貧しきものにも日は降り注ぐ

 

夏の夕暮れ

 ムルソー君は言う(またかよ)。「いくつもの命が消えて行くあの養老院の回りでもまた、夕暮れは憂愁に満ちた休息のひとときだった(窪田訳)」
 今なら6時くらいからだろうか。オープンカー乗りは太陽との戦いを和解し、まだ白白と明るいが、夜の訪れを予感させるひととき。その時海沿いの道を、風を受けて走っていれば100点だが、そうでなくても(現実、会社の事務所がほとんどだが)、98点はつけたい。それほど僕も夕暮れが好きだ。「夕暮れ君」と呼ばれても別に構わない。
 僕は朝から夕暮れを待っている。そよぐ風には、仮に全ての希望が絶たれていたとしても、それを許せる恍惚がある。夜になればそれが悪霊となるとしてもだ。
 人間である事が許される時間。昼いう苦痛が終わりを告げ、夜という悲嘆へと変わるまでの小休止。ただ美しく、やさしい、現象。シルバーにも似た暖かさ。大いなる奇跡。
 明日も夕暮れだけは僕に手を差し伸べる。


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