貧しきものにも日は降り注ぐ

 

エピローグ1「夜空のむこう」

 先日、夜中、屋根を空けて走った。空には星が輝いていた。
 星を視界に入れながら走らせる、という感覚は、オープンカーというよりは、船に近いかもしれない。てゆうか、バカみたいだし、第一危ないだろうと。標識あるだろうと。
 6月の夜空、夜9時ごろというと、北の地平にはこと座の一等星ベガが明るく輝いている。星座の運行を知っているなら、夜道に迷うことはない。ベガがAピラーの間に捕らえている限り、クルマは北方面を向いている。昔の船乗りも、こうして星を見つめていたのだろうか。
 いわゆるロマン主義的象徴派、彷徨えるロードスター、苦悩するオープンジャンキーの私としては、「届かぬ星に手を差し伸べよ」とでも言えばいいのだろうか。
 それよりアート織田的なのは、ベガが琴座ということである。この琴とは、オルフェウスの琴。オルフェウスといえば、モローということで、上の絵は「オルフェウスの首を運ぶトラキアの娘」。
 亡き妻をよみがえらせれず、その上、女たちに八つ裂きにされた、哀れな男。そんな星を目指していいのかってところですが、私は好きですよ、オルフェウス。
 それよりも、言いたいのは、私を導くのは空の星ではなく、内面に奥深く輝く星であると、こちらのほうが象徴派的生き方であり、悲惨といわれようとも、オルフェウス的であると。
 私は一般的に考えれば、立派でも、正しくもない(バカかもしれない)。しかし、心に一等星があるのなら、どうしてそれに従えずにいられようか。
 周囲に惑わされず、自分の本当にやるべきことを見つめる。星空天井にあること座は、いつしか自分の心のにも、通じている

 オルフェウスその他ギリシャ神話についてはこちらから Art at Dorian ギリシャ神話


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