貧しきものにも日は降り注ぐ

 

真にデカダンなオープン

 太陽よりネオンが似合うオープンがある。シトロエンDS。そもそもシトロエン自体、自動車業界のルドンみたいな、奇怪なイメージがつきまとうのだが。
 画廊日記をごらんの方で、ドゴール大統領を知らない人は多いだろうが、宇多田ひかるを知らん人はいないだろう。どうもDSを見ると"Can You Keep A Secret?"のビデオクリップを思い出す。ロボットの運転で後部シートで踊っていたのはこのクルマだ。(厳密には型式が違う。)あと、昔の「ラララ無人君」のCMにも使われていたような。「あ〜あのクルマかぁ」そうそう。ドゴールがパレードに使っていたなんて言ってもねぇ。
 船のようなハイドロ・ニュー・マチックと、ソファーのようなシート。しかしこんな、スポーティでも、エグゼクティブでもなんでもないクルマを使う人なんて、きっと悪漢の頭領か、登りつめた芸能人か、きっとそんな人だ。そんな人はきっといつ死んでもいいと思ってるに違いない。きっと睡眠薬だって一杯飲んでるし、コカインくらい吸ってるに決まってる。
 ついついそんな単細胞な発想をしてしまうのだ、この奇怪なクルマは。夜が似合うオープンカー。海より、山より、場末の繁華街が似合う。私は極めて好きだが。いつか買ったら中州でも流そうと思う。派手なアロハでも着て、プリンスでも鳴らしながら。


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