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「どうだい、なにか改善の方向が見つかったかい?」
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「ご存じのように各拠点に人員や業務内容のアンケートをとりました。でもそれをながめていてもなかなか実態が見えませんね」
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「そりゃそうだろう。簡単にできるならとうに改善されていたはずだ」
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「ただ簡単にできそうに思えるものがひとつあります」
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「なんでしょう?」
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「ISO事務局ですね。この仕事を見直しすことはできそうです。当社の工場が約30あり、それぞれが単独でISO14001を認証しています。支社は10拠点ありますが、こちらは本社と合わせて認証しています。関連会社が約130、このうち約80社がISO14001を認証しています。それらにおいてISO事務局があるのかどうか、担当者の状況を調べてみました」
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「ほう、それは面白そうだな。どんなことが分かったの?」
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「まず100人以下の事業所においては専任者を置いているところはありません。直観的に考えても、人件費の1%をISO認証維持に投じるなんておかしいですよね。だから現実にもそんなところはないのでしょう。 工場の従業員が500人くらいになると、専任者を置くところが出てきます。不思議なことに従業員が1000人を超えても専任者がいない工場も多いのです」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「つまり規模とISO専任者を置くかどうかは関係ないということか」
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「入手した情報だけからはなんとも言えません。ヒマを見てそれらの工場や関連会社を訪ねて詳細を調べるつもりです」
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「この前、竹山さんに頼んだのはISO事務局に限定したことではなく、環境管理業務全般について省力化、合理化をしてほしいということだ。訪問したときはISO事務局だけでなく、全般的にヒアリングしてほしいな」
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「そのつもりです。ただなにごとも少しでも成果を出さないと次に進むドライブがかかりませんから。とりあえずISO事務局の仕事の棚卸と省力を検討しようかと思います」
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「わかった。そのISO事務局についてどんなことを考えているのか、もう少し詳しく話してくれない?」
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「当社の工場は認証してから8・9年、関連会社のほとんどは認証後6・7年経過しています。つまりほぼ安定状態にあるわけです。とすると専任者を置いているところと、置いていないところの違いを見つければ改善策は自然と見えてくるでしょう」
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「なるほど、ところでISO事務局のお仕事っていったいなんですか?」
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「おもしろいのですけど、いろいろですね。先日佐田さんと話しましたが、あのときは審査の時の会議室予約とか食事の手配、スケジュールの確保などじゃないかという話でしたね。 アンケートした結果では、方針の策定、環境目的目標の設定、環境実施計画の推進フォロー、文書管理、記録管理、内部監査の実施、マネジメントレビュー、是正処置のフォローとりまとめなどなどいろいろな業務が書いてありました」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「それって、ISO規格要求そのまんまだね!」
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「そうなんです。文書管理といえば普通は総務部でしょう。あるいは技術管理部とか文書管理課といったところが担うと思っていましたが・・」
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「まったく何もない会社があったとして、ISO認証のための仕事をすべてするためにISO事務局を作ったような感じだなあ。アハハハハ」
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「私も笑ってしまいますよ。そういう会社は元々はまったく会社の体を成していなかったのか、それとも実際の会社の仕組みではなくISO事務局がバーチャルなISOの仕組みを作ってそれを審査で見せているかのどちらかですね」
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「もしそうだとすると、手っ取り早く認証を受けるための方便なのかもしれない」
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「まああまり先入観を持たずにいくつかヒアリングをしてみますよ」
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「頼むよ」
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竹山は神奈川県にある関連会社にやってきた。製造業で従業員が700人くらいいるけっこう大きな会社だ。ここにはISO事務局に専任者を置いているというので、実情を調べにやって来たのである。● ● 大山主任 ![]() ![]() ISO事務局の業務についてヒアリングしたいと言っていたので、環境管理課の佐々木課長と専任者である大山主任が対応してくれた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「本社環境管理部の竹山です。今日はご対応いただきありがとうございます。現状調査を行ったことはご存じと思います。御社にもご協力を頂きました。それによりますと、関連会社さんや工場によって環境管理やISO対応がいろいろと異なっていることが分りました。それで私どもでは各社の状況を調べて最善のものを各社に展開しようと考えております。このたび御社を訪問してヒアリングさせていただくのもその調査の一環です」
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「そうですか、自慢ではないが当社の環境管理やISO対応はしっかりしているレベルだと思います。ウチではこちらの大山主任がISO関係を一手に引き受けておりまして、問題ないように努めております。ISO14001認証を受けてから7年くらいになるけれど、一度として不適合を受けたことはありません。これも大山主任のおかげだ」
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「それはすごいですね。早速ですが、御社の大山主任がご担当されているISO事務局のお仕事いうのは、どんなことをしているのでしょうか?」
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「ISO14001に関わることすべてといえます」
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大山はそういってISO事務局の年間の行事予定表を広げた。
ISO事務局年間行事予定表
ISO事務局のお仕事を表にしようと思ったけれど、私はバカバカしいことをしたことがなく、これだけ考えるのも大変だった。想像力がないのだろう ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「いやあ、このような年間予定表を拝見すると、とてつもないお仕事だということが分ります」
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「私は完璧な仕事が好きなんです」
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「ISO事務局は大山さんおひとりですか?」
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「専任者は私ひとりですが、もちろんこの仕事を一人ではできません。各部に1名ずつISO委員というのを決めてもらい、毎月一回会合を持っています。もちろん目的目標策定とか環境側面の見直し時期となると、メンバーに日中から来てもらってISOの仕事をしていますし残業することもあります」
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「いくつか教えてほしいのですが、まず文書管理ですが、お宅では文書管理はどの部門がしているのでしょうか?」
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「ISO関係の文書はISO事務局が制定、発行をしています」
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「ええとお宅の会社にはISO以外のいろいろな文書があると思います。会社のルールを決めた規則集とか、設計基準を決めたものとか、それに図面もありますね。そういった文書はどの部門が担当しているのでしょう?」
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「会社の規則は総務課です。技術文書、図面やいろいろな規格は技術部に技術管理課というのがあります」
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「ISO文書というのは会社規則とは違うのですか?」
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「会社規則というのは通常の業務、つまりお金の決裁権限とか部品材料の購入手続きなどを決めています。ISO文書というのは環境目的目標の推進とか内部環境監査について決めているので性格が違います」
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「会社規則にも年度方針の策定や推進について決めたものがあると思いますが、そういったものと環境目的目標の推進は関連しているというか分けることができない一体のもののように思えますが・・」
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「会社の規則というと仕事そのものについてですし、会社の秘密も含むでしょう。それにちょっとウチの事情がありましてね・・・実情は文書のメンテがよくされてなくて古いままのものもあるのです。それでISO審査用に規格要求についてだけ取り決めしたISO文書というものを作って、それだけを見せているのです」
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「なるほど、おっしゃる意味はわかります。しかし会社の規則とISO文書の重なるところもあるのでしょう」
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「確かに重なるところもありますね。例えばごみの分別などはISO文書にも総務の規則にもあるのです。内容的にはほとんど同じですが、まあISO文書の方は分別方法が変わるとすぐに見直すのに対して、総務の文書は何年に一度しか改定しないので実態と離れているところがあります。 ああもちろん重ならない部分もありますよ。環境側面などは会社のルールにはありません」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「内部監査はお宅には監査役がいて毎年定期的に内部監査をしていると思いました。環境の内部監査は元からある内部監査との関係はどうなっているのでしょう?」
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「監査役の内部監査とISOの内部監査はまったく無関係です」
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「そうするとISOの内部監査は監査役には報告しないのですか?」
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「報告するも何も・・・関係ないですから」
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「今現在では環境遵法や事故予防なども業務監査の範疇だと思います。監査役が環境管理について知る必要はないのでしょうか?」
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「確かに業務監査でも環境管理についてヒアリングや届出や法で定める記録の点検はします。でも環境側面などは調査しませんし、それに要求事項ひとつひとつを確認するわけではないですから・・・業務監査とISOの内部監査とはやはり別物ですね」
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「環境目的・目標についても毎年策定して改善を進めていくわけですが、これとお宅の年度方針、例えば新製品開発とか、生産性向上、品質、売上といったこととはどういう関係にあるのでしょう?」
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「全然関係ないです。環境の内部監査について言えば、従来の内部監査ではしていなかったので、それはISO事務局が行ってISOの組織に報告するということですね。年度方針について言えば、品質コストなどについて目標を決めて各部門に展開させるのが従来の年度方針で、環境目的を決めてそれを各部門に展開したのが環境目標とか環境実施計画ということになります」
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「お話をお聞きすると従来からしている仕事とISO審査用の仕事が分離しているような気がしますが」
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「竹山さんはISOを良くご存じないのでしょうか。会社の年度計画とISOの環境目的・目標は関係ないんですよ。竹山さんはISO事務局の仕事の調査とおっしゃいましたが、ISO事務局は従来からの仕事をするのではなく、従来していないISOのための仕事をする所と考えています」
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? | 大山と佐藤課長の話を聞くと、どうも竹山の考えるISO規格とは違うようだ。2時間ほど話を聞いたが、大山が会社全体の仕組みを理解しているようには見えない。あるいは彼らは審査で不適合が出ないことに特化しているのかもしれない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「大山さん、お話をお聞きするとISO事務局はISO審査のために存在しているように思います。会社全体のマネジメントシステムの効率化を図る余地があるのではないでしょうか」
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「おっしゃる意味が良く分りませんが、どういうことでしょうか?」
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「一例をあげると仕事を決めたルールとして会社規則というものがあったわけですよね。環境監査でも環境側面でもISO文書というISOのために作った文書体系ではなく、従来からの会社規則として制定するということもあるでしょう。そうすれば文書管理も総務なり技術管理が行いますから、ISO事務局が文書管理をすることもありません」
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「竹山さんの方こそISOをご理解されていないようですね。ISO文書と従来の会社規則は性格が違うのですよ」
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「でも先ほどのお話ではゴミの分別のルールには、従来の規則とISO文書で決めているということでした。それなら従来の規則だけにして改定が滞っているならきめ細かく改定をするようにしたほうが、二つ文書を作るよりも効率的だと思います」
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「ISO文書はISO規格対応で、会社の規則は会社のルールを決めているので同じデメンションではないのですよ」
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「そこがどうも理解できないのですが・・・内部監査にしても、業務監査では会社の規則に決めてあることを守っているかを確認しますよね。でしたらISOのための仕事とおっしゃるのを全部会社規則に盛り込んでしまえばわざわざISOの内部監査をする必要がありません」
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「業務監査とISOの内部監査が同じ次元であるとは思えませんねえ〜」
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「会社の仕事というのは独立したものではありませんよね。相互に連携していますし、すきまがあっても困りますが、重複していても困ります。全員がひとつの目的のために働いているわけですから全体最適の仕組みを考えられたらどうでしょうか」
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「竹山さんがおっしゃるのはISOは全員参加だということですか?」
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「一般的に言われている全員参加とは違います。元々御社には会社の仕組みがあったはずです。社内の文書の管理は総務部がするとか決めてあるでしょう。だったらISOで使っている文書も総務部が文書管理するのが筋ではないですか?」
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結局話はかみ合わず竹山はお礼を言っておいとました。
●
今日、竹山は愛知県にある工場にやって来た。この工場には協力会社を含めて従業員は1,500名ほどいて、環境管理課の中にISO事務局があり2名の専任者がいた。● ● 高野係長 ![]() ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「やあ、竹山さん、久しぶりだね。今日はISO事務局の仕事を調査だって?」
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「はい、当社グループにはISO14001認証しているところは100拠点くらいあります。それぞれにISO事務局があるわけですが、そのお仕事は同じじゃないというかさまざまです。ISO事務局の業務の標準化・効率化を図ろうと考えておりまして、そのために情報収集をしています」
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杉山がお茶のペットボトルを持って入ってきた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「そいじゃメンバーがそろったから始めよう」
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「早速ですが、ISO事務局のお仕事いうのはどんなことをしているのでしょうか? 年間計画というものがあるのでしょうか?」
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「ISO規格にあるのと同じだよ。年度末に翌年度の方針、目的目標の見直しをする。年度明けには方針の周知、目的目標の部門展開、内部監査の実施、目的目標の進捗フォロー、ISO審査対応、年度末には実績のまとめ、マネジメントレビュー、そして環境側面の見直しとなる。まあ、決まりきったルーチンだねえ〜」
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「ISO文書というのはあるのですか?」
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「ISO認証のために作った文書というのはたくさんある。環境側面とか環境内部監査、環境方針規定、20数件制定したと思う。だけど俺たちが発行管理をするのは面倒だからそれらは工場の規則として制定している。だから規格改定とか運用を改善するときは通常の工場の規則と同じような手順になる。我々が原紙を改定して、決裁伺いや発行管理は総務部がしてくれる」
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「なるほど、文書体系はひとつしかないということですか?」
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「近隣の工場とISO事務局の会合なんてしているんだけどね、多くのところはISO文書とは従来からある会社の手順を決めた文書とは違うと言っている。わしには違うとは思えないが、奴らの心中は自分たちの仕事を減らしたくないというか、いろいろな仕事をしていると人も確保できるし予算も取れる。要するに自分たちの仕事を増やして存在感を高めたいということにすぎないんじゃないかな」
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「なるほど、環境目的目標というのは工場の品質改善や納期改善などの年度計画と一体にできないのですか?」
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「ウチでは別じゃない。工場の年度計画のなかの環境に関わる項目をとりあげて環境目的・目標としてISO審査では見せている」
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「年度計画そのものを見せているということですか?」
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「クミちゃん、資料あったよね、持ってきてくれる」
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杉山は立ち上がりファイル棚を少し探して数冊のファイルを持ってきた。そしてパラパラとめくって竹山の前に向きを変えて置いた。
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「年度計画を見せるのはちょっとまずいんだよ。ウチは業界系の認証機関だろう。企業出身の審査員は出身企業の審査はできないらしい。それでウチに来るのは競合他社出身ばかりになる。それで年度計画を見せないために、そこから該当箇所を抜き書きして目的目標とか環境実施計画なるものを作っているんだ」
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「なるほど、おっしゃることはよく分ります。でもそうしますと進捗も転記しなければなりませんし、計画未達などあれば是正計画なども別に作らないとならないということになりますね?」
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「アハハハハ、まったく、そうなんだよ。バカバカしいことだ。ただ当社の場合はそんな事情があるので仕方がないと割り切っている」
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「内部監査などはどうなのでしょうか?」
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「もうこれはしょうがないからISO14001対応として実施している。本社監査部の監査を持ちだすわけにはいかない。あれは工場から見たら外部監査、二者監査だからね。 それとさ、一度品質保証課の連中とISO9001の内部監査と合わせて行う方が良いかの検討をした。実際に2年ほど双方を合わせて内部監査を行ったんだ。しかしその結果、要求事項ごとにメリハリをつけて実施し報告をまとめた方がISO審査員に分かりやすいという結論になった。合わせて行っても量が多くなって、片方の審査の時に余計な問題が起きるだけ」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「確かに・・・そうでしょうねえ。会社の業務改善を図って、審査員に説明が増えたのなら意味がなさそうです。 ところで環境側面なんてめんどうではありませんか?」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「あんなもの今となっては面倒というよりも単なる手間だけだね。クミちゃんがエクセルに関数を入れたワークシートを作ってくれたので、毎年度末に過去1年間の実績数値を代入するとおしまいさ」
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「環境側面を決める作業そのものはあまり意味がないということですか?」
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「当たり前じゃないか。元々管理していたものが著しい環境側面であることは間違いない。それを演繹するのが環境側面なんだろうけど、我々は毎年帰納しているだけだ」
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「まあ審査員からいちゃもんが付かないために数時間を費やせばよいなら、そのほうが手間が省けますし」
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「なるほど、要するにみなさんというかISO事務局のお仕事は審査でトラぶらないためということですか」
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「まあ、そういうことになるかな」
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「でもそれにしてはお二人もいるのは多すぎませんか?」
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「実はな俺たちの本業はISO対応じゃないんだよ。俺たちの本業は構内の協力会社だけでなく、近隣に所在している協力会社などの環境管理とか安全などの指導や管理をすることなんだ」
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「はあ? そのために高野さんと、ええと杉山さんがいるということですか? そりゃまたどうして?」
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「二代前の環境管理課長の時代に、当社だけでなく下請などで環境や安全衛生問題が起きたらウチの評判にも影響するし、生産にも問題が起きるだろうと考えたわけだ。もし大怪我なんて起きたらまず仕事を再開するまで大変だからね」
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「世の中よりもずいぶん進んでいたのですね。先見の明ですか」
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「とはいえ当時はそんな部署を作るなんて考えが通るわけがない。それでISO認証を維持するためには人手がいるのでその部署を作り必要人員を置かなくてはならないという理屈を考えたわけさ」
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「なるほどなるほど」
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「ということで我々のISO認証のための仕事はまあ1割か2割というところかな。8割かたは外注の指導と監督だよ」
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今日、竹山は大宮にある販売代理店に来た。この会社は従業員約80名、工事もしている。ISO14001認証して6年ほどになる。ISO事務局はないという回答だったので、実際はどうなのか見に来たのだ。● ● 総務課長の本橋 ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「お忙しいところご対応ありがとうございます。先日関連会社さんにISO事務局をどのようにしているか問い合わせましたら、御社ではそのような部署はないという回答でしたので、実際のお仕事はどのようにしているか拝見しに上がりました」
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「アハハハハ、拝見しようにもウチはなにもしてないってのが実態ですよ」
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「ISO事務局は総務課がご担当なんでしょうか?」
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「ご担当もなにもたいそうなことはしていません。我々は審査の際にはスケジュールの交渉、社内のスケジュール調整、審査の結果不適合があればそのとりまとめ、費用支払いなんてことはしていますが、どれもこれも特段仕事と言えるほどのことはありません」
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「あのう基本的なことから質問させてもらいますが、お宅では環境側面などはどのように決めているのでしょうか?」
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「認証するとき、お宅に佐々木さんという年配の人がいたと思いました。その方が何度も指導に来てくれて、私どもは佐々木さんのおっしゃる通りにしました」
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「環境側面は点数とか○×とかで決めたのでしょうか?」
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「なことしませんよ。我々総務のメンバーがそのときまで行政から指導を受けたこととか、オフィス町内会、そういうのがここにはあるのですがね、ゴミの出し方とか廃棄物業者の情報交換というか共有化とかしているのですが、そういったところの約束事なんかをリストアップしましてね、これが関係法規制とその他の要求事項だ、これが環境側面だと決めてオシマイです。それから何年も経ちましたが、それ以降のリサイクル規制とかオフィス町内会のルールの見直しなどを反映しているだけです」
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「そういった方法でしていて、審査の時にいちゃもんはつかなかったのでしょうか?」
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「佐々木さんの指導でだいたい形になったときに、いくつかの認証機関に声をかけましてね、営業が来たときに、ウチはこの方式だけど文句がないなら頼むと言ったのですよ。相手もウチが小規模だったからかあまり難しいことも言いませんでしたね。もっとも3社に声を書けましたが、その内一社がダメだとか言ったので、それを除いた2社のうち安い方に決めて今まで来たということです」
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! | 竹山は本橋の説明を聞いて、佐々木も結構すごいことをしたものだと感心した。そして本当にISOのための文書も仕事もしていないのに良く認証を受けられたものだと驚いた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「審査が度重なるとだんだんと要求が厳しくなるというか、改善を求めるようになると思いますが、そんなことはありませんでしたか?」
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「ないね。あまり難しい注文を付けたらウチが認証返上するのを知っているからね」
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「失礼ですが御社が小さいから、あまり厳密なことを求めても対応できないと考えて言わないのでしょうかね?」
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「そういうことは私はわからんね。でも規模が大きくても変な指摘をされたとき『それはおかしい、異議申し立てをする』とか『環境側面の決め方でいちゃもんを付けたら認証を返上する』と公言していれば審査員は無茶なことを言わないと思うよ。みなさん大人なものだから審査員がムチャクチャなことを言ってもハイハイって聞いているところがあるのではないのかなあ〜。そのあげくに審査員の規格解釈が間違っているとか、レベルが低いなんて陰で愚痴をこぼしているように思うよ。 ウチなんて裏も表もなくてそのまま見せているし、それがだめなら認証機関を鞍替えするっていつも言っているからね。怖いものなしさ」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「はあ〜、そうなんですか」
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「そうそう、ISO事務局の話だったよね。そんなわけだから無用なことはしない。よってわざわざ担当者をおくまでないということさ」 注:これらの例はいずれも私の現役時代の見聞を元にしている。決して思い付きの絵空事ではない。 つい半年ほど前のこと、ISO9001で認証範囲から設計を除いていたのだが審査員から「もう目をつぶるのは限度だから設計も審査範囲に入れてほしい」と言われたとか、また別の方であるがISO14001で「製品の環境側面を入れてくれないとだめだ」と言われたなんて相談を受けたことがある。 驚いてカレンダーを見てしまったが、現在は間違いなく2014年であった。1年や2年ではなく、10年遅れ、周回遅れの話のようだ・・ 規格がどうあれ、ウチではそこまではやらない、ダメなら認証辞退するなんてスタンスだと、審査員は弱腰になって妥協してしまうのだろうか? いや現実に妥協しているようだけど・・ 大企業ほど、メンツにこだわったり大人であることを示そうとして、審査員の無茶な要求に妥協してしまうのではないか? |