Keisuke Hara - [Diary]
2002/04版 その1

[前日へ続く]

2002/04/01 (Mon.)

久しぶりに自宅で味噌汁、漬物、梅干しなどの昼食を取り、 午後も読書などしてのんびりと過す。 夕方は烏丸に買ひ出しに出る。 夜も自宅で適当に夕餉を仕度して食す。

今日の読書。「オイディプス症候群」(笠井潔)。 まだ出だしの所だが、今回、 俎板にあげられてゐる思想家はフーコーらしい。

昨夜のチェス。 黒番、シシリアンディフェンス・ドラゴンヴァリエーション(*1)。 負け。中盤では楽勝かとさへ思つてゐたのだが、 エンディングの見通しが甘かつた上に、 Bg7 を生かせぬまま負けてしまつた。 最近、典型的な負け方は、 中盤で明白に勝勢だつたゲームを結局落すことである。 勝ちゲームを確かに勝ち切ることが難しい。 チェスは人生の縮図、否、人生がチェスの縮図なのである。

*1: 1. e4 に対し、1. ... c5 のシシリアンで、 特にビショップを g7 に構へる黒番の変化。 タクティカルな激しいゲームになりがち。


2002/04/02 (Tues.)

新學期は4日からだが、 様子を見に大學にいつてみる。 身分証の更新時期なので、 事務室で新しいものに交換してもらふ。 事務の方によると、数理と物理で私が一番最後だつたさうだ。 さういへば、昔、学位記を事務室に取りに行つたのも最後であつたなあ。 ポストに入つてゐたお報せによると、 どうも今日の午前中に数理のオリエンテーションがあつたやうだ。しまつた。

M1の院生とちよつと打ち合わせをしたり、 適当に午後を過して、夕方帰宅。

Today's spagetti 帰宅が早かつたので、少し凝つて、 鷄レバーのスパゲティを作る。 いつものやうにオリーブオイルで大蒜、唐辛子を炒め、 さらに玉葱の薄切りを30分ほどかけて弱火でじつくりと甘みを出す。 そこに適当に下処理をしたレバーを刻んで炒め、 塩胡椒にパセリを加へ、赤ワイン少々で煮つめる。 そこに丁度、茹であがつたスパゲティを和へて、 適当に盛りつけてパセリをふれば完成。


2002/04/03 (Wed.)

朝は積分論の講義に向けて準備をする。 昼食はうるめ鰯の丸干し、胡瓜の漬物、豆腐と九条葱の味噌汁。 午後は家で色々と雑務をして、 夕方は三条大橋SBUXで原稿の校正作業。 夜も自宅で食事。 文庫の「正法眼蔵随聞記」を片手に筑前煮を煮て、 冷奴、胡瓜の漬物などと冷や飯を食す。 食後は風呂に入つて、チェロを弾いて、 また校正をして晩酌と言ふやうないつもの一日。

筑前煮に鷄肝を入れたので、見た目がまつくろになる。 普通の鶏肉を使ふものであると知つてはいるのだが、 実家で食べてゐた筑前煮がさうだつたので、 つい懐しくて作つてしまふのである。 普段はもつと爽やかな印象の筑前煮を作つてゐる。


2002/04/04 (Thurs.)

朝は積分論の講義の準備。 昼食は蕎麦を茹でて、九条葱と卵で月見蕎麦にし、 筑前煮の残りとともに食す。 お茶を飲んで一服してから、午後は原稿の校正作業。 夕方からは河原町に出て、場所を変へて喫茶店で校正作業の続き。 ついでに買物もして帰宅し、 夕食はだし巻き卵、筑前煮、胡瓜の漬物、大根の味噌汁など。 牛蒡が余つてしやうがないので、きんぴらを作つておく。

おほむね野菜は安くて一人暮しには量が多いのだが、 その中でも特に安いものは一本などでは売つてくれないのが、 困りものである。葱はまあいいとしても、韮とか牛蒡とか。 牛蒡も100円くらひで束になってゐるので、 一度買つてしまふと献立に頭を悩ませることになる。 あと一本は煮しめと魚の煮つけにでも使ふか…

この前、東京での學会でK大のS君(今春よりTK大より移籍) たちと上野のうらぶれた焼き鳥屋で一緒に飲んだ時に、 「子持ち若布」の子持ちとは何であるか、といふ話になり、 魚の卵を人工的にまぶしたものである説と、 若布の子が卵のやうについてゐる説が立ち、 私は後者を力説したのだが (といふのも、まぶしてあのやうにびつしりと付くものではないと思つたので)、 まつたく間違ひであることが今日わかつた。 さらに、前者も本来の意味では間違ひである。 正しくは鰊が若布に卵を生み付けたものであるとのこと。 誰でも知つていることなのだらうが、 思わぬことを同席したもの皆が知らないといふことがありうるといふ教訓である。


2002/04/05 (Fri.)

家で、だし巻卵の残り、筑前煮の残り、胡瓜の糠漬、 揚げと葱の味噌汁、冷や御飯の昼食を取り、大學へ。 フーリエ解析の演習書の翻訳のデータを出版社に送つて、 午後は個研で暗号の本の著者校正をする。一回目の校正は終わつたが、 自分で宣言した締切まであと一週間あるので、 もう一回くらひは眼を通す必要があるだらう。

校正を終へて、個研で呆然としていたら、新學期のせゐだらうか、 さうだ経済學の勉強をしやうと言う氣になつて、 生協にスティグリッツの「入門経済学(第二版)」を買ひに行く。 しかし、一冊もなかつたので、今度はメディアセンターに借りに行く。 ところが、そこにもなかつたので、 アクロスのメディアライブラリーに行つてみる。 さすがに経済の図書室だけにおいてあつたが、 カウンターでは司書のお姉さんに、 「返却期日が4月5日になってしまふ、これは変だ」と騒がれ、 教員の貸し出し期間は一年間なのだ、 そして私は(さうは見えないかも知れないが)教員なのだ、 とわざわざ説明するのも変なので、 しばらくカウンターのむかうで色々と議論してゐるのを聞いて、 一段落してから本を借りて帰宅。

帰りのバスと電車の中でスティグリッツの第一章を読んで、 練習問題を解き、第二章に入る。 帰りが遅くなつてこれから夕食の仕度をするのも大変なので、 クロに餌をやつてから、スティグリッツを持つて近所のバーまで歩く。 夕食は豚の肩肉の赤ワイン煮込みとつけあはせにパンで、グラス二杯。 二章まで読む。

第二章のコラムに「会議の機会費用」と言ふ話が出てゐる。 企業はしばしば、最も貴重な機会費用である重役たちの時間を無視してゐる、 会議に使つた時間は、他の仕事に使ふこともできたのだから、 それを失なつた費用である「機会費用」を勘定すべきだが、 無視されがちだといふ主張である。 これを回避するための提案として、会議を行なふ時には、 その会議の機会費用を示すスコアボードを会議室に置いては如何、と言ふ。 皆の時間あたりの費用を合計してそこに書き込むのである。 他にも、会議室を使用するためのコスト、 その会議によってストップした用件の損失なども考慮すべきだが、 おほむね、出席者の時給で計算しておけば、よい近似になるだらう。 立命館大學の理工学部教授会で試算してみると、 しごくおほざつぱに、時給5千円に出席者と関係者200人をかけて、 おほよそ時間あたり100万円といふところであらう。 教授会は通例3時間以上行なわれてゐるから、最低でも300万円。 教授会一回の機会費用は300万円以上である。 助手一人を一年間雇ふことも可能な金額である(教授会一回で!)。 ついでに言へば、一年間では…いや、やめておかう。 この事実をはつきりと皆が知れば、 素早く会議を済ませて出席者を他の仕事に戻さうと言ふ、 インセンティブが強く働くのではないだらうか。


2002/04/06 (Sat.)

朝は積分論の講義の準備。 昼食は韮入りのだし巻、うるめ鰯のまる干し、 きんぴら牛蒡、豆腐と葱の味噌汁。 執事にもふるまふと、 普段は一汁一菜の食卓をよく目撃されてゐるので、 「今日は豪華ですね」と言われる。 貧乏学者には一汁一菜くらひが分相応と言つたものだが、 休日くらひは一品多くてもよからう。

午後は読みさしてゐた 「ヒューマン・ファクター」(グレアム・グリーン)の続きを読む。 キム・フィルビー事件に影響を受けた小説では、 ル・カレのスマイリー三部作などの方が私の好みだが (それはきつと私が本質的にモラリストであるからであらう)、 これも傑作であることは間違ひない。

夕食は大蒜と唐辛子のみの純粋アーリオオーリオと、 同時に蒸した新じゃが。 まだ牛蒡があまつてゐるので、 その間に牛蒡のきんぴらも作りおきしておく。


2002/04/07 (Sun.)

朝はクロさんに起こされて食事を与へ、 寝台に戻つてスティグリッツを読む。第三章「取引と貿易」。 きつとプロから見れば色々あるのだらうが、 素人目には非常にわかりやすくて良い教科書に思へる。 昼食は、うるめ鰯、韮と豆腐の卵とぢ、胡瓜の漬物。 韮も一束50円で買つて山ほどあるので、使ひ道に困る。 午後は京都府知事選の選挙投票に行つて、 そのついでに少し買物をしてから自宅に戻り、 「ヒューマン・ファクター」(グレアム・グリーン)の残りを読了。 夕食は博打飯 (冷や御飯と豆腐の賽子切りに味噌汁をぶつかけたものをさう言ふらしい)と、 残りもの。ついでに、 賞味期限が来てしまつたお揚げを葱と炒めておく。 夜は講義の準備など。

「ヒューマン・ファクター」に刺激されて、 ル・カレを再読したくなつてきた。エスピオナージュではないが、 まずは短かいもので「高貴なる殺人」から。 今日、書庫で手にとつて、原題が "A murder of quality" であつたことに気付く。なるほど。


2002/04/08 (Mon.)

午後は12時半から、積分論の講義。 今日はイントロダクションとして、 積分論を学ぶ意義として私が思ふ所を述べ、 後はリーマン積分の性質や問題点をおさらひする。 続いて、3階に移動して線型計画法の講義。 2変数つまり二次元座標で絵に書ける時に、 典型的な線型計画問題を説明して、イントロダクションとする。 さらに続いて、卒研とゼミの打ちあはせ。 これでゼミ等のスケジュールも決定。

ひさしぶりに、しかも二つ連続三時間も講義をして、ぐつたりとする。 ふらふらしながら帰宅。 御飯を炊く元気がなくて、スパゲティを茹でたのだが、 丁度、袋が最後で、二度に分けるには少し、 一度に食べるには多しといふ困つた具合であつたので、 えいや、と全部茹でてしまつた。 もちろん出来上がつたのは、 漫画のイタリア人がマンマに食べさせられるやうな、 大皿一杯に山盛りのスパゲティ(しかも大蒜、唐辛子、パセリのみ)で、 しやうがないので一人で黙々と山を端から崩すやうにして食す。


2002/04/09 (Tues.)

cello in bed 昼食は自宅で。 きんぴらとか葱とお揚げの炒めものとか、 作りおきのものと味噌汁で食事。 一旦、河原町に出て、 丸善でル・カレの"Murder of Quality"を購入し、 三条大橋のSBUXでしばらく読書してから、大學に向かふ。 今期最初の教授会。 新任の先生の挨拶があつたりして、春らしい。 なんだか猛烈な數の新任の方がゐて驚いたが、 この不景気に一人気を吐く人気学科、情報学科の任用が主で納得。 今日は二時間強くらいで終了。 事務的なことで私の失敗が発見。事務に相談に行くこと(明日へのメモ)。 7時半頃帰宅して、夕食は、お揚げと韮と玉葱を炒めて、 あとは作りおきのものを食す。 夜はチェロを弾いたり、二度目の著者校正を詰めたり。

全米で大ヒットし色々と話題にもなつていたTV番組 "survivor" を日本でもやるといふので、 ちよつと観てみる。ううむ、この即席の人間関係のどろどろなイタい感じ、 しかし、同時にいかにも仕込みました、と言ふ安心感、 いかにもヒットしそうである。

これで思ひ出したのだが、 英国留学中に「最弱の鎖」といふやうなタイトルのクイズ番組を観た。 英国産なのかアメリカ産なのか知らないが、 なかなか面白い趣向のものであつた。 全体としては、10名ほどの一般参加者がチームとなつて、 番組ホストの出すクイズに答えて行くと言ふだけのものだが、 ポイントは、1ステージごとに参加者たちの多数決で、 仲間一人を切り捨てて行かねばならないことである。 さうして、最後に残つた一人だけが、賞金を手に入れることが出来るのである。 最初はクイズに答えられない駄目な奴が切り捨てられていくのだが、 後のステージになつてくると、 強い奴を残すと最後の一人になるためには敵になつてしまふ、 といふアヤもある。 かういふことを集団の投票で「民主的に」、 しかも公開でやつて行くわけで、これが実に陰険かつ嫌な感じで、 ついつい観てしまつたものであつた。


2002/04/10 (Wed.)

昨日の深夜に蕎麦を茹でて葱かけ蕎麦を食べたせゐか、 喉が喝いて目覚めた。 SBUXで校正作業をしてから、大學キャンパスへ。 まず事務で相談。案外、簡単に解決。 さらに書類書きなどいくつか雑務をしてから、 今期最初の教室会議。 いろいろと議題があつて、6時過ぎまでかかる。

昨日、Weakest Link のことを書いたら、 もとS藤研で今、アメリカで企業研修中のM君が色々と情報を送つてくれた。 上のurlもさうである。 このトップページの左のオバサンが、 私が観ていたヴァージョンのホステスだつたやうだ。 このオバサンが実に冷酷で厭味でいやーな感じであつた。 M君情報によると、 Weakest Linkの日本版が今期からフジ系列で放映されるさうである。 ただし近畿地区では観られないかも、とのこと。 ホスト役は伊東四郎らしいが、番組の主旨からして、 ちよつと違ふ気がする。 ところで、 アメリカのオリジナル版では最近、「プレイメイト大会」があつたらしく、 「この売○婦が」「妹は真面目な仕事についているのよ」 などと言ふ、 微笑ましい切り捨て合ひが飛びかふ、心あたたまる番組だつたとか。

さう言へば、イギリスから帰国した時、 高槻の私的TV評論家T部長に「このクイズ番組はきつと輸入されるだらう」 と予言したのだが、二年後の今期で実現したことになる。 "Survivor"と"Weakest Link"といふほとんど同じ主旨を持つ 大ヒット番組二つが同時に輸入されたわけだが、 このあたりについて、TV評論家としては如何なのだらうか。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
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