Factory43's Best CD in 2001


この年、部屋では隣の住人が四六時中騒々しく(ゴアトランス系(苦笑))、ヘッドフォンで音楽を聴くことが多かったです。反面、MDコンポの録音機能が壊れた事に加えて、外出の機会が例年よりも少なかったため、買った音源を外で聴くという状況が著しく減少しました。そんな普遍性のカケラも無い(笑)、極めて個人的な理由で、今年は「聴いて発散する」タイプよりも「聴き込む」タイプの音源に嗜好がシフトしていったように感じます。
そんな理由もあって、今年はハードコアとミニマルを聴く回数が少なかったです。まったく聴かなかったわけではないですが、どうにも熱は低かったと思います。
一方、音響/エレクトロニカ系は、「Oval以降の音楽性」と言える、楽曲解体後の再構成の仕方に対する様々なアプローチが興味深く、聴くことが多かったです。
しかしベストとして並べると、我ながら意外性の無いラインナップだと思うなあ。いろいろ聴いてても結局、良かったものに絞ると面白味に欠ける感じかも。


1、Rei Harakami 『Red Curb』  Sublime recs. IDCS-1004

Unexpected Situations/The Backstroke/Cape/Wrest/Red Curb/Vapor/June/Remain/2 Creams/Again/Put Off

1998年『Unrest』(MKCS-1007)、1999年『Opa*q』(MKCS-1019)に続く、2年振りの3rdアルバム。
内省かつ抽象的な散文性とポップなグルーヴが同居する独特の作風は変わらないが、昨年リリースの先行シングル『Blind/Swap EP』(Sublime SBLEP-041)からも予見された、何か吹っ切れたような明るさが非常に良い。文句無く今年のナンバーワン。
音数少な目で隙の多いサウンド、リリカルでポップだが判りづらいメロディ、言葉遊びのようなタイトル。掴み所のない飄々とした独特の芸風は相変わらずだが、彼の持つ風景と現実との距離感は、エレクトロニック・ミュージックが本来持つ素晴らしさを再提示してくれていると思う。
対となる同発シングル『Red Curb Again/Led Curve EP』(SBLEP-046S)、リミックス/リアレンジアルバム『trace of red curb [レッドカーブの思い出]』(IDCS-1007)も必聴。


2、Kiyoshi Mizutani 『Bird Songs』  Ground Fault recs. GF010

Binzui/Toratsugumi(White's Ground Thrush)/Hokora No Mizuba/Tokyo Bay Bird Sanctuary/Aokigahara/Nimo

LAのノイズレーベルからリリースされた、水谷聖の新作。2000年12月リリース。
富士樹海や山中湖、遠野岳、羽田空港などでのフィールドレコーディングを元に、タイトルどおり野鳥の鳴き声を中心として構成された音響群。癒し系アンビエンスと思いきや、異様な緊張感溢れる魔境空間が凄い。小川の水音と風の音。樹木の葉音と無音の鳴り。遠くに聞こえる、人工物の出す響き。そこに消えていく鳥の声。魂が吸い込まれるような感覚。
人によっては「鳴き声音効CD」としか聴けないかもしれないが、もっとラジカルな一枚。


3、No Motiv 『Diagram For Healing』  Vagrant recs. VR355

Celebrate/Throw In The Towel/Give Me Strength/Broken And Burned/Only You Get A Life/Going Numb/Break It Down/So Long /Savior/To The Roots/Let It Go/Born Again

Vagrantからの2枚目。前作『...And The Sadness Prevails』(VR337)ではDag Nasty直系のドライヴ感と端整なギター、無機質で線の細いボーカルが特徴だったが、本作ではすべてが大変身。スケールアップしたダイナミックなメロディ、スロウダウンし太くなったリズム、そして逞しい歌声。最初は同じバンドとは思えなかったが(実際はメンバーに変化無し)、これはこれで素晴らしい。ドライヴ感に今までの面影が残る名曲M-8、叙情的なギターと力強いボーカルが印象的なM-5、ドラマティックに展開するM-13、等々。もはやメロディック・ハードコアという表現は当てはまらないが、良い曲が書けるバンドだと思う。
「We gotta rock&roll, To the roots we stay」とマニフェストするM-11が象徴的な、ロックアルバム。


4、Prefuse 73 『Vocal Studies + Uprock Narratives』  Beat (Warp) recs. BRC38

Radio Attack/Nuno/Life Death with Mikah 9/Smile In Your Face/ Point To B/Five Minutes Away/Living Life/Eve Of Dextruction/Last Night/Cliche Intro/Back In Time/Hot Winter's Day/Black List/Untitled/Afternoon Love In/7th Message/Shitslime Garage Can vs My MPC

Scot Herenの音響HipHopユニット、Warp recs.リリース。
ヒップホップといってもエレクトロニカやアブストラクトの文脈で語られるべき音だが、ここではラップも解体され、音源の一つとして機能させられている。しかし特筆すべきはラジカルさではなく、あくまで「音としての面白さ」を追求する姿勢だろう。無闇な実験性ではなく、音の質感や「間」の加減、ある種のグルーヴのスウィング感が非常に良い。この感覚はPush Button ObjectsやKo-wreckTechnique、Phoenecia等の楽曲でのリミックスワークでも発揮されており、彼の持ち味として独自な物だと思う。
別ユニット、Delarosa & Asora『Agony pt.1+Backsome』(P-Vine PCD-23156)でのOvalを彷彿とさせるエレクトロニカや、昨年リリースのSavath+Savalas名義アルバム『Folk Songs for Trains, Trees and Honey』(P-Vine PCD-24025)での緩やかなハウス的楽曲群も非常に良かった。


5、Jon Auer 『The Perfect Size』  Painted Sky Discs (Houston Party recs.) PSD-0004

The Perfect Size/Pretty Picture/Tuesday/You Used To Drive Me Around/Gold Star For Robot Boy/Elena Aria

Posiesの片翼、Jonのソロ1stミニアルバム。2000年11月リリース。
活動休止以降のPosies作(ライヴアルバム2作や『Nice Cheekbones And A Ph.D.』(Painted Sky Discs PSD-0013)等)でのアコースティック寄りの質感は恐らくKenの作風による部分が大きいのだが、Jonのソロである本作はかなりロック寄りな音を出している。まさしくPosies的なタイトル曲M-1やM-3、ギターが泣けるM-2、個人的ハイライトのM-4など、全6トラック捨て曲無しの超名盤。
'01年リリースの2ndミニアルバムでカバー集の『6 1/2』(Painted Sky Discs. PSD-0016:国内盤は限定300枚)も、SwervedriverやGrant Hartなど選曲が渋くて良く(特にPsychedelic Fursのストレートなカバーが最高)、2枚まとめて1枚のアルバムとして聴いていた。
相棒Ken Stringfellowのソロ2ndアルバム『Touched.』(Epic recs. Int'l. eicp2:'01年リリース)も、名曲M-3やM-5・M-11など佳曲揃いで愛聴したが、二人して同じ様なこと演ってるんなら、The Posiesとして出して欲しい。別に仲悪い訳じゃないみたいだし。


6、Daft Punk 『Discovery』  Toshiba EMI (Virgin France) recs. VJCP68283

One More Time/Aerodynamic/Digital Love/Harder,Better,Faster,Stronger/Crescendolls/Nightvision/Superheroes/High Life/Something About Us/Voyager/Veridis Quo/Short Circuit/Face To Face/Too Long

各方面で話題となった1st『Homework』(Virgin France 7243-8-42609-27)は個人的には良いと思えなかったが、昨年末の先行シングル『One More Time』(VJCP-12136)の吹っ切れ具合にシビれ、満を持してのアルバムリリースだった。で、まさに期待通りの内容。アルバム一枚丸ごと 「ベストヒットUSA」感覚というか、ジェフ・リンまんまのドリーミーなポップチューンや、白人臭い野暮ったいファンクナンバー、バグルスを彷彿とさせるエレクトロポップなど、'80年代ヒットチャート系(ここ重要)ポップスを'90年代テクノを通過した感覚で再構成した、そのセンスに共感。
多分この一枚は、来年聴いてもイマイチな「2001年のヒットポップス」だと思う。極めて優秀な、時代の音。


7、VA 『Ischemic Folks』  Schematic recs. sch011cd

 M-1:Phoenecia - (*untitled)
 M-2:Richard Devine - (*untitled)
 M-3:Push Button Objects - (*untitled)
 M-4:Gliese - (*untitled)
 M-5:Metic - Jeswa's Wet Majestic
 M-6:Richard Devine - (*untitled)
 M-7:Phoenecia - (*untitled)
 M-8:Phoenecia - (*untitled)
 M-9:Push Button Objects - (*untitled)
 M-10:Gliese - (*untitled)
 M-11:Richard Devine - (*untitled)
 M-12:David Kristian - Screwy Music Pt.02

マイアミのエレクトロニカレーベル、スキマティックのコンピレーション。1999年リリース。既発表音源か未発表マテリアルかは、ほとんどの曲にタイトルもレコーディングデータも無いので詳細不明だが、エレクトロニカ系サンプラーとしては極めて高クオリティで出来が良い。特にこのコンピでのPhoeneciaとPush Button Objectsは圧倒的に素晴らしいと思う。
ちなみに、近所の中古CD屋で\500で売り捨てられていたものを何となく購入。この一枚がエレクトロニカ/IDM系に興味が向くきっかけだった。


7、砂原良徳 『Lovebeat』  Ki/oon (SMEJ) recs. KSC2-387

Earth Beat/Balance/In And Out/Lovebeat/Spiral Never Before/Echo Endless Echo/Hold'on Tight/Sun Beats Down/Bright Beat/The Center Of Gravity

『Tokyo Underground Airport』(SYUM-0049)・『Takeoff And Landing』(KSC2-205)・『The Sound Of 70's』(KSC2-243)の「空港三連作」で描かれた、既視感溢れる未来科学世界に続いたのは、ミニマルさはそのままに抽象性を高めた音響世界だった。全体のギミックが無くなったことでバラエティ感は失ったが、純粋に音のテクスチャや鳴り・響きといったものに向き合える内容となったと思う。
基本的な音楽性は変わらないが、「ポップ」や「キャッチー」だけでは形容しきれない虚無感が全編に漂っており、突き放すような感覚が良かった。


9、Cornelius 『Drop』  Polydor (Trattoria) recs. PSDR-9109

Drop/(*secret extra track)

アルバム先行のワンコイン・シングルCD、第2弾。エレクトロニカ的な音響を押し出した内容を「流行に近寄った」と取るのは簡単だが、2nd以降の過剰な「音の鳴り」への執着を考えれば、こういう方向性は必然だったのではないかと思う。
が、凡百のリスニングミュージックとコーネリアスを隔てるのはそのポップセンスだ。単純な意味での「良いメロディ」「聴き易さ」を組み込んだ(でも変な音が鳴ってたりする)楽曲は、非常に楽しく聴くことが出来た。
アルバム『Point』(PSCR-6000)も悪くはなかったが、この1曲を取り出して聴いた方がインパクトあった。過ぎたるは及ばざるが如し。


10、New Order 『Get Ready』  East West Japan (London) recs. WPCR-11074

Crystal/60 Miles An Hour/Turn My Way/Vicious Streak/Primitive Notion/Slow Jam/Rock The Shack/Someone Like You/Close Range/Run Wild/Behind Closed Doors

16年振りの来日ライブ(最高でした)に続いてリリースされた、8年振りのニューアルバム。
『Republic』の楽曲と同じく、フッキーのベースラインが後ろに退いたトラックではバーニーの取り留めのないメロディが前面に出てしまっているが(彼らの典型的なダメパターンだと思う)、両者の拮抗した「60 Miles An Hour」「Close Range」といった曲はまさにニューオーダー節という感じで素晴らしい。
正直、個人的ベストアルバム『Low-Life』『Technique』には遠く及ばないが、出たことに意義があるということで。


番外、山野裕子 『ビーグル』  Victor Entertainment (JVC) recs. VICL-35314

ビーグル/月はみてる/ビーグル(without vocal track)/月はみてる(without vocal track)

デビューシングル。作詞は菅野よう子作品で知られる岩里祐穂、作・編曲は元ラブ・タンバリンズで現在はファンタスティック・プラスティック・マシーンに参加している宮川弾が手掛けている(M-2の作曲は熊谷憲康)。
フラットで楽器的な声質と、メロディアスだが抑えた楽曲、品の良いオーケストラアレンジの取り合わせが素晴らしい佳曲。起伏の無い、平凡な日常を描いた歌詞も非常に染みる。こういうのに弱いんだよなあ。YMOの「Perspective」とか好きだったし。


番外、Chop Shop 『Smolder』  V2_Archief recs. V266

Smoulder

スピーカーオブジェ作家兼音響ノイジシャンの5cmCD音源、オランダのV2からのリリース。他の音源に比べてハーシュ度が高いが、粉状の音微粒子が耳の中で渦巻くような、何かが吸い出されるような、生理感覚に訴える質感のドローンサウンドは、まさにオリジナル。
鉛と鉄板で出来たハンドメイド金属ジャケット(開けるのが大変)や、ブックレットのスピーカーオブジェ写真など、ある種の世界観のようなものが強力に詰め込まれた一枚。


番外、New Order 『3 16』DVD  Warner Vision Japan. WPBR-90028

ICB/Dreams Never End/Everything's Gone Green/Truth/Senses/Procession/Ceremony/Denial/Temptation//Regret/Touched By The Hand Of God/Isolation/Atmosphere/Heart And Soul/Paradise/Bizarre Love Triangle/True Faith/Temptation/Blue Monday/World In Motion

New Orderのライヴ映像作品。DVDということで反則気味だが、これはとにかくよく観た&聴いた。 収録された1981年と1998年のライブ映像の違いが、ニューウェーヴと呼ばれたムーブメントの現在を表していて感慨深い。あれから20年、単なる懐古主義を超えた価値を感じるのもあながち贔屓目ではないと思う。
ちなみにこれ、買ったのはフジロックの会場でした(笑)。苗場の山の中でDVD買うなよ〜。


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