カーミングシグナル
犬とオオカミの生命保証
Turid Rugaas

カーミングシグナル◇攻撃やストレス恐怖等自分の望まないことに対する遮断と予防 信頼の確立と安全の確保そして何より自分を理解してもらうこと


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状況

犬との日常生活を思い浮かべて下さい。

 その朝、あなたは仕事に遅れていました。服を着替え、朝食を取ったりとバタバタしています。その時犬は信じられない程ゆっくり歩き,いつも以上に地面の匂いをかいでいたのです。
あなたは犬を家の中に入れ、イライラした動きでリード(引き綱)をはずしました。すると犬は反対側を向いてあくびをし、鼻をペロペロとなめました。
あなたは車のキーを持って急いで扉の所まで行くと、犬は反対を向いて、あなたに背を向けて別のことをしていました。

 仕事から帰って来て、犬をお散歩へ連れて行きました。今度は公園でリードをはずして自由に走らせてあげました。ところが、おばあさんが近づいてきたので、犬を怖がるといけないと思い、犬を呼び戻そうとします。
声はきつくなり、普段よりも緊迫したトーンになりました。犬はとてもゆっくりと戻ってきます。そして戻るときに、カーブを描き、地面の匂いを嗅ぎながらあちこちを見て、鼻をペロペロとなめ、そして途中で止まったりと、スピードはより一層遅くなりました。あなたが命令を更に強くすると、犬はそこで止まり、座ってしまい、反対側を向いてそちらの方へ歩いてしまいました。 
犬を何とかつかまえると、犬はその場所に座りますが、やはり別の方を見ています。そこへ知らない人が犬にあいさつをしようと近づいて来ました。犬の前でかがみこみ撫でようとしています。犬はその人に背を向け、鼻をペロペロとなめ始めました。

これら犬の行動は、全てカーミングシグナルです。ここでは、犬は呼ばれたとき、あなたのストレスを和らげようとし、また失礼な見知らぬ人を落ち着かせようとしていたのです。
犬はこれらのシグナルを利用して、飼い主を含む自分の周りの状況の争い事を解決しようとし、恐怖やあらゆるもめごとを防ぎ、秩序を保とうとしているのです。 

 犬の最大の特性は、まず争いを解決しようとすることです。これは犬もオオカミも生きていく為に必要不可欠なのです。
犬のお散歩で別の犬と会った時によく観察して下さい。二頭の間で、遠くからでも近くでもお互いの存在を察知したと同時にシグナルが出され始めます。ず最初にはっきりとした早いシグナルが出されます。犬の身体が前かがみになったり、地面の匂いを一生懸命嗅ぎ始めたりします。相手にじっと見つめられたりしなければ安全なのです。こうして我々人間と同様、犬もお散歩コースのご近所でもシグナルを使ってコミュニケーションを取り合っているのです。

犬のとってサバイバルは最優先課題です。シグナルがそのサバイバルのカギを握っています。もし犬がこの本来のランゲージを失ってしまった様でしたら、それを戻してあげることができます。


失われたランゲージ

何故犬は本来のランゲージを失うのでしょうか。

我々人間で考えてみましょう。全く知らない国へ一人で行ったとします。誰もあなたと同じ言葉で話してくれませんので、その国の言葉を少しずつ覚え使うようになるでしょう。すると記憶の中で、古い言葉が徐々に消え、使う能力も失っていくのです。
我々は様々な号令を犬に教え、それが犬にとって新しいランゲージとなりますが、それは犬本来のものではありません。他の犬に会うことが全くなければ、この本来のランゲージは少しずつ失われていきます。そして、いざ他の犬に会った時、犬語の全く分からない状態になっているのです。

そしてもう一つの理由は、犬がシグナルを出した時にそれを罰せられてしまったケースです。
犬が地面の匂いをクンクンと嗅いでいる時、きちんと歩きなさいと教えられ、時にはそうすることを怒られてしまうと、あえて匂いなど嗅がないほうがいいと思い始めます。
また、飼い主のストレスを和らげようと、ゆっくりとカープを描きながら戻って来ると怒られる。そうすると、もうこのシグナルは使うのをやめようと思うのです。
こうして全ての犬本来のランゲージを罰せられていくと犬はいらいらし、言語喪失、ストレス、臆病、そして攻撃性と、様々な問題を抱えることにつながるのです。
私の経験から、重症な精神問題を抱えた犬のほとんどは、実はこの言語問題にあります。


シグナルの見分け方

私が犬を観察し、全てのシグナルを数えると30個見つかりました。最近では37個あると言う人もいますし、本当はそれ以上なのかもしれません。まず最も見分け易いものから見てみましょう。

そっぽを向く
 頭を横に向け、落ち着いて欲しいものから目をそらします。これは時には一瞬にして行われ、また時にはずっと横を向きっぱなしという状態になります。或いは、目だけがそっぽを向いていることもあります。

目を細める
 まばたきをしたり、まぶたを深く下ろし、相手がら凝視されることを避けます。

背を向ける
 確認できないものに対して、身体を横に向けたり背を向けたりします。

鼻をなめる
 犬にとって身近に起こっている状況に対してよく使われます。(他の犬に囲まれた、何かにかがみこまれた、自分の方へ真っすぐに近づいてこられた等)毛皮の色が濃い犬がよく使うシグナルです。顔の色が黒い分、小さな顔の表情をするのです。

ゆっくり歩く
 ゆっくり歩くというのは、誰かを落ち着かせようとする意味があります。ただ我々はゆっくりの動きに対していらいらしたり、しばしば反対のリアクションをしてしまいます。(ヒーリング(脚側行進)がおそい、呼びの反応がおそい、お散歩の時カタツムリの様にゆっくりとついて来る等)我々が走ったり、犬に怒鳴ったり、勇気づけたり、何とが動きを早くさせようと怒ったりすればするほど、犬はより一層スピードを落とします。私はよく生徒さん方から、犬がまるで足が泥沼にはまったかの様にゆっくり歩くという悩みを聞きます。(最近では”のろいボーダーコリー”がアジリティークラスにいました!)
もし犬が飼い主を落ち着がせようとしていて動きがゆっくりになっているのでしたら、変えることはできます。次に犬がその行動をするのを気をつけて見ていて下さい。

遊びの体勢
 前足だけをかがめるポーズ。遊びの時とカーミングシグナルとして使われます。犬はしばしばこれを牛や馬に向けて行いますが、これらの動物にどう対処すべきかよく分からない為と思われます。
以前セントバーナード犬が虫にこのポーズをしているのも見ました。こうすることにより、自分がいいヤツで全く危害を加えるつもりがないことを再確認しているのです。

オスワリ/フセ
 状況が難しくなった時に出される、はっきりとした安全なシグナルです。
犬が呼ばれた時、その場でしゃがみこむ事はありませんか?私の犬のサガは、以前2頭の怖そうな顔で吠えている犬が急に近づいた時、その場で座り込み反対方向を見ていました。そうすると、その2頭はスピードを落とし、攻撃を止めたのです。
フセは服従の姿勢ではありません。おながを出した姿勢だけが服従を示すのです。このフセのポーズは強いカーミングシグナルで、かなり地位の高い犬もしばしば使います。私の犬達のリーダーのウラがこれをよく使います。故に人間が自らのリーダーシップを主張する為に犬にフセをさせ続けることはあまり効果がないかもしれません。

あくび
 最もよく使われるシグナルでしょう。とにかく見ていて下さい!! 犬は日常生活の状況において何度もあくびをします。おや!トレーニングの時にしますか? もう一度トレーニングの状態をよく見ていて下さい。

地面の匂いを嗅ぐ
 これはもう一つのよく使われるシグナルです。ハイ、確かに犬は”最新情報を得る”為に匂いを嗅ぎます・・・犬はその場所に最近誰が来たかを知る為に匂いを嗅ぎます。しかしあなたの犬は、道路で別の犬が近づいて来た時に匂いを嗅ぎますか?そんな時にも地面の匂いをチェックするのでしょうか?いつもと同じ様に歩いているよりも、知らない犬とのコミュニケーションの方がずっと大切なのです。呼び戻しの途中でクンクンと匂い嗅ぎますか?声のトーンを変え、顔の表情を楽しそうにし、それでも戻って来ないでしょうか。

カーブを描く
 絶対に犬は、他のものに近づく時に真っすぐは向かいません。もちろん、親友やよく知った仲間は別です。リード(引き綱)を付けてお散歩をしている時に他の犬に出会い、あなたの犬が不快な様子でしたら、どちらかにカーブを描く様に歩かせてあげて下さい。大きなカーブを必要とする犬もいれば、小さなカーブで大丈夫な犬もいます。他の犬と出会い自らカーブを描こうとしているのでしたら、それをさせて下さい。カーブを描きながら歩く、つまりハッキリとしたメッセージなのです。

しっぽを振る
 他のシグナル同様、このしっぽを振るという行動は、通常の犬の表現とは別のカーミングシグナルの意味があります。つまり必ずしも楽しいという表現ではないのです。「この犬は怖がってはいない」と、地面にはいつくばり、オシッコまでをもらしてしまっている犬のことを、しっぽを振っているだけでハッピーであると言う人がいます。これは間違いです。この犬は飼い主のことが怖く、出来る限りのことで飼い主の怒りを静めようとしているのです。

仔犬になる
 口をペロペロとなめる行動(人に飛びついた時等)や、顔を丸みをおびた子供っぽい、仔犬の表情にする行動。

スマイル
 しっぽを振るのと同じ様に色々な方法で使われます。ダプルシグナルとしても出て来ます。

排尿
 この排尿は、路上でのマーキング行為とよく間違われるのですが、これも誰かを落ち着かせようとしているカーミングシグナルの時があります。大きな犬が残していった匂いが怖い、飼い主がお散歩中にリードを引き過ぎている等、理由は様々です。この排泄行為は、カーミングシグナルか或いは別の物なのか見分けるのは難しいです。ただ、私は犬の排尿行動を罰したりはしません。優しくそこにしてはいけない事を教えます。いつもの言い方でそれをストップさせる号令をかけます。
私のトレーニングクラスにいたあるジャーマンシェパードは、飼い主を見る度にもらしていました。飼い主の態度、声のトーン、そしてハンドリングの方法を変えた後は、一切この行動は止まりました。これは、とても支配力があり怖い飼い主を落ち着かせ様としていたカーミングシグナルだったのです。この飼い主は、本当はとても優しい人だったのですが、それまでのやり方が正しい犬のハンドリングだと思い込んでいたのです。


これらのシグナルの他にも、手を上げることや、舌をペチャペチャすること、そして突発的行動(例えば、他の犬に自分が怖がられていることを察知した際に、骨を噛み始めるとが、鳥を追い始める等)等、他にも色々あります。ただ、ここに紹介したものが一番よく使われ、重要であり、私達人間も何らかの形で取り入れることが出来るものなのです。


みんな知っている

毛を逆立てるのとしっぽを高く上げること・・・これはあまり注意しなくてもいいです。犬にとってこれらの行為はあまり重要な意味を持ちません。私のエルクハウンドの尾は高い位置にある巻き毛です。他の犬が彼女のカーミングシグナルを見間違えたことはありません。しっぽの位置などあまり気にしていないのです。通常逆立った背中の毛は、他の犬を見た時や、遊べそうな時、そして何がが起こりそうな時の興奮を意味します。これらには、あまり注意しないで下さい。ただ、よく観察し、それを犬が行っているということを知っておくだけで十分です。
それよりも犬が使うカーミグシグナルに注意し、何を伝えようとしているのかをよく観察していて下さい。


威嚇のシグナル

歯を見せることや、うなること、吠えること、前にジャンプしながら相手を追い払うこと、凝視すること、身体を硬直させながら動くことなどの犬の行動はほとんどの人は知っているでしょう。犬は恐怖を感じ、防衛本能が発揮された時、相手を逆に威嚇するという行動に出ます。
我々はその状況に応じたハンドリングをしていかねばなりませんが、どの状況においても犬を絶対に脅かさないという点だけは気をつけて下さい。犬を怖がらせたり、防衛本能をより強化するのは、よくありません。 どんな形であっても体罰というのは犬に恐怖感を与えます。ですので私は、一切の体罰を使いません。犬に好ましくない行動を止めさせる“NO”という号令を教えたりなど、色々な形でトレーニングができるのです。
必要以上に犬の防衛本能を発揮させたりしないよう、またそういう状況に極力追い込まぬようにしてください。


動物とお話をする

これは私の子供の頃からの夢でした。私が学習したのは犬語だけですが、それでもかなりの知識がつきました。犬のランゲージを尊重し、それを観察する能力と使用する能力を身につけると、あなたの犬はどんなものにも対応でき、争いごとを解決し、調和の取れた社会性のある子になります。これこそが、まさに犬科の動物が本来得意とすることであり、彼等が他の動物の中においてもユニークな存在である所以と言えるのではないでしょうか。

翻訳:金子真弓、 監修:山崎恵子
資料提供:アニマルファンスィアーズクラブ(AFC)
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