ここに一つの語り伝えがある。
遙か古代、人々がまだようやく火を手に入れたばかりの頃。
海の彼方からこの地に一人の賢者が渡来した。
賢者は様々な知識を伝え、人々は大いにその恩恵を受けた。
だが一つだけ、賢者が伝えようとして果たせなかったことがあった。
賢者が「賢者の力」と呼んだそれは、無から火を、水を生み出し、翼なくして空を駆け、
病を傷をいやし、獣を打ち据え、正に奇跡の力であった。
だが、数年にわたる努力の結果、賢者が伝えることを得たのはただ一つ――
「幻」を創り出すこと。それだけであった。
賢者は大いに落胆し、再びいずこへともなく去っていったという。
人々は「賢者の力」にあこがれ、夢み……
そして今も夢見続ける。
幻とともに。