Factory43's Best CD in 1998


下のベストだけ見ると各方面バランスよく聴いているようですが、実際はロックが全然ダメな一年でした。昔のヤツはよく聴くのだけれども、新譜となるとサッパリ。あとテクノも砂原とCariには一年を通じてヤラれましたが、いわゆるHedsモノは一段落しちゃった感じです。 その代わりに去年のアブストラクト系のようにハマったのがディープハウスで、面白さという意味では1998年もなかなか豊作の年だったのではないかと思います。
ちょっとした事情があって9枚になってますが、気にしないでください。

1、砂原良徳 『Take Off And Landing』  KI/OON SONY recs.  KSC2-205

Information Of TUA/Cross Wind Take Off/Magic Sunset St./SONY Romantic Electro Wave/Sun Song '80/2300 Hawaii/Count Down/Journey Beyond The Stars/Life & Space/No Sun/The Good Timing Of The World Of Love Song/Summer/My Love Is Like A Red, Red Rose/Welcome To Japan

ex.電気グルーヴの"まりん"こと砂原の、ソロとしては『Crossover』(KSC2-130:1995年)から3年ぶりとなる2ndアルバム。
「TUA=Tokyo Underground Airport」と名付けられた、首都の地下2,000mにあるという設定の架空の国際空港を舞台にしたコンセプトアルバムで、先行の12"EP『Tokyo Underground Airport』(SYUM-0049)、秋口に出た次作アルバム『The Sound Of '70s』(KSC2-243)と併せて「空港三連作」として扱われている(派生MaxiシングルCD『708090』(KSC2-249)も加えると四連作)。

本作では、TUAで飛行機に搭乗〜離陸〜上空で安定飛行〜到着の様子を、各場面で流れそうな楽曲とサウンドコラージュによって描いている。ここでは「実際の空港」のリアリティではなく、かつて未来感の最先端であった飛行機や空港のイメージのみがデフォルメして存在している。飛行機が移動手段以上の意味を持っていた時代のフューチャリティ。全くの絵空事ではないが身近さも感じない、現在で言えば宇宙旅行とかに近いだろう('70年代の海外旅行ってそんな位置付けだったのよ、今じゃ考えられませんが)。
そのアイコンとして、今は無きPAN AM航空のロゴが随所に使われている(他の航空会社ロゴとかも、すべて正規に権利処理して使っているらしい。凄げえ面倒そう)。PAN AMロゴや「世界旅行」という記号がかつて持っていたイマジネーションを、仮想現実として再構築する作業。そこにはマーティン・デニーのエキゾチカや南国楽園思想、18世紀のユートピア文学に近い志向があるように思う。単純に、近年の砂原のラウンジミュージック趣味(エスキヴェルとか)の延長線なのかもしれないし、YMO経由のエキゾチカの世代的な解釈なのかもしれない(彼は1969年生まれ)。ただ、テクノロジーに対する夢や憧れと、その技術進歩により夢が失われていく逆説的な現在に対する批評が、クラブミュージックレベルで融合したアルバム群だと受け止めれば極めて意義深いと思う。
まあ、そんな面倒なことを考えなくても、聴いている間のトリップ感や音や楽曲によるイメージを想起するという側面で、非常に楽しめるアルバムだった。

'98年は生まれて初めて海外に行ったのだが(断り切れず…)、空港に行くまでの行程や空港内の施設・出入国手続き・飛行機の中など、初めて触れる「航空関連カルチャー」に不思議さやレトロフューチャー感、自分の日常とは遠い異世界感を覚え、自分の中ではちょっとしたスペシャルな体験だった。
まったく個人的な事情ではあるが、そのオーバーラップで愛聴したこともあって、これを今年の1位にしたいと思う。


-、Oval 『Aero Deko EP』  Tokuma Japan(Mille Plateaux/Thrill Jockey) recs. TKCB-71463

Episonik/Senti-Welt/Motif/Zentrik

1998年最大の衝撃がOval=Markus Poppだった。ボーカル無し・メロディ無し・リズム無し、ただ電気ノイズのようなカットアップサウンドや、CDが音飛びするような雑音がランダムループで流れるだけ。それがとてつもなく心地よく聴きやすく、ポップとして成立するという逆説的な音楽。初めてAphex Twinを聴いた時に「ノイズミュージック一歩手前の破壊的な音楽」だと感じて打ちのめされた気分だったが、それよりも遙かに非音楽的な”ポップミュージック”が存在したというのは、目から鱗が落ちたというか、まったく予想だにしない事態だった。
単にノイズをポップと言い切ることで前衛アートとして成立させるのではなく、ランダムな中に聞こえてくるメロディラインや音のテクスチャーの気持ち良さが、瓦解した楽曲を音楽たらしめるという、思い付いても普通は出来ない驚異の音楽性がここにある。凄すぎるよこれ。


-、Joshua 『(s/t)』  Doghouse recs. No.49

Your World Is Over/Divide Us/Forever/Lovers Quarrel

近年盛り上がりを見せるエモシーンで、このJoshuaも期待のバンドの一つだろう。NYのStruggle recs.など幾つかのレーベルから7"EPとミニアルバムをリリース後、大手のDoghouse recs.に移っての初シングルとなるが(ちなみに音源のタイトルは全て『Joshua』)、4曲とも完成度は非常に高い。
特にM-1の三拍子でドライヴするギターロックは本当に格好いい。辛口の歌詞もグッド。またM-3とM-4は元々前作ミニアルバム(Immigrant Sun recs. INR052:1996年。限定2,000枚でほとんど国内に入ってきてなかったので、レーベルに直接メールオーダーしましたよ…先方の担当者が一時期、英語教師として日本に滞在してたって言ってました(笑))の収録曲だが、新録されたことで数段音の厚みが増し、相当格好良くなっている。というか前作がペナい音質で正直微妙だったので、バンド自身によるダイナミックなプロデュースは大正解。ただ7"EPからの転載なのか、インレイにはM-1とM-2の歌詞しか載っていないのはマイナス。手抜きすぎだろと。
ともあれ、もうすぐリリースが予定されているフルアルバムにも期待したい。


-、Sloan 『Navy Blues』  Murderecords MURSD036

She Says What She Means/C'mon C'mon(We're Gonna Get It Started)/Iggy & Angus/Sinking Ships/Keep On Thinkin'/Money City Maniacs/Seems So Heavy/Chester The Molester/Stand By Me, Yeah/Suppose They Close The Door/On The Horizon/I Wanna Thank You/I'm Not Through With You Yet

カナダの4人組ギターロックバンド、Sloanの4作目のアルバム。DGCからリリースされていた'90年代当初は「ハーモニーが特徴的なグランジ経由のパワーポップバンド」という位置付け(<多分レコード会社の戦略)だったのだが、レーベルを転々とした後の近作では「UKロックっぽいブルージーでメロディ重視のロックバンド」という感じになってきた。本作でもキンクスやビートルズのような'60〜'70年代テイストが全面に溢れた、渋くも良質なギターロックが収録されている。とても'90年代の音源とは思えない、古めかしい音圧低めの録音(おそらく意図的)も効果的。メンバー全員がVo.として歌えるということでバリエーションもある。
名曲M-2からロックするM-3(タイトルも最高)への繋ぎ、超ビートルズ的なM-4(アルバムタイトルはこの曲の歌詞から来ている)、グルーヴのあるアコースティック佳曲M-9、もの凄い転調が入る反則技M-10、陰りのあるアップテンポな名曲M-12、しっとりと締めるM-13。
切ないメロディとハーモニー、しっかりと躍動するリズム、凝ったプロダクション。地味ながら素敵なアルバムです。


-、Atjazz 『That Something』  KI/OON SONY(DiY) KSC3-919

In And Out/Mess Up/Everything/Against All Odds/Joystick/Facet Of Jazz/Wind And Sea/Peanuts/Storm/Open A Window/Eastern Sound/Back To The Centre

日本でも一部マニアの間で盛り上がったUKノーザン・ディープハウスだが、その中でもアンダーグラウンドなパーティーをオーガナイズしているDiYは、良質ハウスレーベルとしても注目された。その筆頭がこのAtjazz=Martin Ivesonだろう。シカゴハウスが持つジャジーなグルーヴと、ポップだがコマーシャルではないセンスが同居したトラックの数々は、ノッティンガムのアンダーグラウンド・パーティーから遙かに離れた、ここ日本の普通の音楽ファンである僕にも非常に魅力的に感じられた。その「現場センス」を必要としない親しみやすさが、Atjazzの優れた点であると思う。
M-1でのドアを開いた瞬間に流れ出てくる楽曲と喧噪(すぐ締めちゃうんだけど)、そして流麗なM-2から徐々に盛り上がっていく感覚。M-3からM-5までのシングル収録曲のクールなポップさ(特にM-4がグッド)、ラストを飾る名曲M-12。M-8の雨と鳥の声、M-9の遠雷や水音、M-10の雑踏音など、曲にミックスされたSEもリスニングには効果を上げている。全体を通じているのはジャズのセンス。冷ややかな手触りで音数も詰め込まれていないのにグルーヴがあって熱くなります。
ちなみにジャケが「天才バカボン」なのは赤塚不二夫の娘さん(英国在住)がMartinやDiYクルーと仲が良かったかららしい(オリジナルの英国DiY盤も同じ、ライセンスのIRMA盤は別の実写ジャケ)。この辺の肩に力の入ってない感じもいい塩梅。


-、Cari Lekebusch 『Reverted/Aterkommen EP』  Hybrid recs. HP1204

Reverted/Aterkommen/(untitled)

Adam Beyerと並ぶスウェディッシュ・テクノ最前線、カリ・レケブッシュの12インチシングル。とにかく多作な人で、毎月のようにリリースされるシングルやそれを纏めたりリミックスして出されるアルバムを追いかけているだけでも大変。しかし、そうしたくなるような魅力を持つ人だ。
最大の特徴は、ハードなテクノでありつつもハウスっぽい音の抜けとダブっぽいファットなベース、かつ叙情的なメロディを併せ持っていることで、これはありそうで実はかなり独特の音楽性だ。しかもクオリティの平均値は極めて高く、彼の音源は10数枚持っているが、ほとんど外れ無しという高打率。これは凄い。
このEPでも、ミニマルなリフと印象的な上モノのグルーヴに持って行かれる感じが非常に良く、今年聴いた彼の多々ある音源の中から代表で選んだ次第。良いです。


-、Tek9 『Breakin' Sound Barriers : The Oldies But Goodies 91-95』  P-Vine(SSR) recs. PCD-4987

The Theme/A London Sumtin'/We Bring Anybody Down/The Attack(The Original 4 Hero remix)/Partz 1&2(Manix remix)/Jus' Can't Keep My Cool/Slow Down(Nookie remix)/Killing Time(Spielberg mix)/Space 91/Summer Breeze/Pushin' BAck/Killing Time(Original)/Theme&F.U.(Points Proven remix)

4Heroのクリエイティブの中心人物であるDegoの、ソロbreakbeatsプロジェクト。1996年のリリースだが入手したのが今年と言うことで。
元は2枚組のアルバムなのだが、なぜか国内では1枚ずつ別作品として発売されている(契約の問題か、単なる商売か?)。歌モノが多くR&B色の強いDisc1が『It's Not What You Think It Is !?!!』(PCD-4986:海外盤はこれが正式タイトル)。こちらは本来Disc2に当たるもので、内容としてはハウス〜ドラムンベース色の濃いダンストラックが多く収録されている。ドラムンベースを基本としつつも、ジャズのニュアンスの導入や印象的に使われるダンスホールものっぽいボイスサンプリングなど、全体的には4Heroとは異なる手触りの楽曲が多い。ヘヴィなベースラインでダブ色の強いM-2、リリカルなM-7、クールなM-10なども良いが、個人的ハイライトはM-8。美しいピアノのリフと女性Vo.の後ろから蹴っ飛ばすようなリズムが入ってくるところは鳥肌モノ。

実は僕は音楽本で4Heroの『Parallel Universe』(1994年)を絶賛しつつ『Two Pages』(1998年)を酷評したのだが(特に反省はしていない)、それは『Parallel Universe』の持っていたUR的な先進感や洗練さに比べると、『Two Pages』の「より広がった音楽性」という名目での中庸化が残念だったからだ。このTek9は他のメンバーが居る4Heroとは別の、もっと個人的なニュアンスで手掛けた作品群だとは思うが、フロア感覚とリスニング性・テクノロジーと人間味といった背反を両立させているという意味では、本作こそ僕が『Parallel Universe』から向かう先に求めていたものを実現していると感じた。
時期からいえば『Two Pages』が後なので、もう現在のDegoはこういう方向性に興味が薄いのかも知れない。でも進化の過程ではなく、ひとつの作品として素晴らしい内容だと思う。前出『It's Not What〜』、および先行シングル『Old Times, New Times』(SSR Recs. SSR157CD)と合わせてオススメしたい。


-、福田舞 『天使のゆびきり/Fun2』  King Records KIDA172

天使のゆびきり/Fun2/天使のゆびきり(Inst)/Fun2(Inst)

テレビアニメ『彼氏彼女の事情』オープニングテーマ。楽曲プロデュースと作詞は藤井フミヤ、作曲・編曲は渡辺美里や米米CLUBなどの作品に関わる有賀啓雄。
個人的に藤井フミヤにはあまり良い印象を持っていなかったのだが、この曲は非常に良かった。ピュアでポジティブな歌詞、煌めくサウンド。軽くボイスエコーの掛かった歌声も、澄んだ曲のイメージを強めていると思う。アニメ映像とのマッチングも大きな要素だとは思うが(庵野秀明+平松禎史って最強ですなあ)、本編の魅力と合わせてオープニングのこの楽曲の印象は強かった。
歌っている福田はリリース当時は高校生でこの後アート方面に進んだようだが、この曲は手掛けた各メンバー(映像含め)の交差した一瞬で輝き続けている。同じメンバーでアーティスティックに生み出される音楽も良いが、商業ベースのポップミュージックの良さってこういう部分なんだよなあ。


-、VA 『Deep Atmosphere − Non-Stop Mix』  P-Vine recs. PVCP-9105

 01: Moodymann / Sunday Morning
 02: Disco Dub Band / For The Love Of Money
 03: Seven Shadows / The Probe, The Strobe
 04: The Colour Funky (A Musical Perspective / Journey (Moonwalk's Sister)
 05: Sixrteen Souls / Late Night Jam
 06: Mark Grant / Spirit Of The Black Ghost (The Blackest Mix)
 07: Kevin Yost / A Natural High
 08: Toru S. featuring Ikarus / Miwarus
 09: i-levels / Dope Eyes
 10: Moodymann /Long Hot Sexy Nights
 11: Black Rascals featuring Cassio Ware / So In Love
 12: The Morning Kids / In A Golden Haze
 13: Studio Blue / Just A Mood

前出のように今年はディープハウスと呼ばれるジャンルの音楽が、スクワット含めたアンダーグラウンドなパーティのシーンとともに盛り上がった一年だった(少なくとも国内音楽メディアでは)。その動きは'90年代冒頭のレイヴやウェアハウスと呼ばれた初期ハウスムーブメントを想起させるものだったが、音的にはかなりの別物。サウンドはエレクトロだけでなく生楽器が大きくフィーチャーされ、瞬発的なフロアの盛り上がりよりもジワジワとくるエモーショナルな展開とヴォーカルが特徴的で、R&Bやフュージョン的なニュアンスも強い(コマーシャルさの抜けたガラージ、とも言える)。表層的にはかなり地味でグラマラスな刺激には欠けるディープハウスだが、聴いている内にこの微エモなグルーヴにズブズブとハマった次第。
レーベルで言えばシカゴのGuidance、NYのSpiritual LifeやMAW、クリエイターで言えばUSG(=Anthony Nicholson & Ron Trent)やJoe Claussell、Mateo&Matosなどが手掛けた音源はどれも良かったが、あえて挙げたいのは上記のAtjazzと、DJ AlexがコンパイルしたこのmixCDだ。

寝起きの1曲といった感じのM-1から始まり、回想するように夜のムーディさに戻っていく。フェイクとギターリフがファンキーなM-2(この辺でもう真夜中)からドラマチックにM-3に繋がり、ディープな良曲M-5やジャズ度の高いM-7、ベースラインとシンコペーションが効いてるM-8などを経てドープなハイライトM-10へ。M-12でもうひと盛り上がりして美しくM-13で終了。 このアルバムの構成は、まるで一夜の音楽体験を旅行するかのようだ。ダンサブルなのにオーガニック、クールなのにエモーショナル。グッと来ます。
やはり全体のカギとなっているのはM-1とM-10のMoodymann(=Kenny Dixon Jr.)で、単独でも素晴らしいアルバム『Silentintroduction』(Planet E recs. pe65234)・『Mahogany Brown』(Peacefrog recs. PF074CD)や数々の12"EPを出していたが、このmixCDでも要所を締めるトラックとなっている。スムースなのにどこか不穏当で粗暴なニュアンスのある彼のサウンドは、ディープハウスの必ずしも健康的ではないアングラな一面を内包しているように思える。シーンの立ち位置を考えると、このデオドラントされていない感覚は重要だろう。

他にもVA『Other Stuff 2...』(P-Vine recs. PCD-5337)やVA『Glasgow Underground Volume One』(Glasgow Underground recs. GUCD3)などのディープハウス関連、およびテクノからジャズ/ハウス方面へのアプローチVA『The Future Sound Of Jazz』シリーズ(Instinct recs.)など、コンピ物で良い音源が多くあったことも記しておきたい。どれも面白かった。


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