Factory43's Best CD in 1997


1997年はリスナーとしては大きな収穫も感じず、そんなに何にハマッたということも無かったです。よって今年は1位以外順不同ということで。その分、中ヒットがボチボチとあって、それはそれで楽しかったと思います。
また、1997年中に出たアルバムだけではなく、何枚かは'96年以前のものとなっていますが、その辺はあしからず。


1、μ-Ziq 『Lunatic Harness』  Planetμ/Hut recs. CDPU5

Brace Yourself Jason/Hasty Boom Alert/Mushroom Compost/Blainville/Lunatic Harness/Approaching Menace/My Little Beautiful/Secret Stair Pt.1/Secret Stair Pt.2/Wannabe/Catkin And Teasel/London/Midwinter Log

米WIRED誌でのMikeのインタビューによると、Maxi-EP『Umur Bile Trax』はSquarepusher『Feed Me Weirdo Things』やPlug『Drum N'Bass For Papa』と時を同じくして完成、Aphex Twin『Richard D. James』と同時期にリリースされる予定だったという(実際のリリースは'97年冒頭)。つまり、彼にとってはブレイクビーツの全面的な導入やDrum N'Bassの採用は、既に売れているモノを模倣することで時流に乗るだとか商業的にメインストリームへ迎合するといった意味では無かったと言えるだろう。
アルバム形態としては4作目になる『Lunatic Harness』は、前作『In Pine Effect』までの穏やかなメロディと、まったく踊れないほど複雑、かつ暴力的なDrum N'Bassが錯綜する、混沌とした内容だ。かつての瞑想的な深さや疾走感は既に無く、ノイジーな電子音とメロディアスなストリングスが分離と融合をひたすら繰り返すだけだ。

だが、その不安感を孕んだ美しさこそがMikeの音楽ではなかったのか。

つまりその意味からしても、表面的な音の変化に関係なく、Mikeの音楽は本作もまた不変であったと感じる。1997年10月24日、リキッドルームでのライヴ。退屈なDJタイムにすっかり寝ていたオレの耳に飛び込んできた、1曲目「Brace Yourself Jason」のベースライン。歓声、そして崩壊寸前の複雑さでノリ切れない客の困惑。すべてが象徴的だったと思う。
Drum N'Bassが肉体的なダンスビートとしてではなく(なんせ全く踊れない)、混乱と焦燥感という精神的な側面で機能しているアルバムは、自分にとってはこの一枚だけだ。その意味において、1997年リリースのアルバムでは最も気に入っている。


-、Third Eye Blind 『Third Eye Blind』  EastWest Japan AMCY-2163

Losing A Whole Year/Narcolepsy/Semi-Charmed Life/Jumper/Graduate/How's It Gonna Be/Thanks A Lot/Burning Man/Good For You/London/I Want You/The Background/Motorcycle Drive By/God Of Wine/Tatoo Of The Sun

なぜか突然、全米で大ブレイク中の3EBの1stアルバム。初めて知ったのがWarp(日本のね)〜Devilock系をよく紹介する音楽番組で流れたM-3で、Skaっぽい軽めのリズムが印象的だったので「またスカコアかよ」と思っただけだった。その後は妙にヒットした(かのM-3はビルボード全米シングルチャートで5位!)こともあって、どうも聴く気になれなかったのだが、思い切って買ってみたら、これが驚くほど良い。
全体としてはギターロック色が強く、パンクやスカのノリはほぼ皆無。繊細かつダイナミックなG、緩急のハッキリした地味ながらテクニカルなBとDr、そしてファルセットとシャウトを使い分ける上手いVoのコンビネーションが非常に特徴的だ。そして何より曲が良い。似たような曲ばかりということもなく、各々印象に残るメロディがある。Voでほとんどのトラックに作詞・曲でクレジットされ、プロデュースまで手掛けているStephen Jenkinsの言葉「失ってしまったもの、手に入らないものについて歌っている」に集約される、圧倒的な喪失感を抱えた歌詞も高ポイント。
売れたということで偏見を持っている人も多いだろうが、ぜひ聴いてみて欲しい。久々の強力ギターロックアルバム。


-、VA 『Peacefrog Compilation Vol.03』  Sublime recs. SBLCD5016

Planetary Assault Systems - Gated
Shake - Sonar 123
DBX - City On The Edge Forever
Purveyous Of Fine Funk - This Is A Track
Luke Slater - Sea Serpent
E3 - E3(The Ian Key Mix)
Neil Landstrumm - Groove Peel
DBX - Losing Control(Carl Craig Remix)
Dan Curtin - Track 17
Planetary Assault Systems - Booster

1997年に日本国内でリリースされたテクノコンピで最も注目されたのは、やはり『攻殻機動隊』(SME SRCS8382~3)だろうが、個人的にはこの『Peacefrog Compilation Vol.03』を推す。
ハードコアテクノレーベルとしての初期からInfiniti=Juan Atkinsなどのデトロイトもの、そしてDan Curtinと徐々に幅広く、そして高クオリティのリリースを続けてきたPeacefrogだが、12インチEP中心でリリース即廃盤・再発無しという頑なな姿勢のために、なかなか入手困難な状況が続いていた。そんな中でのこのシリーズ企画は高ポイント。さすがSublime、やってくれます。
内容は言わずもがなの佳曲揃いで、特にこのVol.03は凄い。おなじみLukeとAlanのPlanetaryはダンスフロアアンセムのM-1、Daniel BellによるハードでトリッピーなM-3、8、アッパーなLukeのソロM-5、そしてClevelandのTechno King、Dan Curtinの超名曲M-9と、部屋での鑑賞にも耐えるフロアチューン満載。単純にカッコイイです。
このシリーズがきっかけになったかどうかは定かでないが、時を同じくして『Deletetion』シリーズでPeacefrog recs.本体も過去もマテリアルを再リリースし始めたのだが、そちらの方もチェックだろう。


-、DJ Cam 『Underground Live Act』  P-Vine recs. PCD-3830

Experience/Hip Hop Opera/Underground Vibes/Meera/Dieu Reconnaitra Les Siens/Mad Blunted Jazz/Lost Kingdom/Gangsta Shit/London 1995

1995年11月、仏レンヌでのライブを収録したアルバム。ピッチがまるっきり違っていてもフェートイン/アウトで強引に繋ぎ、リズム感の無いスクラッチで取り憑かれたように滅茶苦茶コスりまくる、まさにCam節としか言えない豪快なプレイが満載だ。独特のタメが効いた重いグルーヴと耽美でメロウな音源のチョイスに、前出のラフなプレイが加わる様は、とにかくオリジナリティに溢れたスタイル。ハッキリ言ってダサイのだが、このアメリカものにはない、野暮ったさを一周回ったカッコ良さがフレンチHipHopの真骨頂だと思う。
選曲も1stと2ndアルバム、シングルを網羅したベストトラックで文句無し。9曲で約37分と、ちょっと短いのが残念。


-、Red Snapper 『Prince Blimey』  SME(Sony Music Entertainment) SRCS8154

Crusoe Takes A Trip/3 Strikes And You're Out/Thomas The Fib/Get Some Sleep Tiger/Fatboy's Dust/Moonbuggy/The Paranoid/Space Sickness/The Last One/Digging Doctor What What/Gridlock/Lo-beam/Strike 1/Last One(Re-Eaten by DJ Food and Coldcut)

UK Abstract HipHop Comboの2ndアルバム。前作『Reeled & Skinned 』(1995年:SME SRCS7771)ではバンド編成のユニットらしく、ライヴ感のある生音とキッチリとした演奏によるジャジーな内容だったが、本作では抽象的な音の質感と酩酊感溢れるグルーヴが全編に漂っている。
それにしても、この匂い立つような陶酔の深さといったらどうだ。M-1からモワァっとした紫煙が眼前を覆い、視界が利かないまま太いリズムで腹の奥から揺り動かされ、次第に煙に同化していくような感覚。内向的だが閉塞感は無く、頭が痺れるようで覚醒感もある、非常に形容しがたい体験。
ジャズの持つサイケデリックな要素を、極めて現代的に描き出したアルバムだと思う。これがテクノレーベルのWarp recsからリリースされるという意味は深い。


-、Squarepusher 『Big Loada』  SME(Sony Music Entertainment) SRCS8417

A Journey To Reedham(7AM Mix)/Full Rinse(featuring MC Twin Dub)/Massif(Stay Strong)/Come On My Selector/The Body Builder(Dressing Gown Mix)/Tequila Fish/Jacques Mal Chance(Il N'a Pas Chance)

大幅にフュージョン的音作りとなった2nd『Hard Normal Daddy』(SME SRCS8260)は、その音のユニークさとロック的ダイナミズムのカッコ良さとは逆に、曲構成の単調さや冗漫さによって、個人的には興味が長く続かなかった(有り体に言えば「早々に飽きた」)。その後に発表されたこの未発表曲集『Big Loada』と変名ユニット曲集『Burningn 'N Tree.』(SME SRCS8459)は、曲単体で言えば方向性もクオリティもバラバラでアルバムとしての体をなしていないのだが、それでも『Hard Normal Daddy』よりも数段興味深く、面白い。
このアルバムは『Burningn 'N Tree.』ほどあからさまな実験性も前面に出ていないし、ある意味キャッチーで聴きやすいのだが、それ故「ポップさと実験性のバランス」が程良く混在していて良かった。ポップでちょっとμ-ziqっぽいM-1やM-3、いかにもなM-2、M-4、M-5、『Hard Normal Daddy』っぽいM-6、妙なAbstractトラックM-7まで、どれも好きだ。


-、Mainstrike 『A Quest For The Answers』  Crucial Response recs. CCR32

A Quest For The Answers/Words Of Wisdom/Confession/Will We Learn/Conviction/No Escape/Pursuit/Times Still Here/This Age/Rise/Death Factory/The End/It Won't Last

ex.Manliftingbannerのメンバーを含む、Dutch SxExバンドの1stアルバム。Youth Of Todayの替え歌だとしか思えない曲も多かったりして(笑)、正直いかにもCrucial ResponseらしいB級さが漂っていたりするものの、逆にオリジナリティの欠如が突き抜けていてカッコイイ。直球の良さというか。北米のSxExバンドがEarth Chrisis的にHard Edge&Vegan化していく中、この純粋さ(というか単純さ)は「最後の砦」という感じだと思う。まさにBack Ta Basicな一枚。
ちなみに残りのex.ManliftingbannerがやってるSeein' Redの方は、野暮ったいB級Dutch Speed Coreをひたすらやり続けていて、これはこれで凄いかも。


-、Pegboy 『Cha-Cha Damore』  Quarterstick recs. QS49CD

Dangerwood/Can't Give/You Fight Like A Little Girl/Dangermare/Dog,Dog/Liberace Hat Trick/Dangerace/Hey,Look,I'm A Cowboy/In The Pantry Of The Mountain King/Surrender/Planet Porno

Chicago Emotional Guitar Bandの3rdアルバム。初期三部作(MaxiEP『Three Chord Monte』、7"『Field Of Darkness/Walk On By』、LP『Strong Reaction』)でのメロディックパンク路線から、MaxiEP『Fore』で大きく路線変更した彼らだが、傑作アルバム『Earwig』を経て発表されたこの3rdは、ある意味集大成とも言える内容だ。
前作までのエモーショナル・ギターロックに初期のパンキッシュなニュアンスが加わり、切ないながらもタフに爆走するJohn HaggertyのギターとLarry Damoreの染みるVoが素晴らしい。先行シングル(Keponeとのsplit EP)から始まった"Danger"シリーズM-1/M-4/M-7、Cheap TrickのカバーM-10も良い感じ。


-、Ripcord 『Hardcore』  Epistrophy(Raging) recs. EPI010

Furder/Empty Faces/Armchair Critic/Thatchula/Eve Of The End/Single Ticket To Hell/State Of Emergency/Kiss Of Death/Lies Lles Lies/Blind Eye/Single Ticket To Hell/Abuse/Lucky Ones/You Don't Care/Eternal Tomb/False Prophecies/Ignorant/Drugshit/Live By The Bomb...Die By The Bomb/Furder/Blind Eye/Wicked/Viviseccion-Tortura Innecessaria/Defiance Of Power/Prisoners/Lucky Ones/Eternal Tomb/Viviseccion/The Passer By/Death By Consumer Demand

伝説のUK Speed Coreバンドの、1stアルバム『Defiance of Power』(1987)に7" Flexi『Damage is Done』(1986)、さらにCORやAx/ction recsのコンピからの曲を加えた編集盤。オリジナルリリース当時のUKHCシーンはいわゆるGrind Core前夜で、UK伝統のクラスト系ギターリフに、激速一歩手前のスピード感とUSHCっぽいポップさをクロスオーバーさせたスタイルが注目されていた。その先駆けがStupidsであり、よりハードに進化したバンドがHeresyやCondrete Sox、そしてこのRipcordだった。
ここに収録された曲もブルータルなUKHCに基本を置きつつ、USHCの影響下にある軽みを帯びたリフや独特の曲展開・リズムチェンジによって、単なるゴリ押しハードコアとは異なる切れ味を持っていると思う。
世間的にはギターが太くなった2ndアルバム『Poetic Justice』の方が評価が高いが、個人的にはこれに収録された初期トラックを推したい。


-、Derrick May 『Innovator』  SME(Sony Music Entertainment) SRCS7980~1

DISC1:
"Rest"(1)/"Rest"(2)/Strings Of The Strings Of Life/Another Kaos(Beyond Kaos)/Free Style/"A Rest" Beyond Kaos/The Dance /Spaced Out(Love Hate Mix)/It Is What It Is/Some More Spaced Out/Beyond The Dance(Cult Mix)/Feel Surreal Ends(The Feel Of Surreal!)/"To Rest"/R-Theme
DISC2:
The Beginnig Of The End(Of The End Of The Beginning)-Montage(Sensitive Mix)/Phantom(A Relic Mix)(1)/Phantom(A Relic Mix)(2)/Kaotic Harmony(A One Time Live Recording In Detroit)/More Phantom/Salsa Life/Nude Photo-The Beginning/Another Relic(From The Relics)/Drama/Strings Of Life(MS-4 Version)/"The Beginning"(Ken Ishii Remix)/"Wiggin"(Juan Atkins Remix)

Detroit Techno God、デリック・メイの編集盤。Transmatリリースの米盤とは収録曲が若干異なり、国内盤はケン・イシイとホワン・アトキンスのリミックスが収録されている。
曲によってはジングル的なアレンジが施されていたり、「The Strings Of Life」などのように結構リミックスされたトラックもあるため、この一枚で全て事足りるという性格のものではないが、それでも代表曲をほぼ網羅した内容は極めて貴重だ。デトロイトテクノのロマンティックでポジティヴな側面を担っていた曲群は、ストイックな深みと同時にある種の華やかさや享楽を持っているように感じられる。「高みからダイヴする感覚」。高揚感と胸に迫る情感、そして切なさ。だがアートには閉塞しない、生を謳歌する力強さがあると思う。
このCDの企画にも関わっている、野田"ele-king"努氏による入魂のライナーも必読。こんなに熱い文章はなかなか読めないっすよ。


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