アート織田の週末画廊日記
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2005年10月13日

作家: 安倍智子
タイトル: 還
場所: 千鳥屋ギャラリー


会場にて撮影

還るのは過去か未来か
 画廊に入ろうとすると、笹の匂いが脳裏にしみこんだ。この匂いを思い出そうとするが時間がかかる。何だっけ、何だっけ。
 数分後、思い出したのは、小学生5年生のとき、自転車で笹林に突入して、どうかなった時の記憶だ。そういえば、極端にインドアな私は、何十年も笹の匂いなど嗅いでいなかったのを思い出す。それはさておき。
 展示室の壁は笹で覆われ、中央には割れたメガホンの形をした巨大な錆びた鉄の構造物が横たわっていた。全国三万人のメタルファンのみなさん!出番ですよ。それはさておき。
 いや、メタルファンの出番は、今回はないかもしれない。というのも、竹やぶや錆び具合からすると、かなりメタルな冷たさというのは、消え去っているからだ。
 この作品は、無機的でもクールでもモダンでもなければ、抽象的でもない。もっと、骨身のある、血肉に訴えるような、土臭くリアルなもの、思い出の持つ温かみ、かみしめる生活感、そっちの方に近い様、思えてくる。
 鉄板をここまで曲げ切った、作家の気合いがそうさせたのか、鉄の酸化、笹の枯れ方、会期中にも侘びて行くこの展示は、初老を迎えた私の心に、風を吹かせていた。
 それもムルソー言う所の、湿った生暖かい風である。


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