Factory43's Best CD in 1999


今年はあまり「これだ!」というCDも無く、全体的に低調でした。反面、かなり幅広く聴いた一年で、テクノからパンク、ロック、邦楽もヒットチャートに入るようなものも結構聴きました(ラルクの「Ray」もよく聴いたし)。例年と違うのは、仕事の関係で外を回ることが多く、移動のシチュエーションで聴くことが多かったこと。逆に部屋ではあまり聴かなかったので、そういう状況が反映されている、かも。
ベスト10も順不同なので、コンピレーション以外はアルファベット順です。すべて1999年リリースのアルバムから選んでおり、海外盤でオリジナルは'98年以前の音源も、国内でのリリースは1999年のものです。


-、Everything But The Girl 『Temperamental』  Toshiba EMI(Virgin) recs. VJCP-68162

Five Fathoms/Low Tide Of The Night/Blame/Hatfield 1980/Temperamental/Compression/Downhill Racer/Lullaby Of Clabland/No Difference/The Future Of The Future(Saty Gold)(With Deep Dish)

前作『Walking Wounded』(Toshiba EMI VJCP-25223:1996年)でアコースティックからDrumN'Bassへと大幅に音楽性を変化させ、本作では更にDeep Houseへと接近。Tracey Thornの曖昧な歌声に今回はマッシヴな4つ打ちキックが絡んでいる。
表層の音は変化しても、結局の所、EGTB=Ben Wattの目指す方向性は変わっていないと思う。人と人との関係、そこから生まれる感情。それを流麗なメロディに乗せ、抽象的な音で、端正なリズムでまとめ上げる。機械的と言うには生々しく、エモーショナルというには温度の低い楽曲。音の違いこそあれ、それはまさに二人が作ってきたEBTGの音楽そのものだ。
街の喧噪でひたすら内側を向くのに最適の音楽として、非常に重宝した一枚。


-、Dragon Ash 『Viva La Revolution』  Victor Entertainment inc. VICL-60400

Intro/Communication/Rock The Beat/Humanity(Album Version)/Attention/Let Yourself Go, Let Myself Go/Dark Cherries/Drugs Can't Kill Teens/Just I'll Say/Fool Around/Freedom Of Expression/Nouvelle Vague #2/Viva La Revolution/Grateful Days/Outro

Dragon Ashといえばその雑多な音楽性が特徴なのだが、少なくともHip Hop的な曲は、Old Schoolというか、まあ有り体に言ってセンス古気味だったりするわけで(苦笑)、その意味からアルバム前半は結構キツいっす。逆にM-6以降のロックを中心にHip Hop〜Skaをクロスオーバーさせた曲は良い感じ。とはいえ、M-10とかGreen Dayまんまなのはちょっとなあ(笑)。
で、派手な音楽性の陰で見落とされがちだが、Dragon Ashがここまで支持されている理由は結局、降谷の書く曲の良さに尽きると思う。M-7やM-9のちょっと愁いを帯びたメロディラインや、M-13やM-14の曲と噛み合った超直球のポジティヴ歌詞は、バンドとしての地力の強さあってだと感じる。
セールスも評判も良くて、内容もちゃんと良いというアルバムの好例。


-、Moga The \5 『ハ・ル・カ・カ・ナ・タ・』  Lunch Service recs. L.S.R-005

遙か彼方/うたかた/あいまいな世代の傷跡/予言者達と宴//風穴/尽きせぬ想い、果たせぬ夢/空白の世界/悩んでいるのは…

元Volume DealerのEscargotが在籍する、Mogaの2nd。突っ走る爆音ギター、トリッキーで短い曲、逡巡と諦念に彩られたレトリカルで蒼い歌詞。最近のバンドに多いタイプだし、正直Eastern Youth以降といえばそれまでだが、これがなぜかストライクだったのよ、自分的に。シニカルで自虐的なのに希望が捨てられないという前向きさ。それを歌うEscargotの、力強くもどこか情けない声も良い。いやー、染みますよ。Dragon Ashもそうなんだけど、蒼くさくて直球の歌詞にヤラれるというのは、オッサンになった証拠かもしれないなあ(苦笑)。
このMogaは、音楽本メンバーの原田くんに貰ったMDに入ってて気に入りました。ありがとう、原田くん。


-、Reach The Sky 『So Far From Home』  Victory recs. VR111CD

Maybe Next Year/So Far From Home/The Chase Is On/She Really Loved You/In My Defense/World Stands Still/At Your Doorstep//Seems Like Forever/Sometimes The Things You Say/First Few Days/Tonight/Everybody's Hero/Lost Glories

Boston新世代のDriving Emo Punk、Reach The Skyの1stアルバム。Espo recs.やBack Ta Basics recs.からシングルを出していた頃は特筆する程の事もない普通のバンドだったが、East Coast Empire recs.から出した『Open Roads And Broken Dreams』EP(ECE-06)で大化けし、Victory recs.に移籍して待望の初アルバムリリースとなった。当地伝統のツインG.が緩急自在にザクザクと切れ込み、線細めのボーカルが叫ぶように歌うメロディを絶妙のコーラスワークがサポート。とはいえ、ポップすぎる一歩手前で凶暴に疾走したり、ハードなギターアレンジも一本調子にならないよう良く練り込まれていて、まさに、「今までありそうで無かった」カッコ良さがオレ的大ヒット。"Wrecking Crew meets Majority Of One"という感じっす。
とはいえアルバム自体には不満も多い。プロデューサーがシングルと同じくBrian McTernanなのに音が妙に軽くペナペナで迫力不足(このJ. Robinsonっぽい「Emo音質」ってヤツが個人的には一番嫌い。Joshuaの1stアルバムもこれが耐えられなくて放り投げた)。また、アルバム収録13曲中シングルなどでの既発表が6曲と多く、しかもほとんどが以前のバージョンの方がカッコイイというのもナニ。あと、こんなにHardcoreな曲調なのに、歌詞がラブストーリーだったり青春の悩みだったりするのは、どうしたことか(苦笑)。


-、Sebadoh 『The Sebadoh』  WEA japan(Sire/Sub Pop) WPCR-10083

It's All You/Weird/Bird In The Hand/Break Free/Tree/Nick Of Time/Flame/So Long//Love Is Stronger/Decide/Colorblind/ Thrive/Cuban/Sorry/Drag Down

ここ数年いわゆるギターロックとは縁が遠く、年間ベストに入るような良いアルバム以前にジャンル自体であまり聴いていない。雑誌はHypeや似たようなバンドばかりで興味を持てないものばかりだし、日本の若手バンドは音楽性は良いが深みは感じない。
そんな中、このSebadohも期待しないで流れで聴いたというのが実状なのだが、これが良かった。今までのアルバムよりも適度にメジャーな作りで、かついつものSebadoh的内省世界が展開。特に今回はJakeの手による曲が良い。内側で燃えるような抑えた起伏が印象的なM-6が個人的ベスト。Louのいつも通りの”抜けた”曲も素晴らしい。
『Bakesale』『Harmacy』も良かったが、これも好みです。


-、Third Eye Blind 『Blue』  EastWest Japan AMCY-7100

Anything/Wounded/10 Days Late/Never Let You Go/Deep Inside Of You/1000 Julys/An Ode To Maybe//The Red Summer Sun/Camouflage/Father/Slow Motion/Darkness/Darwin/New Girl

正直に言ってしまえば、1stアルバムほどの感銘は受けなかった。全体的にいじりまわしたような変化球の曲が多く、前作の「ありそうで無かった」直球の曲が少ないことがその理由。
とはいえ、Stephen JenkinsのVo.ワークは相変わらず魅力的だし、印象的なフックもそこかしこに健在。M-4のいかにもな湿った軽快さとか、M-6のAC/DCみたいなリフから3EB的なコーラスに行くあたりの強引な展開とか、何より最も”らしい”M-2など、好きな曲は多い。Stephen Jenkinsの才能からすれば不満だが、それでも凡百のロックレコードに比べれば圧倒的に優れた一枚だと思う。
ま、次がどうなるかっすね。


-、Yellow Magic Orchestra 『YMO Go Home!』  Toshiba EMI(Alpha) TOCT-24231-32

Disc1:Jingle"Y.M.O."/Rydeen/Behind The Mask/Insomnia/Cue/U.T./Nice Age/体操(Taiso)/Cosmic Surfin'/以心電信(You've Got To Help Yourself)/ポケットが虹でいっぱい(Pocketful Of Rainbow)/東風(Tong Poo) [Special DJ Copy]/中国女(La Femme Chinoise) [Acoustic Version]/Fire Cracker
Disc2:Multiplies/Tighten Up [A&M Mix]/Simoon/Citizens Of Science/Camouflage/Gradated Grey/Pure Jam/Lotus Love/君に、胸キュン−浮気なヴァカンス−/Shadows On The Ground/Be A Superman/Where Have All The Flowers Gone? [Acoustic Version]/Technopolis/The End Of Asia

僕の中ではYMOはもうトラウマになってしまっていて、批評的なスタンス以前に小学校〜高校時代が思い出されてしまい、おもひでぽろぽろって感じで(笑)、まったく冷静に聴くことが出来なかったりするわけです。
ということで、このリマスタリング2枚組ベストも(ついでにその前のヒストリーDVD3種も)なかなか客観的に聴きづらい一品なのだが、それはそれ、聞き込むごとにいろいろなものが見えてくると思う。普遍的なポップミュージックとして良くできた楽曲群。今のTechnoに通ずる、トラックの抜き差しで構成される先進的な曲の構造(これこそTechno PopとTechnoの接点だと思う)。D-1M-12などの、オリエンタルな旋律の組み込み方の巧みさ。D-1M-8やD-2M-6に代表されるドラスティックな思想。全編に漂うユーモラスさとシニカルさ。今でもまったくもって完璧だと思う。
まあ、内容そのものは、未発表のアコースティックトラックを除けば基本的には普通の既発表曲ベストアルバムなのだが、ポイントは細野晴臣による収録全曲解説。これがもう想像力刺激しまくりの興味深いコメントが多くてマニア感涙でしょう。YMOに対する細野晴臣の誇りとウンザリ感の微妙さや、現在は後期の方が気に入っている雰囲気、自分の楽曲はあまり気に入ってない様子が、行間から伝わって来まくりで最高っす(笑)。
そうそう、初回特典の「Momyage」はもちろんゲットしました。


-、VA 『Disco Spectrum』  BBE (Barely Breaking Even) recs. BBECD018

Disc01:
 John Davis Orchestra - Bourgie Bourgie
 Rare Pleasure - Let Me Down Easy
 Ramona Brooks - I Don't Want You Back
 Fresh Band - Come Back Lover
 Omni feat. Connee Draper - Out Of My Hands
 Revelation - Feel It
 Logg - You've Got That Something
 Frontline Orchestra - Don't Turn Your Back
 Clyde Alexander - Gotta Get Your Love
 Baby'O - In The Forest
Disc02:
 Two Man Sound - Que Tai America
 Azoto - San Salvador
 Esther Williams - I'll Be Your Pleasure
 Salsoul Orchestra - Take Some Time Out For Love
 Exodus - Together Forever
 Hudson People - Trip To Your Mind
 Ramsey & Co. - Love Call
 John Gibbs - Trinidad
 Family Of Eve - I Wanna Be Loved By You

'70年代末期から'80年代初頭にかけてのレアディスコソングを集めた2枚組コンピCD。時代背景どおり、どの曲もファンキーで、そこはかとなくデコラティヴな、ベタベタのラブソング。買った当時は収録されている曲は1つも知らない物ばかりで、なんとなくディスコものが聴いてみたいなあという「気分」以外に理由は無かったのだが、これがまたどうして、聴いているうちにこの緩いグルーヴにハマってしまった次第。ただしレアにはレアの理由があって、流麗なメロディなのにどこかチープだったり、 アレンジの煮詰め方にいい加減な所があったりとかするのだが、それがまた愛らしいというか。今のカッチリキッチリ作られた高クオリティのディスコものや、いわゆる名曲といわれるトラックとは違った、隙だらけの楽曲群が何とも心地よかったりします。いや、ホメてるんですが(笑)。
超名曲なんだけど執拗なリフが変で良いD-1M-2(Mishiaが自分の番組のテーマ曲に使ってました)を筆頭に、D-1M-3やD-2M-4のムーディーなストリングスアレンジとか、D-1M-5やD-2M-6(EW&Fみたい)のファンキーな感じとか、D-2M-1やD-2M-2(名曲)のメヒコなノリ等々、かなりイイ感じの曲が多いです。全体的に「良い曲なんだけどヤリすぎてダラダラしてる」という印象の曲が多く、情念を感じてイイです。いや、だからホメてるんだってば(笑)。

しかし、こういうコンピを気に入る自分って、数年前まではまったく信じられなかったっすよ。ロック好きが基本だったし、逆にR&Bとかブラコンって体質的に全く受け付けなかったんで。聴いてると体調悪くなったりとかあったし(苦笑)。いやー、人間、変われば変わるもんだ。


-、VA 『Reich Remixed』  Warner Music Japan(Nonesuch) WPCR-19001

Coldcut - Music For 18 Musicians
Howie B - Eight Lines
Andrea Parker - The Four Sections
Tranquility Bass - Megamix
Mantronik - Drumming
竹村延和 - Proverb
D*Note - Piano Phase
DJ Spooky that Subliminal Kid - City Life
Ken Ishii - Come Out
FreQ.nasty and B.L.I.M - Desert Music

例に漏れず、僕もテクノを探求する中でPierre HenryやSteve Reichに行き着いたわけで。彼らはミュージック・コンクレートやミニマルミュージックのオリジネイターとして知られているが(厳密に言うと違うんだけど)、ここで重要なのは、それらは現代音楽の文脈で語られるもので、いわゆるポップミュージックの構造からは逸脱しているという点。僕はテクノは、それがいくら前衛的に聴こえようが、基本的にはポップミュージックの文脈から派生していると感じているので(Aphex Twinなんてどう聴いてもポップな訳だし)、そこから現代音楽へ接近していく流れは非常に興味深いものだった。

このCDは「最近活躍しているテクノミュージシャンがReichをリミックス」という分かりやすいコンセプトで、予備知識なしでも単純にコンピものとして楽しめるのが高ポイント。原曲の「テープループの揺らぎ」や「微妙に変化するフレーズループ」という要素とミニマルなテクノの親和性は高く、またReichの、全てを音として扱う姿勢ゆえの無機質な音の質感と、そこに僅かに加わる人間味が、まさにテクノ的であったことも見逃せない点だ。個人的ベストはM-2。原曲の素晴らしさとリズムの導入などのリミックス加減が絶妙。M-1、4、7も良い。原作者への敬意のためかメチャクチャに解体したような解釈はなく、その意味では個々のリミックス手法には面白味に欠けるのだが、まあそういうものなんだろう。原曲よりは遙かに聴きやすいし。
この手の物ではPierre HenryをカバーしたVA『Metamorphose』(Universal Music(Philips) PHCF-3516:1997年)もあったが、ミュージック・コンクレートって現在ではサンプリングによってあまりにポピュラーな手法になってしまったので、今聴いても興味深くはあるけどインパクトは無いことと、みんな「Psyche Rock」ばっか演ってること(5回入ってます:笑)で、結構イマイチでした。Fatboy Slim、William Orbit、Dimitri、Tek9、Coldcut、The Mighty Bopと、こちらもメンツは悪くないんだけどね。


-、VA 『Victory:The Singles Vol.4』  Victory recs. VR116

Straightfaced - Pedestal/Still Hate You/Confidence
Buried Alive - Kill Their Past/Six Month Face/Curse Of The Wonb
No Innocent Victim - Justice/Pride/C.E.B.
Reach The Sky - The Chaise Is On/Seems Like Forever/The First Few Days/Everybody's Hero

Victory recs.恒例の7"EPコンピCDシリーズ第4弾。4バンド収録とはいえ、聴いていたのはReach The Skyだけ(笑)。とにかく全てのReach The Skyのマテリアルの中で、録音・演奏とも、この4曲が突出して最高のデキだ。前出の通り、アルバムではペナい録音で台無しになっている曲が、ここではやりすぎなくらいのハイテンション。爆裂するギター、突っ込み気味なリズム隊、それをあくまでラフに切り取った録音。素晴らしすぎる。このCDはこの4曲のためだけに買ってもノー問題でしょう。
で、他はいわゆるVictoryノリのNew School Metal Coreで、聴く必要無し。時間の無駄っす。


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