Keisuke Hara - [Diary]
2004/03版 その3

[前日へ続く]

2004/03/21 (Sun.) 名前を呼ぶ

今日は午後から卒業式。 私のやうな下端は、 卒業式そのものには出席しないことになつてゐる。 しかし、その後の卒業証書授与式には、 我々のスポンサーである学生たちへの礼儀として参加させてもらふ。 半分くらゐの学生は名前どころか顔も知らないのだが、 今年も学生の名前を呼ぶ係になり、 最後になつて全員の名前を呼べたので、 それはそれで良かつたかと。 夜は、京都駅近辺のホテルでの謝恩会に参加。 学生たちに御馳走してもらふ。 続いて、二次会。 11 時半くらゐに帰宅。 もらつた花を生けて、就寝。


2004/03/22 (Mon.) 人工知能は文学修士の夢を見るか

昨日、卒業式の合間の時間待ちのため、 研究室で GNU Chess と持ち時間 5 分のブリッツ戦をして、 物凄く久しぶりにコンピュータに勝ち、我ながら驚いた。 きつとコンピュータの体調が悪かつたのであらう。 閉ぢたゲームで徹底的にディフェンスして、 何をして良いのか分からなくさせるのが、 コツかも知れないな…

今日の京都は、冷たい雨。 寝坊して遅く起き出し、昼食はシリアルと珈琲、 昨日、私の卒業研究セミナの学生たちからもらつたケーキ。 美味しかつたです、多謝。 夕食は茄子とミートソースのパスタ、赤ワイン。 これは何回でも食べられる。 少々手間がかかるので、 いつでも食べられるわけではないのが問題点だが。


2004/03/23 (Tues.) プロブレム

とても敵はないと思ふやうな、 知性に出会つて直接に話してみたい、 と言ふ気持ちは自然なものだらう。 私にとつてそれは、 自分には想像のつかない綺麗な形を見てみたい、 と言ふ無邪気な好奇心に、 レクター博士に面会するスターリング捜査官のやうな、 または、真賀田博士に面会する西之園嬢のやうな (これは前者のパロディだ)、 畏れが少しだけ配合された、 スリリングで不思議な気持ちである。

夕方の百万遍に下車。 今日、初めてお会ひする W 氏に携帯電話で連絡をして、 迎へに来てもらふ。研究室で少し雑談してから、 一緒に百万遍近辺の居酒屋に飲みに行く。 話題は文学、将棋、チェス、数学、など。 生ビールを数杯、日本酒を二合ほど飲んだあとで、 チェスを一局する。 時間制限なし、黒番、シシリアン・ドラゴン。負け。 私側から華麗なコンビネーションの決まつた、 面白い一局だつた。 じやあ、何故負けたのか、とは訊かないで下さい… 次回の雪辱を誓ひ、深夜、タクシーで帰宅。

さて、今日、私がお会ひしたこの方は誰でせう。 私のここ最近の日記を見ると、 明らかに今日のために「予習」 してゐるらしき行動が多いですね。


2004/03/24 (Wed.) リフォーム

正午近くまで寝てゐた。 昼食は伊丹流ねこまんま、九条葱の味噌汁。 午後は読書をしたり、プロブレムを考へたり。 夕食はミートソースを使つたパスタ(まだ残つてゐる)。 食後はチェロの練習など。

東京時代にお知り合ひなつた、 歌人の方から久しぶりのメイルが来てゐた。 お子さんが出来て、大忙しらしい。 奥さま向け番組のリフォーム相談コーナーみたいなものに、 うつかり応募して、うつかり出演するはめになつたとかで、 何だかほのぼのとした気持ちになつたことであつた。

明日の午後は、 フランスから短いサバティカルを過しに R 大に来てゐる P さんのセミナーがあります。 御近所で興味をお持ちの方は是非、御参加を。


2004/03/25 (Thurs.) 武勇伝

またミートソースのパスタを食べて(これが最後)、出勤。 午後はパリ第 7 大学の P さんと O 大の H 君のセミナー。 P さんの方は前提としてゐるアルゴリズムの話は興味 深く聞いたが、本題のその応用については良く分からず。 H 君の方の話は P さんの仕事に直接的に関連した話で、 かなり専門的だつたため、こちらも良く分からなかつた。 A 堀先生と立ち話で共同研究の打ち合はせ。 どうも目鼻がついたやうで、 この辺りで軽く一本まとめられるかも知れない。 夜は二人を囲んで、近辺の料亭で食事。 P さんはお寿司と抹茶が大好き。 その席で、 H 大の T 岡君がヨーロッパに武勇を轟かせてゐると言ふ話を聞いたが、 あの真面目で礼儀正しい T 岡君に限つて、 そんなはずは…


2004/03/26 (Fri.) 平面駒

某所で見た、携帯用のチェス・セットが欲しくて、 河原町近辺に探しに行つた。 二つ折りに出来る厚紙程度の薄い板状の「チェス盤」と、 駒の形に切り抜いたマグネットシートの「チェス駒」のセットで、 実際、最もチープなものだらうが、 これがプロブレムに非常に都合が良いことを知つた。 ほぼ平面状のものなので、 どこでも手に持つて使へるのは勿論便利だが (会議のときの内職にも便利)、 最大のポイントはフェアリー駒(新種の駒)が表現できることである。 つまり、駒が平面なので、横にしたり、逆さにしたりと言ふ、 通常の図譜でのフェアリー駒の表現法をそのまま使へる。 フェアリー駒はおそらく何十種類も、 いやそれ以上、考案されてゐると思ふが、 いくつかは「定番」になつてゐて、 例へば、「ナイトライダー」(*1)と言ふフェアリー駒は、 ナイトを上下逆さにして表現するとか、 「グラスホッパー」(*2)はクイーンを逆さにする、等。

さて、 こんなチェスセットは玩具売り場にならどこでもありさうだが、 今日、あちこち周つて探してみると、 携帯用のものでも立派に駒が立体になつてゐて、 目的の仕様のものがない。 昔はみんな平面駒だつたやうに思つたが… どこかに売つてないかなあ。

*1: ナイトライダー(Nightrider, 夜の騎士): ナイトの動き(八方に桂馬飛び)を、 別の駒にぶつからない限り、 同じ方向になら繰り返せるもの。

*2: グラスホッパー(Grasshopper、イナゴ): 動く方向はクイーンと同じく飛車角合はせたものだが、 その方向で最初にぶつかつた駒を飛び越してその直後の地点に着地する。 その地点に相手の駒があれば、勿論取ることが出来る。


2004/03/27 (Sat.) 中国人の部屋

昼食は卵と玉葱の香酢炒め、 ちりめん山椒、梅干し、胡瓜の漬物、若布の味噌汁など。 陽気も良い午後なので、 執事に頼んで嵐山の方までドライヴに乗せてもらふ。 つまり、真赤なオープンカーに乗つた肝試し。 帰宅して珈琲を一杯飲み、 生きてゐることの意味を実感した。 序でに、チェスを一局。 20 分プラス一手 10 秒、 白番、イングリッシュ・オープニングから逆シシリアン。勝ち。 ビショップ vs. ナイトのエンディングを狙つてゐたのだが、 結局、悠長にエンドゲームをしてゐるやうな時間はなかつた。 タクティカルに連続チェックのメイトで勝ち。 夕食は炒飯。夜はチェロの練習。 Dotzauer のエチュード曲。これもまた難しい。

パワーズの「ガラテイア 2.2」(若島正訳/みすず書房) を今さらながら読了した。まぎれもなく、傑作だ。 不覚にもほろりとさせられる。 この中でも言及されてゐる大作、 "Gold bug variation" の翻訳が待ち遠しい。


2004/03/28 (Sun.) 華麗なる転職

午前中はチェス関係の作業。 昼食は昨日から京都に遊びに来てゐる、 N 氏と近所の定食屋で。 N 氏は大企業 NT○-A○ 社を辞めて、 今は渋谷にある構成員 10 名ほどの小さな会社で、 SE 兼、プログラマ兼、営業兼、… と言つた万能のネットワーク屋として働いてゐる。 死ぬほど忙しいらしいが、前の会社より、 充実して働いてゐるやうで結構なことである。

午後は折角、筑波で開かれてゐる学会もサボつたことだし、 春休みらしく過さうと思ひ、 久しぶりに映画を観に行く。 P.K. ディック原作(でも原作の意味はあまりない)、 ウー監督(やはり鳩は飛んでゐた)、「ペイチェック」。 暇つぶしには最適の娯楽映画。 しかし、目当てのユマ・サーマンが薄い。 主人公の恋人の生物学者の役だが、 あまりに普通過ぎる役どころは、 ユマに演らせる必然性があるとは思へない。

映画の後、 本屋で「対訳ディキンソン詩集」(亀井俊介編/岩波文庫)を買ひ、 執事、N 氏と丸善で待ち合はせて、 木屋町の居酒屋で飲む。 ネットワーク・エンジニアなんて仕事は早く辞めて、 京都に良いバーを出すやうに N 氏を説得する。 かなり乗り気の模様だ。 「味味香」でカレー饂飩を食べて帰宅。


2004/03/29 (Mon.) 2 kg のミューズリ

午前中は軽く作業など。 昼食は昨夜我が家に泊まられた N 氏と、 近所の担担麺専門店で。 N 氏は現在、9 連休をエンジョイされてゐるが、 これまでの三ヶ月間、 一日も休まず仕事をしてゐたさうである。 平日の昼間にビールの一杯くらい飲んでも、 バチは当たるまい。 午後になつて N 氏は新幹線で渋谷にお帰りになつた。 次の日曜までの休暇をどう過さうかと悩まれてゐたやうだ。 私の予想では、 それまでに仕事を始めてしまふだらう。

夕食は、N 氏にお土産としてもらつたシリアル。 ミューズリとか言ふもので、 どこからどう見ても、鳥の餌にしか見えない。 これに比べればコーンフレークの類の方がまだ食欲がわく。 こんなものを毎日食べてゐるとは… と思ひつつ、ミルクをかけて食べてみると、 ドライフルーツの自然な甘みがあり意外と美味しかつた。 アーミッシュになつたやうな厭世感がするのも悪くない。 2 キロほど置いて行つてくれたので、 一ヶ月分くらいはあるだろう。

今日の読書(?)。 「ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち」 (柴田元幸編・訳/アルク)。 インタビューの録音 CD 二枚付きで、 作家たちの背景ノイズつきの肉声でも楽しめる。 柴田先生の声がまた渋い(笑)。 出版社からして、英語の学習用の企画だつたのだらうか。


2004/03/30 (Tues.) レティの演習

京都は終日、雨。 午前、午後と DVD で「アベンジャーズ」 を背景映像に流しながら、PC で作業など。 昼食はカルボナーラ、 夕食は御飯を炊いて、卵、ちりめん山椒、梅干し、 九条葱と油揚の味噌汁。 夜はチェロの練習と勉強。

昨日の Chess Today に モロゼヴィッチの二つの早指しのゲームが紹介されてゐて、 その一つのエンドゲームで 「レティのマヌーバ」を見逃した話が出てゐた。 早指しならではのミスだらうが、 大変トリッキーな話であることは確かである。 レティのマヌーバはチェスの終盤理論の教科書には 必ず紹介されてゐるもので、 一番単純なヴァージョンは以下の局面。 先手の白は c6 にポーン一つ、h8 にキング (盤は左から a, b, ..., h, 下から 1, 2, ..., 8 と読む) 黒は h5 にポーン一つ、a6 にキング。 一見どうしても黒の勝ちである。 白のポーンは後二手でクイーンに成ることが出来るが (ポーンは 8 段目に到達すると好きな駒に成れる)、 黒キングがすぐ傍にゐるので簡単に取られてしまひ、 成りの可能性はない。 一方、白のキングは黒のポーンの遥か後方にあり、 成りを阻止することはできず、 確実に黒はクイーンを作つて勝つ…かのやうに、思はれる。 しかし、信じ難いことだが、これは最善で引き分けなのである。 興味のある方はその手順を考えてみませう。 解答は問題図の下部にありますので、適当に隠して下さい。

白先、ドロー (R. レティ, 1921)
(Mat Plus Utility で作図)

解答。まず、1. Kg7 Ph4. 白キングは何故か斜めに一つ進む。 黒は当然ながら、クイーン成りを目指してポーンを進める。 どう見てもこのポーンは捕まらない。 しかし、2. Kf6! に対して、 黒は 2. ... Ph3 とは出来ない。 何故なら、3. Ke7 によつて、 白ポーンが成る手が生まれ、 クイーン成りのタイミングは同時である。 この 2 クイーンの配置はドロー。 そこで、黒は 2. ... Kb6 と手を入れなければならず、白は一手のテンポを稼ぐ。 そして、3. Ke5!!. 予定の絶妙手である。黒がキングを動かせば、 白は Kf4 として、 黒ポーンを h2 のマスで捕まえることができてドロー。 黒がポーンの方を進めれば、 Kd6 と白ポーンを守つてクイーン成りを実現でき、 この成りのタイミングはまたしても同時で、 この配置もドローになる。


2004/03/31 (Wed.) ファクシミリ

8 時起床。あれこれ作業と、チェロの練習。 昼食はシリアル(ミューズリ)。 顎が鍛えられることは確かだ… 午後はチェロのレッスンに行く。 マルチェロのソナタが一段落つきさうなので、 次はこのあたりにしませう、と言ふことで、 Boismortier のソナタの楽譜を貸してもらふ。 18 世紀のもののファクシミリらしく、 かなり読み難いが、趣きはある。

帰りに SBUX に寄つて珈琲豆を買ひ、 序でに珈琲とケーキを伴に経済学の勉強をする。 数理ファイナンスとは無関係とも言ひ切れない昨今であるし、 私はファイナンス・インスティテュート専任教員だとか、 名前は良く覚えてはゐないが、 そんなものになつてゐるらしいし。 本音としては、 私の経済学の知識は、 スティグリッツの「入門経済学」 と古典の通俗的解説書止まりでちよつと恥づかしいので、 少し真面目に勉強してゐる。 帰りの電車は、 ブレーキの故障とかで京都駅の手前の橋の上で立往生し、 車内でも勉強の時間が確保できた。 夕食は昨日の残りの冷や御飯で粗食。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
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