床。寝台でジョイスを読む。 食事を作る気がしなくて、昼は近所で外食。 午後も合間に読書をしながら、 部屋の掃除と整理。洗濯は天気が悪いのでキャンセル。 夕方から散歩がてら食材の買い出し。 催しコーナーで鷄レバー炒めのいい臭いがしていたので購入。 レバーをあてに頂き物のビールを飲んで、 冷奴を食べ、蕎麦を茹でて夕食にする。 蕎麦には日本酒だったか…ちょっと後悔。 夜はチェロの練習。エチュードとクライスラー「美しきロスマリン」。

今日の「ユリシーズ」。 第8章「ライストリュゴネス族」。
同日午後の早い時間。午後1時くらいか。 ブルームは新聞社を出て図書館に向かう。オコネル橋を渡り、 ウェストモアランド通りへ。ミセス・ブリーンと立ち話。 トリニティカレッジの前を通り、ナッソー通りの角を横切り、 グラフトン通りを歩き、デューク通りのバートン食堂に入る。 しかし、そこで食事する人々の姿にうんざりして、 デイヴィ・バーンの店(パブだろう)で軽く食事することにする。 ワイン一杯とチーズのサンドウィッチを食べて、 図書館方面へ。 歩いていた時のブルームの内言によれば、 今年の秋に皆既日蝕があるらしく、今日は新月。さらに、 モリーの誕生日9月8日まで三ヶ月あるということから、 おそらく今日は6月中頃であることが判明 (これらの事実から1904年6月16日と決まりそうだ)。 図書館前でボイランを見かけて、隣りの博物館に逃げこむ。 今日の午後のモリーとの浮気を疑っているとしても、何故だろう。 現在、午後2時過ぎ。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
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