貧しきものにも日は降り注ぐ

 

死を見つめるC1

 シボレー・コルベットC1・コンバーチブル。(たぶん)V8を搭載するこのロードスターは、1950年代に製造された。メデタイ紅白、羽の形をした空気穴、セクシーなリア形状、ちょっと間抜けなフロント(スポーツカーのマスクは蛙顔との戦いなのだ)、1mmも動かない(であろう)はめ込みシート。スポーツカーの中でもトップレベルのデカダンはやはりコルベットだ。19にして心朽ちたりな若者が、ヤク中、乱痴気騒ぎ、借金、のあげく、命を落とすという「レス・ザン・ゼロ」の演出には、まさにはまり役のクルマだ。原作に出てくる、メルセデス、BMW、ポルシェという、いかにも西海岸の金持ちのボンボンが乗るようなクルマでは、まあそんなもん過ぎて映画にはならない。
 劇中、コルベットは大活躍だ。主人公クレイのアシとなり、定員オーバーの3人を乗せ(どこにどう乗ったかは現在検証中)、最後は夜を徹して走り、ジュリアンを看取る。夜に生き、夜の果てに死んだジュリアンはC1のシート(シートではないかも)で死ねて良かったのではないかと思う。
 そう、せめて死ぬならオープンのシートだ。せめてナルディを握って死にたいものだ。で出来ればマセラッティ・スパイダー(1295万)がいい。(買えないって。)
 などと書いていたら、今月号の「ENGIN」で人間、死を見つめると、スポーツカーに心が動く、それは無意識に抑圧していた欲望が表面化するからだと書いてあった。
 そこの君、人生最後の車がミニバンだったらイヤじゃない?


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