1年ほど前に
ISO14001審査不適合の分布という駄文を書いた。お読みになられた方もいらっしゃるだろう。
ISO14001の審査で18ある規格項番の不適合の割合を調べてそれについての考察(汗)を書いたものである。
そこで2004年から2007年までの4年間に行われた私が拝見した約360件の審査報告書において約950件の是正を必要とする不適合が提起されたと述べた。1回の審査で約2.6件の不適合があった計算になる。
みなさん、それを聞くと、だいたいそんなものだろうとお思いになるのではないだろうか?
もちろん、多すぎると思う方も、少なすぎると思う方もいるかもしれない。そりゃ認証機関によって、類似不適合はグルーピングするところもあるし、笑い話のようだがマニフェストの記載ミスの数だけCAR(corrective action requirement)を出した審査もある。
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その認証機関は有名な外資系である。個々の事象についての判断はまっとうなのだが、ISO審査としてはそのまとめ方はいささか稚拙である。もちろん認証機関全体の問題ではなく、その審査員個人の力量の問題かもしれない。とはいえ認証機関はその報告書を承認しているのだが・・
私はこれについてアイソス誌の09年4月号で問題提起した
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またEMSとその運用が完璧で不適合のない会社もあるだろう。そんな会社はないか?

いずれにしても上記数値は私が拝見した審査報告書の件数とそこに書かれた不適合の件数を単純計算したものである。その4年間に約7万件の審査があり、その中で私の見ることのできた約360件において約950件の不適合があったという事実はうそではない。
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参考までにJAB登録数は、2004年末14987件、2005年末17524件、2006年末18099件、2007年末20413件で合計71023件となる。
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前置きが長いと、本論に進まない。
前回は08年度からISO17021が適用になるので、これからは少し傾向が変わるだろうと書いた。さて、08年度も過ぎた。その結果はどうだったのだろうか?
昨今、製品の欠陥とか、公害記録の改ざんとか、賞味期限の書きなおし、産地偽装とかがしょっちゅうニュースになっているのだから、審査では厳しくチェックするようになったことだろう。判定も審査基準と厳密に比較して厳格にしていることだろう。そんなことを考慮すると、きっと不適合が増加していることだろうと考えた。
そうすると過去4年間では1回の審査での是正を必要とする不適合が平均2.6件であったのだから、08年度には一審査当たりの不適合件数は3件とか4件くらいになっただろうか?
ジャジャジャーン
私が知り合いから集めた範囲のデータからは、是正を必要とする不適合は大幅減少であった。なんとなんと、1回の審査当たりの不適合件数は0.5件程度となった。これには、いささかというより、大変驚いた。
ISO17021適用ということは審査員に相当インパクトがあったようだ。従来は証拠不十分とか根拠不十分であっても、「
判断基準が明確でありません」とか「
その手順は適正でありません」なんていう非常にいい加減な言い回しを、力と大声で押し切っていた不適合は出しにくくなったというのが本当のところではないだろうか?
「不適合となる現象を、証拠と根拠で明確に記述する」という、ISO19011で求めている条件を満たそうとすると、論理的で誰にでもわかるような文章力が必要となり、勘と経験と度胸のKKDとか、主観的な思い込みだけでは不適合にできなくなったというところではないだろうか?
是正が必要でない・・というか、そもそも審査基準に不適合でないものについておかど違いの不適合を出し、組織側がその「不適合」の是正処置(?)のために浪費していた無用のエネルギーが削減できたということは、昨今の省エネ時代には喜ばしいことだ。
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審査基準とはISO14001規格だけではない。その他の要求事項として、認定機関の求める審査基準として、JAB MS100、JISQ17021、JAB RE100(JISQ0066と同一)、JAB RE320、JAB MS200、JAB RE300が積み重なり、その上に認証機関が定める審査登録基準があり、認証審査契約書、ロゴマーク管理基準などが積み重なっている。
事務局よ! これらを自家薬籠のものとしないと一人前ではないぞよ
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しかしである。ナンセンスコールならぬナンセンスノンコンフォーミィニティが減り、審査での不適合が減少したからといって審査が適正になったとは私は全然思わない。
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ナンセンスコールとは、ユーザーからメーカーへのきわめて初歩的な問い合わせ、例えばまったくの勘違いとか、電源が入っていなかったとか、取扱説明書に大きく書いてあったことなどをいう。
「マニュアルの章立てが、ISO規格と異なるので、項番を合わせること」なんて不適合は明らかにナンセンスノンコンフォーミィニティと言っていいだろう。
H審査員さん!あなたの出したナンセンス不適合を忘れはしませんよ♪
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では数少なくなった不適合であるが、その質は良くなったのだろうか?
質が良くなったというと誤解を招く。不適合とされたものは経営に寄与するような効果的なものとか、あるいは順法上の問題提起、それとも環境事故のリスク改善に役立つものであろうか?
どうもそうとも思えないのだ
その内容は「貴社の文書管理規定によると働く人は誰でも有効な文書にアクセスすることができると定めていますが、派遣社員のAさんはイントラネットの会社規定にアクセスする権利がなく、規定に反しています。」なんていうものばかりで、確かに、証拠・根拠を明記して形式上はよろしいようだが、昨今の偽証、ねつ造を検出したものはなかった。
そして、報道機関はたびたび環境事故を報じており、法違反も多々報道されている。そしてあげくに経済産業省からしっかり審査せいと「
マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン(2008.7.29)」なるものまで出されている。
それに、どの認証機関のウェブサイトを見ても、認証した企業の不具合はたくさんある。
- 日本検査キューエイ株式会社
・小糸工業株式会社における「航空機座席部品の耐火性不足」について
弊社は3月17日に臨時審査を実施し、重大な不適合が検出され、航空宇宙品質マネジメントシステムの不適合が明白となったため、3月19日に開催された登録決定会議において、同組織の登録の一時停止を決定いたしました。(09.3.23)
・弊社のISO 9001(品質マネジメントシステム)の登録組織である日本工業検査株式会社において、「配管の熱処理記録の改ざん」に関するマスコミ報道がなされております。
つきましては、早急に事実関係を調査し、適切な処置をとることと致します。(09.4.15)
- 株式会社日本環境認証機構
・ISO 14001認証を取得されている電機関連企業に対して景品表示法に基づく排除命令が出されたとの報道が4月20日にありました。JACOは規定に基づいて事実確認を行っております。その結果により、必要に応じて当該組織に対する臨時審査を実施し、内容次第で当該組織に対する認証の一時停止、取り消しなどを行う場合もあります。
引き続きJACOの活動に対するご理解、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。(09.4.22)
- JCQA日本化学キューエイ株式会社
・最近、メディアで、製紙関連組織の再生紙への古紙配合率、プラスチック加工関連組織のプラスチックシートへの再生樹脂配合の偽装、低環境負荷インクの偽装が報道されています。ISOマネジメントシステム規格への適合性認証を取得されている組織へのJCQAの対応状況は以下の通りです。・・以下略・・(09.2.19)
- デット ノルスケ ベリタス エーエス(DNV)
・名護市役所のISO9001:2000の認証を一時停止致します。(2009/4/16)
・株式会社サンワのISO 9001: 2000及びISO 14001: 2004の認証を一時停止致します。(09/4/14)
- 上記はほんの一例で、どの認証機関のウェブサイトでも登録組織の不祥事、不適合による認証の停止を見つけることができる。
もっとも、真っ正直にトップページに表示している認証機関もあるし、すぐに見えるところには表示せずサイト内を探し歩かないと分からない会社もある。
JABの認定基準によれば認証機関は登録組織の認証の停止、取り消しは公表する義務がある。ウェブサイトにアップすればトップページにその旨を明示していなくても、トップページからのリンクがなくても、その責を果たしたことになるのだろうか? 認証機関はそのへんについて弁護士に相談しているとは思うが・・
このように企業の不祥事は「浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人の 種は尽きまじ」と石川五右衛門は語ったように絶えることがない。いや増加傾向にあるのかもしれない。
すると、ISO審査での不適合が減少したということはどう理解すればよいのだろうか?
その理由を私なりに考えてみた。
- 仮説1
組織(企業)の偽装工作が上手になって、審査員が審査で不適合を検出することが困難となってきた。
東大の飯塚教授は「会社全体がグルになって虚偽の対応をしていた場合は、審査でそれを見つけることはむずかしい」と09年のJAB/ISO大会で語っていたが、それを裏付けるものかもしれない
- 仮説2
組織(企業)はISO規格を十分に理解しそれを実現するようになった。その結果、当然として審査での不適合は減少した。しかしISO規格への適合そのものは、環境遵法と汚染の予防への環境管理の向上にリンクしていないのである。
これはISO審査が社会に貢献しないことを意味する危険思想である。
- 仮説3
不適合を記述するには、その不適合の証拠・根拠を明記することが必要となったが、審査員に証拠や根拠を立証する力量が不足しており、その結果として不適合が減少した。
- 仮説4
従来は規格対応の語句の欠落や、規格と異なる言い回しなどを不適合にとりあげていたが、経営に寄与する審査を標榜している以上、そういう些事は取り上げないようになり不適合が減少した。
- 仮説5
そもそも審査員のマネジメントシステムを審査する力量が不足していて、マネジメントシステムの欠陥や偽証を見つけることができない。
ちなみに私はひとつの要因だけではなく上記がいろいろと関連していると思う。審査での不適合が減少し、かつ現実の不祥事が減らない原因を想像すると、
| 仮説1 | 寄与率0% | まずそんなことはあるはずがないと思う。
誰であろうとそう主張するなら証拠を提示する義務がある。 証拠を提示できない場合は偽証罪になるのだろうか?
残念ながら偽証罪とは法廷証言に限られている(刑法169条) |
| 仮説2 | 寄与率0% | 私はISO14001は環境管理の要素としては完ぺきとはいわないがすばらしいものであると考えている。 よってこれは原因とは思われない。 |
| 仮説3 | 寄与率20% | 過去私はこういった事例をたくさん見ていた。 仮説4とどちらが力量がないのか?どちらが罪が重いのか?考えるまでもないか・・ |
| 仮説4 | 寄与率30% | これは仮説3より多いと思う。 環境方針を社外に公開すると書いてないからと不適合にしたN審査員、おれのことを覚えているかい? 外部文書の管理の項で「配布」という単語がないから不適合にしたM審査員さんまだあなたのことを忘れてませんよ 審査員個人だけではない、おかしな論を語っていた認証機関もあった。 |
| 仮説5 | 寄与率50% | 07年度までだって審査での不適合は多かったもののマネジメントシステムの不適合を提起していた審査報告書は少なかったし、現実の偽証や改ざんを審査で見つけた事例はない。 よってこれが最大要因であろう。 |
皆様からの反論、異論、その他のご意見をお待ちします。
ロケットけんちゃん様からお便りを頂きました(09.04.30)
2008年不適合異変
おばQ様、審査員個々人の力量と不適合指摘件数との相関はあると思いますが2008年の不適合件数の減少はそれが大きな要因だとは考えにくいです。なぜなら、通常、審査の力量は経験とともに高まるという学習効果が期待できるからです。
ですから2008年の審査員力量は過去よりも高まっているはずと考えるのが自然です。私はこの学習効果が純粋に審査の力量そのものに向かったのではなく顧客(組織)との摩擦を避けるためにどうしたらよいかという行動(力量)に向かったからではないかと思います。
指摘の件数は多くても少なくても顧客の不信、不満を生じさせることになります。不適合件数はこの学習効果の結果として平均的に妥当な線に収束していることを示しているのではないかと推測します。
他に同一審査機関内の審査員サークル内では前任の審査員が見落とした問題を後任の審査員が指摘することを躊躇する傾向があります。これは審査機関内の一貫性のなさを顧客に非難されるのを避けたいという気持ちからですが「他の審査員を非難してはならない」という審査員の行動規範(ISO規格?)にもよるものであると思います。
そのほか、審査工数、審査料金の長期低落傾向も不適合指摘件数の減少に拍車をかけているのではないかと思われます。
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ロケットけんちゃん様 毎度ありがとうございます。
正直申しあげますが、私の知恵が回りませんでした。
ロケットけんちゃん様のアイデアは第6番目の仮説であると思います。
指摘の件数は多くても少なくても顧客の不信、不満を生じさせることになります。不適合件数はこの学習効果の結果として平均的に妥当な線に収束していることを示しているのではないかと推測します。
実を言いましてどの認証機関の審査においても不適合が減少しているのを見ると、ロケットけんちゃん様のお考えがその説明になるかと思います。登録組織の減少は、即認証機関の売上減少となり、審査員のリストラにつながることが頭に浮かべば、とりあえず組織に悪い印象を持たれないようにということになるのは当然ですね。
しかし、しかしですよ、そうしますと経済産業省のガイドラインとか、社会的信頼感の醸成という方向には向かっていないということになるのでしょうか?
それもまたおかしなこと・・いや第三者認証制度の真の改善につながっていないという思いです。
実は昨晩、匿名希望の方から
仮説7:不適合を出すとその後処理に審査員が手間暇がかかるので、個人的には不適合を出したくないのだ。
というお便りをいただいております。
うーん、ひとつの事実を見ても奥が深いと言いましょうか、真実はどうなんでしょうか?
とはいえ、私は前述の仮説1や仮説2では絶対ないとは思っております。
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