今日から九月。私の誕生月。 京都は少なくとも後一週間は厳しい残暑が続くやうだ。 明日、早起きをするために今日から早く起きておかうと 思つてゐたのだが、目が覚めたのは何故かもう昼。 昼食は冷や御飯に納豆、ちりめん山椒、若布の味噌汁。 午後は九月中の出張のホテルの予約をしたり、 あれこれ作業。 夕食はオムライスにオクラのサラダ、ワイン。 食後に珈琲と上海みやげのチョコレート。 明日から忙しいので、夕食の準備の合間に、 肉味噌、牛蒡のきんぴらなど、 日持ちしさうなものを作りおきしておく。 ちりめん山椒や胡瓜の糠漬などもあるので、 一週間くらいはお茶漬なり素麺なりで、何とかしのげるだらう。
夕方、むかいの方が缶ビール6缶を持つて挨拶に来てくれる。 明日から工事か何かでうちの前に車を停めるから、とか。 私は普段は自宅でビールを飲むことはないが、 嫌いではないし、特にこの暑いさなかには有難い。
明日は早朝から関空へ、フランスからのお客様のお出迎へ。
朝五時起きして、関空に7時40分に到着。 着いてみたら、来ないと言ふ話だつた I 先生が来てゐて、 結局私と K 大の I 君と三人でお迎へすることになる。 パリからの客人 M 先生はスーツにレインコートと言ふ、 向こうは寒いのだな、と思はせるいでたちで登場。 今日の京都の最高気温は36度だが。 I 先生は所用のため、私と I 君の二人で M 先生を RIMS までお連れすることになる。
特急はるかにて。
M 先生:「私の席はココ。そして、君の席はドコ」
H:「コノ近辺ニスワローかニャと。マエの席とか」
M :「ユー・セイ(なんだつて)?じゃ、ここにセヨ。議論しよう」
H :「センセイもローング・トリップで、
おツカれのやう見受けッレマスシ…」
M :「ユー・シー(そうかね)?。
私のコンディションは今サイコー(extre--mly)にベスト」
そのあと、延々と一時間あまり、
さつぱり分からない数学の話を空相づちを打ちながら、聞き続ける。
「モチロン、つまりこの空間 B スターかラの写像であるかリャ、
タンヨー関数になり、ノンノン。タンヨーだよタンヨー、
こレは先程わレわレが G と名付けた部分空間かリャ、
空間 H へ中への…自明にこの d わリュことの d シータ、
1割リュことの、かっこ開く 1 マイナス x x スター、積分すリュことの…
行列式のログの二階微分で…ケーラー幾何とリンクしていて…
しかしホロモロフィックと非ホロモロフィックな部分を
切り分けなけレばならず、そう良いナイフが必要なのだ、シュッ、シュッ…
ここでタイヒミュラー空間とのリンクが…ドリフト項のあリュ場合は、
先程我々が式A と呼んだ項がつぶレるためにナンセンスで、
ブラウン運動のみの時のヨに無限次元対称群上ニャ実現できないネ。
このドリフト項のある場合こそは、私と誰それが2001年に
なんとかかんとかジャーナル何号の何番何ページに出した論文だが…
よつて可能あル離散化のアイデアとしてはヒルベルト変換によつて…
そユわけで、ジーゲル円板上でカノニカルなブラウン運動として…
しかしこレは円周上のフーリエ級数展開によつて、
明白に佐藤グラスマニアンとのリンクが…(以下論文二本分省略)」
「先生、アト10分くリャいで京都駅かと」
「ユー・シー。そユえば、最近、ホプキンス大出版の
アメリカンジャーナルオブマスの最新号に出た、
これこれの論文を君は、読め」
「アイ・シー…」
京都駅からタクシーでホテルに向ひ、荷物だけを預けて、 そのまま RIMS にお連れし、秘書室で事務手続きなどを片付けてもらふ。 丁度、昼頃だつたので、M 先生、T 師匠、I 君との四人で、生協で食事 (生協で食事したのは M 先生本人が、そうしたい、と主張したからである)。 その後、RIMS 一階のコモンルームでしばらく数学の話などをした後、解散。 午後少し仮眠を取り、そのあたりのもので適当に夕食をとつて、 夜は校正や、プロシーディング執筆のお仕事。
冷や御飯、きんぴら牛蒡、胡瓜の糠漬などに、オクラの味噌汁の昼食をとつて、 午後から大学へ。教授会を無断欠席して、別の会議。 7時過ぎくらいまでやつて、帰路につく。 帰宅して御飯を炊く時間もないので、素麺を茹でて食べる。 その一方で、 固茹で卵を乱切りにしてパセリとマヨネーズで和えて冷やしておき、 後ほど貰ひもののビール。
素麺と言つても色々な食べ方があるやうで、 昔、幕末の土佐の殿様で山内容堂と言ふ人が箱根で食べた素麺などは、 それはそれは旨かつたことであらう。 容堂は、分家出なのに殿様になつた軋轢のせゐか少々ぐれて、 随分と粋な人だつたやうである。酒も相当飲んだし、 妾も一度に揃つてゐたわけでもないと思ふが十二人ゐたと言ふ。 ある時には、もと芸者でお愛と言ふのと、 お恋と言ふものの二人が特別のお気に入りで、争つてゐた。 容堂がこの二人を連れて箱根に避暑に行つた折のある午後、 「冷たい素麺が食べたいなあ」と言ひ出した。 すると、お愛の方がかしこまつて下がつたと思ふと、 盤に素麺を入れてもつてきた。そして、 その場でするすると帯をほどいて単衣を脱ぐと、 盤を持つて庭前の滝水の中に入り、素麺を冷やしたと言ふ。 お愛は成島柳北が詩によんだと言ふほどの美人で、 しかもこんな芝居気があつたので、お恋の方が敗れ落籍となつたとのこと。 この話は「ふところ手帖」(子母沢寛著)で読んだ。
RIMS での伊藤清先生米寿記念、 国際シンポジウム初日。
確率解析とその周辺、国際シンポジウム二日目。 会期前には予定されてゐなかつたらしいが、 本日の最後の G 教授(SanDiego)の講演前に、伊藤先生御本人が現れる。 E 教授(Warwick)が午後のチェアマンで、 「最後に来られたこのシンポジウムの参加者を紹介させて下さい。 名札は付けておられませんが、その必要はないでしょう。 キヨシ・イトーです」 と紹介され、聴衆の長い拍手が続いた。
一つのアイデアがたくさんの人々が行く道を指し示すことがある。 我々(と言はせていただきたい)は皆、イトーから出てきた。 イトーの子供であり、孫であり、 私の世代になるとひ孫くらいかも知れない。 それでも、そんなことを嬉しく思つた一日であつた。
確率解析国際シンポジウム三日目。
夜はお疲れ気味のシンポジウム代表者 T 師匠と、 TeX 界の大御所 O 君、K 大の S 君と四人で飲みに行く。 その後、さらに S 君と二人で河原町のバーで、 我々の今までのありよう今後のありようについて反省会。
確率解析国際シンポジウム最終日。最終日のみ会場は国際会舘。 今日の講演は、特に伊藤先生に捧げられる特別講演で、 伊藤先生自身もほとんどの講演に出席された上に、 夜のレセプションパーティにもいらして、 さらにスピーチまでされて参加者を驚かせてゐた。 特別講演では数学の内容に入る前に大抵、 短かい歴史的リマークや祝辞が述べられ、 それぞれに味わひのある名スピーチであつた。 やはりかういふことについては、 外国人の方が格段に上手で感心させられる。
パーティ終了後は、 シンポジウム代表者だつたT 師匠にお疲れ様でした、 の一言ぐらいは挨拶するのが筋であらう、とS 君と二人、 I 先生、T 師匠などの一団に加はり、河原町の喫茶店へ。 しばらく雑談して10時過ぎに帰路につく。
頼まれてゐた届けものがあつたので、 午前中は河原町で S 君と待ち合はせして、昼食を一緒にとる。 昔、院生時代に S 君と良く行つてゐた下北沢の F といふ店が、 しばらく前から河原町にも店を出してゐて、 そこで懐しい味を数年ぶりに味わふ。 その後、自分の誕生月を祝し、 錦市場の有次で牛刀を買つて S 君とは四条通りで別れる。 包丁は「平常一品」といふ、鋼をステンレスで挟んだ作りのもの。
先日、私の C.V. に間違ひがまだあると S 君に指摘された。 京都大学の英語名は University of Kyoto ではなくて、 Kyoto University が正しいとのこと。 ほとんどの国立大学はこの順序なのだが、 東京大学だけは例外的に University of Tokyo なんださうな。 しかも、さらに正式には、 "The University of Tokyo" となつてゐるさうだ。 つまり「東京大学」と言ふ名前の大学といふよりも、 東京にある(唯一の)大学がすなはち東京大学であり、 東京の大学と言へば東大のことである、 といふ傲慢が潜んでゐるのだ、と。 本当のところは知らないが、ありさうな話ではある。
土日に執事とチェスを2局指したら、両局ともボロ負けした。 一手先の読み落としもあるやうなでたらめさで、 アルコールのせゐの他にも精神的な疲労がうかがはれる…
今シンポジウムが開かれてゐる神戸 "UNITY" と言ふのは初めて聞いたが、 セミナーとかシンポジウムなどが出来る大学共同施設のやうだ。 その建物がある駅の名前も「学園都市」で、 神戸近辺の色んな大学が寄り集まつて活動してゐる地域らしく、 その建物が中心施設と言ふことになるのだらうか。 なかなか面白い試みではある。
現状報告。 やつとのことでフーリエ解析の問題集翻訳の著者校正、丁度半分が終了。 締切の九月末までにあと半分。 来年度前期開始にむけて出版されるくらいのスケジュールなのだらう。 さう言へば、 今月の二十日にやうやく「暗号とセキュリティ」が印刷製本されるらしい。 出版も今月になるのだらうか。一方、同じく九月末締切のプロシーディング (7月のポルトガルであつたシンポジウムのもの)は、 まだこれからとしか言へない程度の進行具合。 某 A 社でのミーティングは明後日12日。 明日か当日の新幹線で関係の論文に再度目を通さねば。 名大での暗号理論の集中講義は来週火曜日から4日間。 準備はまだ全然してゐないが、 教科書の原稿があるので何とかなるだろう。 JF の翻訳は提出前に自前査読中、あと半分弱。
校正中のフーリエ解析の問題集は、私が学生時代に一部の下訳作業をした 教科書の問題集版である。 この教科書の方は著者の幅広い数学的および非数学的教養と、 まさにイギリス数学に伝統的な応用的センスあふれる、 非常に、非常に良いフーリエ解析の教科書なのだが、 我々のせゐで間違ひが多いことで有名になつてしまつた。 原書にも間違ひが沢山あつたのだが、 我々学生がよつてたかつて大勢で下訳をしたせゐであらう、 間違ひを山のやうに追加してしまひ、 まさに1ページにつき必ず1つ以上の間違ひがある。 そのおかげで、これをゼミの教科書などに用ひると、 ものすごく教育効果があがると評判である。 (実際、某 K 大の解析系ゼミでこれを用ひて、 ほとんど全ての間違ひを訂正したと聞くので、 学生はものすごーく勉強になつたであらう)。 一方、今回の問題集版もまた著者らしく、 単なる問題集ではなく教科書版の別館とでもいふ雰囲気の名著である。 今回は主に T 師匠と現 KO 大の A さんと私が訳したので、 以前ほど翻訳の質は悪くないはずである。 そのはずではあるのだが、今回はなにせ問題集である。 かなり気をつけはしたが、問題に間違ひがあるのは非常に見付け難い。 何を言ひたいかと言ひますと…今、必死に校正してゐるものの、 今度もきつとエラーが沢山あるだらうな、と…。
この日記は、GNSを使用して作成されています。