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タンク風景の危機

新しいビルにはだんだん給水タンクがなくなってきた。いったんポンプで汲み上げた水を屋上のタンクに溜めてから給水する方法は、滞留により外気温や日光の直射で温められて細菌やバクテリア、藻などが発生するという衛生上の管理の問題からだんだん減り始め、替わって「直結給水」による給水が増えてきたことによる。

水道水だっていろいろたいへんな道を通ってやってくる

まずはじめに水道水の給水方式をおおまかに見てみよう。
直結方式〜水道水の水が、配水管から蛇口まで切れ目なくつながったパイプで給水されている方式。途中に加圧ポンプを加えて上階まで供給できる場合もある。一般的には2階または3階まで。
受水槽+高架水槽〜給水本管よりポンプで屋上に揚水して高架水槽にためておき重力にて供給。高架水槽のみの場合と受水槽+高架水槽の場合(イラストはこの例。東京都水道局のHPより)がある。昔は防火水槽と兼用の場合もあった。 受水槽には一般的に全体使用料の1,2日分が貯えられている。
受水槽+加圧給水〜地上にある受水槽から加圧ポンプにて各棟や各家庭に給水。受水槽が小さく済み、衛生的だがポンプが大型となり維持費が高い。

タンク掃除現場に出会ったことがない

タンクの衛生管理は、そのビル(マンション)の所有者または管理者がやることになっていて、10立方メートルを超えるタンクは法律で定期清掃・検査等が義務づけられているにもかかわらず、これまでたくさん撮ったタンク写真にはタンクを点検したり掃除したりしている人が一緒に映ったことは今だかつて一度もない。いったいこれは!!!!?
カラスが映ったことは何度もある、下の写真は「メタルジャックカラス」というタイトルのもの。

ここでその法令(厚生省発令の水道法及び水道法施工令)を見てみよう。詳しくはこちらを。
管理義務.....
1. 水槽の掃除を1年以内ごとに1回、定期におこなうこと。
2. 水槽の点検等有害物、汚水等によって、水が汚されるのを防止するために必要な措置を講ずること。
3. 給水栓における水の色、濁り、臭い、味その他の状態により供給する水に異常を認めたときは、水質基準に関する省令の表の中欄に掲げる事項のうち必要なものについて検査を行うこと。.....
地方公共団体の機関等の検査を受ける義務
簡易専用水道の設置者は、当該簡易専用水道の管理について厚生省令の定めるところにより、定期に地方公共団体の機関又は厚生大臣の指定する者の検査を受けなければならない。
.....その検査は、1年以内ごとに1回とする。検査の方法の他必要な事項については、厚生大臣が定めるところによるものとす る。
罰則 .....法第34条の2第2項に違反した者は10万円以下の罰金に処する。
「専用水道のてびき」より〜
専用水道とは、自家用の水道で101人以上の者にその居住に必要な水を供給する水道をいう。.....
(1)口径25mm以上の銅管の全長が1,500m以下のもの。
(2)水槽の有効水槽の合計が100立方メートル以下のもの。
以下は専用水道で規定されている検査及び点検項目
(1)毎日の検査:色、濁り、残留塩素の毎日測定。
(2)毎月の水質検査:水質検査10項目。
(3)年1回の水質検査:水質検査20項目
(4)設備:水槽設備各部の定期点検。異常の発見に努めること。
(5)受水槽:年1回の定期的な清掃。汚染があった場合随時清掃を行うこと。
(6)報告:毎日検査と毎月検査の結果を翌月15日までに所轄保健所に報告する。

これを該当するどのビルでも守っているのなら、一度くらいはその検査現場が写真に映っててもよさそうなものだが。

誰が掃除と検査をやるのか

国が定めた87項目の水質基準にのっとって水道局が管理、検査しているのは受水槽までの水道水。それ以降は責任を追わない。
つまり「いったん受水槽に貯めた水は家庭でヤカンなどに溜めた水と同じとみなされ、その衛生管理は水道事業者ではなく、受水槽の所有者または管理者が責任を持って行わなければならない(広島市生活衛生推進員事務局のHP)」ということだ。

その費用はどれくらいかかるか

ではタンクの清掃と検査費用はいったいどれくらいかかるのか?
千葉にある「美浜東エステート」というマンションの管理組合が公開しているHPによると、
1.受水槽200トンの清掃を年1回。(相場26万3千円)
2.重点10項目の水質検査を毎月。(相場1万4千円x12)
3.残留塩素測定(業者からの住民へ委託)を毎日 (月額3万円x12)
4.遠隔監視装置(水位、停電、故障など6項目)(月額6万円)
5.テレビカメラによる入り口および受水槽水位の監視。(月額2万4千円x12)
(* 実績の内訳が不明なものは相場。設備保守の部品代と工数は含まれていません。受水槽清掃の相場、及び水質検査についての詳細はこちらを御覧下さい。)というのがだいたいのところ。
結構、高い。左上の写真はこのマンションの名前である「サンライズマンション」の『S』を描いたものだが、このような感じでペンキで広告がかかれているものが時々ある。もしかしてこれは管理組合の費用捻出のための苦肉の策?

ここのHPではさらに以下のようなことも書いている。
「1996年のO-157での学校の死亡事故は汚水槽から給水管への菌の侵入が原因でした。 ただ「安心感」のために検査の回数や項目を増やしてもデータに埋もれるのみ。管理組合が測定データの意味をつかんでいないと無駄金となります。... 測定項目や監視カメラを増やすより、こまめな設備補修、台風や地震の後に迅速に検査するようなフレキシブルな運用管理...が望まれます。」

タンクのある風景は20世紀的風景だと

例えば三菱電機などでは、水中モーターとポンプを組み合わせ、水圧を検知してパワーを自動的に制御する方法を研究開発しているし、他のメーカーでも、大きさや価格の問題に苦心をこらして開発が行われている。
他には、地球そのものが持つ磁力を水に与えて水質を改善するという水処理装置「クリスタルサーキット」なるものも。強力な磁石を利用し、その磁場の中をある速さで水を通すことにより、水の分子にエネルギ−を与え、水の活性を処理するという。とにかく、どこからみてもこれまでの給水タンクが生き伸びる予感は漂ってこない。

確かに屋上の給水タンクはどんな観点からしても不安定なものだし、直給式を開発するメーカーはどこも、そのメリットのひとつには「タンクがいらないので広々としたスペースがとれること、屋上がすっきりすること」をあげている。 慣れは合理化だ、タンクもただ邪魔なものとしてあっさり消える。上のようなアングルの写真もありえなくなるということだ。せいぜい楽しんでおこう。