Factory43's Best CD in 2009


時間に融通が利きやすい環境になったこともあり、2009年はとにかく音楽を聴いた。以前から大量に聴くことの弊害を言っていた手前アレなのだが、まったく自分でブレーキを掛けることができない状態で、半ば開き直って聴き続けた。多分370枚以上、1日1枚状態で過去最高の枚数だったと思う。
ということで、今年は大長文なので時間があるときに読んでください。

2009年の最大の特徴は、久々にノイズ〜アヴァンギャルド音源を大量に聴いたこと。2000年前後はエレクトロニカからの流れ、2004年はCD化による音源再発がきっかけだったのだが、今回はパワーエレクトロニクス(パワエレ)の個人的な再評価として、パワエレ以外も含めて大量に聴いた。ノイズは基本的にはネガティブなジャンルだと思う。怒りや悲しい事があったとき、他者に攻撃するのがハードコアで、虚無やニヒリスティックになるのがノイズ(そこで慰めたり励ますのがポップやロック)。長い間そう思っていたのだが、その距離を埋めているのがパワエレだというのが2009年時点での自分の了解だ。ともあれ、外でノイズ聴いて前向きな気分になったのはGRUNTが初めてだ。ハードコアの激情とノイズの無情さが同居する感覚は自分の中で、とにかく新しかった。
あとは近年人気のテクノイズ系再発(決定打のVIVENZA「Realites Servomecaniques」の他、LINIJA MASS〜VETROPHONIA方面のロシア系カセット音源の発掘CD-Rなど)や、M.B.(=SACHER-PELZ)やBLACK LEATHER JESUSなどのメジャー大御所の発掘や新作、そしてFreak Animal〜Industrial Recollectionsによるカルト音源の発掘モノも交えつつ聴いた次第。
この辺のノイズ音源は国内でも専門ショップで扱っているが、極少数の入荷で聴きたい頃には既に扱ってなかったりするので、海外レーベル通販を多用した。アメリカ・ドイツ・イタリア・オーストラリア・オーストリア・ロシア…。ネットって便利だなあと痛感しました。メールのやり取りが大変だったけど。

またボーカロイド(初音ミクに代表されるクリプトン社もの・めぐっぽいど(通称GUMI)などのインターネット社のもの・その他)を使用して制作された音楽、「ボカロ楽曲」もよく聴いた。この辺はニコニコ動画に顕著な現代ネットカルチャーと、PCゲームからの同人音楽、DTMシーン、クラブミュージック、そして連綿と続いている邦楽アマチュアバンド文化が交差していて、極めて興味深い状況だったと思う。2008年にブレイクしたボカロ楽曲が一方で極端にコマーシャルな展開になり、もう一方で制作者の増加と消費の加速を生んだ。そしてニコ動の改編による一般音楽視聴者からの隔離。現在進行形のムーブメントとして、この1年の激動はちょっと見逃せないものがあった。

それ以外のものでは、洋楽系で90sロック感覚とエレクトロを交えたニューカマーが良かった印象。The Big Pink、Delphic、Passion Pit、SPC ECO(元Curve:ゲストでAndy BellとAlan Moulder参加)などなど。「Nu-Gazer」(笑)という音楽雑誌用語を使うとあまりにチープだが、ここ数年多かった、ガレージロックを再解釈したようなストレート・ギターロックっぽい方向が全く体質に合わなかったので、この辺の流れ自体は歓迎したいところ。

そして例年同様、Podcastをよく聴きました。本陣のTBSラジオ954では、看板番組の『ストリーム』が終わって『キラキラ』に代替わりするという大事件が発生。これはパーソナリティが変わっただけの問題ではなく、番組の方向性が「物事を知的に掘り下げて考える」から「日常の取るに足らない出来事にこそ重要な物がある」という思想の転換(「にも」じゃなくて「にこそ」がポイント)だった。それはTwitterとの連動を志向する番組の方向性にもよく出ている。TBSラジオ954に限った話ではないが、ネットの同時性を「共感」という切り口で使うことに、個人的にはあまり興味が持てない。実況スレとかに顕著だが、みんなが発信することで「空気」は共有はされるけど、感情だけではなく思索や掘り下げて考える知性が無いとそこから新しい何かが生まれることはないでしょ、というのが正直なところです。結局は宇多丸〜西寺郷太や町山智浩、吉田豪、武田一顕という『ストリーム』系メンバーを連れて来ざるを得なかったわけで。よって『ストリーム』は全聴きでしたが、『キラキラ』は興味のある部分だけ聴いてます。
あとはTOKYO FMの『ジブリ汗まみれ』は、今のジブリアニメの微妙な評価と周囲のビジネス状況も踏まえた上で、同時代のドキュメントとして聴いておくのをオススメします。絶対コケられない商売って大変だなあとか、徳間書店→読売新聞でナウシカ時代も遠くに行ったんだよなあとか。

ノイズ+ボカロ+従来の聴いてたもの、という三本柱の2009年ベスト10+α(順不同)。今回は本気でクドいですよ。

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-、SET YOUR GOALS 『This Will Be The Death Of Us』 CD   Sony Music Japan International Inc. (Epitaph) recs. EICP-1255

This Will Be The Death Of Us/With Hoffman Lenses We Will See The Truth/Look Closer/Summer Jam/Like You To Me/The Fallen.../The Few That Remain/Equals/Gaia Bleeds (Make Way For Man)/Flawed Methods Of Persecution & Punishment/Arrival Notes/Our Ethos: A Legacy To Pass On/The Lost Boys. [Bonus Track]

Epitaphから出た2ndフルアルバム。以前よりかなりハードコア色が薄れ、メロディが前面に出てある意味Offspringっぽい感触となった。中にはThird Eye Blindあたりを彷彿とさせるギターバンドっぽい部分もあって、前作までの畳みかけるスピード感よりもメロやエモっぽい展開で聴かせる方向にシフトした印象。それに伴って曲も全体的に長くなり、2MCもスクリーモっぽい役割分担も出てきてたりと変化は多々あるが、それらが必ずしもマイナスになってない所はさすが。キャッチーでポップで勢いがある楽曲は、ダレずに聴けてしまう良い感じのバランス。
多くの曲で、ネガティブな状況からの復帰を歌詞に込めている点も良かった。空回りしてる部分もあるが評価したいと思う。

なんだかんだで、本当にこの手の音は掃いて捨てるほど多い(かつ決して嫌いではないので実際に結構聴いた)のだが、今年これ以上のデキの音源は無かった。エモーショナル・ギターロックに対するメロコアからの返答として、究極に近い完成度だと思う。捨て曲無しでかなり良いです。国内盤はボートラ1曲あり(ゲストVo.はNew Found GloryのJordan Pundik)。
同じグループを新譜が出る度にベストに選出するのは本意でないが、今までで一番良かったアルバムを敢えて外すのもアンフェアだと思ってベストに入れた次第。マジで良いです。


-、PASSION PIT 『Manners』 CD   Sony Music Japan International Inc. (Frenchkiss) recs. SICP-2381

Make Light/Little Secrets/Moth's Wings/The Reeling/Eyes As Candles/Swimming In The Flood/Folds In Your Hands/To Kingdom Come/Sleepyhead/Let Your Love Grow Tall/Seaweed Song/I've Got Your Number/Better Things/Live To Tell The Tale/The Reeling (Calvin Harris Remix)/The Reeling (Yasutaka Nakata Remix)/The Reeling(Video)

米マサチューセッツ州ケンブリッジの5人組エレクトロユニット、1stアルバム。国内盤は5トラックをボーナス収録、全16曲+PV(エンハンスド)。
当初はVo.のMichael Angelakosの個人ユニットだったらしいが、前作ミニアルバム『Chunk Of Change』(Frenchkiss recs. FKR035-2:2008年)時点で5人のグループとなっている。
AvalanchesとFriendly Firesの中間というか、The Go! Teamをロックファン向けにしたような、ギターポップマナーとエレクトロを併せ持った楽曲と構成のクオリティの高さは驚愕。バキバキのエレクトロなのに、ELOやXTC等のポップ職人気質の系譜も感じるメロディライン。さらに現実を受け入れられない、満たされない心を描いた内省的な歌詞。多幸感溢れる煌めくダンスビートの中で、何かに縋るような歌声が響く。「Look at me, look at me/Is this the way I'll always be?/Oh no, oh no」(M-4)、「Let this be our little secret/No one needs to know were feeling」(M-1)。

Youtubeで観られるM-9ライヴでは、ロックっぽいドラムとベースのセットに、キーボード3台+サンプラー、ギター無しというバンド構成にまずやられた。そしてエモーショナルなVo.の歌声(バック演奏はエアープレイっぽいが)。半分だけロックという構成とメンバー達の趣きに、このバンドの立ち位置を見たように思える映像だった。
オシャレかつ若干イヤな感じが残るPVのセンスが物凄いキラーチューンM-4、バグルスからのメロディ引用が痺れるM-5、美しいフレーズとヘヴィなエレクトロのM-7。閉塞感をシュールに例えた歌詞と、綺麗で切ないトラックのM-11。イマドキのギターロックっぽくて当初は微妙だと感じた冒頭M-1も聴くうち、徐々に後半のメロ展開が染み入ってくるようになった。前作『Chunk Of Change』は本作よりもプロダクションが軽めだったこともあり、そこからの再収録M-12〜M-14(国内盤ボーナストラック)は感傷的なメロディとポップなアイディアの詰まった佳曲だが、アルバムの流れを考えると、あくまでオマケという感じ。同様のM-9は本作収録版は微妙にリマスタリングされてるように聴こえるが、気のせいかもしれない。

ロックやポップス・ダンスミュージックなど様々なジャンルからの引用と再構成によるやたらハッピーなエレクトロポップ、という表層的な音楽性と、歌詞の内省性とそれを歌うVo.の乖離。強烈な享楽を求めつつも本質では孤独から逃げられない、という普遍的なテーマを現代の感覚で描き出している。なんて言うか、俺らは楽しいんだけどずっと孤独なんだ。切ないよなあ、本当に切ない。
初めは「一目惚れ」ってヤツだったが、聴き込むごとに新しい発見があるアルバム。これは非常に良いです。


-、TELEFON TEL AVIV 『Immolate Yourself』 CD   BPitch Control recs. BPC188

The Birds/Your Mouth/M/Helen Of Troy/Mostly Translucent/Stay Away From Being Maybe/Made A Tree On The Wold/Your Every Idol/You Are The Worst Thing In The World/Immolate Yourself

米国エレクトロニカ、2人組ユニットの3rdアルバム。2007年にリミックスワーク集『Remixes Compiled』(Hefty recs. HEFTY061)が出ているが、オリジナルアルバムとしては2004年の2nd『Map Of What Is Effortless』(HEFTY042CD)以来5年ぶりのリリース。
一聴して判るのは、明らかに80sニューウェーブを意識した音作りになっている点。1st『Fahrenheit Fair Enough』(HEFTY035CD)時点では端整なエレクトロニカ志向で高い評価を受けていたが、2ndでヴォーカルを大きくフィーチャーしてハウス的な雰囲気を導入(この時点でダメな人も多かった模様)。そしてこの3rdでは、4ADや初期Factory recs.を彷彿とさせるデカダンな空気とダークながら儚さを持ったメロディが前面に出ていて、2ndまであったSavath&Savalas的なエレクトロニカのニュアンスさえ殆ど感じられない。正直、最初聴いたときは「なんかClan Of Xymoxみたいだな〜」という感想だった。

ただ、このアルバムの持つ陰鬱ながらどこかドライな感覚と、内省的で涅槃のような静かな風景、それでありながら口ずさめる程ポップなメロディラインと美しいエレクトロニクスのギャップに魅了されたのは事実だ。ネガティブで浮世離れした曲名と歌詞にやや抵抗を感じつつも、僕の日常には違和感なく入り込んで普通によく聴き続けた。特に冒頭のM-1が持つ「向こう側に持って行かれる感じ」はちょっとしばらく無かった類のものだ。M-4やM-6などの、エレポップ風の跳ねたリズムと80sっぽいアナログシンセを使いながらも、まったく明るさのない乾いたダークネスというのは独特なテイストだと思う。表面はポップだが、その奥には漆黒の闇がある感じ。あくまで自分の感覚ですが。影と光が対照的な美しいイラストによる何とも言えないジャケも極めて魅力的。
2009年1月のこのアルバムの発売翌日にメンバーの片方Charles Cooperが変死(自殺の可能性が高い模様)。アルバムタイトル含め、ちょっと救いの無いイメージの一枚になった。

似たような音の方向では、Wesley Eisold(Give Up The Ghost/Some GirlsのVo.)の別ユニット、Cold Cave『Love Comes Close』(Heartworm recs. HEARTWORM-35)もJoy Division〜中期Depeche Modeをアヴァンギャルドにしたような(しかも部分的にはやりすぎな)感じでなかなかの出来だった。80sノリといってもTigaやLady Gagaにピンと来なかった向きは是非。


-、THE GUILT SHOW 『Those Who Do Wrong Deserve To Be Blamed』 7"EP   Defiant Hearts recs. DH005

Their Work Has Been Done/Turning Heel/Nobody Can Bring Me Down/Denied Land

イタリア・ボローニャ産、The SecretやIvory Cage、Summer League、Notoneword、Ageingの元メンバーからなる5人組ハードコアバンドの、4曲入り2ndシングル。ホワイトビニールで限定500枚リリース。
バンド名はThe Get Up Kids風、メンバーの前所属はSxEユースクルーだったりメロディック・オールドスクール系だったりデス〜グラインド系と結構バラバラだが、出てきた音はRivalry直系。Another Breath×Give Up The Ghost×Cro-Mags…というか、American Nightmareまんまのアングリー・オールドスクールハードコア。超ハイテンションでカッケーっす。オールドスクールの破滅的かつ剥き出しの激情、短く速くもうねる曲展開、やや軽めながらニュースクール以降を踏まえたプロダクション。大好物です。

この後に出た1stアルバム『Before They Know We're All Dead』(Refoundation recs. REFx07)だが、リリース時点では日本国内はおろか北米、地元イタリアのネットショップですら通販してないので、ベルギーのディストロにメール注文。1stEP+2ndEPまんまの内容で新規トラック無し、1曲目からスロートラックという構成、タイトル曲はインスト、というズコーすぎる内容でビビりました…まあ悪くはないんだけど、正直ちょっと評価が下がりました。ということで、EPの方をベストに挙げておく次第。最近は国内ショップでも普通にアルバムを見掛ける様になったので、M-7からM-10まで聴いてください。

2009年はValues IntactやAlone、Regain The Shore、All Trueが相次いで解散したりした一方、Think About(最高)、安定のベテランTo Kill、Revolution Summer、While You Wait(元The Difference)、未だ現役のJet MarketやFumbles In Life(まだ演ってたのか!)なども良かったイタリア勢。もうユーロHCの中心はイタリアとドイツってことで良いんじゃないかと。次点でオランダとベルギー、北欧勢。フランスは最近かなり微妙。UKで元気だったのはDirty Moneyぐらいか。寂しいもんです。


-、SECRET ABUSE 『Immeasurable Gift』 LP   Arbor recs. ARBOR75

Futility/Grin/Carefully Opening The Window/The Deepest Roots/Must Leave Sometime/Light

ノイズ枠その1。Jeff Witscherのソロプロジェクトで、A面が2009年3月、B面が2007〜2008年の録音。アナログLPのみ、限定425枚リリース。
グラインダーのようなギターノイズのハーシュドローンと、そこから木漏れ日が差すように漂う愁いを帯びたメロディラインのバランスが素晴らしすぎる。ノイズ〜エクスペリメンタル・ミュージックにメロディを導入したことで、逆にギターロックからノイズアンビエントにアプローチしたシューゲイザーと交差し、結果として同じ場所に立ったのがこのアルバムだと思う。

前作である実質1stアルバム『Violent Narcissus』LP(Not Not Fun recs. NNF135:2007年)では、ギターオンリーのトラックやノイジーなエレクトロニクス曲、声(朗読)もあってバラエティさは高い一方、2ndにあるメロディ感よりも不安感やハードさが強く印象に残る作りだった。
Jeff Witscher自身はImpregnable名義でSewer Election(スウェーデンの恐怖系轟音ハーシュユニット)とスプリットカセット出してたりと完全にノイズ人脈の人だが、録音が新しいトラックほどメロディの傾向が強く、前出の通り「シューゲイザーの延長としてのノイズミュージック」として聴ける新しさを感じた(次作はLazy MagnetとのスプリットEP『Two Steps/Remove The Noose』(Callow God recs. *no-number)で、本作と同路線の内容)。一方で、基本的にリズムもボーカルラインも無いし(M-2とM-5は完全にドローンノイズ)、ロックとは根は別物なので、単なるシューゲイザーの焼き直しエレクトロニカとは異なるノイズっぽい粗暴さも魅力だと思う。

聴いた瞬間、今年のベスト入り確定だと思った一枚。


-、GRUNT 『Documentation: Live Assaults Around Europe 2005-2008』 3xCD w/insert in box   Freak Animal recs. *no-number

Disc1:
 [23.9.2005 Finland, Helsinki, Tender Wreckage @ Semifinal]
   Addicted/Caught/Rodent Symbol/Dead Beauty
 [15.10.2005 Germany, Berlin, Consumer Electronics #6]
   Addicted/Caught/Dead Beauty/Forest Corpse
 [1.4.2006 Finland, Lappeenranta @ Husaari]
   Seer Of Decay/Addicted/Rautaa Karjalan Rajalle/Patriot Stamina
Disc2:
 [7.10.2006 Lithuania, Vilnius, Nordic Audio Modern @ Vault Undergroundclub]
   Decadence Of Flesh/Razor Cuts/Age Of Degeneration
 [14.10.2006 Finland, Helsinki, Noise & Glamour @ Rauhanasema]
   Decadence Of Flesh/Addicted/Extended Decadence
 [14.11.2006 Finland, Jyvaskyla, @ Huoneteatteri]
   Slave Stamina 2006
 [14.12.2006 Denmark, Copenhagen]
   Daddys Sex Toy/Head In Box
Disc3:
 [10.1.2007 Norway, Oslo]
   Ketjuilla Kattoon/Daddys Sex Toy/Decadence Of Flesh/Insesti Polaroid
 [24.8.2007 Finland, Turku, Private Show @ TVO]
   Rautaa Rajalle/Raatteen Marssi 2007 Version
 [5.4.2008 Belgium, Antwerp @ Hof Ter Lo]
   Slave Stamina 2008 Version/Decadence Of Flesh/Daddys Sex Toy

ノイズ枠その2。フィンランドのノイズ帝王、Mikko Aspaのパワーエレクトロニクス・メインユニット、CDx3枚・全31曲収録のボックス。限定200セット。自身のレーベルFreak Animal recs.から、2009年リリース作。
相変わらずのライブ一発取り・未加工音源集で、Disc1のM-1から緊張感溢れるループノイズ、アジテートから咆吼する超ド迫力ヴォイスに背筋が伸びて鳥肌が立つ。カオティックに交錯する轟音と切り裂くような機械音、激ヴォイスに歪むモーターノイズ。マジで凄い。正直個人的にパワエレは苦手だったのだが、人のヴォイスの持つ本質的なパワーを再認識させられた。本当、音といい声といいテンション高すぎる。歌詞が無いので判らないが、各タイトルからすると、肉体性・他人を屈服/隷属させること・性と死に関することが多そうな感じ。音圧による録音の音飛び(たぶん意図的)まで含めた構成力/展開力も凄まじい。逆に、D2M-1のイントロのようなアンビエンスを含んだトラックもあったりと端々に懐の深さも感じさせる。

また、何度も「同じ曲をプレイ」するという、ノイズ界隈ではあまりないロック/ポップス的な文化が垣間見えるのも非常に面白い(そもそもノイズ方面は「曲」という概念が薄く、曲名すら無いことがかなり多い)。ただ、D2M-7とD3M-7などは同曲なのに5分半短くなった上に物音中心のほぼ別アレンジ状態だったりするので、フリー・ミュージック〜インプロビゼーション的なアプローチも伺えるだろう。
さらに特徴的なのは、曲の短さ。1曲20〜30分とかが普通にあるノイズ音源の世界で、本作では31曲中10分超えてるのは3曲のみで、3分以下の曲も5トラックある。タイトな展開・切迫した吐き捨てヴォイス・重低音中心のノイジーで歪んだループと、総合すると非常にハードコアパンク的なものを感じる(当初ギター使ってノイズ出してたことも関係あるかも知れない:「電子雑音」インタビューより)。このセンスは同じくFreak Animal recs.から音源を出していたBizarre UproarやBrethren、Gelsomina(の一部音源)などにも共通していて、瞬発力と歪み方、乱雑で破滅的な衝動性がハードコアと同じベクトルを向いている。これは本来、非音楽を志向していたノイズミュージックの回帰性なのではないか。TNBやHatersの提示したニヒリズムやクールさ、MBのサイケデリック感やダウナーさ、Chop Shopの無機質さなどとも異なる、'70年代末のまだロック的な要素が残っていた初期パワエレに近い感覚が、これら'00年代後半リリースの音源群にあるというのが個人的には非常に面白い。

黒で固められたパッケージ類で唯一白いインサートに載せられた、売女・ドラッグを打つ少女・ラットの死骸、そして自傷BDSMの写真(痛そう)。生=性と死、快楽と苦痛。奥でドス黒く渦巻く人間の根源欲求が、声という肉体性と個性を強く伴った結果、非常に理解しやすい現在形として出てきたように僕には感じられた。原初的でありながら、極めてポジティブな攻撃的ノイズ。
ライブ作ということで最後に客の歓声や拍手が入ってるトラックが幾つかあるのも、音源として良い味出してます。そりゃ客もアガりますよ、こんなの現場で聴いたら。

Mikko Aspaは同時にブラックメタル(BM)畑の人で、そっち系レーベル:Northern Heritage recs.を現在も自身で運営中。Deathspell Omega(ギターとベースは元Hirilorn)のVo.としてBM系でも知名度があり、評価も高い様子。他にもClandestine Blaze(BM系)、Stabat Mater(Funeral Doom系)などで活動。Deathspell Omegaは2008年に新作ミニアルバム出してるんで(1曲20分強:国内盤はDiskUnionから発売)、まだ活動継続中だと思われる。電雑のインタビューでは「ノイズもBMも両方好きなんだが、メタルは若い子が買ってくれるから、その金でノイズが続けられる」的なコメントをしてました。ノイズは北欧ではほぼ需要無いらしい…世界中で似たような状況だと思うけど(笑)。
またCreamface名義でPornoGrind音源を、そっち専用レーベル:Lolita Slavinder Records(これまた自前で設立)から10枚ほどリリース。レーベル名・ジャケ・曲名とも最低の下品さで(便器の上の目隠しした少女にゴムマスクの男がチンポしゃぶらせてるジャケとか、金を咥えた少女の顔にチンコくっつけて「10ユーロ以上は払わねえ」とか)、曲も4秒とかそんな感じで長いトラックは大体ポルノSEのみというノリ。おかげでBMファンから「Deathspell Omegaでは哲学的で宗教的な詞を歌ってた人が…(絶句)」みたいな反応が出てたりする模様。ノイズ方面からするとあまり違和感ないけど(笑)。レーベルや名義を変えてることもあって、BM方面とノイズ方面の乖離は大きいのだろう。そもそもBM〜グラインド〜ノイズ/パワエレまで全方面フォローしてるバンドもリスナーもあんまり居ないと思うし(僕もBMは基本的に門外漢です)。Mikko本人はやりたいことやってるだけなんだろうなあ。

しかし、複数レーベルを同時運営しながら、ファンジン『Special Interest』(旧「Degenaration」シリーズ)やサンプラーCD出したり、別レーベルのコンピレーションにも参加し、異なる音楽性のユニットを幾つも掛け持ちして(ノイズ方面だけでも、アヴァン寄りのNihilist Commando、ヘヴィエレクトロニクスのPain Nail、ペドフィリア特化のNicole 12 (「お嬢ちゃん、今日から俺がダディだ。ウフフ」的な世界)、拷問SMがテーマのClinic Of Torture(後述)等々)、再発から新作までコンスタントに音源リリースし続けている。加えて、過去音源発掘の専門レーベルIndustrial Recollction recs.を立ち上げ、伝説のStreicher(個人的には2009年ワースト作でした…これ絶賛って無理)やGoldenrod、Contagious Orgasmなどの旧作も復刻リリース。なんというバイタリティだ。凄い人です。僕も2009年の間で、Mikko Aspa関連作を20枚以上は聴きました。


-、NOISEUSE x MSBR x GOVERNMENT ALPHA 『Collaboration split』 CD-R  帝都音社 recs. *no-number

M-1. MSBR x Noiseuse - Untitled (recorded at Yoyogi Studio Noah in October 2003)
M-2. MSBR x Government Alpha - Untitled (recorded at Denzatsu in April 2003 )

ノイズ枠その3。2003年に音源収録、2005年にトラック製作され、(おそらくはMSBR=田野幸治氏の逝去により)途中で延期されていた未発表音源で、2008年10月にリリース。MSBRとNoiseuseのコラボ演奏が1トラック、MSBRとGAで1トラック。それぞれ約23分、合計2トラック収録。Noiseuse=鹿田進一氏のレーベルから、超限定30枚(!)リリース。
MSBR×Noiseuseは耳に痛い激ハーシュが捻れ歪みながら展開。そして16分過ぎからメロウな楽曲がノイズのバックに流れてくる辺りが本当に超絶カッコイイ。鳥肌が立って痺れまくる。Noiseuseは2006年に米Misanthrope recs.から出た1stEP相当の音源『Ruin Of Legend』3"CD-R(Misanthrope Studio MS-017)でも、轟音ハーシュにパイプオルガンの教会音楽風のメロディを組み込んでトラックを作るという荒技を使っているが、ここでもその手法はMSBRのハードノイズと相まって絶大な効果を上げている。いや、これは凄い。
MSBR×GAは次々展開する咆吼パルスハーシュで、MSBR『Euro Grappling Electro』とGA『Sporadic Spectra』が寝技で組み合ってるようなストロングスタイルのノイズトラック。両者のインプロ資質が噛み合いながら進んでいくグレートな音源です。
これも聴いた瞬間、今年のベスト入り確定だと思った一枚。

こんな超絶名盤が30枚しか世の中に出ないって…もったいないでしょ>帝都音社。ちなみに次の帝都音社リリース音源はNoiseuse『Idolatry』で、アイテム付きBOX・通常盤とも各限定5枚のみ…絶句。合わせても10枚すよ、この地球上で。どうやって聴くんだ。


-、古川P 『ピアノ・レッスン EP』 CD   古川本舗 recs. FHMC-0001

ピアノ・レッスン/CRAWL/ムーンサイドへようこそ/Good morning Emma Simpson/ALICE/Wellcom to the moonside (ninten MIX)/ピアノ・レッスン (baker MIX)

ボカロ枠その1。初音ミクに代表されるボーカロイド音楽シーンにどっぷり漬かった2009年だったが(そっち系だけで90枚以上聴いた)、そこで自分の琴線に触れたのは元から好きだった音楽性のトラックだった。まあ当たり前の話だが「ボーカロイドが音源として使われている」という一点のみで成立しているシーンなので、そこには様々な楽曲があり、制作もガチ音楽からネタ系、実演奏に「歌ってみた」「踊ってみた」、ボカロトーク系(地味に技術的に凄い)、MMD含めた映像方面やイラストまで膨大に拡散していて、もはや個人の情報処理能力では状況が把握しきれなくなっている、ということだけはよく判った(笑)。

この古川Pは、エレクトロニカ〜ポストロック系の楽曲を中心に発表している(元々ロック系のアマチュアバンドマンらしい)。アコースティックなギターとピアノを活かしつつ、グリッチ感やエレクトロさ、空間性を持たせたサウンドプロダクションは音楽として素晴らしいし、一聴してやや難解なトラックも実は極めてポップという曲構成も非常に良い。
そして強調したいのは、曲と同レベルで歌詞も素晴らしい、という点。人の死と残される側の感情に向き合ったM-2。M-5も同じように僕には感じられた(本人曰くラブソングらしいけど)。ツールとして英語で話すのが難しいミクに敢えて下手に英語で歌わせる(わざと逆再生も掛けていて文法的にも間違っている)、そのこと自体に意味を持たせているM-4。日々の無駄さもやんわりと肯定するM-1。古川Pの、適度に曖昧であっても着実に歩んでいこうという力強い前向きさが、ともすれば虚無感の強いボカロ界隈の曲の歌詞において際だった特徴だと感じる。生きるというのは、一歩一歩進んでいくしかない。それをウエットに寄りすぎずドライにもならずに歌うガジェットとして、ボーカロイドが正しく機能している。本人的には善し悪しだと思っているようだが(生Vo.の意義も否定していない)、僕としては「ボーカロイド楽曲ならではの立ち位置」として総合的に優れているように感じています。
ボーナストラック的なbaker氏によるリミックスM-7も、美しいエレクトロニカの元曲をマッシヴな四つ打ちハウスにアレンジした上にボーカルをGUMIに変更、一部歌詞まで変える手の入れ様。格好いいにも程がある最高のトラックなのでニコ動とかで聴いてみて下さい。ひよまん氏によるM-4のPVも、観る度に号泣メーンです。
ちなみに2010年に出るVA『EXITTUNES STARDOM 3』収録のM-5新バージョンは、ギターがROUND TABLEの人らしい。なんか豪華だ。


-、ZANEEDS  『ZANEEDS #01』 CD   ZANEEDS Ent. recs. PAIPAN-00001

Introduction/Showered/ペヤングだばぁ/Stay/Distance/ジェミニ (by. Dixie Flatline)/サムデイ イン ザ レイン

ボカロ枠その2。通称パイパンPこと、ざにお氏を中心としたユニット「ZANEEDS」の1stアルバム。2009年2月のボーマス7でリリースされ、その後8月のコミケ76で次作『ZANEEDS #02』(PAIPAN-00002)も発表されている。
ミク以外のボカロも使い、エレクトロに振った内容の2ndは割と派手で華やかな印象だったが、この1stはクールなディープハウスがメイン。特筆すべきは洗練されたプロダクションと美しいメロディで、それを歌うミクのチューニングも独特の完成度と芸風(一聴してパイパン氏だと判る「イェー」「なーりーたー」コーラス)を持っている。
グルーヴィーでクールで切ないM-2。ネタも曲も完成度高いM-3(この曲の影響でペヤング食ってた時期があった(笑))。泣けるハウストラックM-4。流麗なドラムンベースM-5。Dixie Flatline氏(この人も図抜けて素晴らしいトラックを作るボカロ作曲者)の名曲をパイパン節でリメイクしきった美しすぎるM-6。そして未発表曲M-7は、まさかの完全インストトラック。音楽性としては1stに属する超絶ネタ曲「ボカラン詐欺」やエモーショナルで内省的なロック「コドクノオト」が入っていないのは残念だが(どちらも2ndにも未収録…アルバム的に収まり悪いのは判るんだけど)、細かく込められたネタ感と相反する透明感のあるメロディ、格好良いベースライン、圧倒的なプロダクションの完成度、泣ける歌詞は本当に素晴らしい。オススメです。


-、VA 『ワクテカEP』 CD-R   ワクテカ recs. *no-number.

M-1. ちゃぁ / pain killer
M-2. kiichi(なんとかP) / Magic 7
M-3. Treow / Drain
M-4. kiichi(なんとかP) / Conbenience Witch
M-5. ちゃぁ / murder!!!
M-6. Treow / Honeyed Words

ボカロ枠その3。ちゃぁ、kiichi(なんとかP)、Treow(逆衝動P)、の3氏による6曲入りコンピレーションEP。リリース元の「ワクテカ」は9月のボーマス9で本作を頒布するための特別サークルの模様。
ボカロ界隈でJ-POP的な曲やクラブ系、アニソン方面の楽曲もあれば、当然アングラなアヴァンエレクトロ・ミュージックもある訳で、そっち方向のシーンで有名な3人のコンピということで期待値は高かったが、全くもって予想を超えた内容だった。 エレクトロなちゃぁ氏、ニカ系エレポップのなんとかP氏、ハード音響エレクトロなTreow氏、と一応の担当芸風はあるが、基本どのトラックも振り切ったハードエレクトロニクス。クラフトワークとJusticeとBoys Noizeに坂本龍一のアヴァンさを混ぜたような何とも言えない世界がこれでもかと展開。特に痺れたのがM-3で、ハードなリズムとジャジーなピアノ、エレクトロノイズ、不協和音の旋律にミクの声が乗りながらインプロっぽく歪んでいく圧巻の内容。脳汁出るな〜これ。ヤバイです。
ジャケの微妙に中期80年代入ったようなイラストも含めて、かなり良い感じだと思う。濃いめのボカロファンの評価が高いというのは、オッサンに受けてるということでしょうか(笑)。「ロミシン」「ダブラリ」「JBF」も凄く好きなんだけどね。

余談。Treow氏はコミケ77(2009年冬コミ)に出た、アニメ「Lain」の同人イメージコンピアルバム『SUBHUMAN』(SUBROC RECORDINGS)にも参加してました。あのLainか…なんか判るような判らんような。



次点、THE BIG PINK 『A Brief History Of Love』 CD   Warner Japan/Beggars Japan(4AD) recs. CAD2916CDJ

Crystal Visions/Too Young To Love/Dominos/Love In Vain/At War With The Sun/Velvet/Golden Pendulum/Frisk/A Brief History Of Love/Tonight/Count Backwards From Ten/Stop The World/Lovesong/Velvet (Van Rivers & The Subliminal Kid Remix)

UKエレクトロ・ロック2人組ユニット、デビューアルバム。本作では日本人女性のAkiko氏がDr.を担当(M-3のPVで格好いい)。M-12〜M-14は国内盤ボートラで、iTunesストア版ではM-12に加え本CD未収曲"Dominos (Rustie Remix)"がボーナスとして加わり、全13曲仕様となっている。またM-1、M-2、M-6は先行日本企画盤『This Is Our Time』(WPCB-10115)にシングルバージョンが収録されていたが、本作では別ミックスで音が追加されて厚みが出ており、尺も延びている(M-1は2分ぐらい長くなっている)。リリース元は、あの英4AD recs.。
音はマイブラ×初期Curve×SuedeのVo.みたいな感じで、耽美なメロディとノイジーなプロダクション、エレクトロなビート感、加えてクセのある男性ボーカル(若干ナルシストっぽい)が絶妙にミックスされている。最初はこの声にミスマッチ感を覚えていたのだが、4AD耽美バンドのテンプレ感からバンド独自のテイストを獲得する上で、このボーカルの存在が大きいと感じる。代表曲M-3やM-6などで、デカダンや綺麗さに行きすぎない、やさぐれ気味のボーカルメロディが独自の親しみやすいポップさを生み出している。バックトラックがアートに寄ったりアブストラクトになっても、この声とメロがあれば大丈夫だと思う。

なぜ次点扱いかというと、出たのは9月なんだけど自分が聴いたのが年末になってからだったんで、ちょっと聴いてポコッとベスト10に入れるのに抵抗があった次第。いやー、もっと早く聴いてれば良かった。普通なら年間ベスト級の素晴らしいアルバムです。


次点、CLINIC OF TORTURE 『Clinic Of Torture』 CD   Industrial Recollections recs. *no-number

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フィンランド、Grunt=Mikko Aspaの別名義ユニット。元は2000年にFreak Animal recs.からCD-Rで限定200枚リリースされたもので、今回は再発専門レーベルのIndustrial Recollections recs.からプレスCDでの再リリース(同じく限定200枚)。当初Clinic Of Tortureは謎のユニットだったが、「電子雑音」第7号(2002年)のインタビューで割とあっさりMikko本人が認めたことで判明(笑)。
ハーシュといっても中〜低音域の轟音メインで、メリメリ豪腕で来るモーターノイズ+女性の苦悶の絶叫(インタビューによるとオランダ製SMビデオかららしい)という感じ。この声が気持ちイイ度ゼロなのが高ポイント。ノイズ×ポルノで喘ぎエロ声はよくあるパターンだが、これは「ウゴッ」「ウガハァ〜」とか吐き出すような悶絶声とスパンキング音で、下半身に来るような要素は皆無。まさに拷問です。全体的なノリはBLACK LEATHER JESUSやMACRONYMPHAのようなUSハードノイズ直系で、個人的には殊更好きな方向性でもないんだけど、確かにこの音はキテるなあ。音塊のインパクトにトラック毎のアイデアやバリエーションの面白み(ハーシュでありがちな「全部同じ」感が極めて低い)も合わせて、ある意味ポップですらあると思う。
局部丸出しのB&D女(皮マスク+首輪+全裸で開脚、死体っぽい)ジャケ含め、エロとグロの際どい線上をテンション高く突き進む。やはりノイズの基本は、エロと暴力と死なのか。こちらもライブ収録で後加工無しの音源らしい。どんだけテンション高いんだよ、この人。快作でしょう。


次点、WILLIAM BASINSKI 『92982』 CD   2062 recs.  20620901
92982.1/92982.2/92982.4/92982.3

現代音楽とアンビエントミュージックの境界で佇む、バシンスキーの新作。1982年録音の未発表音源をリミックスしたもの。ストリングスのヒプノティックなサンプリングフレーズが揺らぎながら漂うアンビエンス、という部分では彼の今までの作品に通じるが、本作の特徴は、レコーディングの際に窓を全開で収録したためにスタジオのあるニューヨークの街の喧噪まで拾っていること。ヒスノイズが乗ったテープ録音の音質悪い感じに加えて、ヘリコプターの飛行音やパトカーのサイレン、花火のような破裂音、自動車の音まで聞こえる。オリジナルはM-2(約23分)で、M-1はM-2を素材として作り上げられた正式版(?:約13分)、M-4はM-2を元にした新録版。どのバージョンもミニマルなリフレインから広がる美しいサウンドスケープと、茫漠として輪郭のよく判らないメロディに浸っていく、穏やかさと不安さの同居した内容だ。その中で最も良かったのは、やはりオリジナルM-2。録音から本来排除されるべき雑音が、楽曲世界と自分とをつなぐ拠り所として存在するという逆説的な安心感が興味深い。実際M-1よりM-2の方が安心してマッタリ聴けるんだよなあ。
またM-3は2004年発表の"variation #8"のショートバージョンで、状態の悪いテープが不安定に歪みながらも奏でる、感傷的で切ないピアノリフレイン。

ループアンビエントとしては確立された手法の流れだが、リフの美しさ、そして「音の悪さ」に拘ったバシンスキーらしい内容。万人向けではないが、素晴らしい一枚だと思う。


次点、PANIC 『Strength In Solitude』 CD   Bridge Nine recs.  B9R77
Written In Stone/Strength In Solitude/I Watch You Sleep/Lighthouse/Force It 'Til You Hear It Snap/I Walk The Same Way Home Every Night/My Favorite Mistake Was You/Turn Cold/Into The Reasons/Our Choice Is Made/Pale/Fall On Proverb/Face Myself (demo)/Distance (demo)/I Walk The Same Way Home Everynight (demo)/Think Ahead (live)

すまん、もう一枚だけ。
米ボストン出身・オールドスクール系オールスターバンド、PANICの編集盤アルバム。16曲入り、リリースは2006年。
バンドは2002年に一度解散したが、2006年に突如再結成し、『Circle EP』(Reflections recs. RFL077)をリリース。現在のメンバーは、Vo.のGibbyが元The Trouble、G.のAzyが元American Nightmare(通称アメナイ)、G.のBrianがAmerican Nightmare/Give Up The Ghost、Ba.のDamianが元In My Eyes/The Explosion(パンク・ロックンロールで超カッケー、解散?)。Dr.のQは元The A-Team。この編集アルバムは再活動の関連としてリリースされたものっぽい。

本作は2002年の解散前に出ていた『Dying For It EP』(B9R:17、2001年)と『Panic EP』(2002年)の2枚に加えて、デモや未収録曲、未発表ライヴも加えてCDにまとめたディスコグラフィー的な作品。全体的に復帰作より速くて瞬発力のある、より80'sUSハードコア色が強い印象。リズムはバタバタしてるが、やはりロックに猛るギターとDead Stopっぽいボーカルが非常に格好いい。ブレイク部の粘るモッシュ展開がかなりアメナイ風味(まあアメナイはここまで速くないけど)だったりしてイイです。曲間の何カ所かに唐突に入る変なノイズ作品っぽい音響トラック(地味に長い)はメンバーの趣味なのか…そこだけ微妙な気がするなあ。後半はやや曲長め(と言っても平均1分半だけど)、と思ったら、ショートチューンの後ろにやはり謎の音響トラック部分が(笑)。でもホント、アメナイっぽい部分はカッコイイです。ラストのライヴは、音の悪さも含めて格好良すぎる〜。最高です。ということで『Circle EP』よりこちらを選んだ次第。
※ちなみにメンバーの変遷は以下のような感じ。 【1stデモ】Vo.:Gibby、G.:AzyとJason(誰だか不明)、Ba.:Desmond(誰だか不明)、Dr.:Jesse(元アメナイ)。 【1stEP】Vo.:Gibby、G.:Azy、Ba.:Azyが兼任、Dr.:Jesse。 【2ndEP】Vo.:Gibby、G.:AzyとScott(誰だか不明)、Ba.:Damian(現在メンバーでここで加入)、Dr.:Jesse。 この2001〜2002年の時期のサポートメンバー(または一瞬加入して脱退)には、G.:Anthony(元In My EyesのG.のAnthony Pappalardoか)、Ba.:Brian(たぶんGive Up the GhostのG.のBrian Masek)も居たらしい。

再結成後の音源はアメナイというか、Justice〜Dirty Money的なメタル風味のダーティーロケンロールHC。瞬発よりやや粘り重視っぽくなり、最初は俺的にギリギリでOK位かな〜、とか思ってたら後半かなりタイトな音になり、アメナイっぽくて痺れました。これも結構いいかも。ラストの意味ありげなサンプリング音声はパワエレが始まったのかと思った(笑)。この辺は変わってないのね。
とりあえず俺がAmerican Nightmare(Give Up The Ghostじゃなくて)が好きなことは深く自覚しました。はい。何回アメナイって言ってるんだよこの文章、っていうね。


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