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ディープスペースナイン エピソードガイド
第11話「宇宙商人フェレンギ星人」
The Nagus

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・イントロダクション
エアロック。
ドアが開くと、フェレンギ人がいた。辺りをうかがう。
ドッキングしている船の方に合図する。一人の異星人が、頭からすっぽりフードを被った人物についている。
その者が手にしているのは、先端がフェレンギ人の頭※1になっている杖だ。

たくさんのパッドを持っているジェイク。「そうだ、靴。」
シスコが来た。「ジェイク、お前を驚かせることがあるんだ。」
ジェイク:「…ほんと? 何なの?」
「二人でベイジョーへ行くのさ、もうすぐ感謝祭※2が始まるからね。」
「ベイジョーにも感謝祭があるの?」
「ベイジョーでは最大のお祭りで、すごく盛り上がるってキラ少佐が言ってたぞ? それにお前、ベイジョーの有名な炎の洞窟※3を見たいって言ってたじゃないか。」
「楽しそうだね? いつ行くの?」
「今日学校が終わったらだ。」
「……それでいつまで?」
「3日の予定だ。」
「3日もかかるの? コンピューター、オレンジジュース。じゃ僕行かなくてもいい?」 レプリケーターからコップを取り出すジェイク。
「それは…いやお前が行きたくないんなら、無理には。」
「サンキュー、パパ。明日はノーグと約束があるんだ。」
「どういう約束なんだ。」
「明日アンドリアンの貨物船がメンテナンスにドック入りするんだ。」
「アンドリアンの貨物船?」
「ああ、その船さ、新型の反動力トラクターを輸送してるはずなんだよね。それを見てみたいなあと思って。」
「おいジェイク、つまりこういうことか? お前はノーグと貨物船を見に行く方が、私と炎の洞窟へ行くより楽しいってわけだ。」
「だって、約束しちゃったんだもん。」 ジェイクは部屋を出た。
ため息をつくシスコ。

酒を注いでいるクワーク。「お礼なんてよろしいんですよ。あたしはね? お客様にご満足いただける店を目指してますんで。さあ、どうぞまたダボで、お楽しみ下さい。」 笑う。
グラスを受け取ったベイジョー人の女性は、歩いていった。
クワーク:「ロム※4! あの女、札が一杯入った財布をテーブルに置き忘れたんだって?」
ロム:「そうなんだ、兄貴。」
「それをお前が見つけて。」
「ああ、そうなんだ…」
「手つかずのまま返してやったってか!」
「だって、あんまり美人だったからさ。」
「この役立たずが。」 ロムの耳をつかむクワーク。「お前金儲けの秘訣※5第1条を忘れたのか?」
「ちゃんと知ってるよ。」
「じゃあ言ってみな。」
「…『もし金目の物を拾ったら、絶対返さないこと。』※6
「わかってんじゃねえか。二度と忘れるんじゃねえぞ、今夜は罰として店中の手すりをお前一人で磨いてもらうからな。」
「そ、そんな…」
「さあとっとと仕事に戻れ、でないと宇宙に放り出してやるぞ!」
ロムは走っていった。うなるクワーク。

パッドとグラスを使い、高く組み上げているノーグ※7
ロム:「ノーグ!」
驚いて崩すノーグ。
ロム:「お前人間の学校に通って何を習ってるんだ! ボケーッと遊んでばかりで!」
ノーグ:「ち、違うよ父さん。」
「しょうもない奴だ。罰として今夜はお前一人で店中の手すりを綺麗に磨くんだ。いいかわかったな。」
「わかったよ、磨けばいいんでしょ?」 歩いていくノーグ。
ロムは手を払う。

フードの者についたフェレンギ人と、背の高い異星人がプロムナードを歩いてきた。

カウンターのモーンに話しているクワーク。「すると、アンドリアン人はこう言った。『お兄さんなの? 奥さんだとばかり思ってたよ。』」 笑う。「…オチわかるか。『奥さん』だぜ?」
やっとで笑い出すモーン。
クワーク:「…ちょっとオチが難しすぎたか…。」
店に入ったフェレンギ人。「ここにクワークはいるか。」
クワーク:「ここにいるよ…。」
「私はクラックス※8だ。こちらは私の父でグランド・ネーガス※9のゼク※10だ。」
驚き、振り向くクワーク。
異星人の手によって、ゼクのフードが外された。年老いたフェレンギ人だ。
すぐに杖にキスするクワーク。「光栄です、DS9 へはお仕事で、それともお遊びで?」
クラックス:「どっちならいいんだ?」
「いやあ、別にどっちでも。」
「ディープ・スペース・ナインへ来た目的はいずれ父から発表があるだろうが、実は父はホロスイートを楽しみにして来たんだよ。…噂ではクワークの店のプログラムは…素晴らしいとか。」
「ええ、まあうちの自慢なんですよ。しかしですね、うちのプログラムはその…お歳を召した方にはちょっと刺激的かと。」
「…じゃ使わせてくれないってことか?」
「とんでもない。何か特にこういうものがいいって御要望はありますか?」
「…特にないと思うけどね? あまり盛りだくさんでも選ぶのがめんどくさいだろうし。」
「あ、あそういうことなら。」 指を鳴らし、ロムからパッドを受け取るクワーク。「ここには 5つの特選プログラムが入ってるんですよ。どれも当店のオススメでして、中から一つお選びしましょう。」
「ああ…いや、選ばなくてもいい。その 5つ全部を試させてもらうから。」
笑うゼク。


※1: クワーク役アーミン・シマーマンの写真を参考に作られました

※2: ベイジョー感謝祭 Bajoran Gratitude Festival
初言及

※3: fire caves
初言及

※4: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第4話 "A Man Alone" 「宇宙ステーション殺人事件」以来の登場。声:山崎たくみ、前回は田原アルノさんでした。これ以降第5シーズンまで山崎さん、残りの第6・7シーズンは再び田原さん

※5: フェレンギ金儲けの秘訣 Ferengi Rules of Acquisition
初言及

※6: No.1 "Once you have their money, you never give it back."

※7: Nog
(エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9 "A Man Alone" 以来の登場。声:山口勝平、前回は岩永哲哉さん。これ以降第4シーズンまで山口さん、残りの第5〜7シーズンは落合弘治さん

※8: Krax
(ルー・ワグナー Lou Wagner TNG第136話 "Chain of Command, Part I" 「戦闘種族カーデシア星人(前編)」のフェレンギ人デイモン・ソロク (DaiMon Solok) 役) 声:梅津秀行

※9: grand nagus

※10: Zek
(ウォーレス・ショウン Wallace Shawn 映画「マンハッタン」(1979)、「プリンセス・ブライド・ストーリー」(1987) などに出演。「トイ・ストーリー」シリーズ (1995〜) では恐竜レックスの声を担当) 声:田の中勇

・本編
教室に集まった子供たちが遊んでいる。
オブライエンが入る。「遅くなってごめん。司令室の転送機の上部分子画像スキャナーの調子が悪くってね。…まあみんなには関係ないか。…じゃあ席に戻って? ほら席につくんだ。…ジェイク、ノーグ。」※11
後ろのジェイクの方を向いたまま、しゃべり続けるノーグ。「それで、その女の子の名前聞いたらさあ…」
オブライエン:「ノーグ!」
「…あ!」 ノーグは前を向いて座った。
「じゃあ始めるぞ? さーて? 後 2週間でケイコ先生も地球から戻ってくる予定だ。みんなで後 2週間、がんばってやっていこう? いいね?」
返事はない。
オブライエン:「よーしそれじゃホームワークパッドを机の上に出して? 学年が上の子からいこう。この前の宿題は『倫理』っていう言葉についての小論文を書くだったねえ。誰からいこうかな? …じゃノーグ。」
ノーグ:「…あ、きょ、今日は持ってきませんでした。」
「何でだ?」
「パッドを盗まれて。」
「パッドを盗まれた? どこでなくなったんだい?」
「クワークの店です。…テーブルに、置いといたんです。…近くにはヴァルカン人がいて。」
「ちょっと待って。じゃあ君は、ヴァルカン人が犯人だって思ってるのか?」
「決まってますよ。」
「何でヴァルカン人が。」
「…ああ……そりゃ倫理に欠けるからでしょ。」 笑うジェイクたち、クラスメート。
「そういう冗談はやめてもらいたいねえ。」
「ほんとですよ! ジェイクだって、見てたんですから。」 振り向くノーグ。「そうだろ? 先生に言ってくれよ。」
ジェイク:「…あ…多分。」
オブライエン:「つまり推測だろ?」
また振り向き、小声で話すノーグ。「頼むよ。」
ジェイク:「…ノーグの、言うとおりです。ヴァルカン人が、盗ってったんです。」
オブライエン:「よしわかった、じゃ明日までに書き直してくるように。わかったな、ノーグ。」
ノーグ:「はい!」
「今度は絶対だぞ。」
振り向き、笑うノーグ。だがジェイクは浮かない顔をしている。

ホロスイートがある 2階から、ゼクの笑い声が聞こえる。ドアの前では異星人が杖を持って待っている。
クワーク:「ネーガスは一体いつまで、ホロスイートで楽しまれるつもりなんでしょう。」
クラックス:「ネーガスのなさることが不満なのか?」
「だけど身体に悪いよ。」
「しかし父は、呼ぶまで絶対邪魔をするなと言って入ったのだ。君はその指図に逆らえとでも言うのか。」
「何もそうは言ってませんよ。」
「ああそう。」
ロムに近づくクワーク。
ロム:「グランド・ネーガスが、俺たちの店にいるなんてな。こんな名誉は初めてだよ。」
クワーク:「名誉なんかじゃ食っていけねえんだよ! ネーガスの爺さんのせいでこっちは破滅だ!」
「…ネーガスが店を乗っ取るってのかい?」
「でなきゃ何でわざわざここまで来る。俺を追い出す気なんだよ。ほんのはした金をつかませてな。」
「売らないって言えばいいじゃないか。」
「おお、そうだよ。そう言えばいいんだよな!」 肘でロムを小突くクワーク。「バカ野郎! ネーガスにな、どうやって逆らえって言うんだよ!」
クラックス:「クワーク?」 降りてきたゼクにグラスを渡そうとする。「どうぞ。」
ゼクは瓶の方を取り、直接口をつけた。「…いいプログラムじゃった。」
クラックス:「休憩するところはないだろうか。」
クワーク:「そうくると思ったぜ。」 声の大きさを戻す。「ああ、では滞在中は是非私の、弟の部屋でよろしければ御自由にお使い下さい。」
ロム:「ああ、ちょ…」
クラックス:「そうしてもらえると助かるな?」
クワーク:「どういたしまして。ほかに御用がありましたら、私に何なりとお申し付け下さい。」
ゼク:「では夕食を用意して欲しい。」
「…かしこまりました。」

司令室のシスコ。「チーフ、第9エアロックがまた故障したらしいんだ。」
ターボリフトを修理しているオブライエン。「…じゃあすぐにクルーを派遣します。ジョナス少尉※12。」
向かうジョナス。
シスコ:「学校の方はどうだ。」
オブライエン:「…がんばってはいるんですが正直、ケイコが帰るのが待ち遠しいですよ?」
「子供たちの相手は一苦労だろ。」
「まああんなもんでしょう。担任が休みの間代わりの先生をいじめるのは、子供の楽しみですからね。私もやりましたよ?」
「ジェイクはどうだ、真面目にやってるかね。」
「ジェイクですか? あの子はいい子ですが…でもただ、その…。」
「ただ何だ。」
「もしも、自分の息子ならノーグ以外の友達と付き合わせますけれど。」
「私もそう言ってるんだがなかなかね。近頃はいつも 2人一緒にいるようだ。」
「でもなるべく遠ざけるようにした方が。ノーグは結構ワルですからねえ。」
「心配してくれるのはありがたいが、私は息子を信じるよ。」 ターボリフトが再び動くようになった。「それに今は中に割って入って、ジェイクに私かノーグかを選ばせるようなことは避けたいんでね。」
「何でです。」
「…私が負けるからさ。」
「…そんなことありませんよ。」
「君のお嬢さんはまだ 3歳※13だろ? 14歳になったら、わかるさ。」

器の中に、たくさんのうごめく虫が入っている。その一匹に箸がのびる。
ゼクの従者の異星人が口にした。見ているクワーク。
うなずく異星人。
ゼク:「ほんとに大丈夫か?」
異星人は深くうなずいた。
自分も箸を使うゼク。「うん、これはイケるぞクワーク。うーん、このジムシ※14は冷やし具合も最高で実に美味いのう。」
料理を載せた盤を回転させるクラックス。
ゼク:「誰がもう食べ終わったと言った。」
戻すクワーク。「…どんどん召し上がって下さい…。」
ゼク:「そういえばこないだお前の従兄弟のバルボ※15に会ったぞ。」
ロム:「バルボに? タラホンの刑務所※16で、服役中だと思ってましたが。」 甲虫をかじる。
「いやあ、ついに出所が認められたんじゃ。」
クワーク:「そりゃよかった。」
「お前たち 2人がタラホン政府にワープドライブの不良品を売りつけた話を聞いたぞ、なかなかやるなあ?」
「あれは簡単でしたよ、タラホン人ってのはだまされやすい人種でね?」
「その上お前はバルボを裏切って当局に売り、自分※17は儲けを独り占めして逃げたそうだな。恨んどったぞ?」
「でも金儲けの秘訣第6条を御存知でしょう?」
「『たとえ自分の身内でも金儲けの邪魔は絶対させるな。』※18 まさにその通りじゃ。」 クラックスに言うゼク。「わかったろ、こいつはなかなかの男じゃ。」
「ヘヘ。」
「商人はそうでなければいかんよ、クワーク。」
「いえいえ、そんな。」
「目上の者の言うことは聞くもんじゃぞ、無礼じゃろうが。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」 笑うクワーク。
「それにしても、安定したワームホールに近いステーションに店を開くなんて実に素晴らしい。」
クラックス:「ワームホールだとわかったのは店を開いた後でしょう。」
「つまり先見の明があるということじゃろうが。クワークには商人の本能がある。」 自分の耳たぶに触れるゼク。「収穫というか金儲けのできる場所を嗅ぎ分ける才能がな。お前もそういうところを見習わなくてはならんぞ?」 歯に食べ物が詰まったらしい。「ボーイ! ボーイ!」
床に座っていたノーグは立ち上がり、棒をたくさん載せたトレイを持ってきた。
そのうちの一本を手に取り、歯を掃除するゼク。
ノーグ:「もう帰ってもいいでしょ、宿題があるんだ。」
うなだれるロム。
ゼク:「いま何と言った。宿題じゃと?」
クラックス:「連邦の学校があるんですよ。人間が経営してましてね? しかも女の人間が。」
「まさかそんなところへ自分の息子を通わせてるんじゃないだろうな。」
ロム:「ノーグ、父さんがいつも言ってるだろ、あんな場所行っちゃいかんって。さあ部屋へ帰ってろ!」
ノーグ:「あ…。」
「勉強なんかするんじゃないぞ?」
無言で離れるノーグ。
ロム:「申し訳ございません。惑星連邦の奴らにも困ったもんで。自分たちがいいと思うことを、何でも他人に押しつけてくるんですよ。」
ゼク:「そいつはまたたまらんな。」
「ええ、そうなんです。たまらんのですよ。全く、もう。」
「さて、では本題に入ろうか。クワーク、実は頼みたいことがあるんじゃ。大事なことなんで是非引き受けてもらいたい。…この店が必要なんじゃ。」
クワーク:「やっぱりね。」
「そして君にホストをやってもらって、明日ここで重要な会議を開きたいんじゃ。開会は 9時きっかりじゃ。」
安心するクワーク。「そうでしたか、それはもちろん光栄ですが…その重要な会議の議題ってのは一体…。」
ゼク:「未来じゃよ。フェレンギ財界全体の発展にとって、未来はまさにここに横たわっておる。即ちワームホールの向こうの、ガンマ宇宙域じゃ。」
笑うクワーク。


※11: 後ろの壁に、歴代 U.S.S.エンタープライズ (D まで) の図が表示されています

※12: Ensign Jonas
オブライエンの部下なら「准尉」とすべきかも。吹き替えでは「ジョーンズ少尉」。エキストラ (でも普段は保安部員をやっている人のような…)

※13: モリーは TNG第105話 "Disaster" 「エンタープライズ・パニック」で生まれているので、まだ 1歳のはず。もっとも、1歳にしては既にかなり大きいのですが…

※14: tube grubs
初登場。grub だけで地虫という意味はあるので、直訳すると「管地虫」。この部分は訳出されていません

※15: Barbo

※16: Tarahong detention center
タラホン人=Tarahongians

※17: 吹き替えでは「お前たち」「自分たち」と、ロムも含めたような言い方になっています。その前の「お前たち 2人」はクワークとバルボのことなので、裏切ったのもクワークだけ

※18: No.6 "Never allow family to stand in the way of opportunity."

報告するキラ。「先ほどフェレンギ旅客船セプロ※19が、第5ドッキング区に入りました。」
シスコ:「この 18時間でフェレンギの船が来たのは 3隻目だな。」
ダックス:「クワークの誕生日じゃないかしら。」
キラ:「ハ、しばらく貴重品には気をつけないとね?」
シスコ:「まあそれは大丈夫だろう。シスコよりオドーへ。」

オドーはプロムナードにいる。「何ですか、司令官。」 2階から、急いで歩くフェレンギ人を見ている。
シスコ:『フェレンギ人が大挙してステーションへ来てるんだ。』
「…もちろん抜かりはありません。」

クワークの店に入るフェレンギ人。既にたくさん集まっている。
中央には大きなテーブル。
クラックス:「ダメだダメだダメだ!」
クワーク:「何がダメなんです。」
「チュロット※20とホーエックス※21が隣じゃマズいんだよ。チュロットはな、ヴォルチョック・プライム※22の貿易港で貨物積み卸しを牛耳っていたんだがその権利をホーエックスに買収されちまったんだ。」
「ロム! 急いで席順を組み直してくれ。さっさとやらんと宇宙に放り出してやるからな!」
名札を入れ替えるロム。
クラックス:「おいおい、今日の会議は非公開なんだぞ。わかってるのか!」
クワーク:「もちろん。」
「じゃ何あれ。」
店の入り口に、モーンが突っ立っていた。
クワーク:「帰った帰った! 今日は貸し切りだ!」 モーンを押し出し、ドアを閉める。「さあ帰ってくれ。…あっちいけ、シッシッ!」
歩いていくモーン。
フェレンギ人の一人、グラル※23。「なぜ始めない。」
クラックス:「グランド・ネーガスを待ってるんだ。」
「すぐに出てこねえんなら、俺はもう帰らせてもらうぜ?」
「勝手な真似は慎んでもらうぞ? 会議が終わるまではな!」
「親父の影に隠れてるだけのくせによう。」
「ヘ…グランド・ネーガスの影はなあ、ものすごく長いんだよ。影に飲み込まれないようにせいぜい気をつけな…」
ゼク:「どうやら全員揃ったようだな。」 異星人もそばにいる。
クワーク:「飲み物はもういいんだ!」
ノーグ:「あ、わかった。もう行くよ。」
「さあ、行くぞ!」 クワークはロムと一緒に出ていこうとする。
ゼク:「待て。クワークは残れ。」
「…私? あ? ああ。」 別のテーブルに、後ろ向きに座るクワーク。
「では諸君、座ってくれ。」
席につくフェレンギ人たち。

プロムナード 2階の角にいるノーグ。
ジェイク:「ようノーグ。」 隣に座り、同じく足を投げ出す。「今朝はどうしたんだよ。」
ノーグ:「もう学校なんかいいんだ。」
「それ、どういう意味だよ。」
「もうあんなつまんねえ授業なんか受けなくていいんだよう、俺は。」
「お父さんにそう言われたの?」
「…でも、親父の言うとおりだよ。」
「僕からオブライエンさんに相談しようか。」
「いいよ。…俺、問題児だしさ。」
「でも勉強したくないの?」
「…倫理なんかをか?」
「ああ、それだけじゃないけど。」
「お前にはわかんねえんだよ。俺はフェレンギ人だ。俺に言わせりゃ学校なんか時間の無駄さ。」
「…何で無駄なんだよ。」
「学校に行ったって金は儲からねえだろ?」
「僕に当たることないだろ!」
「お前がバカだからじゃんかよう! お前に説明する義理なんかないんだ。」 歩いていくノーグ。
「僕がバカなら、学校辞める君は何なのさ! …勝手なこと言うなよな!」

会議中のゼク。「それでは最後の乾杯はナーヴァ※24に捧げよう。ナーヴァはクラリアス星系※25のアルシバイト星※26の、採鉱と精製所を見事手に入れたそうじゃ。諸君よくやってくれた、おかげで利益は史上最高を記録した。」
テーブルを叩き、喜ぶフェレンギ人たち。
あきれるクワーク。「あーあ。」
ゼク:「とは言うものの、ここアルファ宇宙域では旨味のある商売をするチャンスは、年々少なくなってきておる。利益の幅がだんだん狭くなってきておる。…それはなぜか。我々が行くところどんな星でも我々の悪評が先回りしているからなのじゃ。我々フェレンギにおくれを取った商売敵どもが腹いせに、フェレンギ人は信用できないという間違った印象を広めているからなのじゃ、全く腹が立つ。」
不満を述べるフェレンギ人。
ゼク:「ところがじゃ、ありがたいことにワームホールが発見されたゆえ、これからはそういう悪評を気にせずに商売ができるようになるというものじゃ。ガンマ宇宙域じゃよ、諸君。何百万という新しい星が我々を待っておる。フェレンギ経済全体にとっても拡大発展する千載一遇のチャンスじゃ。」
笑うクラックス。「ガンマ宇宙域にはまだ、フェレンギの悪名はとどろき渡っていないでしょうからねえ?」
グラル:「つまり警戒されずに商売ができるってこった。」
ナーヴァ:「口約束でも通るかもしれないぞ?」
クラックス:「そんなものすぐに破ってやるさ!」
笑い、テーブルを叩く一同。
ゼク:「今こそフェレンギの黄金時代が、再び始まろうとしているのじゃ。」 笑う。
ナーヴァ:「ガンマ宇宙域への進出は誰に任せます。」
グラル:「そうだ。」
クラックス:「もちろん、父に決まっている。」
「そうだ。」
ナーヴァ:「その通り。」
「グランド・ネーガスだー!」
クラックス:「グランド・ネーガス万歳!」
ゼク:「諸君の気持ちは誠にありがたい。しかしわしは辞退させてもらおうと思う。」
「でもお父さん。」
「わしは年じゃ、もう死も遠くない。」
「お父さん。」
「若い頃ほど金儲けに意欲が湧かなくなっておるんじゃ。」
グラル:「そんなこと。」
クラックス:「ますます御元気ですよ!」
ゼク:「いや、わしはもう決めたんじゃ。…実を言うとわしの後継者ももう決めておる。」
グラル:「おう?」
「広い視野、豊かな想像力、強い意欲をもってフェレンギを率い、ガンマ宇宙域に進出できる男を選んだつもりじゃ。」
「俺かもしれねえぞ。」
「新しい、グランド・ネーガスは…? クワークじゃ。」
クワーク:「え!」
一斉に立ち上がるフェレンギ人。
グラル:「なぜあんなチンピラを指名する!」
クラックス:「お父さん、一体何を考えてるんです! 全くもう、信じらんない!」
全員店を出て行ってしまった。
うろたえるクワーク。振り向く。
ゼク:「いま聞いた通りじゃ。グランド・ネーガスとしていい仕事をしてくれよ?」 異星人に付き添われ、歩いていく。
耳をかき、笑うクワーク。


※19: Sepulo

※20: Turot

※21: Hoex

※22: Volchok Prime

※23: Gral
(リー・アレンバーグ Lee Arenberg TNG第161話 "Force of Nature" 「危険なワープ・エネルギー」のフェレンギ人デイモン・プラク (DaiMon Prak)、第174話 "Bloodlines" 「怨讐の彼方に」のフェレンギ人デイモン・ボーク (DaiMon Bok)、VOY第115話 "Juggernaut" 「憎しみはコロナの果てに」のペルク (Pelk)、ENT第88話 "Babel One" 「バベル1号星」・第89話 "United" 「ロミュランの陰謀」のグラル (Gral、同じ名前ですが偶然とされています) 役) 声:大川透、DS9 ガラック役など

※24: Nava
(バリー・ゴードン Barry Gordon VOY第166話 "Author, Author" 「夢みるホログラム」のアードン・ブロート (Ardon Broht) 役) 声:室園丈裕

※25: Clarus System
初言及

※26: Arcybite

食べ物をかき回しているジェイク。
シスコ:「…どうした、美味しくないのか?」
ジェイク:「違う、食欲がないだけ。」
「何かあったのか。」
「ノーグのことだけど、お父さんが学校を辞めさせたんだよ。」
「そうか。」
「可哀想だよ、ノーグはまだ字も読めないのに。…もう学校に行っても楽しくないや。」
「でも放課後待ち合わせて遊べるだろ。」
「そりゃあまあね。だけどもう僕とは付き合ってくれないよ。」
「そりゃ何でだ。」
「しょせん人間とフェレンギ人とは違うって言うんだ。」
「まあ一理あるな。」
「でもパパはいつもほかの文化の人と友達になりなさいって言ってるじゃないか。」
「ああ、確かにその考え方は正しい。しかし人間とフェレンギ人とでは、価値観が違いすぎるんだ。理解し合うのは非常に難しい。」
「それじゃノーグのことは放っとけって言うわけ?」
「だって仕方ないだろ。」 立ち上がろうとするジェイクに言うシスコ。「ジェイク、学校が終わったら野球でもやらないか。」
「悪いけど…ほかにやることあるから。」 ジェイクはテーブルを離れた。

ローブを着て、杖を持っているクワーク。ロムを連れてプロムナードを歩いている。
グラルが近づく。「グランド・ネーガス・クワーク。」
笑うクワーク。「何て心地いい響きだ。」
グラル:「一度正式に自己紹介させて下さい。…グラルと申します、あなたのお味方です。」
「わしに仕えたいのかね?」
「いえ、お守りしたいのです。」
「わしを守る?」
「みんなあなたに嫉妬して、グランド・ネーガスの地位を狙ってます。命の危険もあるんですよ?」
「……どうすればいいんだ?」
「私にお任せを。誰にも手を出させないように取り計らいましょう。その代わりと言ってはなんですが…。」
「よし、望みを聞こう。」
「ガンマ宇宙域で私が優先的に商売ができるようにあなたのお力で保障してもらえばいいんです。」
「もし断ったら?」
「ああ…断れるもんか。」
驚くクワーク。歩いていくグラル。モーンが通りかかる。

酒を飲んでいるゼク。
部屋にクワークが飛び込んでくる。「ネーガス! 実は私困ってるんです。」
ゼク:「わしもじゃよ、ネーガスはよしてゼクと呼んでくれ。さて、どっちがいいと思う。ライサか、バロスニー6※27 か。」
「意味がわかりませんが。」
「休暇の行く先じゃよ。…休みを取るのは 85年ぶりなんじゃ。…これは人から聞いた話なんじゃが、バロスニーじゃ潮の満ち引きによって、またとない刺激的な幻覚が見られるんだそうじゃ…」
「あのう…」
「しかしライサの女の子は実に肉感的で悩ましいというし、いや迷うのう…」 笑うゼク。
「ネーガス! お願いです、グラルに脅迫されたんです。」
「ほう。最初はグラルじゃったか、これからまだまだくるぞ?」
「何をそんなのんきな! 後継ぎにしたんなら、アドバイスの一つもお願いしますよ。」
「生き延びるためには周りを忠義な者で固めることじゃ。」
「それはいい。」
「忠義すぎてはいかんぞ? 自分のことより他人のためを考えるような奴は信用できんからな?」
「そうですね?」
「それからもう一つ、迷った時は強く出ろ!」
「…よーし。」
「ウッ!」 ゼクは突然動かなくなる。
「それぐらいならできそうだ。それから? ゼク? ゼク?!」
異星人はゼクの頭を揺り動かした。首を振る。
クワーク:「俺は何もしてねえ!」

ゼクの写真が飾られている。
小さな容器を手にしているナーヴァ。「こいつはそうだなあ、クラックス。どうだろう、ラチナムの延べ棒 20本ってとこでいいか?」
テーブルにはたくさんの容器が、積み重ねられている。
ナーヴァ:「…いやあ、もう少し考えさせてくれ。」
クラックス:「一年もすりゃ倍の値がつくぜ?」
「じゃもらう。」
離れたところにいるロム。「じゃ兄貴は俺に、ボディガードやれってのか?」
クワーク:「給料上げてやるよ。」
「…でも何で俺に。」
周りを見るクワーク。「お前しか信用できる奴がいねえんだよ。…ずっと一緒に店をやってきたし、気心知れてるし兄弟だし。」
ロム:「…でも俺はよう、兄貴がグランド・ネーガスになって忙しくなりゃあ、店を任せてもらえると思って。」
クワークは酒を噴き出した。笑い続ける。「お前に、店を任せる?」
ロムはクワークの店を出て行った。
オドーが近づき、笑うのをやめるクワーク。
オドー:「仲間が死んで悲しんでるのかと思えば、いやはや…」
クワーク:「この葬儀に部外者はお断りしてるんだ。」
「フーン、死者を鞭打つ気は更々ないが、規則でね。このステーションで死亡者が出た場合は、一応事情をお聞きすることになってるんだよ。」
クラックス:「しかし父の死に何も怪しいところはないぞ。父は耳の鼓膜の慢性の感染症に悩んでいてね、もう寿命だった!」
「それならドクター・ベシアに遺体の解剖をお願いしてもまさか文句は出ないでしょうな?」
笑うフェレンギ人たち。
クラックス:「そいつは無理な相談だ。」
容器の一つを手にするオドー。「こりゃあ何だ。」
ナーヴァ:「私が買ったゼクですよ。」
クラックス:「父ほどの高い地位にあるフェレンギ人が死ぬと、遺体は直ちに真空乾燥に処されてオークションにかけられ、売られるんだよ。」
オドー:「…感動的だね?」 容器を投げ返した。

プロムナード 2階に座っている、ジェイクとノーグ。
同時に話し出す。「あのさ、僕…」「思うんだけど…」
ジェイク:「…先に言えよ。」
ノーグ:「いいよ、大したことじゃねえし。」
「人間とフェレンギ人じゃ話すことなんてないってことか。」
「ああ、親父はそう言ってたよ。」
「僕のパパもさ。…でもそんなのわかんないよね。僕たち昔はよく話をしてたもんな? ノーグ、これからも僕の友達でいてくれる?」
「……もちろん。」
手を伸ばすジェイク。
ノーグは握手する。「でも、親父にバレたら大騒ぎだろうな。」
ジェイク:「ああ、うちもだよ。…来いよ、いい考えが閃いたんだ。」
「何なんだよ。」
「いいから。」

話すオドー。「しかし、お前がグランド・ネーガスになったからって、何か変わるのか。」
クワーク:「俺に会いたい時はまずロムに連絡して予約を取ってからにしてもらわないとなあ?」
「何をバカバカしい。」
「加えてグランド・ネーガスに会う時は? 杖に口づけをすることになってるんだ。」
「…ハ!」 出ていくオドー。
笑うクワーク。「まあオドーぐらいなら例外にしてやってもいいぞ?」
音が響いた。床にコインが転がっている。
足で踏みつけるクワーク。周りに誰もいないことを確認する。
その時、店の外に浮遊する物体が見えた。
コインを取るため、身をかがめるクワーク。
浮遊物体は一直線にクワークへ向かってきたが、当たらない。
そして爆発した。テーブルの下で怯えるクワーク。


※27: バロスニー6号星 Balosnee VI

焼け跡をトリコーダーで調べるオブライエン。「衝撃境界※28の周りが変色してますね。これは、ソリウム※29とアルギン※30の痕跡なんです。」
シスコ:「じゃフェレンギの爆薬だな?」
「そうです、フェレンギの位置探査爆弾※31ですね。狙う相手のフェロモンを探知して爆発するんです。」
オドー:「じゃあ身体の臭いに反応するのか。」
「うん。殺傷能力も非常に高くて、クワークがもし頭を下げなかったら…。」
ベシアがクワークの店に入る。「司令官。」
シスコ:「何だ、ドクター。」
「クワークを一通り診てみましたが、ショックを受けてるだけで外傷はありません。」
「じゃ新しいグランド・ネーガス殿と、ご対面といくか。」 外へ出る。
オドー:「私も御一緒します。」
ジェイクとノーグの笑い声が聞こえてきた。
シスコが見上げると、2階を一緒に走っていく。ため息をつくシスコ。

診療室のオドー。「お前の命を守ってやろうって言ってるのに何でわからないんだ、このバカめが。」
ベッドにいるクワーク。「今度のことはフェレンギ人の内々の問題なんだよ。お前には関係ない!」
シスコ:「しかしだな、クワーク。」
ロム:「ちょっちょっ…。グランド・ネーガス・クワーク。」
「…位置探査爆弾は狙う相手の位置を特定して爆発するんだぞ? 今回助かったのが不思議なくらいだ。」
クワーク:「グランド・ネーガスは、部外者に助けを求めない。」 ベッドを降りる。
オドー:「それこそお前を殺そうとした奴の思う壺だぞ? 犯人に心当たりぐらいついてるんだろ?」 クワークにローブを着させるロム。
「疑うんなら全員だ。」
「そうは言ってもお前が死んで一番得をする奴は誰なんだ。」
「…そうだなあ、やっぱりクラックスだろうな。俺に何かあったら次のグランド・ネーガスは奴だろうし。」
ロム:「だけど、兄貴を脅迫したのはグラルでしょ?」
「ロム!」
オドー:「脅迫されたのか。どうやって。」
「それはお前らとは関係ないことだ。…それによう、グラルとクラックスは爆発の時俺と同じ部屋にいた。つまりあいつらには爆弾をセットできなかったってことだ!」
シスコ:「犯人に共犯者がいたのかもしれないぞ。」
オドー:「フェレンギの連中はあの時全員あの部屋に集まってたんだな?」
クワーク:「そうだ、全員葬儀に参列してたよ。犯人なんてわかるもんか!」
「んじゃゼクの、従者はどうだ。」
ロム:「メイハードゥー※32のこと?」
クワーク:「奴がどうした。」
オドー:「彼も葬儀に出たのか。」
ロム:「そういえば会わなかったなあ。会ったかい?」
クワーク:「そう言われてみれば。会わなかったな!」 出ていく二人。
オドー:「面白い。ヒューピリアン人※33は主人に忠誠を尽くすことで知られている種族です。メイハードゥーがゼクの葬儀に出なかったというのは非常に不自然な気がしますね。」

シスコの部屋。
ジュースを飲むジェイク。
シスコ:「昨日は随分遅かったな。」
ジェイク:「…そうだっけ?」
「真夜中の御帰宅だったぞ?」
「ああ…いろいろとやることがあって忙しかったんだ。」
「何をやってたんだ。」
「いや、別にただ遊んでただけ…」
「ノーグとだろ。」
「何にも悪いことはしてないよ!」
「なら何をしていたのか話してみろ。」 座るシスコ。
「…話せないよ、秘密だから。」
「…秘密だと。」
「……じゃあ行ってきます、学校に遅刻しちゃう。」
「今日は夕食までに帰ってくるんだぞ?」
「…わかったよ。」 出ていくジェイク。
ため息をつくシスコ。

話すナーヴァ。「つまりですね、ああ…ネーガス。私は鉱山採掘にかけちゃ、もうやることはもう全部やり尽くしたって思ってるんですよ。」
クワーク:「今度はほかで金儲けがしたいと?」
「…そうです、ネーガス。」
「ああ、で何をやりたいんだ。」
「できれば、ガンマ宇宙域にシンセホールを売り込む仕事をしてみたいものだと。そう考えております。」
クワークは動物のコルヴァン・ギルヴォ※34をなでている。「シンセホールか、そいつは儲かるだろうな?」
笑うナーヴァ。
クワーク:「一つ聞くが、ゼクが俺を後継者に指名した時、喜べたか?」
ナーヴァ:「ああ…いいえ、ネーガス。」
「…ここに来たのは俺を支持してくれるからか?」
「…いいえ、ネーガス。」
「なのに俺をネーガスって呼ぶのは、俺に友情を感じてるからなのか? まさかな、そうやって俺にへつらってみせるのはただ、商売の権利を保障してもらいたい、それだけなんだ。」
「もちろん、儲けは山分けにしましょう、フィフティ・フィフティで。」
「そうだな、それならよかろう。ガンマ宇宙域でシンセホールが売れるのを祈ろう。」 笑うクワーク。
「おお! やった!」 喜び、杖にキスするナーヴァ。出ていく。
クラックス:「大変実のある取引でしたね?」
クワーク:「やっぱり俺って、ネーガスに向いてんのかもな。」
「ええ、そうですとも。」
「ああ残りの奴らには、明日また出直すように言ってくれないか。陳情を聞くのも疲れるんでなあ。」
「はい、ネーガス。」
ロム:「ネーガスの仰せの通りに。」
クワーク:「じゃ俺はちょっと店を見てくる、レシートをチェックしないと。」
同時に応えるロムとクラックス。「はいネーガス。」「はいネーガス。」
クワークは杖をつかみ、出ていった。
クラックス:「みんなの陳情をあんなに気前よく認めてやってれば、クワークの奴ものすごい人気になるぞ?」
ロム:「…こうなったら、また別の手を考えるしかないな。」
「そうそう…」
「位置探査爆弾なんかじゃ手ぬるくてダメだよな。…絶対に失敗しない方法を考えなきゃいかん。こうなったら、意地でも兄貴を殺してやる。」
笑う 2人。


※28: 吹き替えでは「衝撃パラメーター」。parameter ではなく perimeter

※29: sorium

※30: argine

※31: locator bomb

※32: Maihar'du
(タイニー・ロン Tiny Ron) 声優なしのはずですが、一部資料ではグラル役の大川さんが兼任ということになっています

※33: フーパイリア人 Hypyrian

※34: Corvan gilvos
TNG第110話 "New Ground" 「新ワープ航法ソリトン・ウェーブ」より。その時と同じ人形が使われました

野球ボールをグローブに投げつけているシスコは、ドアチャイムに応えた。「どうぞ?」
ダックス:「…ジョカリアン・チェス※35の相手をしてくれないかと思って誘いに来たんだけど。これから御食事みたいだから失礼するわ?」
「ジェイクが帰ってくるのを待ってるんだ、もう 30分もこうしてるんだよ。」
「オーベルジン・シチュー※36ね? 美味しそうじゃない。ジェイクはどうしたの?」
「決まってるだろ?」
「ノーグと一緒?」
「自分の反抗期も結構辛かったけど、息子の反抗期に付き合うのはもっとしんどいよ。」
「一度ジェイクと話し合ってみたらどう? しちゃいけないことは教えないと。母に 3回、父に 2回なった私が言うんだからほんとよ?」
「どっちが楽だった?」
「実を言うと私は母としても父としても失格。だからあんまり参考にはならないけど、でも私なら…ジェイクを探しに行って、一緒にシチューを食べさせるけどな?」 フォークで少し口にするダックス。
「本当かい?」
「ええ、ほんとよ?」
「……コンピューター、ジェイク・シスコはどこだ。」
コンピューター:『ジェイク・シスコは第14貨物区にいます。』
「ありがとう、ダックス。」 ボールを投げ渡し、自室を出るシスコ。
ダックスは、シチューを皿にたんまりと載せた。

貨物室に入るシスコ。
ジェイクの声が聞こえる。「じゃあ次読んでみて。がんばれよ、ノーグ。」
ノーグ:「『14個の惑星をもつベイジョー…』 次読めないよ。」
「『星系』。」
「…『星系。』」
「いいぞ。もうちょっと頑張れ。」
「『最大の惑星は、ベイジョーです。ベイジョーには、3つの月があります』※37?」
二人は片隅に座り、パッドを読んでいた。
ジェイク:「読めたじゃん!」 笑う二人。「さあ、次も読んで。」
ノーグ:「よし。『3番目の、月の、特徴は…』」
立ち去るシスコ。

叫ぶクワーク。「この大ボケ野郎! 俺を絞め殺す気か!」
ロムは首元から手を離す。「あ、申し訳ありません。」
ロムの耳をつかむクワーク。「バカな真似はやめて、さっさと仕事してこい!」
ロム:「ああ…はい、ネーガス。」
「…出発はいつだ。」
ローブを着させるロム。「ネーガスの御用意ができましたらすぐにでも。」
クワーク:「…ワームホールは行ってみたかったんだ。いよいよだな。しかし知らなかったよな、ゼクが以前ガンマ宇宙域に行ったことがあって星の一つと交渉を始めてたなんてさあ。」
「その交渉を受け継ぐなんて名誉なことですよ。クラックスが言うには、スタコロン2※38 にはミザイナイト鉱石※39が出るそうですよ?」
「そいつは一財産作れそうだな?」
「兄貴…」
「今度は何だよ!」
「…店のことだけど。…兄貴は、大金持ちになるんだから弟の俺にもちょっとぐらいは…」
「仕方ねえだろ、俺たちはそういう運命なんだよ。」
「…行こうか、あちらさんを待たせちゃ失礼だからね。」

プロムナードを歩いているメイハードゥー。オドーが注目する。
メイハードゥーはエアロックに入った。

プロムナードに出るクラックス。「正直申し上げて、父よりもずっと威厳があり堂々として見えますよ?」
クワーク:「考えたんだが、どうせ行くならダボ・ガールを一緒に連れて行ったらどうかな?」
「そりゃまた何で。」
店の中を指すクワーク。「綺麗な女を脇に侍らしてる方が箔がつくってもんだろうが。とにかく第一印象ってのは何より大事だからな?」
クラックス:「いやネーガスのこのお姿を見れば、スタコロン2 の住民はこぞって交易に応じるに決まってます。」
うなずくロム。
クワーク:「…わかった、でもやっぱり一人連れてった方がよくないか?」
「大丈夫です、平気へいき。行きましょう?」
歩いていくクワーク。胸をなで下ろすロムとクラックス。

エアロックを通り、船に入るメイハードゥー。追うオドー。
ドアはロックされているが、オドーは身体を液体化させた。
船の内部に現れる。

エアロックのドアを開けるクラックス。「これこそまさに、歴史的瞬間ですね? さあどうぞ?」
先に入るクワーク。「手違いがあったらしいなあ。…船なんかドッキングしてないぞ。」 外に広がる宇宙空間。
すると、手前のドアが閉まっていく。
クワーク:「待て! おいロム、どうしたんだ。…クラックス、何を突っ立ってるんだ。2人ともどういうつもりだ。…おーいドアを開けろー!」 ドアを叩く。「聞こえねえのか、早くドアを開けろー!」
今度は杖で叩くクワーク。「ネーガスの命令が聞けないってのかよう!」
クラックス:「悪いなクワーク、でも俺たちあんたに従う気はないんだ!」
手を合わせるクワーク。「ロム、兄弟だろ! 頼むよう!」
ロム:「兄貴こそ、いつも俺を宇宙に捨ててやるって言ってたくせによう!」
「ありゃ本気じゃなかったんだよう…」
「俺は本気だよ。」 ドアに鼻を押しつけるロム。「『ロムの店』。クワークの店なんかよりずっと響きがいいぜ。」
クラックス:「無駄口はよせ。それより早くやっちまおう。お前がスイッチを入れたいか? それとも俺がやるか。」
クワーク:「出してくれえ!」 力ずくでドアを開けようとする。
スイッチに手を伸ばすロム。
クワーク:「頼むからここから手を出してくれえ! …お願いだあ…。」
ゼクが来た。「何をやっとる!」 メイハードゥーを連れている。
同時に話すロムとクラックス。「ネーガス! 生きてたんですか!」
ドアを開けるオドー。「どうだいクワーク、結局は私に助けてもらう羽目になったろう。」 歩いていった。
ゼク:「どうした、自分の父親がわからんのか?」
クラックス:「死んだはずなのに。」
クワーク:「この目で見たぞ?」
ゼク:「あれはドルバージー昏睡法※40って言うんじゃ、メイハードゥーから教えてもらってな?」
クラックス:「でも、何でそんなことを…」
「お前を試したんじゃ、わしの跡を継いでももう大丈夫かどうかをな? 大丈夫どころか、全然ダメじゃったわい!」
ゼクを追いかけるクラックス。ロムもクワークを意識しながら離れる。
クラックス:「そんなことありませんよ! 僕ならできます! 今だってクワークから、権力を奪い取るところだったのに!」
ゼク:「権力は奪うもんじゃあない。積み重ねていくもんじゃよ、誰にも知られずになあ。」
「そんな、どういうことなんですか!」
「今回はクワークの店がポイントだったんじゃ。ワームホールから来る者はみんなクワークの店に立ち寄っとる。カウンターの後ろでじっと座っていさえすれば、ガンマ宇宙域の情報を好きなだけ集めることだってできたんじゃ。」
「でも何でクワークを?」
「ああ、ネーガスに指名されてクワークが有頂天になっとる間に店を乗っ取っておき、陰の実力者となってから一気に打って出ればよかったんじゃ、このバカ者!」
「でもお父さん…」
「うるさい、言い訳何ぞ聞く耳もたんわ! …さあ船に戻れ、すぐ出発するからな?」
「はい、お父さん…。」
「ああ、全く。クリンゴン人より物わかりが悪いわ。」

クワークの店。
クワーク:「この杖は、やっぱりあなたの物です。」
ゼク:「ああ、どうやらガンマ宇宙域にフェレンギ人が進出するまではわしがネーガスを務めなければならんようじゃ。早く引退して、のんびり遊びたいんじゃがのう。もしガンマ宇宙域でお前にピッタリの商売があったら連絡するからな?」
「お待ちしてますよ?」 杖に投げキッスするクワーク。
「しかしこの店は繁盛しとるなあ、大したもんじゃ。」
「どうも?」
「油断するなよ、そのうちわしが乗っ取りに現れるかも?」 笑い、クワークを小突くゼク。メイハードゥーと共に出ていった。
クワークも笑う。「待てよ、ロム! 俺を宇宙に捨てようとしたな?」 モーンが店に入る。
ロム:「…頼むから許してくれよ…」
「許すだと? 何を言ってるんだ。」 クワークはロムの前に立ち、腕をつかんだ。「お前にあれほど度胸があるとはな? 臆病な奴とばかり思ってたが見直したぜ。これからは経営および顧客管理部長に格上げしてやる。」
「ああ…それってどういうポストなの。」
「知るかよう、たった今作ったんだ。来いよ! 一杯、おごるからさ。」
「ああ…。」

プロムナードにいるジェイク。「じゃあ明日は何時にする?」
ジャムジャ・スティックを買うノーグ。「学校が終わったらすぐじゃどうだ?」
ジェイク:「OK。」
笑うノーグ。
そばを、ヴァルカン人の少女が歩いていった。見とれる二人。
シスコ:「ジェイク。」
ジェイク:「パパ。」 近づく。「どうしたの、わざわざ。」
「お前を、探してたんだ。」 抱き合い、笑うシスコ。額にキスする。
「パパ…。」
「お前はいい子だ、パパの自慢だよ。…さ、友達と遊んでおいで?」
ジェイクは喜び、歩いていく。
シスコは、微笑んだ。


※35: Jokarian chess

※36: Aubergine stew
英語字幕やエンサイクロペディアでは Augergine (オージェルジン) になっていますが、実際は脚本でのオーベルジンと聞こえます

※37: この辺りは次のように、原語と全く異なる吹き替えになっています。「『宇宙には、たくさんの星があります。例えば…』 次読めないよ」「『システム』」「…あ、『システム』か!」「星の名前だよ」「…そっか」「もうちょっと頑張れ」「『システムは、比較的重力が重い星です。システムには、3つの月があります』?」 またここではベイジョーに 3個の衛星があることにされていますが、後の第15話 "Progress" 「第五の月“ジェラドー”」では第5衛星のジェラドーが登場しているため、少なくとも 5つはあります

※38: スタコロン2号星 Stakoron II

※39: mizainite ore

※40: Dolbargy sleeping trance

・感想
旧題は "Friends & Foes" 「友と敵」という、ゼク (とメイハードゥー) が初登場したエピソード。金儲けの秘訣は言うに及ばず、ジムシ、ベイジョーの感謝祭、炎の洞窟といった要素が初導入されます。この辺が行き当たりばったりではないところですね。ついついあら探しをしてしまいがちな日本語版ですが、ゼクの声優に「目玉の親父」を起用しているのはまさにハマり役。いま思えば「金儲けの秘訣」という訳も絶妙ですね。
監督の David Livingston が、原案も担当しているという極めて珍しい話です。偶然マーロン・ブランドが亡くなった直後にエピソードガイドを公開することになりましたが、特にクワークが動物をなでるシーン辺りは、セリフも含めて「ゴッドファーザー」(1972) へのオマージュとなっています。シマーマンは映画のビデオも事前に見たそうです。


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