「霧の詩」

 前書


 ここに一つの語り伝えがある。
 遙か古代、人々がまだようやく火を手に入れたばかりの頃。
 海の彼方からこの地に一人の賢者が渡来した。
 賢者は様々な知識を伝え、人々は大いにその恩恵を受けた。
 だが一つだけ、賢者が伝えようとして果たせなかったことがあった。
 賢者が「賢者の力」と呼んだそれは、無から火を、水を生み出し、翼なくして空を駆け、
病を傷をいやし、獣を打ち据え、正に奇跡の力であった。
 だが、数年にわたる努力の結果、賢者が伝えることを得たのはただ一つ――
「幻」を創り出すこと。それだけであった。
 賢者は大いに落胆し、再びいずこへともなく去っていったという。
 人々は「賢者の力」にあこがれ、夢み……
 そして今も夢見続ける。
 幻とともに。


「詩の一 ふれあわない」

「詩の二 老人と少年」


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